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第百六十六話 ぼっち妖魔は突撃する


教会の馬車は一頭立ての小さな馬車だ。

ツァーリベルクさんが直接馬を牽いて、あたしとフェリシアさんが対面するように馬車の中に乗り込む。


ツァーリベルクさんの外套は今まで見たものではなく黒い革製のコートだ。

元の世界では見た事ないような素材なので、なにがしかの魔物の革を使っているのだろうか?

そして腰には帯剣・・・レイピアかな?

これこそツァーリベルクさんの戦闘時としての正装なのだろう。


 「・・・えっと、この通りをまっすぐ進んで・・・あ、そこ左です!!」


あたしが道順をツァーリベルクさんに伝える。

フェリシアさんは地図と睨めっこして道順を別の紙に写している。

全員真剣である。


薄暗いランプと揺れる車内でフェリシアさんが一番大変そうだけども。


お馬さんも一頭立てだとそんな速く走れないようだけど、あたし達が走るより断然早い。

ゴッドアリアさんが建物の中に消えてから、まだ一時間と経ってない筈だ。

未だ花屋の目的は不明だけれど、この段階なら取り返しのつかない事態までにはなっていないと思いたい。


そして街外れの・・・あたしは足を延ばした事すらない、土地が広く住居も閑散としているような区画にまでやってきた。

もはや民家もまばらだ。


そこへ・・・目立つ建物がある。

豪華絢爛という造りではない。

なんかこう、土地だけ広く余っていて、その真ん中にポツンと館が立っているイメージ。

そしてそここそが、あたしが遠隔透視で視た屋敷と全く同じ建物だ。

建物は横に広くほぼ二階建て。

建物の左右の端だけ尖塔のようになっている。

物見小屋なのか倉庫なのかはわからない。


なお、今は真夜中なんだけど、夜空の月明かりである程度は肉眼でも景色は分かる。

もともと地球と違って月は二つもあるのだ。

この世界では、

あたしたちの常識と異なり、いわゆる真っ暗になる新月か、月が完全に沈んでいる時間が圧倒的に短い。

二つの月のうち、だいたいどちらかが浮かんでいる。

両方とも沈んでいる時間も勿論あるが、こちらの暦の一月の中ではわずかな時間だ。



そして・・・

ここに花屋のエドガーが住んでいるのか。

あたしが鑑定で見た花屋のエドガーには、そんな大それた能力はなかった筈。

レベルも高くなかった。

だとしたら、この館にはエドガー以外に何らかの力を持った存在がいるかもしれない。


けど、

この屋敷の中で息を潜めている何者かが、いかにあたしより上位の存在だとしても、

あたしの能力が万能でないように、必ずそいつにも隙がある筈だ。


・・・なによりあたしは二年前、まさしく雲の上の存在と遭遇している。

天使あいつ」の能力は結界などという、ちゃちなものですらなかった。

感知能力者の意識から一定のエリアを完全に消失させるなんて、まさしく人外のチート。

それに比べれば、「結界がある」と知覚できるだけで、後はそこに潜り込むなんてことはいくつも手段があるのだ。


花屋のエドガーさん、

あなたの正体がなんだか知らないけど、

この異世界から来た妖魔があなたの化けの皮を剥がしてあげるからね・・・!



 「ここです!!」


 「・・・ここは確か国外の貴族が暮らしている屋敷だったはずだ・・・。

 国の人間ではないから、貴族同士のパーティーや集まりにも、そんな顔を出す義務もない身分の・・・ああ、なるほどグリース家か。

 聞いたことあるな。」


 「ご存知なんですか?」

 「一応私も貴族の端くれなのでな。

 だが実際、会った事も見た記憶もない。」


なるほど、外国の貴族か。


 「もちろん、国内の貴族でないから、国からの恩給も何もない、

 ふむ、だからこその商売を行っている・・・か?

 しかし市場で自ら花を売るなど、いくらなんでも貴族のする事ではないが・・・。」


まぁ、女の子を催眠状態にして攫うなんてほうが貴族のやることでないけどね。


 「よし、フェリシア、ここから教会まで帰れるな?

 この馬車を使って構わん。

 この地図を絶対になくすなよ?

 まぁ、フェリシアが無事なら、記憶を頼りに助けを呼んできてもらえればいいのだがな。」


 「あ、う、ううう、はい、がんあbりまぁすぅ!」

責任重大とばかりに舌がまわってないよ、フェリシアさん、

でも馬を牽けるのかな?

頑張って欲しい。


 「キャロットちゃぁぁん、教会まであたしを連れて帰ってねぇっ!」


この馬の名前はキャロットちゃんか、人参好きなのかな?



そしてあたしとツァーリベルクさんは屋敷の門の前に立つ。

鉄柵は閉じられているけど鍵がかかっているわけではない。

押せば普通に開いた。


屋敷の玄関までは20メートルくらいある。

日本じゃ考えられないよね。

あったとしてももう国の重要文化財だろう。


それにしても外国の貴族か・・・

土地は充分に広いけども、街の中心部から外れているせいもあるのか、豪華な感じは何もない。

庭先に花壇があって、そこかしこに綺麗な花が咲いている。

手入れは行き届いている感じだね。

さすがは花屋さんを営んでいるだけの事はあるけども、

いわゆる芸術品とか噴水みたいな無駄なオブジェは存在しない。

つまりあまりお金持ちにも見えないという事だ。


そして屋敷の玄関の扉には、

ライオンさんの顔が口に輪っかを咥えたようなドアノッカーが取り付けられている。

さすが貴族の屋敷だね。

まぁそれはどうでもいいです。

あたしはそれをやや乱暴にガン、ガンと扉に叩きつける。



かなり大きな音が響いているみたい。

エントランスホールはさぞ広大なのだろう。


やがて一人の男性? が出てきた。

顔はフードで隠している。

屋外ならともかく屋敷のなかにいるのに?

厚手の服を何枚も重ねた感じで、手には革の手袋をはめている。

明らかに異様だよ・・・!


 「・・・こ、んな時間に、どち、ら様かね?」

喋り方もなんかおかしい。

どことなく変な匂いもする。

よく昔話だと、体に障害ある人を召使や下男にする習いがあるけどそういうのかな?



 「キャサリンを出しなさい、

 ・・・ゴッドアリア嬢もだ。」


交渉事はツァーリベルクさんに任そう。

相手が貴族だというならなおさらだ。

まぁでも要求は直球だけどね。


 「・・・なん、のことかわ、かりかねますが。」


当然のごとく、相手は惚けている。

あれ? そう言えばこの人の背格好・・・。

そこであたしは思い出す。

 「この人、昼間の馬車を牽いてた人だ・・・。」


ただ、それよりも・・・

ここはすでに隠匿結界内、内部に入ってしまえば、あたしのスキルも普通に通用する・・・。

「鑑定」・・・!



 「いや、伊藤殿、・・・このすえたような匂い・・・

 こやつ・・・まさか・・・。」

ツァーリベルクさんは自分の経験で、判別を付けたようだ。

そしてあたしも同時に鑑定結果を叫ぶ。


 「「・・・屍鬼グール!!」」




  名前 グレタワード 38才(享年) 男性(状態 隷属)

  レベル12

  種族・・・屍鬼(元ヒューマン)

  職業・・・使用人

  

うわ・・・。

会話能力のあるアンデッド!

ついに知能ある魔物とやり合うのか・・・、

ツァーリベルクさんがアンデッドバスターでホントに良かった・・・!


いよいよ戦闘開始です!

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