第百七十二話 ぼっち妖魔は後ろめたい
ああ・・・
ついに妖魔ラミアのラミィさんを呼んでしまった。
「お、お久しぶりです!
なんとか妖魔召喚のスキルポイント溜まったので・・・。
それで・・・すいません、いきなりなんですけど・・・あっちが・・・。」
うーむ、なんか罪悪感あるな・・・。
一応、妖魔召喚スキル覚えたら、ラミィさんを召喚することはすでに伝えてあるし、
半ば強引に承諾は取り付けてあった。
だから、こういった戦闘中に呼び出すことは承諾済み。
でも今みたいなノリで挨拶してしまうと、なんか久しぶりの友達を呼び出した感がとても強い。
つまり、久しぶりに会った友達をいきなり戦闘に巻き込むのはどうなんだ、という感覚が後から後から湧いてくる。
いや、これで呼び出したのがバトルジャンキーとかなら良心痛まないんだけどね。
妖魔ラミアもそこまで戦闘好きなわけもないからね。
さらに言うと、その相手があの・・・
「・・・えー?
あっちってぇ・・・」
ラミィさんが二階のエドガー達をガン見した。
説明要るかな?
「・・・ねー、麻衣?」
「は、はい、なんでしょう、ラミィさん。」
ラミィさんのカラダは身じろぎ一つしない。
可愛らしい小ぶりな尻尾の先っちょでさえもだ。
「あたしには、あそこの階段の上に人の姿が見えるのだけど・・・。」
「そ、そうですね、男性1名、女性1名ですね・・・。」
「うん、そうよね、
それでね、男の方ね・・・
あたしにはあの人、吸血鬼に見えるのよね?
・・・合ってる?」
「は、はい、そうですね、吸血鬼ですよ・・・。」
その瞬間、
ギュルルンとラミィさんの上半身が回転して、その顔面があたしに肉薄する!!
「ちょっと! 麻衣!!
無理無理無理無理無理でしょ!!
吸血鬼って言ったら妖魔の中でもトップクラスの魔物じゃない!!
あたしにどうしろっていうのよっ!!」
あ、やっぱりそうか・・・。
「ハッハッハッハ、これは驚いたよ、
まかさ半人半蛇のラミアを呼べるとはね!?
だけど惜しいな、
申し訳ないが、ラミアごときでこの宵闇の王たる吸血鬼に敵うとは思えないよ!?」
「う、うむ、・・・凄い・・・凄いが・・・
この状況下で・・・うむうむ、凄い・・・。」
ラミィさんとエドガーの状況判断はほぼ一緒だ。
あたしも第三者の立場ならそう思うだろう。
そしてツァーリベルクさん、何が凄いって言ってるのかな?
視線が一定の部位から・・・あっ、目を逸らした!!
「ラミィさん、いきなり初っ端からこんな状況に巻き込んじゃってごめんなさい、
でも、あたしの召喚レベルも上がってます!!
ラミィさんのステータスにもかなりのブースト掛かっている筈です!!」
「・・・お? あら? そう、そうねぇ?
これ、凄いわぁ・・・力が溢れてる・・・。
でも・・・。」
「ええ、ラミィさんにあの吸血鬼を直接、何とかして欲しいとは思ってません!
ラミィさんの標的・・・それはあそこの女性ゴッドアリアさんです!!」
あたしはビシッとゴッドアリアさんに指を向けた。
「えー? でも女性にあたしのスキルは・・・あっ、そういうこと?」
「はい、あの人はあたしの友達なので、吸血鬼に魅了されたままじゃ困るんです!
最低でもあの人には、この戦闘から離れていて欲しいんです!!」
「うーん、うまくいくかなぁ?」
「作戦実行しますよ!! ふくちゃん!!」
ゴッドアリアさんに威嚇行為を続けていたふくちゃんに新たな指令、
それはゴッドアリアさんとエドガーの距離を拡げさせること。
ふくちゃんは、エドガーとゴッドアリアさんの間を引き裂くように飛び回る!!
「きゃっ、また来たっ!!
お願いっ! 髪だけはっ・・・髪だけはっ!?」
あ・・・そう言えばゴッドアリアさん、ふくちゃんに髪の毛を啄まれるというトラウマがあったんだっけ。
これは思った以上の効果があるみたいだ。
全く誰だろう、そんな酷いマネをさせたのは。
そして・・・
「ラミィさん、お願いします!!」
その合図とともに、ラミィさんの下半身蛇ボディが伸縮するっ!
スネちゃんをも彷彿とさせる弾かれたような跳躍!
階段を跳ね、手すりに跳び、
向かうは階上のゴッドアリアさんのカラダっ!
