第百七十九話 ぼっち妖魔は勝負を賭ける
もしかして今までで一番の長編バトルだろうか。
<視点 麻衣>
勝負だ、吸血鬼エドガー!!
「虚術、第二の術!!
『万物の主たる虚空よ!
その忌まわしき顎にて小賢しき音を喰らえ、サイレンス!!』」
「む!?
なんだその術は・・・(いったい・・・あ、何だ声が!?)」
エントランスホールから一切の音が消える。
けど、熱源探知でエドガーの姿を追えるラミィさんはジャンプ一番、空中で隙を見せたエドガーに接近!!
そのカラダを・・・あれ、避けたぁ!?
「(あれぇ!?)」
「(危ない、ギリギリ避ける事が出来たぞ、
だがこれはダークネスを解除すべきか!?)」
ラミィさんの接近が匂いでわかったのだろうか?
それとも魔力感知か、
だけど狙いはそれじゃない・・・
こんな事もあろうかと、以前から考えていた戦法・・・
待ちくたびれた?
ごめんね?
今までずっと君を温存していたのはこの為・・・。
さあ、行っちゃえ!
「(行って! スネちゃんっ!!)」
「(ダークネス解j・・・!?
グバァァァァァァァッァァッ!?)」
ブラッドホーングリーンピットバイパー・・・スネちゃんのカタパルトアタック!!
さきほどゴッドアリアさんのストーンジャベリン同様、吸血鬼エドガーのどてっぱらをぶち抜いた!!
さすがにその痛みとダメージで空中に留まれるわけもない、
エドガーはそのままエントランスホールに墜落する。
おっ?
ちょうどその瞬間、ダークネスは解除され、あたし達の視界は元に戻った。
アースウォールの壁を通り抜け、あたし達がそこで目にしたものは、
緑の大蛇スネちゃんにぐるぐる巻きにされた吸血鬼エドガーの悶え苦しむ様だった。
そこであたしもサイレンスを解除。
「スネちゃん、念のためにガブっとやっちゃって!!」
ガブ!
「ぐわああああっ!?
この蛇はどこからぁっ!?」
お?
吸血鬼にもスネちゃんの毒は効くのかな?
「い、伊藤殿、何だね、あの大蛇は!?」
ツァーリベルクさんはスネちゃんと、そして変わり果てた姿のあたしを見て、
どっちに驚いていいか混乱しているようだ。
でも説明は後回し!
「麻衣・・・あたしぃ・・・
ここまでみたぁーい。」
「ラミィさん、ありがとうございました・・・。
おかげで助かりましたよ。」
「ちょっと、あの蛇ちゃんに巻き付かれたときはあたしも変な気分になったけどぉ、
まぁ、女の子同士だしね、
それに麻衣がこの戦いに決着つけたら、あたしにも大量の経験値入るから大儲けかな?
でも最後まで油断しちゃダメよ。
楽しかったわ・・・じゃあね〜♪」
この目で見れなかったけど、
半身半蛇のラミィさんに、大蛇のスネちゃんが巻き付きあっている姿はさぞシュールだったろう。
それより今初めて知った。
スネちゃん、女の子だったのか。
ちなみにあたし達リーリトは、百合百合しい展開にも寛容だと言っておこう。
何しろ「百合のように白いリリス(Liliywhite Lilith)」という言葉があるぐらいだ。
そして七色の光に包まれて、ラミアのラミィさん退場。
あたしも通常の人間形態に戻る。
今現在消費中の魔力は召喚中のスネちゃんだけ。
ラミィさんより、消費コストは少ないけども、それもあとわずかな時間だけだ。
「伊藤殿、一体何が何だか・・・
暗闇と無音で・・・吸血鬼を拘束できたのは見て分かったがどうなっておるのだ・・・?」
一度、エドガーの姿を見るが、
お腹を貫かれたまま、
四肢をスネちゃんにぐるぐる巻きにされて悶え苦しんでいる。
これでは再生できまい。
さらにはスネちゃんのカラダは聖水まみれなのだ。
毒と聖水で今もかなりのダメージを与え続けている筈だ。
「えっとですね・・・
さっきあたし、召喚術を使ったのはツァーリベルクさんもお分かりでしたよね?」
「む・・・そ、そう言えばあのフクロウがこの場におらんな?」
「あの時呼んだのは、フクロウのふくちゃんじゃなくて、
そこでエドガーに巻きついてるスネちゃんです。
もともとはただの蛇でしたけど、進化して今は魔獣扱いです。」
「ぬぉ!?
