第百六十一話 ぼっち妖魔は備える
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とりあえず、今日はこれくらいにしておこう。
花屋の件はツァーリベルクさんの方でもあたってみるとは言っていた。
まだ時間的には余裕があるので、街のダンジョンに潜ってみる。
主な目的はゴッドアリアさんの杖の性能確認。
あたしも宿屋代くらいは稼いでおきたいし。
そしてもう一つの理由。
・・・いや、実を言うとこちらが本命かもしれない。
予感・・・。
今あたしが手掛けているクエストそのものか、
或いはそれに関わるものなのか、近いうちに命の危険を伴う戦闘があるかもしれない。
なにせ、このキリオブールではしばらく魔物などを相手に戦闘を行ってない。
まぁ、もともとあたしは戦闘メインじゃないけどね。
命が危険に晒される状況に慣れておかないといけない気がしたのだ。
・・・もちろん、そんな目に遭いたいなどとは露ほども思っていない。
避けれるに越したことはないんだけどね。
「ここのダンジョンはエルジャンダンジョンと呼ばれているんだ。
地下30階層で最深部のボスを倒せれば、パーティーでBランク相当とまで言われるよ。
ソロならAランクだ。
ちなみにアタイもまだ行けるとは思わないけど、鬼人系最強種のサイクロプスがいるって話だ。」
行かないです、そんなとこ。
低層階の魔物の素材で十分。
ダンジョンの入り口では監視員の受付の人がいた。
「おっ!? あんた、ゴッドアリアだろ?
借金払い終わったのか?
これ以上、ダンジョンぶっ壊さないでくれよ?」
「・・・えっ、あ、、だ、大丈夫だよっ!!」
ああ、ここでやらかしたのか、ゴッドアリアさん。
あたしにとばっちりがこないよう、あたしも目を光らせておいた方がいいかな、
マジに光るからね?
「ゴッドアリアさんは何回かここに?」
「ああ、15階までしか潜ってないけどね、
そこまでのマップは頭に入ってるよ。」
なら10階から15階で力試しだな。
念のために、ゴッドアリアさんの道案内をあたしの遠隔透視で確かめながら進む。
トラップも、魔物の奇襲もあたしたちの足を止めるに至らない。
カタンダ村のオックスダンジョンとは異なる造りで、
ダンジョンの壁はレンガっぽい石で出来ている。
現れる魔物はグレーウルフ、ファングリザード、レッドキャップなど、中型の魔物が目立つ。
え?
苦戦はしないのかって?
ここにはゴッドアリアさんしかいませんからね、
遠慮せずあたしも能力を使用しています。
あたしがやってくる魔物を感知し、その方角に向かって有り得ない距離からゴッドアリアさんのストーンバレット連射!!
直撃したらほとんどの魔物も戦闘不能に陥る。
魔法剣士のベルナさんはファイヤーボールやエアカッター主体だったけど、
単純な破壊力とコスパ的にはストーンバレットが最も使い勝手がよさそうだね。
・・・まぁマシンガンのように連発できるゴッドアリアさんは規格外であるから、今回の例を基準にするのは止めた方がいいかもしれない。
20階のフロアボスが、棍棒持ったオーガさんだそうですけど、戦闘するつもりはない。
「ええ!? せっかくだからやってこうぜ?
アタイのニューフレイム・ゴッドアリアの威力を見るに相応しい相手だぜ!?」
「・・・いえ、多分、火力的にはゴッドアリアさんの術で撃破可能なんでしょうけどね、
今あたし達、二人だけで、しかもあたし達二人とも後衛ですよ?
