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第百五十五話 ぼっち妖魔は新たな依頼を受ける


 「ごめんくださーい!!」


それから更に二週間。

あたし、ゴッドアリアさん、デミオさんの三人は、町の一角にあるホワイトナイト商会というところにいた。

事務所の中はかべのあちこちに張り紙がしてある。

それにしても名前がやけに立派過ぎる。



 「お客様は神様」

 「心ゆくまでお貸しして差し上げろ」

 「顔は仏に心は鬼に」

 「商品へのお手付厳禁」

 「ビッグブラザーがお前を見ている」

どこかで聞いたような標語だなぁ?

なんだっけ?


実を言うと先日一度お邪魔している。

扉を開けると、ひげもじゃの会長さんとやらが苦々しい顔で無理やり笑みを浮かべていた。

 「なんでぇ・・・ほんとに300万稼いできちまったのか・・・。」

 「利子と延滞金プラスしての支払いなんだ、

 アンタはそれでもかなりの儲けの筈だが?

 そんな嫌そうな顔することないだろう?」

交渉役はお馴染みデミオさん。

頼りにしてます。


元々借りたお金は150万だったとか。

どんな利子付ければそんなに膨れ上がるのよ!?


 「このお嬢ちゃん、奴隷落ちさせればオークションで500は狙えると思ったんだがなぁ。」


ゴッドアリアさんの体が震える。

もう借金なんてしちゃダメだよ?

危うく売り飛ばされるところだったんだから。


 「ほ、ほら! これで全額!!」

会長さんの部下らしき人がゴッドアリアさんから金貨の入った革袋を受け取る。

一枚一枚金貨を数えてる間、緊張が高まるよ・・・。


その間に別の人がお茶を持ってきてくれた。

こういうところはサービスするんだ?

意外と言えば意外。


 「ボス、きっちり300あります!」

 「・・・よし、なら仕方ねぇ、証文はこれだ。

 持っていきな、ここで破り去るなり、記念に部屋に飾っとくなり好きにしな。」


デミオさんが目を皿のように書類を確認してニッコリ笑う。

 「だいじょうぶ、これでゴッドアリアのお嬢ちゃんの借金はチャラだ。

 もう他に借金してないんだよな?」


コクコク、鳥のように頭を上下させるゴッドアリアさん。

もうこれ以上は面倒見ないよ?


ここで髭もじゃ会長さんの声のトーンが変わった。

 「ゴッドアリア様、遠慮はいりませんよ、

 あなたはこれで私たちの借金を返済したという信用を得ました。

 どうです?

 これを機に新たにお金を融資いたしますよ?

 そうですね、特別大サービスで金額の上限を500万にまで増やせますが?」

急に態度を変えるホワイトナイト商会会長。

これが商売人というものだろうか。


 「えっ、ほ、ほんと!?」

ゴッドアリアさん、食いつくな!!


あたしとデミオさんで彼女の頭を引っぱたいた。

 「ぎゃんっ!?」


 「じゃあ、これで、

 残念ですがここには二度と来ることはないでしょう。

 代わりと言ってはなんですが、こちらはお土産です。

 みなさんでどうぞ。」

あたしは売り物のプリンを10個ほどばら撒いておく。

 「毒は入ってませんよ、安心して召し上がれ。」


借金取りの会長さんが嬉しそうに微笑んだ。

 「それが今流行りのプリンって奴か?

 気持ちのいいお嬢ちゃんだな、ありがたくいただくぜ。」


そしてあたし達はその事務所を後にする。


 「これでプリン販売は終わりか。」

 「はい、あとはマーヤ夫人のところで販売するようです。

 すでにいろんなお菓子店と契約して販売網を広げるみたいですよ?」


 「まぁ、確かにあのプリンは美味いが、あんまり急激に拡散するとなぁ・・・。」


 「ご心配なく、

 第二弾の和風小豆乗せプリンもマーヤ夫人にお伝えしてますので、

 まだしばらくはこのブーム拡げられますよ?」

 「なっ!? まだそんな隠し玉持ってたのか!!」

 「ええ、カラメルソースが受けなかったら別のものを用意しようかと思ってましたので。」


その後、本格的に商人にならないかとデミオさんに説得された。

でも、あたしの知識は本格的なものじゃないからね。

いつかボロが出る。



それよりいまのあたしには新たな目的が出来ていた。


とにかく、今回のイベントはこれで終了!

