第百六十九話 ぼっち妖魔は出会ってはいけないものに出会ってしまう
ぶっくま、ありがとんです!
いよいよ敵がシャレになってないレベルになってきました。
ラスボスまで辿り着けるのでしょうか?
・・・私の物語描写レベルの話ですが。
パチ・・・パチパチパチパチパチ
エントランスホールに階上からの拍手が響く。
邪魔者はいなかった。
いたのは観劇者というべきだろうか。
あたしとツァーリベルクさんがその拍手の鳴る方を見上げると、
そこには二人の男女が立っていたのだ。
一人はぼーっと、隣の男性にしなだれかかる金髪の少女、ゴッドアリアさん、
そしてもう一人こそが、
この館の主・・・エドガー・グリース。
これまで二度ほど目撃しているが、間違いなく本人。
ただ、市場で忙しそうに働いていた時と違い、今は元気そうでなおかつ、
あの時の客商売していた顔つきとは全く異なる。
今はまさしく貴族の青年という雰囲気だ。
あと、何故か自分の屋敷の中だというのに足首までの外套を纏っている。
「ゴッドアリアさん!!」
あたしは叫ぶ。
・・・彼女は名前を呼ばれたことで顔をあげたが、
すぐにあたしには興味がないとでも言うように、エドガーの顔を見上げて顔を綻ばせる・・・。
なんといううっとり顔・・・。
ゴッドアリアさんのあんな表情、初めて見た。
・・・うん、ダメだ・・・視えるよ、
まさかとは思ったけどやっぱりだ、
ゴッドアリアさんに「魅了」の状態異常が掛かっている。
「伊藤殿・・・あれは。」
「はい、魅了に掛けられていますね、
ゴッドアリアさんを説得するのは困難です。
先にエドガーをどうにかしないとダメみたいです。」
「ふむ、魅了を掛けられたのなら状態異常回復のディスペルを掛ければよいのだが、
残念なことに私はそのスキルを覚えていない。
あれはプリースト職で覚えるものだからな。
もっとも、教会に戻れば館長がそのスキルを使えるので、
教会に連れ帰ることができれば問題はない。
・・・それよりも。」
他に懸念事項があるということかな。
「あのエドガーだ。
屍鬼を隷属できる者は大別して二種類だ。
一つがネクロマンサー・・・いわゆる邪法を極めた人間。
滅多に見かけるものではないがその存在は確認されている。」
「・・・あたしの適性職業で召喚士・テイマーにアンデッドの項目がありますけど?」
覚える気は今のところ全くないけども。
「その場合だとアンデッドの状態は『使役』だな。
『隷属』の場合は恒久的に術者の支配下状態だ。
使役や召喚状態の場合、術者の命令に従わないこともあるからな?」
あ、そうか。
今のところ、スネちゃんもふくちゃんも、あたしに従ってくれてるけど、
仮にあたしが無茶振りした場合は、命令拒否することもありえるのね。
覚えておこう。
「あ、そ、それで、もう一つの方は・・・?」
「その場合だと、・・・正直、我々では荷が重い・・・、
一度引き返し、戦力を整えばならないのだが・・・」
そこでツァーリベルクさんの言葉が遮られた。
「ようこそ、僕の館へ・・・。
先程の戦い、見事でした・・・。
グレタワード・・・ああ、あなた方が消滅させた男は、
母の代から私に仕えてくれた者だったので、
少々寂しいものがあるのですが・・・。」
階段の上からエドガーが話しかけてくる。
ずいぶん余裕だね・・・。
拍手を終えたエドガーは、その左腕をゴッドアリアさんの腰に回す。
あ~あ、ゴッドアリアさん、幸せそうな顔しちゃって・・・。
自分の頬をエドガーの胸板に預けちゃってる。
男の顔が美形なんで、傍から見ると絵にはなる構図なんだけどなぁ・・・。
「こちらの要求を言おう、
そのゴッドアリア嬢、そして我が教会のキャサリンもいるのだな?