速攻で突っ込んでこられたら、呪文詠唱する間もなく薙ぎ払われてお陀仏ですよ?」
あたし達ってば防御力は紙っぺら同然だしね。
それにしてもほんと、危なっかしい人だよ、ゴッドアリアさん。
あたしが止めなきゃ、魔物と間違えて他の探索者パーティーにも攻撃を仕掛けるところだった。
あたしがこの街を離れた後、ソロでいさせとくのは絶対に危険だ。
早めにどこかのパーティーに入れてもらった方がいいと思う。
まぁ、今夜はこれくらいでいいでしょう。
成果としては、ファングリザードの皮や肉が結構需要があるとのこと。
か弱い女性二人では大した量は運べないと思われるだろうけども、
そこはあたしの巾着袋型アイテムボックスで、重量も体積も気にせず運べる。
あたしたちは殆ど手ぶらでダンジョンから出ていくと、
入り口の監視員の人に怪訝そうな顔をされた。
「おう、・・・意外と早かったな?
収穫もなさそうだし・・・地下5階までってところか?
まぁ、怪我した様子もないから今日は偵察だけだったのか?」
「ええ、まぁ、ゴッドアリアさんの新しい杖の試し撃ちがメインの理由なので。」
ゴッドアリアさん的には、術の威力も発動の速さも20%くらい上昇してた感じだそうだ。
「そういうことか、まぁ堅実にやってくのが一番だからな、
無理せず、地道にやんなよ?」
「はい、ありがとうございます。」
そしてあたしたちはギルドに寄って、素材を売却する。
そこそこの稼ぎにはなった。
明日は教会に寄ってからもう一度、市場の花屋に行く予定だ。
・・・ただね。
「ううううう~・・・っ。」
「ま、麻衣、どうしたんだ、そんな変な唸り声上げて?」
変な唸り声で悪うござんしたね、
帰る道すがら、もう一度思考を整理する。
何か見落としてる気がするんだよ。
「あの花屋さんが、怪しい気はするんだけど・・・。」
「でもさ、あの病弱そうな感じじゃ・・・。」
「演技ならそれはそれでいいんだけど、鑑定でしっかり『貧血』表示出てたからね、
あんまり荒事は出来ないと思うんだ。」
以前聞いた情報では、ステータス隠蔽はスキルで出来ても、ステータス表示の偽装は出来ないという。
あたしの場合は妖魔とヒューマンの混血だから、片方を隠蔽することによって、ヒューマン表示となっているのだ。
「じゃあさ、失踪した女の子たちが、自分の意志で出てった場合は?」
「家の人に黙って出ていく理由ないでしょ?
これが付き合ってることを家族に反対されてるとかならともかく、
花屋さんと恋愛関係が成立しているという噂すらもない。」
当然のことながら、こんな所で結論が出るわけもない。
あたしとゴッドアリアさんはそれぞれ別れてこの日は何もなく、一日が終わった。
ちなみに時間をちょっと遡る。
あたしたちがエルジャンダンジョンから出てきて一時間後くらいのお話。
「お、おい、
なぁ? 若い女の子の二人組、ここから出ていったか!?」
「んあ? ゴッドアリアと、最近この街に来たって黒髪の女の子か?
さっき、出ていったぞ? 何かあったのか?」
「い、いや、そう言う事じゃないが、何者だあいつら?
たった二人で、現れる魔物をほとんど瞬殺してたぞ!?」
「大袈裟なヤツだな、
せいぜい5階あたりだろ?
ゴブリンやスケルトン程度なら魔術士だけでも楽勝だろ。」
「5階!?
バカ言うな! オレが見たのは18階だったぞ!?
10メートルはあるファングリザードをあの子ら、余裕で解体してたぞ!?」
「はぁ!? 18階!? しかもファングリザードォ!?
ありえんだろ! あいつら殆ど無傷だったし獲物の素材も持ってなかったぞ!?」
「え? てことはもしかして収納のマジックアイテム持ち!?
どんだけハイスペックなんだ、やつら!?」
どうやらあたし達は、知らないうちに知名度があがっていくようだった。
おかしい・・・そろそろ予定では誘拐犯とのガチバトルになる筈が、
まだ下書きですらそこに辿り着いていない・・・。