第十七話 ゴブリン討伐戦に参加したの
文中に
冒険者パーティー「苛烈なる戦乙女」のリーダー、
赤髪のテラシアさんのイメージ画像を差し込んでます。
テラシア
「・・・画像首元までしか写ってないけど、衣服が説明文と合ってない気がするんだが・・・。」
作者
「ああ、ずっと後でメリーさんがテラシアさんのイメージを解説してくれるシーンがあって、そっちにあわせちゃった。」
テラシア
「いや、着心地は確かにいいんだけどさ・・・。」
全身像はまた別の機会に・・・。
<視点 メリー>
私の名はメリー・・・。
いま幌馬車の上にいるの。
今はある晴れた昼下がり。
町外れへと続く道、
幌馬車がガタガタ、お人形を乗せて行く。
歌でも歌いたくなるようなシチュエーションね。
どんなメロディーだったかしら?
ちなみに幌馬車の中じゃなくて幌の上ね。
幌を支える骨組みの一本に掴まって、うつ伏せに寝そべっている状態。
顔だけ進行方向を向いている。
人間だったら、長時間この体勢でいられるわけはないけども、この人形のカラダには筋肉なんてものはない。
同じ姿勢でいても、体が硬直することもないし痙攣することもないというわけだ。
別に幌馬車の中にいても良かったのだけど、特にチームワークを構築する必要もないので、下手に中の冒険者たちに気を遣わせようとは思わなった。
そう、
いま、私たちはハーケルンの街を出て、ゴブリン討伐のための遠征ミッションを遂行中だ。
参加メンバーを紹介しようかしら。
まず冒険者ギルドのサブマスター、鉄壁の異名を持つアルデヒト、大盾と大斧を使う攻守ともに実力を認められる武人だ。
お酒に強そうな名前がするのは気のせいかもね。
それと一般の冒険者パーティーが三つ。
六人パーティー「伝説の担い手」・・・なれるといいわね、伝説に。
もう一つ六人パーティー「銀の閃光」・・・若い男の子たちばかり。
そして女性だけの五人パーティー「苛烈なる戦乙女」・・・。
華やかでいいのだけど、繁殖目的で人間の女性を襲うゴブリン討伐に、女性だけのパーティーが参加するのはどうなのかしら?
後はおまけに幌馬車がニ台ということで、御者が二人、2×2の四頭のお馬さん達。
ゴブリン討伐だけの頭数なら、私を含めて19人の戦力というわけね。
今回の目的は調査、或いは討伐。
過去の出現例と間引きを行った経験から、
ゴブリンの個体数は30~40体程度ではないだろうかとのこと。
予想よりも数が多い場合は一度引き返して更なる戦力を募集するという。
現在のパーティーで何とか殲滅できそうならこのまま討伐するそうだ。
「伝説の担い手」チームはそこそこのキャリアと実績を持ち、冒険者ランクはC。
「銀の閃光」と「苛烈なる戦乙女」はともにEランクだ。
ミッションの指揮はサブギルドマスターのアルデヒト。
作戦やパーティーの役割分担の判断も彼が行っている。
なお、私は特に役割を与えられていない。
私の性能と戦力が未知数だからだ。
自分自身、モンスター相手にどこまで力が発揮できるのか自信はない。
まぁ実際、エクスキューショナーモードとやらになれば、カラダが勝手に動くはずだ。
ハーケルンの街で、参加パーティーと初顔合わせした時には勿論全員に驚かれた。
いろいろ質問攻めに遭いそうだったが、ギルマスのキャスリオンがなんとか話を切り上げてくれた。
男性陣の中には、下品な言葉をかけて来る者もいたので、自分は女性だけの「苛烈なる戦乙女」チームに近いところに控えているつもりだ。
今も私がへばりついている幌馬車の中にはアルデヒトと女性チームがいる。
男性チームは後ろの馬車だ。
幌馬車の中では、姿の見えない私が気になるのだろう、時々「苛烈なる戦乙女」のリーダー・テラシアが天井の幌を見上げているようだ。
年の頃は三十才前後だろうか、真っ赤な長い髪の女戦士というイメージだ。
その燃えるような赤い髪は、ゆるくウェーブがかかっており、無駄のない筋肉の付き方は美しくもある。
厚手の革鎧に両手剣のバスタードソードを装備している。
個人の実力的にはCランク相当らしいが、パーティーに新人がいたりと、戦力がばらけているので、チームとしてはEランクのままでいるようだ。
「なぁ、アルデヒト。」
「ん? どうしたテラシア?」
私の耳には彼らの会話は全て入ってくる。
別に盗み聞ぎするつもりはないが、他にやることもないので勝手に聞こえてしまうだけだ。
「今もこの幌の上にいるんだよな、
あのメリーとかいう人形?」
「ああ、間違いない、
ホラ、人の形に幌が沈んでるだろう?」
そんな重くないわよ、わたし。
「あれ・・・信用できるんだよな?
