第百五十話 最初から提示されていたヒント
みなさん、こんばんわ。
私はニムエ。
マルゴット女王のメイド兼護衛。
メイドスキル全般と気配隠蔽術と投擲術、接近戦闘、基本魔法などをオールマイティに使いこなす美少女エリートメイドだ。
・・・ごめんなさい、ちょっと盛ってしまった。
でもそれを評価されて女王の側近メイドとして抜擢されているのだ。
当然、貴族の端くれとして、その期待と評価を裏切るわけにはいかない。
・・・それが今、ヤバいことになっている。
私が下手な行動や対処をしたら、これまで積み上げてきたものがガラガラと崩れ去ることだろう。
私の能力をフルに使っても、あの人形には太刀打ちできそうにない。
まだ?
まだあの人形帰ってくれないの?
女王が引き留めるから?
・・・それどころか、いま、女王あなたはなんて事を・・・
うう、女王が人形を挑発するようなこと言うから、また空気が険悪になってきた・・・!
「私の目が・・・曇っているとでもいうの?」
ほらぁ!
口調は冷静なままだけど凄いトゲトゲしさだあ!
「気に障ったのなら許せ。
あくまでも妾の印象に過ぎぬ。」
襲ってこない・・・よね?
あれから人形はずっと考えこんでいる・・・、
あ、動いた!
「・・・マルゴット女王。
とても有意義な時間だったわ。
改めてお礼を言うわ。」
あ、そこで話を終えてくれるの?
これ以上、話すことはないという事かしら?
やっとお開きになるパターン?
「何の。
こちらも寝る前にエキサイティングなひと時を過ごさせて貰った。
ただ一つ確認させてくれぬか?
今のところで構わぬのじゃが、そなたはカラドックの敵にはならんと見て良いのか?」
女王は本気でカラドック様を守る気だ。
異世界の息子という話が真実だとしても、実際にはこの広い宮殿で数日ともに過ごしただけだというのに。
「さっきも言ったわ。
カラドックが人から恨みや憎しみを買うような人間でなければ、
私の処刑対象にはならない。」
「うむ、ならば妾はそれで十分じゃ。」
そこで人形は私達に背を向けたのだけど、一度何か言い足りないことでもあるかのように振り返った。
「そうだわ?
マルゴット女王、一つ思い出したわ。
オデムという名の人造生命体、或いはスライムに心当たりはない?
人間の少女に変身可能で会話も出来るのだけど。」
はいい!?
「・・・何故去りゆく間際にそんな爆弾落として行くのじゃ!?
人間の言葉を喋るスライムなど、聞いた事ないわ!」
「自分を作ったマスターがいるらしいけど、その女性はかなり以前に私達の世界からやってきたような事を言っていた。
ただ、私達の転移には一切関与していないとも。
それでもそのマスターの方には、どうにかして会って話を聞いてみたいとは思っている。
そうそう、あとラプラスという名前も出していたわ。」
あれ?
それはどこかで聞いたことあるような?
「・・・以前にも異世界からの転移者が?
妾の知る限り、異世界人で未だ存命の者はおらぬ筈じゃが、ラプラス?
それはよもや、ラプラス商会の会長の事か?
確か世界的な盗賊団に関りが有るものとして国際的な指名手配者になったと聞くぞ?
その者のことじゃろうか?」
そうだ、美術品やらレアアイテムを専門に盗む「バブル三世」とかいう盗賊なんだっけ?
うちの実家にもラプラス商会の人間が出入りしてたから覚えている。
・・・ウチは何も盗まれてなかったと思うけど・・・。
あ、そうか、ウチは貴族とは言え裕福じゃないからね。
「盗賊団?」
「確かバブル三世と言ったか?」
女王が私に同意を求める。
「は、はい、そうだと思います!」
「・・・・・・。」
あ、また人形が、いや今度は脱力したような?
「バブル三世・・・
なに、そのふざけた名前・・・
え? ラプラス? オデム?
てことはポセイドンみたいな名前もいるの!?
あ・・・そうか、私たち三人がマスターを守ると言っていたんだっけ。
二人揃っているなら三人目もいるわよね?
ならもう一人は間違いなくそれ・・・か。」
「ふざけておる、とは・・・知っておるのか、人形よ?」
「いえ、間違いなくその盗賊の名前は異世界に出自があるわ・・・。
私の世界で有名な物語の・・・
そうか、敢えてそんな名前を名乗るという事は、
異世界からきた他の人間を誘っていると言うことかしら・・・。」
へー、
実はこの世界、異世界出身者って結構いるのかしら?
「・・・これ以上驚かされるような話は勘弁してもらいたいのう?
