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第百七十五話 ぼっち妖魔は立ち向かう


あたしはツァーリベルクさんに顔を向ける。

・・・何か言いたそうな顔だね。

その心中も混乱してるみたいだ。

何を考えているのか、あたしでもツァーリベルクさんの思いを一つに絞り切れない。


一方、吸血鬼エドガーは、あたし達の目前だ。

まだ、3、4メートル程の距離が開いているが、

恐らく吸血鬼の身体能力なら瞬時に詰められる距離だろう。

でもそれをしてこないという事は、

未だエドガーには余裕が感じられる。


覚悟を決めるか。


 「エドガーさん。」

 「何かな、異世界の妖魔よ。」


異世界人であることもバレてるか。


 「いつからあたしの正体を?」

 「最初、市場で見た時からさ。」


凄いな、人化中でも視えていたのか。


 「その時、あたしの正体をバラそうとは思わなかったんですか?」


 「・・・僕にメリットがない。

 さすがに君が行方不明の女性たちを探しているとはわからなかったしね。」


ああ、それはそうか。

それを知ったのはツァーリベルクさんを連れてった二回目、か。

 「エドガーさん的には、あのまま市場でお花を売りながら、人間の女性たちを定期的に手に入れていれば良かったと?」


 「そうだね、

 それでなんの不満もなかった。

 さっきは人間の女性など繁殖対象ではないとは言ったが、僕は女性と会話する事くらいや、花を育てるのも悪くないと思っていたからね。

 人間だってペットを可愛がったり、獣人の子供をモフモフするだろう?

 僕にとってはそれと同じさ。

 ・・・まあ、日の光だけは難儀していたけども。」


う・・・多分これに嘘はない。

嘘を言う必要がない。

それにお庭のそこかしこに育てられてたお花を見ればわかる。



 「あなたはあなたなりに、

 人間社会と折り合いをつけようとしてたということですか・・・。」


エドガーの顔から怒りの形相が消える。

あたしの口調から何かを感じ取ったようだ。


 「・・・何か言いたいことがあるようだね、異世界の妖魔よ。」


 「・・・そうですね、

 あたしの種族とあなたの種族を重ね合わせようとしているのかもしれません。

 何が同じく何が違うのか。」


 「・・・なるほど、

 そこの蛇女と違い、君も人間社会に隠れ潜むタイプだったか。」


 「・・・もし、話を続けられそうなら、

 手を引く事は出来ませんか?

 さっき魅了を掛けられたゴッドアリアさんが言ってましたけど、

 少なくともあたしはエドガーさんが吸血鬼という理由で討伐しようなんて気持ちはこれっぽっちもありません。」


 「伊藤殿っ!?」

ごめんなさい、ツァーリベルクさん。

あたしは正義の味方でも聖人君子でもないんです。

ましてや「人間以外」の存在というだけで討伐される方が理不尽だ。


 「では何故僕の前に立つ?」

 「魅了をかけられた女の子たちを助けたいだけです。

 あたしは妖魔ですけど、人に害なすことはありません。

 エドガーさん、あなたも人間社会に溶け込むなら・・・、

 立派にお花屋さんとして働く事も出来るのなら、

 もっと真っ当に暮らしていく事は出来ないんですか?」


そこで再びエドガーの顔が歪む。


 「・・・真っ当、だと?

 それはどう言う意味だ?

 人の生き血を吸うなとでも言うのか!?

 人間と同じ食物で満足しろとでも言うのか!?

 ふざけるなよっ!

 さっきも言ったろう!!

 僕ら吸血鬼にとって、人の血を啜る事はただの食事ではない!!

 先祖より代々受け継ぎし誇りなのだ!!」


やっぱりそうか。

・・・折り合いをつけられれば話は変わるのだけど・・・でももう一つ。

 

 「さっき、エドガーさんは、吸血鬼にとって人間なんて、

人間にとってのオークやゴブリンと同じと言いましたね?」

 「言ったさ!

 人間など下等動物だとね!!」


 「本気で・・・本当にそう思ってるなら、なんで自分の魅力で女の人を口説かないんですかっ?」

 「なに? 何を言っている?

 言っている意味が分からん・・・。」


何故わからないんだ。

やっぱりこの人は恋愛経験もない。

ただの童貞。

 「わからないんですか?」

 「・・・わからないね、

 わかろうとするつもりもないけどね!」


 「女の人の血を吸うのに魅了なんか使う必要ないって言ってるんです。

 それなら誰も迷惑しません。」


 「バカな!

 進んで自らの血を捧げる者などいるものか!?

 ましてや、脅迫か金で釣るような低俗なマネなど絶対にしないからな!!」


いい加減ムカついてきた・・・!

 「・・・そうじゃないです!!

 人間を・・・女の人を舐めないでくださいっ!!

 魅了なんか使わなくたって・・・

 本気で女の人が男に惚れたのなら・・・

 そんなチート使わなくたって自分の血ぐらい好きな人にくれてあげるってことですよっ!

 それなら・・・それなら誰も不幸な人なんていない!!

 エドガーさんっ!

 あなただって討伐される必要もなくなる!!

 全部丸く収まるって言ってるんですよっ!!」


 「聞いたふうな事を言うなっ!!

 何故そんな面倒な真似をする必要があるっ!?

 それにこれも言った筈だっ!!

 『魅了』とて我ら吸血鬼の正統なる・・・」

そんな話は不毛、興味ない。

あたしはエドガーの言葉を封じるように叫ぶ。

  

 「違いますよっ!

 そんなものは言い訳!

 人間の血を吸う事がバレたら吸血鬼として討伐されるっ

 それが怖いから『魅了』で安全に血を吸おうとしてたんでしょうっ!?

