第百五十一話 ぼっち妖魔は新たな扉を開く
下書きなくなりました。
でも今日から4連休!
書き溜めまくりますよ!
「はい!
道行く皆さま、いかがですか!
マイマイ商店謹製スペシャルスイーツ!
プリンの販売です!!
食後のデザートにご家族そろってお召し上がりください!!
ご試食? はい、そちらでどうぞ、可能ですよ!!
お召し上がりになったら列に並んでくださいね!!
お一つ500ペソルピー!!
長持ちしないので今夜中に食べて下さいね!!
はい、毎度ありがとうございます!!」
みなさま、おひさしです!
麻衣です!!
何をしているのかって?
見てお分かりになりませんか?
ついに異世界知識特権を利用して商売活動を始めたのですよ、ふふふふふ。
あんまり料理とかは詳しくないんだけど、プリンは学校の家庭科実習で作ったことがあるし、材料さえあればなんとでも出来ると確信。
正直、そんなにお金は困ってなかった。
自分一人で旅を続けるならばどうとでもなる。
そう、お気づきだろう、
いま、一緒に行動している残念魔女っ子ゴッドアリアさんの借金返済のためだ。
ここはキリオブール。
かなり大きい街だ。
あたしが異世界に来て最も大きくて賑やかな街と言っていいだろう。
最初にあたしが辿り着いたカタンダ村なんて、丸一日あれば村を隅々まで探索できるけども、ここは無理。
何日かければ街を踏破できるか想像もできない。
この辺り一帯の領主が住むほどの街でもないが、それでも税制面でも納税額二位の街だという。
もちろん冒険者ギルドにはちゃんとギルドマスターもいる。
これまでの村や町のように代行しかいないなんてこともない。
町中の庶民の家は、平屋の木造建築が多いけど、
お金持ちや偉そうな人の家は石やレンガ造りの建物が中心のようだ。
街のメインストリートや裏通りには子供も普通に遊んでいるし、
民家の家の前ではご老人が椅子に座って平和そうにたばこを吸っている。
あたしはフードを被って、黒髪や日本人顔を隠しているが、どうしてもおのぼりさんのように街のあちこちが珍しくきょろきょろしてしまう。
「麻衣、ここまで疲れたろ?
よかったらアタイのウチで休んでいくかい?」
「えっ!? いいんですか?」
「はは、麻衣には世話になったからね、安物だけどお茶くらいは出すよ。」
「で、ではお言葉に甘えて・・・。」
ここまでは良かったんだよね。
商人のデミオさんやマーヤ夫人はあたし達と別れた後、当然のように自分たちの職場に戻っていった。
冒険者の人達も、護衛依頼完了報告をするために冒険者ギルドへと向かう。
みんなとは笑顔で明るく別れた。
あたしは特に行く所があるわけでもなく、
冒険者ギルドに行ってもいいけど、まずはこの街の宿を決めるのが先だろう。
その前にゴッドアリアさんの家にお邪魔するくらい何の問題もなかった。
あたしの方は。
ゴッドアリアさんはダウンタウンの安アパートに住んでるので、部屋は狭いけど気にしないでくれとのこと。
ごみごみしているダウンタウンと言っても治安はそんな悪くないらしい。
なので年頃の女の子が一人暮らしをしていても、それほど珍しいケースではないとのことだ。
うん、犯罪が少ないってのはいいことだよね。
ただそこで、あたしは世知辛い現実をまざまざと見せつけられることになる。
「麻衣! 歩かせて悪かったな、ここがアタイのうちだよ!!」
うん、貧乏人の安アパートって感じがとてもよくある集合住宅。
なんと裏庭には日本でもたまに見かける竹林が生えていた。
おお! ちょっと癒されるぞ!!
ゴッドアリアさんのお部屋は1階の角部屋。
日当たり悪そう。
一応周りに申し訳程度の塀が立っている。
学校のお友達の家に遊びに行くようなつもりであたしはその部屋を・・・
部屋を・・・
ゴッドアリアさん?
