第百七十一話 ぼっち妖魔は召喚する
ぶっくまありがとうございます!!
「ハッハッハ、どうやら僕が手を汚す必要はないらしい、
ゴッドアリア!
ストーンバレットで弱った所を、
ストーンランスで止めを刺すがいい。
それでジ・エンドさ!!」
目論見通りに状況が進む吸血鬼エドガー。
ズタボロになったあたし達を見て機嫌がいいようだ。
「くっ、まだだ、ヒール!!」
あ、ツァーリベルクさん、回復呪文も使えるんだ!?
でもあたしから!?
あたしのカラダを柔らかい光が包む・・・。
「ツァーリベルクさん、先にご自分から!!」
「ふ、何を言ってるんだね、
アンデッドも吸血鬼も、ほ、本来私が討たねばならない魔物だ、
なのに、こんな可愛いお姫様に、傷をつけさせるわけにもいかないだろう・・・くっ。」
渋い・・・!
なんというイケメンお爺ちゃんなのか・・・。
あたしがあと20年、年取ってたら惚れていたかもしれない!
え?
そこはお爺ちゃんがあと20年若かったらという話じゃないのかって?
う、うん、そうなんだけどね、
それはそれでその時はツァーリベルクさんが天然女ったらしに見えそうな気がして・・・。
いやいや、そうじゃないから。
年齢関係なくこんないい人を死なせるわけにもまいりませんよ。
あ、回復しきったのかな、
傷も痛みもなくなった!?
でもゴッドアリアさんが次の魔法を使いそう!?
「ゴッドアリアさん!!」
あたしは苦し紛れに彼女の名を呼ぶ。
ゴッドアリアさんはピクリと動きを止めた・・・。
果たしてあたしの声は届くのか!?
「ゴッドアリアさん、あたしの声がわかりますか!?」
その間にツァーリベルクさんは自分のカラダにもヒールをかけてゆく。
たぶん、吸血鬼のエドガーもあたしの呼びかけが、ただの時間稼ぎと思っているんだろうけど、いまだ余裕があるのか追撃の指示はかけてこない。
「ゴッドアリアさん!?」
「・・・なんだい、麻衣?」
あ、こっちは認識できているんだね・・・。
「ご自分がエドガーに操られている自覚はあるんですか!?」
「・・・操られている?
いや、操られてなんかないよ?」
「いま! 現実に! ゴッドアリアさんは魅了に掛けられているんですよ!?」
「ふーん、で?」
「・・・でって・・・。」
「別にいいじゃないか、
アタイは魅了に掛けられていようといまいと、エドガー様のために尽くしたいし、
エドガー様もアタイを必要としてくれているんだ。
・・・それに何か問題あるのか?」
・・・ダメそうだ・・・、
話そのものは可能だけど、理屈も何も通りそうにない・・・。
愛の力は絶対だ・・・と返ってきそうな結論だろう。
隣でニヤニヤ笑みを絶やさない白い眼のエドガーが腹立つ。
「・・・そのエドガーのために・・・あたしも殺せると!?」
「・・・ごめんな、麻衣・・・。
エドガー様の為だからさ、お前ら・・・エドガー様を殺そうって言うんだろ?
吸血鬼だから・・・殺そうって・・・。
エドガー様は誰も殺してないんだぜ?
ただ妖魔だってだけで殺そうって言うんだろ?
なら・・・仕方ないよな?」
ピクリ・・・
・・・言い返したいことはある。
たくさんある。
この場で主張したいことがたくさんある。
なるほど・・・。
もしかしたら・・・
この吸血鬼もあたしのために用意された相手だったのだろうか?
なら・・・間違いなくどこかに勝ち目はある。
もしかしたらもう、このキリオブールにはいられなくなるかもしれない。
あたしも討伐対象になるかもしれない。
でもいい。
これは異世界だからこそ、
あたしは乗り越えねばならないのかもしれない。
「召喚! ふくちゃん!!」
あたしの足元に白い光が!!
連続で申し訳ないけどあと一働きしてね!!
「ふくちゃん! 倒さなくていい!!
ゴッドアリアさんの動きを止めて!!」
お空を飛び回るふくちゃん、
土魔法のゴッドアリアさんの天敵だ!
ましてや、精密な魔力コントロールが苦手なゴッドアリアさんはふくちゃんを狙う事はほぼ不可能!
「ふーん、それでゴッドアリアを無力化させるのか、
なるほど、だがそのフクロウを操ったままでは他のことはできまい?
ならばこの僕直々にその老人と一騎打ちをさせようと言う事かい!?」
「・・・それだけでも十分だ、ありがとう、伊藤殿、あとは私に任せて・・・」
エドガーとツァーリベルクさんの認識は同じらしい。
けどお生憎様、
お任せしませんとも!!
今まで待たせてごめんね!
ようやく出番だよ!!
みんなも待ってたでしょ!?
「ツァーリベルクさん・・・恐らくツァーリベルクさんは最後の止めだけお願いします!
それまでは・・・あたし・・・あたしたちだけで片づけます!!」
「何を言う!?
伊藤殿とあのフクロウだけで!?
無茶を・・・」
「いいえ? それよりツァーリベルクさん、あたしを信用してもらえますか?」
「信用!? 信用とは何かね!?」
「あたしがこれから何をしても・・・何を見せても、
あたしは敵じゃないってことです。」
「何を言ってるのだ・・・!?
意味が分からん・・・。」
「まぁ、あまり説明してる時間ないですからね、
ゴッドアリアさんのためにも、ツァーリベルクさんはご自分の命を大事にしてくださいね・・・。」
「ゴッドアリア嬢の為? 伊藤殿、それこそ何を・・・?」
ここらで問答終わり。
ふくちゃんもいつまでも無傷でゴッドアリアさんの相手ができるかわからないしね。
・・・ゴッドアリアさんの魔力が先に尽きるか、
それともあたしがこれから使う術を含めて、先にあたしの魔力が尽きるか・・・
勝負!!
あたしは両腕を左右に拡げる。
「『妖魔』・・・召喚っ!!」
「なにぃっ!?」
「伊藤殿、妖魔だとっ!?」
吸血鬼もツァーリベルクさんも同時に驚いた。
そうでしょうとも、
ただでさえレアな召喚士なのに、その上、妖魔を呼べるものはこの異世界に何人いるのか、
さぁ、来てください!!
あたしの足元の光が七色に煌めく!!
そう、これは金色の光輝く魔獣召喚よりさらに上位の召喚術!
本邦初公開!!
「召喚!! ラミィさんっ!!」
・・・七色の光の中に影が生まれる!
そしてその影からだんだん色が付き始め、コントラストもくっきり・・・そう、
この場に新たなあたしの手札が出現するのだ。
野性味溢れる青黒く長い髪を振り乱し、
光沢のある浅黒い肌・・・
大きなラピスラズリのネックレスを胸元に垂らし・・・
その胸は限りなく巨大っ!!
そしておへその下には誰の目もはっきりと映る、鱗と蛇の下半身!!
召喚サークルの中に、完全に姿を現したラミィさんがあたしとハイタッチする!!
えいやっ!
「はぁーい! 麻衣ひさしぶりぃ!
ようやく呼んでくれたのね!?」
・・・ラミアを呼び出したはいいけど、
ヴァンパイアに勝てるんですかね?
さてさて。