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第百五十六話 ぼっち妖魔は決意する


 「行方不明者の探索ですか・・・。」


嫌な予感がビンビン来る。

確かにあたしの能力なら行方不明者の捜索は適役だろう。

ただ手掛かりとなるものが残っているのならの話だ。

基本的に見た事も会った事もない人に関しては、すぐに見つけられるとは限らない。


 「冒険者ギルドでは様々な原因を想定してまして、

 全ての行方不明が同一の原因とも決めつけてはおりません。

 ただ一応、失踪時に同様な状況下であったという条件で一纏めの依頼となっております。

 なので、期限も定めず、行方不明者一人の発見に付き、それぞれ報酬を支払います。

 ・・・生死を問わず、ですが・・・。」


もう死んでる可能性もあるという事か。


 「ギルドでは最も可能性が高いのは何だと思ってるんですか?」

 「・・・一番可能性が高いのは誘拐ですね。

 奴隷として売り捌くために誘拐・・・なのですが。」

 「ですが?」

 「本来、奴隷は法で認められている者しか奴隷にはなれません。

 いわゆる、犯罪奴隷あるいは借金奴隷・・・。

 法の認可もなく、本人の同意もないケースは考えにくいのです。

 となると、国外の組織とか、地下組織とかを考えるべきなんですが、

 その場合でもまだ幼い子供が誘拐される場合が多く、成人女性が・・・

 いえ、正確に言うと成人前後の女性ばかりというのが、今回は稀な特徴で・・・。」


 「今まで手掛かりとかは掴めなかったんですか?」

 「これまでのケースでは獣人のスカウトやシーフに探索をお願いしてたのですが、

 彼らの鼻をもってしても、見つけることが出来ずに・・・。」


それは難しいなぁ。

あたしにどうにか出来るんだろうか?

 「もしなんらかの誘拐集団のようなものが関わっているなら、

 その証拠を見つけてくることだけでも構いません。

 今回の依頼に違法組織の殲滅までは含まれていませんので。

 その場合は追加ミッションとして、新たに依頼ランクの更新、冒険者の再募集という形になります。」


するとそこでギルドの空気が変わったことに気付く。

ふと後ろを振り返ると、粗野な人間の多いこの場所に、場違いとも思える立派な服装の老人がやってきていた。

 「あ・・・あなたは!?」

正面の受付嬢が驚いた声をあげる。


その人は老人と言っても背筋はピンとして軍人の様。

ただ、服装はどっちかというと、お貴族様・・・いや聖職者のようなコートスーツのようなものに身を包んでいる。

 「ギルドマスターに取り次いでほしい、

 教会からの依頼があると言えばよろしいかな?」

 「は、はい、わかりました!

 ツァーリベルク様!!」


あ、うん、とても偉い人っぽいね、

ここは関りにならないうちに退散しよう。

あたしは先程の依頼を受けることにして足早にその場を離れた。


一瞬、さっきの老人に振り返られたような気がするけど気にしないでおく。



行方不明者捜索依頼。

ギルドへの依頼は合同依頼となっている。

被害に遭ったご家族の方が共同して捜索依頼を掛けているとのこと。

あたしの予感に正直に従うなら、

この依頼は断った方が良かったのかもしれない。

でも、昔からこの手の犯罪・・・まぁ、まだ確定したわけではないけども、

抵抗する手段を封じて女の子を掻っ攫うような奴は生きる資格などないと思う。

あたしがこの手で、直接何かする必要まではないけども、何らかの手段でギャフンと言わせてやらないと気が済まない。


とりあえずは、冒険者ギルドで被害者の人たちの住所を聞いてきたので一軒一軒当たるつもりだ。

・・・なんか冒険者って言うより探偵だね。

向こうの世界に戻ったら将来、そっちの道に進んでも・・・


日浦のおじさん、元気かな・・・。



まず一軒目、普通の民家だね。

 「ごめんくださーい。」


しばらくしてから幼い女の子の声で「はーい?」と返事があった。

カチャリと玄関の鍵が外され、小さく扉が開かれる。

うん、警戒されてるね。

当たり前だろうけど。


扉の隙間からはあたしより小さな女の子の顔がのぞいていた。

12才くらいかな?

 「は、はい、おねーちゃん、どちらさま?」

 「冒険者ギルドで行方不明者の捜索依頼を受けてきました伊藤と申します。

 ・・・えっと、お話を聞かせてもらっても?」

そこで女の子の表情が変わった。

 「は、はい! どうぞ!

 ママー! ママー!?」


玄関には綺麗な花が飾られていた。

家の中は裕福そうには見えないけども、それほど貧しいようにも見えない一般的? な家庭。


ドッタドッタとすぐにお母さんらしき人が階段降りてやって来た。

 「ああ、なんだい、お客さんかい?

 おんや? ずいぶん若いお客さんだねぇ?

 ユーノのお友達かい?」

 「ううん? お姉ちゃんのこと探しに来てくれたって。」


この子の名前がユーノかな?

 「ああ、・・・あんたが?」

うん? ちょっと警戒されたというか、落胆されたって感じかな?