伊藤殿は何度私を驚かせるのか・・・
そう言えば、伊藤殿は先ほど、異世界の妖魔だと・・・。」
「その話は後にしましょう。
それでツァーリベルクさんには先ほどホーリーウォーターを撃ってもらいましたね?」
「うむ、方角がおかしいなとは私も思ったが。」
「呼び出したスネちゃんには、カモフラージュの為ラミィさんの胴体に巻きついていてもらったんですよ、
そしてツァーリベルクさんのホーリーウォーターを彼女達に浴びてもらったんです。」
「ということは・・・。」
「はい、なんとかラミィさんにエドガーに接近してもらい、あいつの隙を見つけて、
ラミィさんのカラダから、聖水まみれのスネちゃんを放ったんです。」
「そして見事、吸血鬼はあの様というわけか・・・。」
「でもあたしには止めを刺すことは出来ません。
最後はツァーリベルクさんにお願いするしかできません・・・。」
「何を言う。
私ではここまで追い込むことも出来なかった。
無論、その仕事は必ずやり遂げて見せよう、今ここで。」
だが、さすがに至高の妖魔たる吸血鬼、
ここで終わらせてくることはないようだ。
「グ、ググ、ここまで追い込まれたのは初めてだよ・・・
だが、こんな所で死んでたまるか!!」
急激にエドガーの魔力が高まる!
まだ何か!?
瞬間、彼のカラダが真っ黒に染まる!!
「喰らうがいい!!
僕のもう一つの姿を!!」
エドガーの姿が弾けた!!
スネちゃんがエドガーのカラダを見失って拘束も解ける!!
あいつの姿が消える・・・違う、これは・・・!!
コウモリの大群ッ!!
よりにもよって、あたしの天敵とも言える蝙蝠に分身か!!
そしてあたしとツァーリベルクさんの周りに集まって、あたし達の血を吸う算段だろう。
『フハハハハハハ!!
この形態での吸血に魅了効果はないが、
1~2分もあれば全身の血を吸い尽くしてあげるよ!!
あのラミアを帰したのは失敗だったな!
彼女が広範囲土魔法を覚えていれば、この姿の僕をも攻撃できたのにね!!』
蝙蝠全員で喋っているのか、どこからか別の手段で喋っているのかわからないけどどうでもいい。
なるほど、確かにストーンシャワーとかなら一気に蝙蝠を潰せるだろう。
でもそれってどこから石を打ち出すのだろう?
天井より低いとこならいいけど、それより高いところから落とすなら舘ごと潰れるよね?
あたし達巻き添えになるよね?
つまりその手段は使えない。
前回、オックスダンジョンでふくちゃんを呼び出した。
でも、あれも野生の蝙蝠だから本能に従って逃げ出してくれたけど、
ここにいる蝙蝠どもは全てエドガーの分身。
ふくちゃんが蝙蝠を潰す間にあたし達は全身の血を吸い尽くされてばたんきゅう。
すでに何十匹もの蝙蝠が、あたしの肌に鋭い牙を突き立て始め・・・ぎゃあ、イタタっ!
でも、あんたたちなんかにあたしの血はあげないもんねっ!!!
ついに来ましたよ、
いよいよお披露目!!
あたしの最後の切り札だ!!
「虚術第三の術っ!!」
あ、まだ終わらない。
次回で決着!
そして予言。
次なる虚術第四の術は初っ端に使うと!
少し先のストーリーにおいて・・・。