第百六十二話 ぼっち妖魔は自分を棚に上げる
さて翌日、
ここまで、目的に近づけているつもりは全くなかったけれど、
それなりにトラブルもなくやってこれたと思う。
けど、ちょっと想定外の事態があった。
といってもそれ程たいしたことではない。
この日、ゴッドアリアさんがお昼の待ち合わせの場所に来なかった。
あの人のことだから、寝坊、場所や時間の勘違い、
或いは約束そのものを忘れていることくらいは想定できる。
まぁ、お仕置きは必要だけどね?
可哀相に、また髪の毛が残念なことになるのか。
さて、今はあたし一人なので遠慮なく遠隔透視を使おう。
場所も相手も特定してるのだから視るのは簡単だ。
万一、ベッドの中でスヤスヤお眠りになっていたら、髪の毛が30%ほど消えることになると予言しよう。
・・・どれどれ?
お? いたいた・・・さすがに起きてるな。
単に待ち合わせを忘れているのか・・・。
んん~? なんか様子が変だな・・・。
何か悩んでるというか・・・物憂げな・・・。
ちょっと気になるな。
仕方ない、直接様子を見に行くか・・・。
ゴッドアリアさんの自宅は覚えている。
道に迷う事もない。
ただもしかして、またあのアパートに、「借金返せ」の貼り紙がしたままだったらどうしようかと思ったけど、ちゃんと外されていた。
良かった良かった。
日当たり悪そうな安アパートは相変わらずだけどね。
コン コン!
「ゴッドアリアさーん!?」
あたしは玄関のドアを叩く。
ちょっと間があったけど、すぐに慌てた感じのゴッドアリアさんが出てきてくれた。
「わ・・・悪い、麻衣、
今日、またあの花屋さんに行くんだったよな!?
て・・・あれ!?
なんで召喚術起動しかけているんだ!?」
あたしの足元に白い円周上の光が立ち昇っていた。
「しょーかん、ふくちゃん!」と叫べばすぐにあの子がやってくる。
でもあたしはゴッドアリアさんの顔を見て術をやめた・・・。
「ゴッドアリアさん・・・あれ?
顔色良くないですよ?
具合でも悪いんですか?」
なんていうか覇気がない。
病気だろうか?
「あ・・・いや、病気って程じゃ・・・。
ただちょっと、だるいっていうか、カラダが重い感じでさ、
食欲がないんだ・・・でも熱もないから大人しくしていようと思って。」
昨日張り切りすぎたかな?
それともしばらくゴッドアリアさんの食生活事情は偏っていた筈だから、栄養不良もあるかもしれない。
それに女の子だしね。
そういうこともある。
「じゃあ、今日はあたしだけで教会の方に行ってきますよ。」
「わ、わるいな、麻衣、
この埋め合わせはするからさ・・・。」
別にそんな事は気にする必要はないけども。
「とりあえず、今日の所はおとなしくしててくださいね。」
「ああ、わ、わかったよ、麻衣・・・。」
・・・気になる。
気になる・・・ねぇ?
一つ一つ見ると、何も大したことはない気がするのだけど、
そういうのが連続でいろいろ起きると何か関りあるのかなぁとも思ってしまう。
心配性なのかな、あたしは。
考え事をしながら歩いていると、やがてあたしはツァーリベルクさんのいる教会に辿り着いた。
「やぁ、こんにちは、伊藤殿、
おや? 今日はあのゴッドアリア殿はいないのかね?」
「今日は体調が良くないらしくて・・・。
それですみませんが、どなたかシスターの子でご一緒できる方はいませんかね?」
今日の予定はツァーリベルクさんを連れてあの花屋さんを見に行く予定だった。
ただ、あたしの顔くらいは覚えられているだろうし、昨日の今日で一般人にどうしても見えないツァーリベルクさんを連れて行くのには、向こうが警戒するのではないかと思っていた。
だから女性が複数いた方が怪しまれないかなと思ったのだ。
「なるほど、では昨日のフェリシアでどうかね?」
「あ、はい、お願いします。」
昨日の子なら説明もいまさら要らないし、話が早いよね。
お仕事の引継ぎも問題ないようで、10分程度でフェリシアさんがやってきた。
ベールを外しているから赤茶けた長い髪が目立つね。
「あ、お待たせしました!
キャサリンの捜索をしていただいてるんですよね?
もちろん、全力で協力いたします!!」
万一のことを考えて、シスターの服装ではなく、普段着に着替えてきてもらう。
いなくなったキャサリンさんて人の繋がりだと思われないようにだ。
「それじゃあ、早速いきましょうか・・・あれ?」
フェリシアさんはすぐに出かける態勢だったが、
ツァーリベルクさんが何かいいたいことがあるのか、咳ばらいを一つかましてきた。
「あー、ゴホン、
伊藤殿、せっかくなのでフェリシアと握手してやってくれんかね?」
はい?