いや、戦力として期待するなってのはわかるんだが、いざって時に敵に回られたら、厄介なことこの上ないぞ?」
「言わんとすることはわかる。
その為にも俺がいる。
不測の事態にも対処するように心構えはしているつもりだ。」
信用されてないわね。
もちろん、仕方ないとは思っている。
私が逆の立場でも、いきなり現れた自動殺戮人形を信用しろと言っても無理だろう。
「テラシアさん!
あたし達もあの人形の人には注意しておきますよ!
悪い人じゃなさそうな気もしますけど!」
この声は「苛烈なる戦乙女」チームの若いエルフだろう。
全身すっぽり覆うフード付きマントに身を包み、一本の樫の杖を握りしめていた。
パッと見からだが魔法使いと判断していいだろう。
一度、ぜひこの世界の魔法とやらを見てみたい。
「ああ、頼むよ、バレッサ、
なんかあったら遠慮せず大声で叫べ。」
魔法使いは後ろのパーティーにもそれぞれいるらしい。
このバレッサという子は新人らしいから、まだ威力ある魔法は使えないかもしれない。
どのぐらいのレベルでどのぐらいの魔法を使うのか。
興味は尽きない。
ふと・・・
空気が変わった。
気温や湿度の変化ではない。
濁った想念・・・。
まだうっすらとしたレベルであるが・・・
何らかの知的生命体の活動エリアに入ったに違いない。
私がこれまでに知る想念ではなさそうだ。
つまりは人間の盗賊だとか、軍隊だとかいったものではないということか。
「御者・・・。」
「ヒッ!?」
上から声をかけてごめんね?
案の定、びっくりされた。
お馬さんの手綱をミスらなければ上等よ。
脅えながら御者のおじさんがこちらを見上げる。
大丈夫よ、取って食わないから。
「な、・・・なんでございますか?」
「アルデヒトに伝えて?
たぶん、モンスター達のテリトリーに入ったわ。」
「え・・・ええっ!?」
すぐに御者は幌の中のアルデヒトに報告すると、後ろの馬車にも声をかけて、ゆっくりとニ台の馬車は停止した。
幌から出てきたアルデヒトは、後ろのチームのリーダー、「伝説の担い手」のイブリンと「銀の閃光」のストライドを呼んでから、幌の上の私に声をかけた。
ちなみにイブリンはハルバードを使う四十代の騎士崩れ。
名前は似てるけど顔立ちはゴブリンには似てないから安心して?
ストライドは二刀のナイフ使い。
いわゆるシーフだけど、犯罪者の盗賊というわけではない。
鍵開け、罠除去を得意とする小柄なホビットだ。
「おい、メリー!」
名前を呼ばれた私は、無言のままアルデヒトの眼前に舞い降りる。
三メートル近い高さから難なく着地する私を見て、各チームリーダーは驚愕の表情を浮かべた。
常に優雅さは忘れてはいない。
彼らの驚きを他所に、私は貴族の娘のように礼を執る。
「お呼びかしら?」
「ゴブリンのテリトリーに入ったというのは確かか?」
「ゴブリンかどうかまでは判別できないわね。
でもこれは縄張りという意識を持つ、普通の動物とは明らかに違う想念。」
「普通の動物とどこが違うんだ?」
「普通の動物ならテリトリーに『恨み』や『憎しみ』なんて撒き散らさない。
近親種に憎悪を抱いてるのか、この辺りを縄張りにしている『種』は、人間という『特定の種』に異常なる情念を向けているようよ。」
「そうか、普通の動物ならテリトリーに入った他の種は食料か、身を危険に晒す脅威かどちらかだろう。
人間という特定の種に、それ以外の感情を持つのは普通の動物ではあり得ないというわけか。」
「そんなところよ。」
すぐに各パーティーとも索敵に得意な者が選ばれた。
視力に優れた猫型獣人と、高性能の嗅覚を持つ犬型獣人がいたが、彼らも別に本当の犬猫ほどの感覚を持っているわけではない。
あくまで通常の人間より優れているというだけだ。
ただ、いまだ彼らのセンサーにはゴブリンらしき存在は感知できないようだ。
どちらにしろ、ここで足を止めているわけにもいくまい。
結局、ニ台の馬車はここから離れて元来た道を戻っていった。
落合場所はあらかじめ決めておく。
つまりここから先は徒歩での移動だ。
・・・果たして、
私の先の情報は彼らに受け入れられただろうか?
私以外の誰にも感知できないという事は、私の言葉を疑っている者も出てきておかしくはない。
そういった疑いの感情もこの身には流れてくる。
単独行動なら気にしなくてもいいのだけど・・・。
「・・・いた。」
私のつぶやきを何人かの人間が聞きつけた。
アルデヒトが反応する。
「魔物か! メリー!!」
「アルデヒト、11時の方向にニ体・・・、
周囲には他にいないわ・・・。
一度、単独で向かわせてくれるかしら?
無理はしないし、自分のカラダがどこまで動けるか確認したい。」
「すぐに戻るのか?」
「ええ、もともと私は戦闘を得意とするわけじゃないもの、
用を済ませたらすぐに戻る。」
「わかった、気を付けろよ。」
・・・さあ、いよいよ狩りの時間よ。
次回メリーさん狩る!