まぁ良い、分かった分かった、
その話はこちらでも調査してみようぞ。」
「ありがとう。
あなたと手を組めたみたいで嬉しいわ。」
「今度はちゃんともてなす故、こんな夜中でなく、普通の時間に訪ねてもらいたいものよな。
娘のイゾルテなど、あれで豪胆なところもあるから、
そなたを紹介したら一緒に遊ぶとか言ってきそうじゃの。」
あのー、イゾルテ様は豪胆というより、女王の性格の一部を受け継いでいるだけだと思う。
でも今度は、私が関わる必要ないところでやって欲しい。
「そうね、気が向いたらね・・・あら?」
「どうした?」
人形の様子が変だ・・・。
私たちに興味を無くしたかのように・・・
何か自分のカラダに変化でも起きたかのような・・・。
「あ・そ・ぶ・・・?
『メリーちゃーん? ・・・あーそーびーまーしょー?』
なに・・・この記憶、
私じゃないわ・・・人形、メリーの記憶?」
「どうした? その人形の記憶じゃと?」
人形は女王の問いかけが耳に入らないのか、俯き始めて自問自答を繰り返しているかのよう。
「え、でもいつの話?
この記憶はメリーの記憶?
私がメリーに転生する前、
このカラダはウェールズの魔女に会ったことがあるの!?」
すると、人形は頭を上げて女王の顔を凝視し始めた。
何かを確かめるかのように・・・。
「・・・ウェールズの魔女は・・・プラチナブロンドの髪に蒼い瞳だったはず・・・。
あなたは違うのね・・・。
でもそれ以外は人形の記憶にあるとおりだわ・・・。」
「確かにカラドックは自分の母親の容姿についてそう言っておったな、
・・・そなたが転生する以前、その人形はひとりでに動いておったのか?」
「いえ、・・・この人形は・・・原理は分からないけども、
このカラダに人間の魂が宿った時だけ動き始めることができる。
単に、人形メリーがウェールズの魔女と出会った時は、
私でない別の人間の魂が入っていたと言うことよ。
私がこの人形のカラダを見つけた時には、もう前の住人の魂は残っていなかった・・・。」
「されど記憶は残っていたと・・・。」
「私は感知系の能力者、
物に触れたらその物にこびりついている情報を読み取ることができるの。」
便利だなぁ、そんなスキルあったら生活や仕事に役立ちそう。
「もっとも迂闊にその力を濫用すると、見たくもない醜いものや悍ましいものまで見えてしまうのだけど。」
前言撤回、やっぱり要らない。
「その記憶の中にカラドックはおらなんだか?」
「・・・いえ、そもそも記憶の中のウェールズの魔女はかなり若かったわ?
カラドックを産むどころか、まだ斐山優一とも会っていなかったんじゃないかしら?」
「しかし・・・何らかの繋がりはあるということじゃの。
そなたたちをこの世界に送り込んだ者は、
偶然や思い付きでなく、それこそ遠大な計画を以て実行した可能性が高くなったようじゃな・・・。」
「そういうこと・・・なのかしらね。
あら? でも・・・待って?
何かおかしい。
この違和感は・・・なに!?」
「どうした、人形よ、まだ何かあるのか?」
「私の情報の中のウェールズの魔女は・・・若くから魔術の才能を見せ・・・
いや、おかしい、違う、
人形の記憶の中の彼女にそんな能力があるように見えない・・・。」
お人形さんはまた私たちを無視して考えこみ始めた。
「そうか・・・まさか・・・そんな事が・・・。」
あら? やっと何かの答えが出たみたい?
人形は暗がりの廊下から外を・・・窓の外の二つの月を見上げていた・・・。
「何てこと・・・、ヒントは最初から有ったんだわ・・・。
夜空に輝く月が一つとは限らない・・・
『あなたが一番遠い未来にいた』、
『世界は一つとは限らない』、
『真実は一つとは限らない』、
・・・二人目がいるのなら三人目がいてもおかしくない!
世界が二つあるのなら、更に別の世界があってもおかしくない!!
そうよ、
私たちがいた世界も・・・
一つである保証はどこにもなかったんだわ・・・!」
???
「おや、やっとその回答を見つけたかな?
でもそれだけじゃまだ届かないよ、僕らの真実にはね・・・。」
メリーとマルゴット女王の会談はここまでです。
どこかで切らないときりがない!
メリー
「迷惑かけたわね、あ、そうそう、一つだけ頼まれてくれるかしら?」
ニムエ
「・・・何でしょう?」
メリー
「この窓から出ていくから後の戸締りよろしくね?」
ニムエ
「(この人形、結構細かい)・・・はい。
あの・・・陛下。」
マルゴット女王
「なんじゃ、ニムエ。」
ニムエ
「あの・・・今夜の事、報告は・・・。」
マルゴット女王
「ああ、妾がふわっと皆に説明するからそなたは気にしなくても良いぞ?」
ニムエ
「はぁ・・・。」
(そんなんで許されるわけないでしょうがああああっ!!)
次回より新章!