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第百八十二話 ぼっち妖魔は後始末をする

前回、判明した事実

魔人クィーンは異世界からの・・・。

 

吸血鬼との戦いについては全てが終わったと言って良いだろう。

・・・大変なのはこれからだ。


最初にあたしがショックを受けたのは、

あたしが掴んでいたエドガーの掌が・・・

まるで砂のように・・・

いや、ここは灰のようにというべきか・・・

ボロボロと崩れ始めたのだ。


 「あっ、エドガーさん・・・っ!」


死体に語りかけても何の意味もない。

さっきまで普通に喋っていたエドガーの顔面も崩れていく。

カラダもだ。


そこには人の形をした灰の山・・・それだけになってしまったのである。


 「エドガーさん・・・。」



それ以上・・・何も変化することはなかった・・・。

そこにあるのはただの灰・・・。


もしここが館の中でなければ、風が吹いた瞬間、この灰は吹き飛んでいくことだろう。




あたしはまだ立ち上がる事が出来ないままでいる。

ツァーリベルクさんは何も言ってこなかった。

彼自身、思う事があるのだろうか。

あたしに気を使ってくれたのなら後でお礼を言っておこう。

そういえば、このお爺ちゃんはいつも周囲に気を配っていてくれるな。

さすが人生の経験値が高いのだろう。


ある意味、身も蓋もない言い方をすれば、

あたしは感傷に浸っていたという状況だったのだが、

問答無用とばかりに頭の中のアレは邪魔してきた。


 「レベルアップしました!」

 「レベルアップしました!」

 「レベル・・・ 」


ああ煩い!!

さすがに今までのバトルの中でも最大の相手だったのだろう、

滅茶苦茶「レベルアップ」アナウンスの回数が多い。


そしてそれと共に、

あたしの視界に、いつの間にか現れたのか、

周りの景色には決して溶け込めないような風変わりなアイテムが一点、転がっていた。


 「あれ? なにこれ?」


エドガーの私物だろうか?

どう見てもそんな予感はしない。

これは・・・なんというか・・・槌、いや、

大工道具ですらない小槌か?


大工道具に見えないのは、

華美な装飾がされているからだ。

どことなく和風の・・・。


いや、どことなくなんてレベルじゃない。

完璧な和風だ。

柄の部分の下には二つの鈴がぶら下げられている。

カラコロと音がかわいい。


そしてその柄自体には・・・これはヘチマの蔓だろうか?

植物の文様が象られている。

そしてまた同様に、槌本体の裏表にはお花が描かれているのだ。

これは何のお花だろう?

やっぱりへちまかな?


 「伊藤殿、これはドロップアイテムではないのか?」

 「えっ、これが!?」


時として珍しい魔物や高位の敵を倒すとドロップアイテムが発生するとか。

これがそうかー。


では鑑定!


・・・




うあああああああああああ、

なんだこれぇぇぇぇぇぇぇ!?




【鑑定】

 うち出の小槌・・・URウルトラレア

 異世界より禁忌の生物達を一度だけ召喚するアイテム。

 消費MP2000

 武器や大工道具としての価値は殆どない。

 ピコピコハンマーよりは攻撃力がある程度。

 召喚された生物は、対人、対魔特効。


しょうひえむぴー2000!?

誰がそんなもの使えるの!?

あたしがこの世界に来て最も魔力の多いゴッドアリアさんとて、

四桁の数字には程遠いのに。


・・・あ、はい、あたしですね。

あたしが使えというわけか・・・。

ギリギリっちゃあギリギリだけど。


それにしても異世界の禁忌の生物達ってなに?

あたしの世界にそんなものいるのっ!?

しかも一度っきりしか使えないという。

実験すら試すわけにもいかないということか。

・・・まぁ巾着型アイテムボックスにしまっておくしかないでしょうね・・・。




一応、鑑定で視た結果をツァーリベルクさんに伝えておく。

 「・・・またとんでもないものを・・・。

 消費コストMP2000だと?

 そんなものいったい誰が・・・冒険者ギルドというより国に献上した方が・・・

 いや、これは伊藤殿が手に入れたのだから、伊藤殿が決めるべきだな・・・。」


これでこの話は終わりにしよう。

まぁそのまま忘れ去ってしまうかもしれないけど。


 


そして次に向かうべきは・・・。

 「ゴッドアリアさん!!」


彼女はエントランスホールの端っこに芋虫のように寝っ転がされたまま、

意識はそのままらしく、あたし達を見て、目をパチパチさせている。

鑑定で視ると、魅了効果は消え去っていた。

麻痺の方は、ラミィさんの爪から毒のようなものが蔓延しているせいなのか、

状態異常はそのまま。


取りあえずこのままにしておこう。


そんな泣きそうな目で見ないでね?


そして一番の問題が・・・


 「伊藤殿、連れ去られた少女たちだが・・・。」

 「はい、二階にそれぞれ・・・ギルドから捜索依頼を出された女の子が5人、

 教会の子が2人だから・・・。

 数はあってますね。

 では迎えに行きましょうか・・・。」


 「迎えに行くのはいいが・・・その。」

 「さすがに遠隔透視では状態異常までは判別できません。

 直接、この目で視ないと・・・。」


 「そうか・・・。」


あたしは全員の顔を把握してから・・・

確か教会のフェリシアさんの言葉を思い出すと・・・。


うーん、ねずみっぽい顔立ちの小柄な子・・・あ、この子かな?