ゴッドアリアさんの顔が暗く沈んでいる・・・。
まるでこの世の終わりが来たみたいに。
あたしも何か変だなと思った。
隣の部屋や周りの部屋の様子とあまりに違う。
そう、ゴッドアリアさんの部屋と思しきドアや窓にいたるところに大きな張り紙が張られていたのだ。
「金返せ!!」
「借金返さない子は悪い子!!」
「返済期限厳守!!」
「何処へ逃げても無駄!!」
「ビッグブラザーがお前を見張っている!!」
来ていたのはこの世の終わりではなく、この街の借金取りだったのだ。
空は西日が傾いて、
ゴッドアリアさんの安アパートにも陽が差しているところと陰になっているところの明暗が激しい。
空はカラスが鳴いているのか、カーカーと鳥さんがあたしたちの真上を過ぎ去っていく。
ゴッドアリアさんの表情は日陰になっていてよくわからない。
「ゴ、ゴッドアリアさん?」
精一杯の同情心で声をかける。
「あ、ああ、麻衣、びっくりしたろ、こんな家で?
見っともないもの見せちまったな、さ、中へ入るぞ・・・。」
借金してるのは知ってたけど、変なところから借りてないよね?
そこらへん、あたし達の世界と認識や常識違う可能性大いにあるからなぁ。
借金返せなかったらどうなるんだろう?
まさか奴隷落ち?
お部屋の中はそんなに想像から外れてなかった。
散らかっているというほど物もないし、
小汚いわけでもない。
単に物がない。
それだけである。
安物っぽいお茶碗に火の魔道具で点火してお湯を沸かす。
他の街や宿屋でも見た光景。
ゴッドアリアさんは恥ずかしさを紛らわせるかのように、ずっと口を開いていた。
「麻衣の口には合わないかもしれないけどさ、
このお茶、値段の割に美味いんだぜ・・・熱っ!!」
さっそくうっかりドジ魔女っ子本領発揮。
お茶碗を掴もうとして手にお茶をこぼしてしまった。
自分の家で何をやっているのか。
「はいはい、水は・・・汲み置きがあるんですね?
早く冷やしてください、跡になっちゃいますよ?」
こんな時、ヒーラーいると便利なんだろうけどね。
ゴッドアリアさんは土魔法使いだし、あたしは無属性魔術しか使えない。
歪と言えば歪な二人だ。
「ゴッドアリアさん、・・・こないだのロックワームの魔石、
やっぱり借金返済に使った方がいいんじゃないですか?」
あれ、どのくらいの値段になるんだろう?
そもそも借金いくらあるんだろう?
「いや、多分あれ売っ払えば借金は全て返せるさ!
でもあれだけの魔石を・・・それを使った杖を手に入れるチャンスなんてなかなかないんだ!
今度の機会を逃したらいつになるか・・・。」
うーん、あたしとは考え方が違うんだろうか、
そもそもあたしは実家で養われている身だから、あまりこういった金銭感覚がわからない。
パパからお小遣い貰っているし、物欲もそんなにないから無駄遣いもしないし、もちろん借金もない。
「そ、それより、麻衣はこの街でどうするんだ?
冒険者の仕事をここで探すのか?」
「ああ、ええ、とりあえず、ギルドカードをDランクに更新させて、
手頃なクエストをこなしていこうと思ってますよ?
街も大きいししばらくは滞在できるかなと。」
「そ、そうか、良ければこの部屋で寝泊まりしてもらってもいいんだけど・・・。」
「いやいや、そこまでしてもらう必要ありませんよ!
街の宿代くらい普通に稼げますし。」
だからそこで悲惨な表情しないでもらえる?