そして今まで君が攫った者達を元に戻して返してもらおう。」
素直に返してもらえるとは思わないけど、それを言わないと話が始まらないしね。
さぁ、どうでるか!?
「・・・お断りします。
もし、誤解されているようでしたら、説明させていただきますが、
そもそも僕の館に住んでいる子たちは、先にこの僕に好意を示してくれていた子たちです。
彼女達は自分の意志で僕のお店で花を買い、・・・僕に対し心を開いた。
だからこそ、僕は彼女達に『招待状』を渡し、この館に来てもらったのです。」
招待状ってあの強力暗示付きのお花のことかな。
てことは、宿屋のフローラさんは、エドガーに好意を示さなかったというわけか。
まぁ、確かに暗示をかけられたくらいじゃ人の内心を変えるまでには至らない。
それにしても随分、勝手なことを言ってくれる。
「全て彼女たちの自由意志というなら、『魅了』を外したらどうだね!?
その状態の女性たちを見せられても何の説得力もないぞ!!」
だよね。
女の子をハントするにしても、ハーレムつくるのも自由だけど、
チートで言う事を聞かすのは反則だ。
正々堂々勝負すべきだろう。
やっていいことと悪いことがある。
・・・え? あたし?
え・・・と、いえ、あたしは・・・ほら?
あくまで自分の身を守るためで・・・自分の欲望のためじゃない・・・からね?
「ああ、それは・・・そうですねぇ?
ただ、僕的には魅了を外してもいいのだけど、
僕が意図的に魅了を掛けているわけじゃないんですよねぇ?」
ん?
どういうこと?
ツァーリベルクさんも同じ疑問を沸かせたようだ。
「言ってる意味が分からんが・・・、
どういうことだ?」
「ああ、簡単な話です。
僕が食事をすると、彼女達には自動的に『魅了』になってしまうのです。
・・・まぁ、まだこのゴッドアリアさん、かな?
彼女はこれからなので、今は僕が意図的に魅了をかけたわけだけど・・・。」
うん、まだ意味が分からない。
けれど、ツァーリベルクさんは今ので話を理解したのだろう。
「食事・・・と言ったか。
できればそうであって欲しくなかった・・・。
この私も屍鬼までなら打ち倒す自信はあったが・・・そのさらに上位の存在だというと・・・。」
えっ!?
屍鬼の上位!?
エドガーって人間だよね?
驚いたあたしにツァーリベルクさんは申し訳なさそうに言う。
「伊藤殿、私の短慮を許して欲しい。
いかに緊急とは言え、二人だけでこの屋敷の中に入ったのは失敗だった・・・。
今からでも遅くない。
私が時間を稼ぐから、すぐに教会に・・・いや冒険者ギルドでもいい、逃げるんだ!」
すると階段の上から笑い声が響く。
「あっはっはっはっは、
逃がすわけないだろう?
ただ、正体がバレた以上、もうこの街にはいられないな?
屍鬼の下男も消滅したし、今いる子たちだけでも連れて、他所の街に出ていくさ。
・・・君らを殺してからね!!」
エドガーの口調が変わった。
鑑定で見た花屋のエドガーはそんな強そうには見えない。
外見上の体格もそうだし、レベルも低かった。
何か特殊なスキルでも身につけているのだろうか?
あ、正体!?
「ツァーリベルクさん!?」
あたしの疑問の抗議に、ツァーリベルクさんは悔しそうに呟いた・・・
「奴は・・・エドガーは吸血鬼だっ!!」
>・・・え? あたし?
え・・・と、いえ、あたしは・・・ほら?
あくまで自分の身を守るためで・・・自分の欲望のためじゃない・・・からね?
元の世界で何かやらかしたかな、麻衣ちゃん・・・?
そして今回、完全に格上との戦いです。
はたして麻衣ちゃんたちに勝機は・・・!?