ツァーリベルクさんが間違いなく見知っている子から迎えに行った。


女の子たちは全員個室をあてがわれていた。

二階に登って、その内の一室の扉をノックすると、

中から緊張した様子の女の子の反応があった。

 「は、はい・・・!?」

 「そこにいるのはキャサリンかね!

 私だ! ツァーリベルクだ!!」

 「は、はい!? ツァーリベルク司祭様!?

 どうしてここに!?」


 「君たちを迎えに来たんだ!

 ここを開けてくれ!!」


すぐに中から扉は開けられ、不安と安堵の混じった表情の女の子が飛び出てきた。


そしてさり気なく鑑定・・・

うっ・・・これは。


 「ああ、ツァーリベルク様!」

 「無事かね!

 顔色は・・・あまり良くないようだが、もう安心するがいい!

 すぐに教会に帰れるさ!!」

 「あ、ありがとうございます!

 あ、あの・・・その子は?」


お互い初対面だからキャサリンさんもあたしを見て不安になったようだ。

そしてツァーリベルクさんはあたしの神妙な顔を見て、何かに気付いたらしい・・・。

 「む、伊藤殿・・・なにか・・・。」


あたしはこの子の顔を見た瞬間、鑑定をかけていた。

・・・これは・・・この物語はハッピーエンドを迎えられるのだろうか・・・。


 「ツァーリベルクさん、

 吸血鬼が死んで・・・魅了自体は解けているようです・・・。」

 「そうか、良かった!

 ・・・だが気になる言い方だな、

 何かあるのか!?」


この場で言うのは無神経と言われるだろうか?

けれど、いずれ皆に知れ渡ることになるよね?

なら今のうちに・・・。


 「ツァーリベルクさん、

 それと、えっと、キャサリンさんでしたね、

 冒険者の伊藤麻衣と言います。

 あたしは鑑定が使えますので、今のキャサリンさんの状態がわかります。

 キャサリンさん、既にエドガーに何度か血を吸われてますね?」


急激に二人の顔色が変わる。

それがどういう意味を持つのか・・・。


 「あっ、あたし・・・そんなっ?」

 「伊藤殿、もしや・・・すでに?」

 「いえ、・・・まだ種族表示はヒューマンのままです。

 ですが同時に『屍鬼』へとカラダが変化しつつあるようです。

 まだ初期段階ですが・・・。」


キャサリンさんの体が小刻みに震え出す。

エドガーに何をされたのか記憶は残っているということなのかな。


 「・・・いや、そうか、

 大丈夫だ、キャサリン、その為の我ら教会だ!

 治療は長引くかもしれんが、きっと元に戻るとも!!」


おおっ、治療手段があるのか!

それは良かった!

 「ツァーリベルクさん、

 ・・・てことは、残りの人たちも・・・。」

 「屍鬼への進行度で、助かるか助からないか微妙だが、

 すぐに保護して治療を開始させるべきだ!!」


最悪の事態は避けられたと言って良いのだろうか?

同じような調子であたしたちは攫われた女の子たちを全て見つける事が出来た。


ただ、あたしが家庭訪問しなかった子たちや、もっと前に攫われた教会の子は、

会話にも閉口するほど屍鬼への進行は進んでいた。

外見的には人間と変わりはないが、

その表情や喋り方など、自分が人間であることを忘れているかのような状態となっていた。



そして・・・

教会から援軍、また冒険者ギルド本部からも事態を重く見たギルド職員が駆けつけてきた。



もうそろそろ、夜も明け始めるだろう。

説明はツァーリベルクさんに一切任せ、彼が説明できない部分をあたしが補足した。


もう疲れたよ、早くベッドで寝かせてくれないかな?



あ、そうそう、

吸血鬼エドガーは灰の中に魔石も残していた。

真っ黒な気味の悪い魔石であったが、

ヒビが入っていて砕ける寸前だ。

いや、もう、売り物として考えるなら、価値はかなり下落している。

ただ、冒険者ギルドへの吸血鬼討伐証明となるらしく、

一度提出した方が良いとのこと。


冒険者ギルドへ売っぱらうか、他の商人に売りつけるかはあたしの自由となる。


保護した女性は全て、一時的に教会に預け、

ご家族には冒険者ギルドが直接連絡を取ってくれるという。


なんとか、あたしも約束は果たしたと言えるのかな。

あ、あとはプリン持ってユーノちゃんの所に行かないと。



実際、冒険者ギルドへ顔を出すのは夜が明けて、お昼過ぎでいいそうだ。

それまでぐっすり寝かせてほしい。


ある程度、予想できるけど、

たぶん、こってり絞られる感じかな。


本来、吸血鬼はAランクの魔物として扱われるらしい。

Dランクのあたしが相手していい存在ではないのである。

Cランクのツァーリベルクさんだって同様だ。

ただ、今回は抜け道とでも言うべきか、

相手の正体を知らずに誘拐現場に出くわし、

しっかり冒険者ギルドにも連絡を回したことでお咎めは何もない。

ただの講義という名のお説教である。

ツァーリベルクのお爺ちゃんと仲良く受けることにする。

ゴッドアリアさんも当然、巻き込んでおくからね。


 

うち出の小槌・・・


今後テストに出ますからね。

忘れちゃダメですよ・・・。

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