「そ、そうだよな、
こんな見すぼらしい部屋になんかで夜を過ごしたくないよな・・・。」
「いや、だから、そういう事じゃなくて・・・・。」
うん、あるかも。
いや、バカにした意味ではなく、気を使いそうで嫌なのだ。
やっぱりこの人とは早めに縁を切った方がいいのだろうか?
皆さん、どう思います?
「それよりゴッドアリアさん、
借金はどうするんですか?
あの張り紙を見るに、もう返済期限は過ぎているのでは?」
「う、うぐっ! そうなんだ、
早めに実入りのいいクエストを受けたいんだけど、
報酬の高いものはアタイ一人じゃ難易度が高くてさ、
かと言って誰もパーティー組んでくれないし、
仕方ないから他の街とかも行ってみたんだけど・・・。」
ああ、それでたまたま、あたしが乗ってきた隊商に出くわしたのか。
でもなぁ、ゴッドアリアさんの土魔法があれば、そこそこ稼げそうな気はするんだけど。
魔法で土こねて食器とか作れそうだし・・・実際作ってたし。
「食器づくり?
無理だよ! 自分で使う分にはいいけど売り物になるレベルなんか魔法で作れないよ!
第一、売り物なら大きさ揃えないといけないし、アタイにはそんな正確性ないよ!」
ダメか・・・。
やっぱり地道に仕事しないとダメなのかなぁ?
ちょっと頭がいい人いたら、あたしの虚術含めて色々できそうな気がするんだけど。
グゥゥ。
そこであたしのお腹が鳴った。
そろそろご飯が恋しい時間のようだ。
「あ、ま、麻衣、何か食べてくかい?」
「・・・借金してる人が何言ってるんですか?
街を案内してください、
そのお礼代わりに夕飯くらい奢りますから。」
眩しい!?
そこでゴッドアリアさんの顔が、太陽かと思うくらい明るくなった!!
そもそもまだロックワームのお肉の余りを例の巾着袋に収納してるがさすがに食い飽きた。
あれは非常食糧と考えていいだろう。
せっかく大きな街に来たのだから、名物とか有名レストランとか入ってみたい。
「わ、わかった!
じゃあ、これから外にいこうか!!」
表に借金取り待ち構えていないよね?
ゴッドアリアさん、しばらく旅に出ていたから、さすがにそこまで張っていないか。
既にお日様は沈んで辺りは薄暗くなっている。
それでもちょうど、夜はこれからとばかりに労働者の皆さんがいらっしゃるであろう、
酒場などは賑やかになっている。
商店街では焼鳥だか、焼き羊だか屋台も多い。
・・・あれはあれで興味を引くけど・・・まずは普通のお店に・・・。
あれ?
そういえば、カタンダ村でも、途中の街でも屋台ってお酒のお供になるようなのばかりだな。
宿では普通にデザートも注文すれば出てきたけど・・・。
あたしは道すがらゴッドアリアさんに尋ねてみる。
「ゴッドアリアさん、この辺で甘味どころというか 、
スイーツって普通に売ってます?」
「えっ? 甘味って果物とかクリームを使ったお菓子とか?」
「ええ、大体そんな感じの・・・。
あたしもまだそんな詳しくないんですけど、何か足りないような気がして・・・。」
「えー、アタイも貧乏だからそんな詳しくは知らないよ?
でも普通に果物を砂糖で煮詰めたジャムとか、発酵させたチーズやヨーグルトを使ったものが一般的かな?
クリームとかは保存の問題でかなりの贅沢品だよ。」
なるほどなるほど・・・。
保存の問題か・・・。
アイテムボックス持ちのあたしならクリアできるか・・・。
「ちなみにゴッドアリアさん、
卵と牛乳を使ったスイーツなんて、この辺りでは食べますか?」
「はっ!? 卵と牛乳!?
なんだい、それ!?」
たぶん、あたしの瞳はキラリと光った。
・・・あれ?
なんかぱそこんのちょうしがへんだ。へんかんできない?