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第百四十七話 月明かりの宮殿


に、に、人形が・・・喋って・・・

ううう、動いてる、普通の人間みたいに・・・

あ、えっと、関節は人形の動きだけどあああ、それよりっ!


 「じょ、女王!! 私の後ろに!!

 ハァッ!!」


メイド?

確かに私の今の職業はメイド、

しかし私の職業適性にはシーフや暗殺者があり、女王の護衛もこなす為にはそれらのスキルも伸ばしている。

こんな夜更けに得体の知れない魔物が後宮に忍びこもうと言うなら、この私が全身全霊を以て相手してやろう!!

私はドレスの裾から左右の手に、それぞれ投げナイフを掴み取る!


カカッ!!


良し! 命中っ!!

ほぼ同時に・・・正確に私の護身用ナイフは人形の額と心臓を貫いたっ!

これで・・・侵入者が他に・・・あっ!?


 「あら、正確ね、

 でも・・・申し訳ないけど人形だから効かないわよ?」


ええっ? 何でもない事のようにスルーされたっ!?


 「こちらに敵意はないのだけどお話しできるかしら?」


何をバカなことを言っているのか、

この宮殿に黙って侵入しただけで重罪だ!

懲役どころか鉱山送りの重労働を課せられたっておかしくない。

・・・普通の人間ならの話だが。

相手が正体不明の魔物であるなら、問答無用で打ち倒すのみ!!



 「『水よ、溢れよっ! ウォーターっ!』


人形の足元に水を湧き立たせる!

見たか、私の多才な能力をっ!!

専門の魔術士には劣るとしても、短剣術と魔術を組み合わせれば、戦術の幅はかなり広がる。

だからこそ女王陛下の側近メイドとして選出されたのだっ!!


とは言え勿論これはただの生活魔法の延長!

下手をすると高価な絨毯を台無しにしてしまうかもしれないが、

賊や魔物が侵入したとあっては、私の役目は女王を護ること。

その為ならば、全てを犠牲にしても咎められることなどない、

・・・それが私の命であったとしても。


 「みず? これが何か・・・」

 「陛下っ、お願いしますっ!!」

 「・・・ふむ、仕方ないの、

 『フローズンソイル』。」


詠唱破棄した女王の凍結魔法にて、私のウォーターが生きる。

ビキビキと人形の足元は絨毯ごと凍りついたっ!

 「まぁ? 氷結の呪文?

 これじゃ動けないわ。」


そもそも本当にこの化け物が人形だというなら、機動力はなさそうである。

それでも如何なる能力を持っているかは分からない。

ならばその足を縫い留め、確実に破壊する!!


ナイフの投擲では意味がなかったのだ、

ならば接近戦!

態勢を低く構え、ドレスの裾から更なるナイフを手にダッシュした!!


 「・・・困ったわね?

 今の私は人並みの力しかないのに・・・。」


何を言っているかわからないが、首を切断しても活動できるのか試してあげる!!


 「いや待て、ニムエ! そ奴は・・・!!」

女王が静止をかけたようだが、もう止まれない!


 スカァ・・・ン!


私は片手を上げかけた人形の腕を払い、石膏で出来ていると思われる首筋にナイフを叩き込んだ!

その勢いをもって首を切り裂こうと思ったけれど、

切断できたというまでの感触はない。

だが、首の半分にまで届くであろう傷は与えた筈。

これで止められないなら、すぐに次の攻撃を・・・あれ?



 「なかなか速いのね、筋がいいわ。」


え? 

声が有り得ない方向から聞こえてきた・・・!?

振り返ったら人形がいない・・・。

じゃあ、今の声は・・・何故!?

あの黒いドレスの人形は、最初の位置から全く違う場所に佇んでいた・・・。

足元は凍りついているどころか、濡れている気配すらない。


じゃあ、首は・・・何のダメージも・・・いや、傷自体ついていない?



 「止めよ、ニムエ、そなたでは勝てぬ。

 どうやらこやつは変わった術を使うようじゃ・・・、

 今のは幻惑魔法か・・・!?」


げ、幻惑魔法!?

そんなものは初めて聞いた。

 「陛下!? なんですか、それは!?」

 「ふむ、通常の八属性には分類できんな?

 妾の魔眼でさえ気づくのが遅れた・・・。

 恐らくニムエの水魔法が放たれる寸前には、妾たちは幻を見せられていたようじゃ。」


 「女王はもう私の術に気付いたというの?

 凄いわね、初見で見破られたのは初めてよ?

 それが・・・音に聞く貴女の魔眼の能力?」


この人形、

さっきっからなんて呑気なセリフを吐くのだろうか?

まるでアクセサリーショップで珍しい品物でも見つけたかのような反応だ。



 「そなた・・・もしかして件の妖精種を切り裂いたという、ギルドマスター・ヴァルトバイスが伝えてきた冒険者か?」

ええっ!?


 「良かったわ、

 あなたに話が直接伝わっていて。

 謁見の許可が下りたというから会いに来たのよ?」


人形は、そのまま、よいしょっとばかりに自分の額に刺さったナイフを抜いている・・・。

た、確かに生き物じゃないんなら、脳みそや心臓もないのだろう、

我ながらあまりに短慮な攻撃だった。

でも、今まで動く人形なんか相手にした事などなかったんだから仕方ないよね?