 でもそんなものは誇りじゃなくてただの逃げ!!

 あなた達が臆病者の卑怯者である証にしかならないっ!!

 もしあなたが『誇り』とやらに拘るならっ!

 人間とか妖魔とか吸血鬼とか関係なくっ、

 男なら女の一人や二人、

 スキルなんかじゃなく自分の器で惚れさせてみろと言ってるんですっ!」


 「・・・なっ・・・!」


元の世界のあたしに「魅了」なんてスキルはない。

そんなスキルの存在自体知らない。

それはこの異世界に来て初めて知った概念だ。

・・・でもある。

元の世界に戻っても多分ある。


元の世界ではまだあたしの経験値が浅いだけで、

恐らくあと数年のうちに身に着ける事が出来るだろう、

「妖魔リーリト」のスキルとして。


意図したものではないとはいえ、似たようなことをやらかしてしまったことがある。

いや、こちらの世界で「魅了」の概念を完全に知った今なら、

元の世界に戻った後、スキルポイントなど消費せずとも覚えられるかもしれない。


何が言いたいかというと、

あたし以外のリーリトも魅了は使えるだろうという事だ。


・・・例えばママだ。


 

でもママがパパに対してそんなものを使った形跡など一切ない。

使う必要などどこにもない。

それでもパパはママの為なら生き血どころか自分の命だって捧げる筈だ。


逆も然り。


・・・ママだって




二人は人間と妖魔。

本来、互いに殺し合う存在。

もしあたしたちリーリトに「人間を殺す事が誇り」などと言うものがいたら、

それはきっともう、人間と共存する道など完全に失ってしまう。


もしかしたら実際、そんなリーリトもいるかもしれない。


けど、リーリトは自由を標榜する種族。

あたしも無関係な人を助けるために、同族とは言え他のリーリトの道を変えさせようとまでは決して思わない。


それこそ、そんな正義感など持ってないし、

おせっかいするつもりもない。


だから勘違いしないように言っておく。

いま、あたしが吸血鬼エドガーに問いかけてるのは、

彼を正しい道に導いてあげるつもりでも、上から目線で言っているわけでもない。


 「あたしという存在」


人間と妖魔の中間という不確かな存在でも、あたしは間違ってないと主張したいためだ。

ママが指し示したその道が間違ってないと。


それを誰かに証明して欲しいのだ。


それはパパにもお祖母ちゃんにもできない。

一緒に暮らしているマリーちゃんにもエミリーちゃんにも出来ない。


あたしと同じ立ち位置にいる存在にしか出来ないのだ。

御神楽先輩には拒否られるだろう。

元の世界にそんな知り合いなど、それ以上いない。



ではこの異世界には?

妖魔? 獣人? 魔族?

彼らは人間ではないのか?

人間とは別の理で生きているのだろうか?


ならば彼らの中にいないのだろうか?

人間と化け物の中間の道を選ぶ者は?





エドガーはしばらく絶句していた。

あたしが指摘した内容など、今まで考えたこともなかったんだろう。

自分たちの拠り所にしていたものが、実は女々しくも情けないモノだったということが。


実はこれも他人事ではない。

あたしたちリーリトにも言えることだ。

何しろリーリトは、「感情」などという低劣なものは自分たちに存在しないと代々言い聞かせていたのだ。

それを自己暗示のようにして、自分たちの中の感情を抑え込んでいた。

もちろん理由というか、メリットはちゃんとある。

「感情」なんて揺れやすいものがあると、自分たちの精神感応能力のおかげで、見たくもない他人の感情が流れ込んできた時、自分の精神に悪影響が出てしまうのだ。


そしておそらく最大の理由、

「人間」にあたしたちの正体がバレたら皆殺しにされる・・・。

だから子供を産みさえしたら、正体がバレそうな身近な存在・・・すなわち自分の夫を殺さねばならない。

その時に・・・夫を・・・愛していては、その絶対のルールを守る事が出来なくなってしまうのだ。


だから封じた。

「愛する心」を。

だからなかったことにした。

「諸々の感情」を。



そしてリーリトは「感情を持たない妖魔」となった。




けれど・・・ママは見つけたんだ。

自分の心の中にある「感情」を。

太古の昔、エデンの園にあったもう一つの樹の実。

あたしたちリーリトの中にもそれはあった。

度重なるイブの子孫との婚姻の結果のせいかどうかはわからない。

だから言えることは・・・


ん?


あ、あれ・・・?

でもさっきの考え方だと、

最初からリーリトには「心」が・・・あれ?

何かおかしい・・・。

話のつじつまが・・・


えええい! その話はあとあと!!



 「・・・エドガーさん、

 一つ訂正・・・いえ、追加します・・・。」

 


麻衣

「いい話にしようとして失敗した・・・。

なんであんなことに気付いちゃったんだろう・・・。」


今回の最後の部分は「レディー メリーの物語」の

「解き放たれるレディ メリー」の「人類創造」部分を打ち消すことになるかもしれない、

私にとっても諸刃の剣になりかねない危険な解釈です。

あの時は「リーリト」が生命の樹の実を。「イブ」が善悪を知る樹の実を手に入れたという設定でしたね。

そしてそれぞれの子孫が混血して両方の因子を手に入れると・・・。


それが「冥府の王ヴォーダン」の狙い・・・かもしれないと。

でももしかしたら、違う解釈の可能性を見つけてしまいました。

といってもどんでん返しみたいなことにはなりません。



この後、どこかで明らかにするつもりですので、

皆様の心のどこかに留めておいてください。

ストーリーには一切影響はありません。

未来の運命も変わりません。


ヒントは、リーリトとイブは「赤の他人」か否かです。


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