第百四十四話 依頼達成なの
ぶっくま、ありがとうございます!
<メリー視点>
ひょんなことからカラドックの情報が聞けるようだ。
何の話かと思ったら彼の元の世界での弟のことらしい。
もちろん私は会ったこともないし、
当時の歴史書「ウィグル王国列伝」に記載されている程度のことしか知らない。
他にその弟とやらのことで記憶にある情報としては、
「あの子」の専属従者だった、ツォンという名の旧世界の生き残りからのものだけだろう。
私の前世では、そのツォンに接する機会自体少なかったので、やはり大した情報は聞いてないと思う。
第一、私自身が旧世界からの転生者である事を秘匿していたのだから当然と言えば当然か。
それで、なんだっけ?
確か・・・カラドックの弟の名は・・・
加藤恵介・・・そんな名前だったはずだ。
父親の苗字ではないから、母親の方の姓だろう。
部下の裏切りに遭って、朱武という男の娘、李那という女性と共に殺されたと聞く。
失踪した裏切り者の方は20年後くらいに見つけることができて、ツォンが自らの手で葬ったとか。
大した執念だと思う。
前世の私には、興味を覚えるというほどのエピソードでもなかった。
その時代に生きていた「あの子」や神聖ウィグル王国の方が重要だ。
過去の時代に栄華を極めた賢王カラドックですら、当時の私にはどうでもいい。
ただこの世界に、その400年前のカラドックが来ているというならば、
彼と会う事に何の意味があるというのか?
いまだにその答えは見つからない。
この世界には「私の知りたかった真実がある」?
本当にそんなものが存在するのだろうか?
そんな時にアレンが尋ねてきた。
「そもそも、メリーさん、
どうして君はカラドックの情報を集めているんだい?」
正直に私が、彼と同じ異世界からやってきたから、と言っても良かったんだろう。
でも私は別の本音・・・ああ、これも幾つもある真実といえるのかもしれない、
そちらの答えを口にしていた。
「・・・私にもわからないの・・・。
この地へ来るときに、私はある存在から『私の求める真実がそこにある』と言われているの。
たぶんとしか言えないのだけど、カラドックはその手掛かりなのよ。」
「・・・それは抽象的過ぎてなんと言っていいか、わからないね・・・。」
アレンが苦笑する。
それは仕方ない事だろう、
私だってそう思うのだから。
その時また私は一つの情報を思い出す。
「そう言えばアレン、
カラドックが追っているAランクパーティーの勇者の名前は何だって言ってたかしら?」
「ん? ああ、狼獣人の名前だよね?
ケイタだか、ケイジだか・・・メリーさん?」
そこで私は考え込む。
ケイジ? ケイタ?
さっき、私は誰の名前を思い出した?
カラドックの弟?
加藤恵介?
いえ、そもそも気にするものの程ではないだろう、
似ているというほどの名前でもない。
「あ、ンヤハハハ、そういえばさー。」
後ろで馬車の手綱を握っている狐獣人のオルベが会話に割り込んできた。
何かしら?
「獣人同士じゃ有名なんだけど、その『蒼い狼』の狼獣人て、
母親も昔、冒険者だったらしいよ、
ただ、獣人としてはカラダが弱く、戦闘向きじゃなかったって。
その代わり、強力な結界能力の持ち主だったらしくて、
貴族の護衛やら、魔物狩りのお供によくお声がかかっていたらしいねー、
そっちの名前がカトレヤだったかな?」
「へぇ、それは凄いね、
獣人にしては珍しい能力だ。」
アレンもその情報は初耳だったのだろう、興味深そうに彼は耳を傾けていた。
結界能力。
それがどれ程のものかはわからないけど、
あまり他の冒険者のステータスやスキルからは見た覚えがない。
この世界ではかなりレアな能力なのだろうか?
・・・うん?
カトレヤ?
カトレヤ・・・ケイジ、ケイタ?
「そのカトレヤという女性は今も冒険者をやっているの?」
オルベは悲しそうに首を振る。
「ンヤ・・・さっきも言ったけど、あまりカラダが強くなかったみたいでさ、
子供を産んでしばらくしてから亡くなったって・・・さ。」
あら?
それもどこかで聞いた話では?