ていうか、首筋への攻撃はどうなったの?

さっき女王は幻惑魔法とか仰ってたけど、私は幻を相手にしていたとでも言うの?

わからないことばかりだけど、私は女王を護るために、小走りで女王の前にまで舞い戻る。


 「・・・ほぼ単騎でAランクの妖精種を切り裂いた異国の冒険者と言っておったか・・・、

 謁見を許可した覚えはあるが、日取りは二週間は先だったはずじゃが?」

 「許可した、という事実だけあれば私はここへやってこれるの。

 昼間はそこの扉も開いていたし。」


はい?

 「ひ、昼間はって・・・その後、ずっとここに・・・!?」

私は素っ頓狂な声をあげる。

気づかなかった・・・それは私の落ち度になってしまうのだろうか?


 「さっきまでは天井に張り付いていたの。」

そんなの無理! 

いくら何でも高さ5メートルもある天井に、人形が張り付いているなんてチェック出来ないって!!


マルゴット女王は私の落ち度には興味ない様子なのがせめてもの救い。

もっとも確かに今は目の前の人形の方が大ごとだろう。


 「だからと言って・・・

 いや、そなたは本当に人形なのか・・・、

 ならば人形としての行動原理でもあるのか・・・。」


 「理解が早そうで助かるわ?

 それより先に聞きたいのだけど、どうして私が異世界の者だと?

 ギルドマスターのヴァルトバイスには紹介状を書いてもらったけど、そこまで内情は含めてなかった筈よ?」


ふっふっふっふ、この怪しげな人形は女王の魔眼の事を何も知らないようね、

女王の能力と私のスキルだけでは心もとないけれど、

こんな奴、私たちが優位に立っているうちに取り押さえないと。

すぐに廊下の外にいる警備兵を呼ぼうと思ったけれど、

女王に片手で遮られた。

 「へ、陛下、何故!?」

 「いや、敵意はないと言っておるのじゃから話を聞くだけ聞いてみようぞ。」

 「陛下! なんと呑気な!?

 口でそう言ってるだけで信用などできるものではありませんよ!?」


 「まぁ、普通はそうなるであろうなぁ?

 しかし、こやつカラドックと同じ異世界のものぞ?

 大事な話があってここに来たのだろう。

 ならば一刻も早く聞きたいのは妾も同じじゃ。

 余計な手続きがなくなるならそれに越したことはない。」


 「陛下・・・。」

頭痛くなってきた・・・。

これが一国のトップなのだから・・・。

いえ、女王の人格は好きだし、大衆の受けもいいのだから名君であるには違いないのだけれど、この常識破りの行動はどうにかならないものか、

周りの気苦労についても気を使ってほしい。


 「まぁ、ニムエ、そうむくれるな、

 それで人形・・・メリーだったか?

 何故お主が異世界の者とわかったかじゃったか?

 それは簡単、妾のスキル魔眼の効果よ!!

 お主の職業、処刑執行人やら称号の断罪する者、冥府の王の加護も全て見えるぞ?」


 「へぇ・・・、

 凄いわね、普段は自動で精神障壁がかかっているから、

 私が見せようと思わない限り、普通の鑑定スキルは弾かれるのに。」


ふふふ、女王の凄いのは魔眼だけじゃないわよ、

女王がその気になったら、この辺り一帯氷の世界に・・・

あ、そうなると私も巻き込まれて氷の彫刻になってしまう!?


 

 「・・・さて、そなたの質問には答えた。

 次は妾の番じゃ。

 そなた・・・カラドックを知っておるのか?」


あ、空気が変わった・・・これは冷気?

私は女王のように精霊の気配とか感じることは出来ないけれど、

女王が警戒を強めているのはわかる!

多分だけど、人形なら生物のように気温の変化の察知には鈍いだろう!!

私は女王の合図次第で再び攻撃に移れるよう態勢を整える・・・。

私ごと凍らさないでくれると嬉しいのだけど・・・。


 「私の世界の話で、なおかつ貴女が言っているのが私の知っているカラドックと同一人物であるのなら・・・

 私にとってカラドックは400年も前の歴史上の人物よ。

 ウィグル王国第二代国王にして、賢王、天使の息子の称号を抱く有名人だわ。」


 「なんと!?」

それは私も女王も想定外の答えでした。


 「・・・その二つの称号は広めぬようにしておったはずじゃが・・・

 400年前とは・・・また想定の斜め上の事態が起きるものだの、

 それで処刑執行人たるそなたがカラドックを追う理由は・・・?」


周りの空気が本格的に冷えてきた・・・。

私は女王の盾になる振りして、女王の結界の中に入る。

目で見える結界じゃないけど、たぶん、この位置。

うん、寒くなくなった。

ええ、ええ、私はニムエ、女王をお守りするのが私の使命!

凍っちゃったら女王を守れないもの!!



 「ああ、それを知られてしまうと警戒されるのは当然ね、

 でも安心して?

 私の人形としての使命は、

 畜生にも劣る外道や、邪な欲望に塗れた命に、魂の裁きを与える事。

 ・・・『ゲリュオン』!」


すると・・・え?

いきなり何もない暗闇から現れた!?

な・・・なにあれ・・・。

見ているだけで卒倒しそう・・・

アラベスク文様を施された禍々しい形状の巨大な鎌が現れた!?



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