第百五十八話 ぼっち妖魔はお爺さんと逢う
ぶっくまありがとうございます!
3軒目もまだ時間的に余裕あるな。
足を延ばしてみたけどちょっとこっちは遠かった。
頑張って歩いてみて、なんとかご家族に話を聞いたけども、
・・・そこも結局似たような話しか聞けなかった。
状況はほぼ一緒。
普通の民家。
家族構成は他の二軒とはバラバラ。
被害者のお嬢さんの年齢は15。
特に男性関係はなし。
趣味らしいものもなく、せいぜい、お花が好きでよく家の中で飾っていたんだとか。
そう言えば、この家の玄関には花瓶があったけどお花はなかったね。
なんでも娘さんがいなくなってからは、誰も活けてないんだとか。
・・・それもさみしい話だと思う。
丁寧にご挨拶をしてあたしは宿に帰ることにした。
一度、情報を整理して明日は探索方針を検討してみよう。
今のままだけだと話は進まないような気がする。
さて、取りあえずは晩ご飯かな。
屋台でいくつか見繕ってもいいし、
宿屋の食堂で食べてもいいし・・・。
街中の通りで、そう悩んでいるうちに、あたしは自分に視線が向けられていることに気付いた。
ずっと後を付けられているのなら、もっと前に気付くはずなので、
今この時、偶然目をつけられたということかな。
とはいえ、別に害意や悪意を伴うものでもない。
あたしが警戒せずに視線の方を振り返ると、
どこかで見た人が・・・。
あの聖職者のような姿のお爺さんは・・・
あ、思い出した。
昼間冒険者ギルドに後から入ってきた人だね。
あたしは興味のないフリしてその場を離れようとしたのだけど、
おじいさんはあたしに用があるのか、ゆっくりと近づいてきた。
「もし、そこのお嬢さん?」
ああ~、話しかけられた・・・。
逃げたら怪しまれるよね?
面倒な話にならなければいいのだけど。
「は、はい、なんでしょうか・・・。」
「いきなり声をかけてすまないね、
君はさっき冒険者ギルドにいた女の子だね?」
いいえ、違いますって言ったらどうなんだろうか?
「はい、そうですけど。」
うん、あたしってばヘタレ。
「確かこの街の行方不明者の捜索依頼を受けていると聞いたが?」
「は、はい、そうです・・・けど。」
まさかこの人が犯人か!!
・・・なんてことはないだろうな。
邪念がない。
正確に言うと何かに憤りを感じているようだ。
「・・・そうかね、
実は私はこの街の教会の人間なんだが・・・
私にも協力させてはもらえないだろうか?」
はい?
「え、協力と言っても・・・?」
「うむ、一応私も冒険者資格は持っている。
ランクはC、ああ、別に君の依頼を横取りしようなどとは思っていない。
むしろ今回は私から依頼をする立場の方でな。」
む? 風向きが変わって来た?
「ランクCの冒険者?
え? ちなみに職業は・・・!?」
「退魔士・・・アンデッドバスターと言えばわかるかね?」
むぉっ!?
今まで見た事ないぞ、そんな人!?
かなりのレアジョブなのかな?
