第百四十八話 懸念
話の切れ目が・・・
なに、あの巨大な鎌・・・!?
か、勝てる気がしない・・・!
ダメだ・・・膝が震えているのがわかる。
こ、これ戦っちゃ・・・関わっちゃダメなヤツだ!
もし冒険者ギルドで魔物の格付けをするならAランク相当・・・。
王族の護衛訓練を受けただけの私じゃ・・・抗いようも・・・
「なるほど、それがそなたの正装か・・・、
そんなものを振り回すためにわざわざ異世界よりやってきたと抜かすのか・・・。」
「落ち着いてもらえるかしら?
カラドックが罪人でないなら、私は彼に危害を加えることはないわよ?」
「む?
では何故カラドックを追う?」
「実を言うと聞きたいのはこっちの方なの、
私をこの世界に飛ばした存在は詳しいことを何も伝えてくれなかった。
私は背中に白い矢を刺され、気が付いたらこの世界に辿り着いていた。
後から、メッセージを送りつけてきて、
この世界には私の知りたい真実があるとか・・・」
そこでいきなり女王が激しく首を振り始めた。
「いやいやいやいや、もうわかった!
皆まで言わなくとも良い!」
じょ、女王?
見ると人形の方もきょとんとしている。
何か女王だけ腑に落ちたとかそんな反応?
「・・・驚いたわ、何から何までカラドックと同じじゃの・・・。」
「えっ?
カラドックも背中に矢を?」
「・・・いや、そなたは背中にか、
奴は真正面から白羽の矢で心臓を射抜かれておったぞ?」
「はい? 私は人形だから何も影響ないけど、
それ・・・カラドックは生きているの?」
あ、これ確かに、傍から聞いたらとんでもない話だよね、
なんで、あの人あれで生きていられたんだろう?
「ふむ、その説明そのものはそなたに届いておらんのか、
人体に害はないとも、カラダの中に溶けて消えるとかいう話じゃったぞ?
確かに一晩経ったら見えなくなっていたのう?」
「あ・・・そう言えばそんな話だったかしら・・・。」
人形の方も忘れていたっぽいね。
「あー、つまり、そなたはカラドックの時代から400年後の者だというにも拘らず、
カラドックをこの世界に送った者と同じ手段によって送られてきたと、・・・そう申すのか?」
ムチャクチャでしょ、そんな話。
長命だというエルフだってそんな長生き出来る筈もない。
せいぜい150年とかそのぐらいでしょ?
・・・人形が考えこんでいる。
さすがに無理ないか・・・。
「なるほど・・・そう言えばあのメッセージは言っていたわね、
『私が一番遠い時代にいたと』・・・。」
「待たれよ、人形、
今、一番遠い時代と申したか?」
「ええ、そうね?」
「ならば・・・そなたの世界からは・・・最低でも3人がこちらに来ていると言って良いのか?」
「・・・そう・・・ね、
そう解釈・・・できるわね。」
「えっ、陛下、どういうことですか?」
思わず話に入り込んでしまった。
後で不敬とか言って叱られないかな?
「もし、送り込んだのが二人だけなら『一番』などという表現は使うまい?
『あなたの方が』とか比較として表現されるべきじゃ。」
あ、確かに。
「さすがに異世界の『ウェールズの魔女』・・・
カラドックの母親の話は聞いている?」
「・・・こっちが驚くわ。
そもそも400年前の人間のことをよくそんな詳しく知っておるの?」
「どこまで聞いているかわからないけど、
肝心のカラドックが自分を含めた当時の歴史書を残しているのよ。
特に人間だった時の私は、カラドックの子孫が治める国に輿入れした身。
その国の開国の謂れくらい知識として身に着けているわ。」
「なんと!
その話が本当なら歓迎してやりたいくらいじゃぞ?
カラドックに未来の話を聞かせたら喜ぶであろうな。」
「・・・あ。」
あれ?
そこで人形は静かになる。
何か押してはいけないスイッチを押してしまったような・・・。
「どうした?
妾は何かまずいことでも言ったかの?」
「・・・そうね、それが一番危険よね・・・。」
「・・・危険?
どういうことじゃ?」
「いえ、迂闊だったわ、
まず何よりもそれを警戒すべきだった・・・。
マルゴット女王、あなたには愛する者があって?」
「戯言を・・・おるに決まっておろう。」
「なら話は通じそうね、
もしある瞬間を境に、その愛する者を失ったら・・・
いえ、もしかしたら愛する者がいたことすら忘れてしまったら?」
「気が狂うかもしれんな、
もしそんなことをしようと言う者がおるなら、地の果てまでも追いかけ息の根を止めてやろうぞ。」
あ、ああ、背後の女王から凄まじい殺気が膨れ上がっている!?
ふだん、マルゴット女王はおちゃらけているけど、こういう話には別人かと思うほどの激情を示す。
私はその目で見ていないが、かつて夫であったマリン大公が亡くなられた時、
そして噂に聞く狼獣人がこの宮殿を立ち去った時には、人目も憚らず号泣していたという。
「なら私の話を聞いてもらえるかしら?