あたしの外見で判断されちゃったみたいだね。

今更だけど。


 「はい、冒険者ランクDの伊藤と申します。

 一応、探索スキルに関してだけならBランク相当と言われてます。

 よければお話を聞きたいのですが。」


あんまり能力をひけらかすつもりはないけどね、

状況が状況だし。

娘さんがいなくなって、不安な思いをしている家族の励ましになれればいいかなと思う。


 「そ、そうかい、

 父親はいま働きに出てるから、あたしでよけりゃ話をするよ。

 ・・・そうだねぇ、

 長女のエミリアがいなくなってもう二週間経つ・・・。

 街の衛兵たちや、他の冒険者にも探してもらってるんだけどねえ・・・。」


長女の名前はエミリアさんか・・・。

うちのエミリーちゃんみたいな名前だね。

あの子も誘拐されて・・・長い間酷い目に遭っていたからね・・・。

同じ思いはさせたくないな・・・。

 「おいくつなんですか?」

 「いま、16才だね、

 この家で花嫁修業させてるところだったから、買い物くらいでしか家を出ることはなかった・・・。

 まぁ、近所の友達と出かけることはあっても、それこそこの周りしか行動半径はなかったと思うから遠出はしてないと思う。」


あたしとほぼ同い年じゃないか。

もうすぐあたしも16だし。


 「ギルドでは誘拐組織を疑ってましたけど、この辺り、そういう不審者とか余所者とかけっこういるんですか?」

 「おかしな奴はたまにいるよ?

 でもそんな堂々とした誘拐犯なんかいるのかねぇ?」

 「エミリアさんはどんな状況でいなくなったんです?」

 「朝になったらいなくなってたんだよ、

 玄関の鍵は開いたままだし、靴もなくなってたから、あたしたちが目を覚まさないうちに、玄関から出ていったんだと思う。」


ん? 自分の意志で出ていったってこと?

それとも単に何らかの理由で外出した時に誘拐されたんだろうか?


 「あの・・・荷物とかお金とかは・・・。」

 「衛兵さんにも聞かれたけどね、

 着の身着のままで出ていったはずさ。

 お財布も部屋の貯金箱にも手を付けた様子はないね。」


 

 「そんな朝早く外出する理由は・・・。」

お母さんはため息をついて首を振る。

 「わかんないんだよ、

 友達に聞いても、そんな時間に集まることもないって言うし・・・。」


 「他に何か気になることとかは・・・。」

 「そうだねぇ、最近何か思い詰めてるのか、口数が少なくなったなぁってことくらいだねぇ?

 何か心配事でもあるのか聞いたら、何でもないって言われたけど・・・、

 もっと問い詰めるべきだったのかもねぇ・・・。」


年頃の娘が思い詰めて口数が少なく・・・か、

普通に考えるられることは・・・。

 「あの・・・例えばお付き合いしている男の人とか・・・?」

 「あはっ、そんな奴がいりゃいいんだけどね、

 浮いた話は聞かないね、

 せいぜい市場のお兄さんが格好いいとか、

 劇団の俳優さんや、冒険者ギルドのトップランカーを遠目に見てキャーキャーいう程度さ。」


普通と言えば普通なのかな?

 「あと、そうですね、できればお部屋を見せていただければ・・・。」

 「ああ、いいよ。ついてきな。」


エミリアさんの部屋は二階だった。

ていうか、妹のユーノちゃんと同じ部屋だそうだ。

 「ユーノちゃんはお姉ちゃんがいなくなった時、気が付かなかった?」

 「う・・・うん、ごめんなさい・・・。」

あ、悪いこと言っちゃったかな?


 「あっ、いいの、気にしないで、

 それくらい静かに出ていったのかなって思っただけ。」


 「ほら、ここだよ。

 あんまり女の子っぽくない部屋だろ?」


ううむ、別にあたしも自分の部屋の中は女の子っぽくないかもしれないから、そんなファンシー系なものがなくても気にしないけども。

ゴッドアリアさんの部屋も何もなかったし。


 

・・・部屋は結構広かった。

太陽の光が入ってこないように部屋の隅に二段ベッドがある。

窓際の机に結構綺麗な花が飾られているくらいか。


 「エミリアさんの私物を見せてもらっても?」


あたしはサイコメトリーを起動する。

ただこの術は知りたいものが知れるものではない。

その物品の使用者、所有者が感じたもの、思ったものが記録装置のように対象物に残されているのを知覚するだけ。


・・・特に怪しい映像は浮かんでこない。


友人と出会った光景、街中に買い物に行く風景、

家族とご飯を食べてる景色とか、そんなものばかり・・・。


窓枠にも触れ、カラダを外に出してみる。

玄関から出ていったのなら、窓の出入りを疑う必要はないのだけど、

何らかの偽装行為を想定して念のためにだ。


・・・うん、特に何もない。

強いて言えば、何か物思いに耽っているエミリアさんと思しき映像が頭に浮かんだけども、

その彼女が何を考えていたかまではわからない。


この時、あたしは気づかなかった。

もう少し手を伸ばしていたらこの時点で手掛かりを得ていたかもしれないのに。



もう少し話を聞いてからあたしはこの家を出る。


 「お話をありがとうございました。

 エミリアさんは全力で探しますので・・・。」

 「・・・頼むよ、それはいいけどあんた一人でかい?」

 「探知能力はあたしが一番ですので、

 もちろん、あたし一人でどうにかならないものは他の人に頼りますよ。」

 「そうかい・・・エミリアの事、よろしくね。」

 「はい、必ず・・・。」


お母さんの後ろでユーノちゃんが見上げてきた。

 「おねーちゃん、見つかる?」

あたしは精一杯の笑顔を見せる。

 「うん、絶対見つけるよ。

 そうだ、はい、これ、お母さんと。」


巾着袋から予備のプリンを二つ差し出す。

 「え! これ、もしかして噂になってる・・・!」

 「はい、プリンですよ、ご飯の後に召し上がれ。」

 「うわああああっ! お姉ちゃんありがとう!!」

 「エミリアさん見つけたら、家族全員分持ってくるからね、

 それまで待っててね。」

 「うん! わかった!! きっとだよ!!」


帰り際、お母さんの目から涙がにじんでいたのは見なかったことにする。

あたしが見たいのは喜びの涙だけだ。


まだその時じゃない。



 

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