え? ここで?
・・・ま、まさか?
あたしは思わずツァーリベルクさんに視線を合わせる。
でもあたしに握手させる理由なんて一つしかないだろう。
当のフェリシアさんはきょとんとしている。
そりゃ、そうだよね。
「フェリシア、この伊藤殿は冒険者ギルドでも、急激にランクアップをしている期待の星なんだそうだ、
今のうちに握手とかしておくと後々自慢できるかもしれんぞ?」
あ! そ、そんな大それたストーリーを!?
「ほんとうですか!?
わぁ! ぜひお願いします!!」
そう言われてしまうと、もはや拒否する方が不自然だよね・・・。
あたしは苦笑いを浮かべながらフェリシアさんと握手する。
「大袈裟ですよ・・・そんなたいしたもんじゃありませんから・・・ね。」
うわ・・・
視なきゃ良かった・・・
あたしの顔に何か出てたのかな。
どうやらツァーリベルクさんは何か察したようだ。
「そうだ、すまん、
・・・フェリシア、悪いが出かける前に、館長にお前を急に連れていくことになったと報告してきてくれないか?
もちろん、私の指示なのだから、君が申し訳なさそうにする必要はない。」
「あ? は、はい、ではちょっと行ってきます!」
フェリシアさんはパタパタと広間から出ていった。
・・・ううう、空気が重い。
「何か視えたのかね・・・?」
ええと、どう言えばいいんだ・・・。
「い、いえ、事件には関係ないかと・・・。」
「歯切れが悪いのだね・・・。
私には言いづらい事なのかな?」
まるで学校で友達の悪さを先生に密告するような気まずさ・・・。
いや、そもそもあたし部外者だよ?
「あ、あのですね、大変言いづらいのですが・・・。」
「この教会の内部のことなのだろう・・・!?
もちろん伊藤殿から聞いたことは内密にするが?」
「い、いえ、あの、女の子同士ではよくあることかもしれませんけど・・・」
「ふむ? 私が聞いても良い話なのかな?」
あ、それで誤魔化せばよかったかな?
でももう遅い・・・。
「いじめ・・・に近いような・・・、
でも見た感じ暴力振るうとか、嫌がらせするとかそこまでのものじゃないようです、
その失踪したキャサリンて子のことを、遠目からバカにしたり、見下したりするような感情が・・・。」
うん、具体的に酷いことをしている感じではない。
単にシスター見習いグループの中で、キャサリンて子がカーストの下の方にいるってだけのことだ。
そう言えば昨日も話を聞いた時、ちょっとバカにしたような感じだったな。
良くないよね、そういうの。
・・・え?
「おまゆう」?
人のこと言えるのか?
失礼な!
あたしは博愛主義者ですよ?
そんな友達をバカにしたり、髪の毛をむしったりするような女の子に見えるとでもいうんですか?
ぷんぷん!!
ツァーリベルクさんはため息をついた。
「なんと情けない、
仮にも人に教えを説く立場の者が何と言う事を・・・。」
「あ、あの、あたしが視たの、ホントに深刻な感じしませんでしたから・・・!
ていうか、人の心の中なんて大体みんな酷いもんですよ?
あたしだって人の事言えないと思いますし・・・。」
そうなんだよね、
あたしだってこんな事件起きていなかったら、一々人の内面を探るようなマネなんてしたくない。
「・・・なるほど、
言われてみればその通りかもしれんな・・・。
私だって心の中は・・・なるほど・・・。」
「なので、フェリシアさんが実際に酷いことしてないんなら大目に見てあげてください。
ていうか、何も聞かなかったことに・・・。」
こういう事で人を責めるのは反則だと自覚している。
自分自身が対象なら、身を守る為にそれなりの対処をするけども、今回はどちらもあたしにとっては第三者だ。
無闇に介入したくもないし、そのきっかけを作った女にもなりたくはない。
それでもツァーリベルクさんは、
内情をあたしにぶち撒ける。
聞かなくてもいい事なんだろうけど、あたしは聞かざるを得ない。
「・・・キャサリンには獣人の血が混じっていた。
ここに来るまで、それを理由にあまり幸せな暮らしをしていたとは言えなかったようでね、
せっかくここに来て心機一転、とはいかなかったということか・・・。」
ここでも獣人差別があるのか。
だんだん、嫌になってくるね。
ようやく
下書きがぐーぐるどきゅ8シート目に突入。
犯人の正体まであと一歩!
・・・下書きの話ですよ?