デミオさんやゴッドアリアさんと別れたあたしは宿に帰る。


 「ふぃ~、終ったぁ・・・!」

 「伊藤様、おかえりなさいませー、食事はどうされますかー?」

 「ああ、一度部屋で着替えたら食堂に降りていきます・・・。」

 「はい、ではお席のご用意をしておきますねー?」


宿のお姉さんはいつも元気だな。

フロントには花瓶に大きな花がいつも飾られているけど、

その花にも負けない明るく元気なお姉さんだ。

客商売やってると、これだけの笑顔が身につくものなのだろうか・・・。




商業都市キリオブール。

もうすでに、ここで寝泊まりして3週間以上過ぎているけども、

今更のようにあたしは冒険者ギルドの扉を叩く。


すでに朝のクエスト依頼の張り出し時間は過ぎているので、

そんな混雑している様子は見えないが、それでもそこかしこに冒険者の姿が見える。

中にはカタンダ村で見たように、むさい風貌の荒くれ者もいれば、

そこそこの実力と思われる魔法使いっぽいローブ姿の人もいる。

地味な色のローブ姿のあたしは珍しくないのかもしれないが、

相変わらず、小柄な体型が目立つのだろう、数人からの視線を感じた。


・・・まずは受付カウンターだね。

 「えーっと、すいません、冒険者カードの更新はこちらで?」

受付の女性は一瞬、戸惑った表情を浮かべたけど、すぐに慣れているであろう営業スマイルを作り出すことに成功。


 「はい、大丈夫ですよ、

 えーと、更新内容は職業変更でしょうか?

 それともランクアップを?」

 「宿屋町セルルの出張所でDランク認定はしてもらってますので、あ、これ証明書です。

 というわけで、ランクアップの方を。」

職業はどうせころころ変わるから一々変えなくてもいいだろう。


 「まぁ、了解しましたわ。

 ・・・伊藤様はソロなんですね・・・。

 まぁ・・・まぁ!?」


あたしの個人情報を驚きのあまり、口に出してばらさない辺り、さすが大きな町の受付嬢だけのことはあるなと思う。

というか、きっとそういうケースも結構あるんだろう。

 「では更新が終わりましたらお呼びしますので、そちらでお待ちくださいませ。」


待合所ではセルフサービスでお茶も飲めるようだ。

もちろん、ティーサーバーのようなものはない。


やかんに入ったお茶を湯呑みに注ぐだけである。

飲み終わった湯呑みは返却場所に返すだけ。

お行儀が悪いかもしれないけど、あたしは湯呑みを両手で持ちながら、

依頼票が貼り出されているボードの前まで近づいていく。


・・・もうこの時間はめぼしいものが残ってないんだよね。


今手続き中とはいえ、あたしは既にDランク。

つまりはCランクのクエストまでは受注可能だ。

・・・受けるつもりはないけども。


まずは定番の採取クエストだ。

あたしの感知スキル、鑑定スキル、そしてサイコメトリー、遠隔透視、

これらを使えば大体の物は見つけ出すことができる。

まぁランクはクエストランクは落ちるので報酬自体も下がるのだけど、

別にそれは気にしない。

しばらくはそうして町中の情報を集めていこう。

布袋さんの言っていた町中の隠蔽されている魔力とやらは気になるけど、

そんな急に出くわすことがないように祈る。


ていうか、元々魔力が高かろうがなんだろうが、あたしや街にとって害悪という事もないだろうし。

・・・ないよね?


 「伊藤様、お待たせしました。

 新しい冒険者カードの発行でございます。」

 「はーい、今行きまーす!!」



そしてしばらくの間、あたしは細かい依頼をそれなりにこなしていった。

案件としては大したことはないと言える簡単なもの。

それでも短時間で効率よく、確実に依頼を達成していくあたしに、ギルドの受付嬢の皆様方も日増しにあたしに笑顔を振りまいてくれるようになった。

 「もちろんですよ、伊藤様は確実に、それも速やかに案件を達成していただけますもの、

 こちらも安心して依頼をお願いできますわ。」


最近、よくわかったことがある。

信用って小さなことをこつこつ積み上げることで生まれるんだよね。

元の世界ではあたしは特に、クラスからははみ出し気味の存在だったからね。

もちろん、敢えてそうしている部分もあったんだけど。

あたしも積極的にクラスのみんなに話しかけたりしていれば・・・、

もう少し交友関係は広がっていたかもね。




そんなある日のことだ。

 「はい、伊藤様、依頼達成確認しました。

 こちらが報酬となります。

 お疲れさまでした。」


このキリオブールはそれなりに発展して、住民は安定した生活を送っている。

そんな中で冒険者は何しているかというと、

領地の中や、城壁の外に結構深めのダンジョンがいくつかあり、

そこでゴーレムやら、魔獣やらを倒して素材回収で生計を立てているそうだ。

街の外にも魔物はいるが、街に危険を及ぼすようなものは、大体討伐されつくして、

Bランク以上の魔物はかなり遠出しない限り、出くわすこともない。


街中にいきなりやってきて住民に被害を及ぼすとなると、

想定される魔物で可能性が高いのはワイバーン種だ。

あれが城壁を越えてやってくると、ランクの低い冒険者では太刀打ちできない。

あたしもいろいろレアスキルを身に着けてるとはいえ、なるべくなら・・・

いや、可能な限り出会いたくないものである。


なのでしばらくあたしは戦闘する必要がある依頼を避けていた。

この後も極力避けるつもりである。

そしてこの日は受付嬢にこんな事を言われたのである。


 「伊藤様、よろしければこちらの依頼を受けてはいただけないでしょうか?

 街のあちこちで行方不明者が出ているんですが・・・。」



あ、これヤバい奴だ。


 

さて、妖魔リーリトの前に立ち塞がる新たな敵は?


今回、伏線がひっそりと・・・。

いや、大したものじゃありませんけど。

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