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第十五話 Aランク冒険者パーティー「蒼い狼」

<視点 カラドック>


マルゴット女王は満足したのか、

軽快な足取りで自分の椅子に戻り、可愛らしく首を傾け私の話の続きをせがんできた。


 「それでその旅はどんなものじゃったのじゃ?」


 「え、えーとですね、

 全部話すと一日かかっても終わらないでしょうからね、

 その後の結果だけ話しますと、私たち親子は無事再会を果たし(無事・・・ではないが)、

 敵国を破って我が国が大陸の殆どを手に入れることができるようになりました。

 敵だった魔王は今も生死不明ですが、一つの目的を果たした父は国を私に譲り、私たちの前から完全に姿を消しました。

 私もそれ以降、姿を見ておりません。」


アスラ王の事はもう魔王扱いでいいか。


 「そんな恐ろしい魔王をどうやって・・・?」

コンラッド君は目が真剣だな。

いつか自分が魔王に対処しなければならない事でも想定しているのかもしれない。


 「いえ、恥ずかしながら殆ど天使である父の力です。

 私や弟は目くらましの囮や陽動につき、国の正規軍は父の力でいわゆるチート状態、

 そして肝心の魔王を父は武力や魔術ではなく、彼の心を支える物を一つずつ残酷に潰していった・・・。

 私は彼の事を魔王とは呼びましたがね、

 多分、あの男は誰よりも純粋だった。

 弟が魔王と会った事があるのですが、弟はその魔王に少し傾倒していた節があります。

 今は私も割り切っていますが、大国を治めるだけあって、絶大なカリスマと人望を備えていた筈です。

 多分私も生まれた場所が違えばあの男に傅いていたでしょうね。」


 「その弟様は今どちらに?」

ついに来たか、ベディベール君からのその質問。


 「父が大陸を制覇し、

 私が全てを継いだ後、弟はまだ戦火の落ち着いていない辺境に赴きました。

 ・・・弟にしてみれば、戴冠した私への餞のつもりもあったのでしょう。

 ですがそこで部下の裏切りに遭い、命を落としました・・・。

 私はその者の叛意を見抜くことができなかった。

 未だ私の心に重くのしかかっている出来事です。」


女王はじめ皆の表情が固まる。

 「すまなんだ、辛いことを思い出させたようじゃの・・・。」


私とは今日初めて会ったというのに、その弟の死を悼んでくれるのか。

優しい者達だ・・・。

自分たちの家族に置き換えているのかもしれない。



その後もいろいろな話題が続き、こちらからも彼らの事を少しずつ質問していった。

質問には大体答えてくれていたが、何か一つのカテゴリーに関してだけ情報が明らかにならない、そんな印象も受ける。

敵国の罠にかかって亡くなったという前国王の事でもなさそうだ。

なら少し話題を変えてみるとしよう。


デザートは焼き菓子だった。

中にフルーツとクリームが入っていて、きっと私の世界で売り出してもいけるだろう。

料理全体についても私の国の晩餐会でも通じると思う。

 「すっかりごちそうになりました。

 料理人の方々に、私の宮殿料理人の顔が青くなるレベルだと伝えておいてください。」

 「それは最高の賛辞じゃの、

 うむ、しっかり伝えておくぞ。」


テーブルの上からは皿や料理がかたされてゆく。

残るはナプキンやティーセットなどの類だ。

後は料理の余韻と食後の紅茶を愉しむ・・・と言ったところだろうが、いよいよ本題の始まる時間だ。


王子や王女の顔からは既に笑みはない。

緊張しているといってもいいだろう。

私が初めてこちらにやってきた場所では「一族の危機」と言っていた。

そして「勇者を倒して欲しい」とも。


その二つの情報だけでは、彼らが勇者に狙われているのか?

という疑問しか頭に浮かばない。

だが、きっとそう簡単な話ではない筈だ。

そうでなければ私のミッション「勇者を救え」という話にどうしても繋がらないのだ。


意外にも最初に口を開いたのはイゾルテだ。

 「母上様、そろそろ・・・。」

 「うむ・・・ではカラドックよ・・・。」


残念だ、

あなた達には親近感を覚えるし、できるなら力になってあげたい。

だが私もこれで一国の国王、情に流されるわけにはいかないのだ。

まず主導権を取らせてもらう。


 「お待ちいただきたい、

 私の方から先に重大な情報を提示しておきたい。

 勇者の事でもある。」


 「なんと!?」


私が開示したものは、異世界から私が送り込まれたとするメッセージが届いたこと、

この胸の矢は転移者の目印ではあるが、そのうち消えるであろうこと、

この世界で私が果たすべき役割は「勇者を救う事」、

そしてその報酬が、私の「心の呪縛の解放」。


 「正直、私にも今の段階では何が何だかわからない状態です。

 ですが、先ほど女王の言われた『勇者を倒す』という依頼なら、私に与えられた目的と相反すると言わざるを得ません。

 以上を踏まえたうえで、お話しいただけませんか?