「うわっ!?」
百合百合っ・・・じゃない、
ゴッドアリアさんのカラダは、飛び跳ねてきたラミィさんの尻尾に巻き付かれ、上半身は艶めかしいラミィさんの妖しい腕がぴっちりとホールド!!
その密着状態の至近距離からラミィさん、スキル発動「魅了」!!
「え・・・? な、なにっ?
蛇のお姉さんっ!?
あ、あれっ、そこダメっ!?」
もともと「魅了」スキルは異性に対し十分な効果を発揮するが、
同性同士でも効果がないわけでもない。
ましてや、今のラミィさんはあたしの召喚によってスキル効果も魔力も倍増している。
さらに胸板の薄いゴッドアリアさんが・・・ぐふぅっ!(自爆)・・・あの前人未到の巨乳持ちのラミィさんに受ける効果はいかほどのものか!!
さ・・・さらに言うと・・・うん、あたしの知識じゃないからねっ?
ラミィさんは女性のカラダも熟知しているのか、
ゴッドアリアさんが感じやすそうなポイントを、にゅるにゅる伸びた尻尾や指先でいじり始めている・・・!
これがラミィさんの経験値という奴だろうか!!
「うふふ・・・女のカラダは女が一番よく知っているのよ・・・?」
「あっ、あ・・・そんな・・・どこを! あひゃんっ!?」
吸血鬼エドガー、二人のぬるぬる行為をガン見!!
ツァーリベルクさん、顔を真っ赤にして目を逸らしたままっ!
あんたら少年かっ!!
ていうか、ラミィさん、
上半身はともかく、人間の女性の下半身をどうしてそんなに詳しいの!?
最初に出会った時、別の意味で襲われなくて本当に良かった。
今や心からそう思う。
ようやく状況を飲み込んだエドガーが、辛うじて言葉を吐き出した。
「き、貴様・・・ラミアの分際で僕のエモノに・・・『魅了』を上書きしようというのか!?」
そう、それこそが賭け。
ここでゴッドアリアさんを食い止めないと、もうあたしは「人間」でいられなくなる。
それはつまり、
この場を生き延びる為にはゴッドアリアさんをこの手にかけねばならなくなるということだ。
そうなったら、あたしの正体がバレようとバレまいと、
もうこの街にはいられないだろう。
それどころか、今まで知り合った・・・お世話になった人たちに、一言も挨拶すら出来ず、誰の目にも触れず、ひっそりと消えてゆくしかできないと思う。
そんな負け犬みたいな去り方はまっぴらだ。
「ゴッドアリア!
僕の方を見てくれ!!
君を愛してるのは僕だけだ!!
彼女達は僕を殺そうとしているんだぞ!?
お願いだ、目を覚ましてくれ!
君を愛してるんだ!!」
白々しいにも程がある。
昨日今日会ったばかりの女性相手に何を言っているのかと言いたいが、
魅力状態に罹っているならそんな軽薄な言葉もゴッドアリアさんを動かしてしまうのだろう。
「あっ、エドガー様・・・
アタイのこと、そ、そんなに・・・。」
しかしラミィさんも許さない!
ていうか、ゴッドアリアさんの首筋に湿った舌を這わせて何をやっているのか。
・・・そういえばラミィさんの尻尾は、ゴッドアリアさんのくるぶしまであるワンピースの中にお隠れになってらっしゃる。
裾から見える尻尾の一部がビクビクしているのだけど、
その尻尾の先端はどこに行ってらっしゃるのでしょうか?
「あっ、え、エドガー様っ、アタイはっ!
ち、違う! 見、見ないでっ!!
ああんっ!?
そ、そんな、とこっ?
ウソっ!? やめ・・・っ!」
・・・ゴッドアリアさんの膝がガクガク震えているね。
片手は必死に杖を放さないでいるけど、
もう一本の手はカラダを支える為に階段上の手擦りに掴まるので必死のようだ。
「・・・おい、ラミア・・・。」
あれ?
風向きが変わったかな?
なんか吸血鬼エドガーは呆然としながらラミィさんに話しかける。
何となくだが戦うという雰囲気ではない。
「おい! そこのラミア!!」
イライラしてるのかな?
ようやくそこでラミィさんが反応する。
「なぁにぃ?
吸血鬼のおにいさーん・・・?」
ラミィさんの反応は、
今いいところなんだから邪魔しないでよ、と言わんばかり。
「なぁにぃ、じゃない!!
貴様、これは反則だろう!?
同じ魅了スキルを使うのなら、正々堂々同じ条件で使ったらどうだ!?
僕はスキルと言葉だけで彼女に接しているのに、君は肉体まで使って卑怯だと思わないのかっ!?」
何を言っているんだ、この吸血鬼。