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第百八十話 ぼっち妖魔は勝利する

ぶっくまありがとうございます!


 「虚術第三の術!!」


 『な、なんだと!?

 まだ何か使える術があるのかっ!?』


ありますよ、

ありますとも!!


対空専用魔術とも言えるあたしのとっておきの術が!!


 「『万物の主たる虚空よ!

 その狂える顎にて、傲慢なる空気を喰らえ!!

 バキューム!!』」



前にも言ったけど、虚術は生物には一切ダメージを与えない!

ダメージどころか状態変化すら与えない。

その効果はフィールドのみに作用する!!

では「空気を奪う」とは!?


ホールを埋め尽くす程飛び交っていた蝙蝠が・・・


その瞬間全て雨粒のように床に落下したっ!!

もちろん、床に衝突した以外のダメージはない。

床に転がった全ての蝙蝠が、再び空中に飛び立とうと必死に飛び跳ねるも、

もはや「空気」が彼らの望みに応えることはない。

既に彼らは蝙蝠というより、毛の生えたカエルとでも言うべきか。


 『なんだ、この術はぁぁぁっ!?』


辛うじてあたしにしがみついてる蝙蝠が何匹か残っているが、

あたしは強引に彼らを一匹ずつ引き剥がし・・・痛いって!・・・牙放せ!!


一匹ずつ床に叩きつけた!!

 ベン! 

こいつも!!

 ベベン!!

お前らもだっ!!

 ベベベンッ!!


うぇ~・・・

あたしのカラダのあちこちに、蝙蝠に噛まれた跡が残ってる。

あとで治癒呪文お願いしますね、ツァーリベルクさん!


さて、

おわかりいただけたであろうか?


蝙蝠だろうが鳥だろうが、羽根や翼でお空を飛ぶ生物は、

「空気」を支えにする事で飛んでいるのである。

もちろん、床や壁や樹々を蹴れば、跳躍は出来るだろう。

だが、彼らを支える「空気」が存在しないのなら、

すぐに重力によって落下する事になるわけだ。


そしてあたしが使える術はこれが最後になるであろう、

 「しょうかん! ふくちゃん!!

 敵は蝙蝠の大群!!」


白い光に包まれて本日最後の登場、

蝙蝠どもにとって悪夢の惨劇の始まりだ!!

 「スネちゃんも魔力が持つ限り、こいつらお掃除!!」


 『やっ、やめろ、貴様ら!

 それは全て僕のカラダ・・・あっ、ああっ!!』


とは言っても、虚術は術を起動させ続けている限り、ガンガン魔力を消費する。

あと数秒で終わりだろう。

あたしは魔力感知で、この場に残っている最も大きい魔力の元を見つける。

・・・恐らくそれが「核」の筈だ・・・。


いた!


他の蝙蝠より明らかにサイズも大きい・・・。

 「ツァーリベルクさん、あそこです・・・。」


ちなみに虚術「バキューム」はサイレンスの効果も併せ持っている。

何しろ空気がないんだから音が伝わることもない。

ただし、サイレンスと少し違うのは、

「バキューム」は生物の周りからは空気を奪わないので、

近距離同士の人間とのやり取りなら声は聞こえる。



さて、そいつはひと際大きいというのも間違いないが、

他の蝙蝠が「それ」を守るかのように群がっている。

もはや誰にも間違えることもない。

あたしはツァーリベルクさんを先導するかのように・・・

残酷に・・・冷酷に、

床に散らばっている蝙蝠に止めを・・・

彼らを踏みつぶしながら近づいていく・・・。

どんな姿をしていようが、

あたし達を殺そうとしたのでる。

良心は全く痛まない。


 「伊藤殿・・・

 よくぞここまで吸血鬼を追いつめてくれた・・・。

 なるほど、そこにいるのが・・・エドガー本体か・・・。

 君も魔力は限界だろう、

 もはや問答無用・・・

 この場で・・・。」


 『や・・・やめろ! やめてくれ・・・!

 来るんじゃあないっ!!』


ツァーリベルクさんは右手のレイピアを高々と掲げる・・・。

片や左手の人差し指は、自分の口だ。

さっきも見たぞ・・・。

聖属性の剣術スキルだ。


 「『聖なる光よ、

 輪廻の螺旋から外れた哀れな命に慈悲の救済を・・・


 クルセイドッ!!』


蝙蝠どもの塊のど真ん中にレイピアが突き刺さる!!

その瞬間、館全体が汚染されたかのような鈍い叫び声が響きあった・・・!


ちょうど時間切れのようだ。

それと同時にあたしの魔力が全て尽きる・・・!


バキュームは解除され、

スネちゃんもふくちゃんも召喚時間が限界を迎え、帰っていく・・・。


あ・・・?


目が回る・・・

ああ、

魔力全てを使い果たすと虚脱状態にって・・・


こういうのか・・・


 ばたん


 「伊藤殿っ!?」


あああああ、天井が回る~

ぐるぐるする~


 「これは魔力切れか・・・

 伊藤殿、いまMPポーションを・・・、ほら、

 ゆっくり飲むんだ・・・。」


なにか冷たいビンが口に当てられた。

飲み物かな?

えむぴーぽーしょん?

なんだっけ、

なにかなおす薬だっけ?

ありがたくいただきましょう・・・

ぐびぐび・・・


ぷはぁっ



・・・あ、す、少し楽になったかな・・・。


 「伊藤殿、大丈夫か・・しっかりするんだ・・・!」


 「あ、は、はい、な、なんとか・・・

 え、と・・・エドガーは・・・」


段々意識がはっきりしてきた。

しばらく魔力は使いたくないけども。


あたしがゆっくり半身を起こすと、

ツァーリベルクさんはカラダを傾けて、ある一点を見詰めていた・・・。


うん、戦いは終わったんだね、

そこには一人の男性が横たわっていた・・・。



 

すっ裸だ・・・。

でもそれは仕方ないか、

一度全て蝙蝠に変身して、魔力というか命が尽きたから、元の形態に戻ったという事なのだろう。

もちろん、都合よく衣服が再生されるわけもないし、

元のカラダに衣服が勝手に戻ってくれるわけでもない。


あたしは何とかカラダを起こして、辺りを見回した。

えーと・・・


・・・あった。

エドガーの外套が落ちていた。


パッと見たところ、エドガーのカラダに外傷はないっぽい。

ただ、あれだけあった圧倒的な魔力は全て消え失せてしまっているようだ。


 「立てるのか、伊藤殿?」

 「は、はい、なんとか・・・。」


とは言いつつ、ツァーリベルクさんはあたしのカラダを支えてくれた。

あたしはゆっくり外套を拾って・・・

そのままエドガーの所へ行く。


・・・まだ息はあるようだ。

彼の白い瞳があたしを力なく見つめている・・・。




 「風邪ひきますよ・・・。」

そしてあたしは彼のカラダに外套を被せてみた・・・。

 「ふふ、吸血鬼が・・・風邪をひくとでも?」


 「どうでしょうかねぇ?

 今なら体力ないからヤバいかもしれませんよ?」


 「ふ、負けた・・・完敗だった・・・。」


 

もう、彼は何も出来ない。

残りの命もあと僅かだろう。


・・・でもお話はできるかな・・・。

 



次回で吸血鬼エドガー退場です。

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