 いったい、あなた方は何を求めているのかを。」


子供たちの視線は一斉に女王に集まる。

答えを出せるのは女王しかいないだろう。

すでに私も薄々理解している。

「勇者を倒す」ことが彼らの本当の願いではないことを。


もしそうだというなら、彼らの悲痛なる表情の説明がつかないのだ。

そしてマルゴット女王ですら、未だその口を開くことができない。

これより自分が語らねばならない内容に葛藤を覚えているのだろうか。


・・・ここで私に首を向けたのは長男コンラッドだ。

 「カラドック様、

 先ほど弟が、このテーブルに五人集まるのは久しぶりだ、と申したのは覚えておられますか?」


 「ん? ああ、そうだね、

 勿論、覚えているよ。」


前国王のことだろう。

もしや前国王を討ったのは勇者だとでも言うのか?

まさか前国王がこの世界の魔王だったなんてオチはないよね?


 『それもよかったな』


ん?

なんだ、今何か聞こえたような?

空耳だろうか、

いや、今は王子の話に集中しよう。


 「実を言いますと、

 以前、このテーブルには最大で六人揃っていた時があったのですよ。」


えっ?

予想が外れたようだ、

しかし、六人?

今までの情報からでは成立しないぞ?

一人は父親の前国王として、もう一人は誰だ?

 「それは・・・王子たちの祖父母のどちらかかとか・・・かい?」


 「いいえ、一人は私たちの亡くなった父のマリン、そしてもう一人・・・。」


そこで女王がようやく覚悟を決めたのか、

長男コンラッドの説明に口を挟んだ。


 「よい、コンラッドよ、

 後は妾が話す・・・。」


先程からは想像できないほどの神妙な顔を浮かべるマルゴット女王。

コンラッドも全てを母親に任せることにしたようだ。


 「別の領地に住んでおるのじゃが、妾にも兄弟がおってな、

 そのうちの一人が愚かにも表に出せない女性との間に子を為した。

 歳はコンラッドより上になる。

 今年で25才だったはずじゃ。

 その家では引き取ることは出来ないと、放逐されそうになっておったのじゃが、

 いろいろあって、妾たちの宮殿で暮らす事になったのじゃ。

 ま、こ奴らにとっては従兄弟ということになるわけじゃな。」


 「すると・・・ずっとこちらでは、

 その従兄弟殿を家族同然に扱っていたという事でしょうか?」


 「妾はそのつもりじゃ。

 子供たちもその男に懐いていた。

 コンラッドにとっては剣の師匠のようなものじゃし、ベディベールはいつもその男の後ろについておったな。

 家にいるときはイゾルテなど、その男に毎日のようにおんぶをせがんでおったし、しまいにはその男から弓を習い始める始末じゃ。

 子供たちにとっては父親より濃密な時間を過ごしていたものよ。」


なんだろう、

胸がチリチリする・・・。


 「まさかその従兄弟殿というのが・・・。」


 「ふむ、妾の夫が死んだあと、この家を出て行った。

 理由は誰も知らぬ。

 単に、これまで世話になった礼と、我らのこれからの繁栄を願うと、自分のことは忘れてほしい・・・

 それだけの書置きを残して去ってしまった。

 あの時のイゾルテの泣きっぷりはのう・・・?」


 「母上様!

 おやめください、今は私を茶化す雰囲気じゃありませんでしょう!」


 「ふっふっふ、すまぬすまぬ、

 まぁ、妾も含め、みな悲しんでおったのは事実じゃ。

 もちろん、当時争っていた隣国とのゴタゴタで忙殺されていたが、出て行ったその男の消息は全力で追っていた。

 そして去年、ようやくその男の居所がわかっての。」


 「いったいどちらに・・・?」


 「まぁ居場所と言っても一か所に留まっているわけではなかった。

 なんと、その男、冒険者となって、世界各地の魔物どもを殲滅する仕事を生業にしておったのじゃ。」


 「冒険者!?