「ははは、冒険者ギルドではあまり見ない職業だろうな。
僧侶からプリーストに上位転職するときに、素質があるものは退魔士にジョブチェンジできるのさ。
退魔士の中でも奇跡によって魔を祓うものをエクソシスト、
私のような神聖魔法と剣を主体にする者をアンデッドバスターと呼ぶのだよ。
治癒魔法とか防御魔法に関してはプリーストより劣るが、
対アンデッド、対闇系生物に特化したジョブと思ってくれればよい。」
「あ、じゃあ、ゴーストとかゾンビとかは・・・。」
「うむ、私らの得意とするところだな、
逆にそれ以外ではあまり活躍できんのでな、
普段は教会で活動しているのだよ、
墓場や戦場で発生したゴーストなどは、冒険者ギルドにまわさず私らに直接依頼が来るのでな。
ただ、逆にダンジョンのゴーストなどは私らが出向くものでもない。
その辺りはうまくギルドと住み分けが出来てると思うよ。」
それは心強いかな。
あ、でもそうなると・・・。
「え、あ、あの・・・ということは、
いまあたしが担当している失踪者の件は・・・何か教会が関わるもの、とでもいうんですか?」
そこでお爺さんは考え込む表情をした。
頭は白髪だけど、青い目のお爺さんはなかなか渋いですね。
「いや・・・そこまでは、ただ、実を言うとこの街の教会の中からも、行方不明の少女が出ておるのだよ。」
「ええええええっ!?」
そこまで明らかにされたら話をじっくり聞かざるを得ない。
あたしは夕飯を一緒に取ることを勧めてみた。
あら、・・・いきなりお爺さんの顔が綻んだ。
今までの軍人の様な渋さが吹き飛んだけど、まぁこれはこれでいいか。
「いやぁ、すまないね、
まるで孫と夕飯をいただくような気持ちで・・・。」
なるほど、
あたしのほうは父方のお爺ちゃんは遠方に住んでるから滅多に会わないし、
ママの方のお爺ちゃんは、お祖母ちゃんが殺しちゃったらしいから一度も会った事がない。
ご冥福を祈る。
「お爺さんのお名前は・・・あ、え、と確かツァーリベルクさんで?」
「おうおう、ギルドで聞こえていたかね、
一応、教会では司祭の地位にある。
まぁ、いつも現場廻りをさせられているがね。」
とりあえず最初は世間話から始めるか。
「お孫さんは多いんですか?」
「あまり多い方ではないな、私の知る限り4人だ。」
ん?
なんか変な言い回しだな?
「知る限りでは?」
「ああ、娘が一人駆け落ちしおってな、
その後、孫が生まれたまでは聞いておるんだが、その後、音信不通でな。
今はもう生きておるんだか、死んでおるんだか。」
そういう事か。
「もともとワシは入り婿でな、家はこれでも男爵級の貴族なのだよ、
ただまぁ、家に帰ってもあまり大きな顔も出来ぬでな、
こうやって外をフラフラしておる私にはあまり大きなことも言えんという訳よ。」
なるほど、そろそろこっちの話を進めるか。
「で、教会の女性がいなくなったって言うのは・・・やはり街の女の子たちがいなくなったのと一緒なんですか?」
「正直、私とはあまり接点がない見習いシスターが二人ほど、な。
ただ、二人とも時期は違うが、失踪する直前、様子がおかしかった点を考えると、
そちらと同じ原因なのかとな・・・。」
結局のところ、お爺さんから大した情報は得られなかった。
冒険者ギルドの方には、あたしが去った後、教会で二人の女性が失踪していることは告げたという。
あたしが次に冒険者ギルドに顔を出せば、その情報も教えてもらえるだろうとのこと。
なら、翌日ギルドで話を整理させてもらってから教会にお邪魔しようか。
それを問うと、ツァーリベルクのお爺さんは喜んで快諾してくれた。
それと・・・
「大変申し訳ありませんが、手を触らせてもらっても良いですか?」
変な勘違いされたくないのでなるべく機械的に尋ねてみる。
案の定、怪訝そうな顔をされた。
「・・・それは何か意味があるのかね?」
別れ際に友好的な態度として握手求める手段も考えたんだけどね、
そこまで仲良くするつもりもないので、あえて失礼かもしれない方法にする。
「はい、あたしは鑑定が使えますので・・・。
それで意味が分かりますか?」
これも念のため。
友好的に近づいてくる人すべてを疑いたくはないのだけど。
「・・・もちろん、構わん、やってくれ。」
「ありがとうございます。」
うん・・・シロだ。
この人も悪いことは何もやってない。
ちょっとこの人の心の中に「後悔」なんてものが見えたけど、
さっき言ってた娘さんのことだろうか。
そこまでは見抜けないし、他人のプライバシーに介入するつもりもありません。
「何か問題はあったかね?」
「いえ、全く。
ちなみに昼間、聞き取りしてきた家の交友関係でも、今のところ同じ手を使って怪しい人はいませんでした。」
「そうかね・・・。」
そしてお爺さんと別れてあたしは宿に帰る。
今まで出てきた僧侶系の人で、
蒼い狼のタバサさんと、
栄光の剣のミコノさんが、
同じプリースト職です。
カタンダ村のケーニッヒさんと、
オーガバスターズのモンクの人は、
基本職の僧侶に就いたことがあります。
現在明らかになっているのは、
僧侶職をマスターすると、
プリースト、エクソシスト、アンデッドバスターに転職できます。
ただし、アンデッドバスターには剣士をマスターしてないと転職できません。