私にも過ぎ去った過去に大切な・・・愛する者達がいるの。」
「ふむ、それで?」
「カラドックと私が出会って・・・もし私が彼にとって未来における出来事を話してしまったら・・・。」
「・・・む?」
「彼はその未来に対して何らかの行動の変化を起こしてしまうかもしれない。
そうなるとどうなるか・・・。
未来が変わる。
運命が変わる。
本来の時間内での人と人との出会いが変わってしまう。
男女の出会いにも変化が・・・本来生まれる筈だった命が生まれなくなり、
代わりに別の人間が生まれるでしょう。
でもそれはもはや書き換えられる未来の前の人間とは別の者よ。
私が愛した人たちは存在しなくなるか・・・私の記憶からも消え去るか、
いえ、そもそも私の存在そのものすら消えるかもしれない・・・!」
え、なに、人形のカラダがおかしい。
震えている?
あの反応はなに? 恐怖!?
「・・・いや、なるほど、わかった・・・。
それは・・・考えると確かにそうじゃの・・・。
自分の身に置き換えてみると恐ろしい話じゃな。」
「理解してくれてありがとう、
でも・・・これは私が気を付ければ良さそうね。
この世界で私が400年後の話について口を噤めばいいだけかもしれない。
カラドックがただの一般人なら、そう大袈裟に考える必要はないかもしれないのだけど、
当時世界最大の領地を誇っていた国の国王という地位、そして月の天使シリスの息子という肩書きは重すぎる。
だから私自身の事、あるいは既にカラドックが知っていそうなことについてはいくらでも喋るわ。
でも、その後の未来に影響を与えそうなことについては何も喋らない。
それでいいかしら?」
「・・・俄かには信じがたい話なのじゃが・・・ふぅ、
その称号やらカラドックの時の経緯を踏まえると仕方ないのう。
まぁ良い、
カラドックにはこの世界での目的と報酬が、送られてきたメッセージに明示されていたようじゃが、そなたにそれはあるのか?」
「え? 目的と報酬?
私には『私の知りたかった真実』というあやふやな報酬しか教えてくれなかったわよ?」
「・・・なんともいい加減な送り主よな、
しかし『そなたの知りたかった真実』か、
報酬についてはカラドックと似たようなわけのわからなさじゃの。」
「カラドックへの報酬とは?」
「奴の『心のわだかまり』を解放すると。
本人曰く、心当たりあるのは腹違いの弟を死なせてしまったことのようじゃ。」
「・・・確か・・・加藤恵介という名前だったと記憶しているわ。」
「おお、そうか!
フルネームは聞いておらんが間違いなさそうじゃの。」
「・・・それで、カラドックに与えられた目的って?」
「この世界の勇者を救え・・・だそうじゃ。」
「勇者・・・確かAランクパーティー『蒼い狼』、狼獣人に勇者の称号がついていると聞いたわ?
そしてカラドックは彼らの元に向かったとも。」
「狼獣人・・・ケイジのことよな。
その話はどこまで聞いておる?」
「あなたの血縁者という噂までは聞いているわ。」
「妾の甥・・・にあたる。
何も言わず王宮を去ったケイジのことは既にカラドックに任せた。
奴が何を考え、何を求めているかは妾にもわからん。」
「カラドックはそれに納得してそのケイジの元に向かったの?」
「奴自身、思うところがあるのじゃろう、
カラドックが、妾を自分の世界の母親に、
そしてケイジを亡くなった弟に見立てているのは妾にも理解できた。
それが偶然なのか、それこそこの世界にカラドックを送った者の意図する物かはわからん。
実際、カラドックが見事、ケイジを苦しみから救い出し、
妾たちの間に昔のような関係を取り戻せたとしても、
それでカラドックの心のわだかまりが消えるのかどうか、妾には何も保証できぬ。
それでもカラドックはケイジの元に向かった。
妾に話せるのはそれだけよ。」
「そう、・・・ありがとう。」
「常識破りの行動を取る癖に、お礼は言えるのじゃな。」
本当にそう思う。
魔物なのか、人間なのかはっきりして欲しい。
「ごめんなさい、非常識は自覚してるわ?
でも、こんな怪しげな人形、普通なら女王に会わせるはずないわよね?」
「フハッ、それはそうじゃな!!」
どうやら・・・物騒な話にはならなくて済みそう?
でも最後まで油断はできない。
「それでこちらからも聞きたいのじゃが。」
「どうぞ?」
「カラドックにはこの世界で行動する理由はできた。
・・・いま、そなたには妾から話を聞いたわけじゃが・・・
この後もカラドックを追う理由があるのか?
そなたにはカラドックにもケイジにも直接、何の繋がりもあるまい?」
「そうね・・・。」
「そなたがこの世界で得られる報酬は『知りたかった真実』だったか?
そなたから見て400年前の世界に生きていたカラドックに、何かそなたの知りたかったものがあるとでも言うのか?」
あ、あれ?
下書きのストックなくなった?
あ、後一回、いや、二回持ち堪えれば連休!!
その間に新章書き溜めますので!