 てっきり今の流れだと、前国王の復讐に向かったとか思いましたが、どういった経緯でそんな?」


 「全くわからぬ。

 こちらから使者を送ろうにも、その男に完全に気取られているのか、会おうとする前にその街を出て行ってしまう。

 冒険者ギルドに仲介を頼むこと自体は可能なのじゃが、もともとギルドは国家とは独立した機関でな。

 手紙や書状を預けるぐらいはできるが、それ以上、何の強制力も与えられない。

 その後も男の動向を追っていたんじゃが、ある時、ついにドラゴンすら討伐できるようになった男のパーティーは、冒険者ギルドでAランクに昇格し、この世界の国々で知らぬものはいない程の実力となったのじゃ。」


ドラゴンいるんですか、この世界。

まぁそれはいいとしても、だんだん話が繋がってきた気がする。

 

 「パーティーの名は『蒼い狼』。

 今も、その名声は高まり続け、冒険者最高峰のSランクに届くのも時間の問題とされておる。」


えっ?


 「蒼い狼!?」

 「ん? 知っておるのか、ガラドック?」

 「い、いえ、何でも・・・。」


まさかな・・・パーティー名に狼とか竜とかよくある名前だろう。

気にするほどじゃない。


 「まぁもう大体、想像つくじゃろう。

 その男・・・妾たちと暮らしている時にはステータスに現れておらなかったのじゃが、冒険者ギルドの鑑定で、称号に『勇者』がついたという。

 正式にはギルド以外にも複数の国家か教会の承認が必要なのじゃが、それが認定され次第、晴れてこの世界の勇者を名乗ることができる。」


 「凄いですね、まさしく英雄ではないですか。

 ですがそれなら何故、その人物を倒せなどと・・・。」


 「その者が我らの国に剣を向けたからじゃ・・・。」

 「な、なぜ!?」


 「それも分からんのじゃ。

 先も言ったように、冒険者ギルドは国の権限が及ばぬ機関なれど、その逆に国家同士の騒乱からは完全に中立を貫く立場。

 敵国に奴が加担したことは間違いなく『蒼い狼』の行動だったが、冒険者ギルドは一切関わっていないとのことじゃった。

 あくまでパーティーの自由意思で行動しておるのだそうじゃ。」


 「敵国がそのパーティーを雇っているということなのですか?」


 「ところがそれも違う。

 パーティーは神出鬼没で、必ずしも一つの国に加担しているわけではない。

 時にはまた別の国に赴き、傭兵のようなことをしたかと思うと、我々とは全く無関係の戦争に介入することもあるという。」


 「待ってください、

 この世界では勇者とは本来、魔王を討つ者なのですよね?

 それをせずに人間との戦争に明け暮れ、それでも勇者と言えるのですか?」


 「ふむぅ、そこは説明が必要か、

 本来、魔王を討つという偉業を為した者、

 また魔王を討てるという期待を背負った者、

 これらは勇者と呼ばれるが、それは人の世の話じゃ。

 反してステータスの称号に勇者がついた者、

 これは世界のシステムによって運命づけられたと解釈するしかないな。

 ただ、どちらにしても、当人が魔王と戦う事を自ら選ばない限りはどうしようもない。

 理屈の上では例え勇者と言えども、老衰で死ぬまで魔王と一切出会うこともなく生を全うするものもおるわけじゃ。

 まぁ、ヨボヨボ爺さんになってしまえば勇者の称号は外れるとは思うのじゃが。」


 「なるほど、別に勇者だからとて魔王と戦う義務はないと。」


 「それにそもそも今現在、この世界に魔王は出現しておらぬ。

 存在はしているのかもしれん、

 じゃが誰にも確認されておらん。

 まぁだからこそ、妾たちも勇者を倒せと決断できたわけじゃが。

 それに万一、これより魔王が出現したとしても、新たな勇者を用意できるならば問題なかろうと・・・。」


 「なるほど、確かに話は見えてきました。

 あと、見えないのはその勇者の目的ですか。

 それと疑問というか、今一つ腑に落ちないのが・・・。」


 「何かあるのか、カラドックよ?」


 「その勇者の扱いです。

 何故いきなり『倒せ』なのですか?

 仮にも家族同然で過ごしてきたのでしょう。

 先ほどから皆さんの反応を見るに、その勇者を憎んだり蔑んだりしているようには見えません。

 できれば危害を加えたくないようにすら感じます。

 勇者を連れてこいとか捕縛しろというならわかります。

 確かに『殺せ』とは一度も仰ってないのは理解しますが・・・。」


途端に固まる女王ファミリー・・・。

やはり核心はここにあるのではないだろうか?


 

次回でカラドック編導入部は終了です。


あと、結構後の方で触れますが、

カラドックが国王戴冠以前、父親に与えられた剣の名前が赤狼剣、

その弟にも同様にして蒼狼刀という武具が与えられています。

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