確か加藤恵介の出自もそんな話だったはず・・・。
「え?」
「どうしたのメリーさん?」
何かが繋がろうとしている。
・・・そんな馬鹿な。
どうなっている?
ただの偶然?
いや、そうだ・・・そもそもこの国の女王だって・・・
「アレン・・・この国の女王の名は?」
彼は何を今更とばかりに口を開いた。
「ああ、でもメリーさんが他の国から来たなら仕方ないね、
マルゴット女王の名は、フェー・マルゴット・ペンドラッヘだよ。」
「カラドックの母親・・・。」
「えっ? メリーさん、今なんて!?」
「歴史に名を遺すカラドックの母の名前が、
フェイ・マーガレット・ペンドラゴン・・・別名『ウェールズの魔女』、
なるほど、私はこれからとんでもないものを見せられる覚悟をしていた方が良さそうね・・・。」
チェンバー村にはその日の夜のうちに辿り着いた。
村の女性ミランダが、長老たちに事の成り行きを説明し、
アレンがマンドラゴラの売却金を遺族に分配することを告げると、
村人たちは掌を返したようにアレン達を歓待した。
もっとも、ミランダもカイゼルシュタットたちも疲労が激しく、その日はゆっくりと休むこととなり、翌日はお昼から夜までお祭り騒ぎとなった。
といっても騒ぐだけの食材などあまりないだろうと思っていたら、
森から妖精がいなくなったとあって、朝から猟師たちが総出で獲物を仕留めてきたらしい。
肉や山菜、キノコ類が豊富なパーティーだった。
あの・・・幻惑の森とはいったい・・・。
まぁ飲食行為をしない私には関係ない話。
村人たちとの折衝も、アレンやミコノで無事に乗り切った。
夜には村の娘たちが羽虫のごとく、アレンに群がってきたが、
そこはオルベとライザが追い払っていた。
比較的アレンに毒されていないミストレイと、
交渉役は自分ですとばかりにミコノが村の人たちを・・・主に男性たちを相手にしていたけど、
なるほど、
バランスの取れたパーティーのようだ、
いろんな意味で。
オーガバスターズのうちの二人が、村の娘と木陰に消えていったのを私は見逃さない。
とは言え、合意の上ならどうぞご勝手に。
そして翌朝、私たちは村を出発。
その日のうちに公都には辿り着く。
まだ、冒険者ギルドも普通に受付を開いている時間帯だ。
Aランククエストの受注は、冒険者同士の間でも噂にはなっているようで、
アレン達の姿を見た顔見知りの同業者は驚きの表情を顔に浮かべる。
「おお、アレン帰ったか!!」
「おい、全員無事だぞ!?」
「まさか、妖精種を倒したのか!?」
そこでお祭り騒ぎ好きの狐獣人オルベが依頼達成報告をする前に、
赤紫の巨大な魔石を頭上に掲げる。
「ンヤーっ!!」
「「「おおおおっ!!」」」
いつものキラキラオーラで依頼達成報告カウンターにアレンが立つと、
受付嬢も毎度のことなのか、ゆっくりと立ち上がって嬉しそうな笑みを浮かべる。
でもまぁこの受付嬢は、あの女性たちの間に割り込んで、アレンをどうこうしようとまでは思ってない様子。
「おかえりなさいませ、アレン様、
依頼達成ですか?」
「ああ、バラナ高原、幻惑の森の妖精種討伐、
これが討伐証明にして、献上品の妖精アルラの魔石だ。
それと、納品先は宮殿になると聞いているが、
その際、これも献上したら報奨金をいただけるか問い合わせて欲しいんだ、
霊草マンドラゴラ・・・。
それが叶うなら、妖精アルラに殺された人たちの慰霊に使うと添えて・・・。」
キラキラフェイスに更なる輝きが増しているわね、アレン。
「・・・まぁ!!
畏まりました!! マンドラゴラですか!!
私も話に聞いたことはありますが、実物は・・・!
はい、直ちに手続きに入らせていただきます!!」
「それとこれはギルマスも承知している話だけど・・・。」
アレンは私がマルゴット女王に面会を求めている話も通してくれた。
これはクエスト成功の際にはギルマスが一筆したためてくれるという話なので、
後は向こう次第だ。
私ができる事はもう何もない。
ここでひとまず、お休みだ。
「あ、メリーさんっ?」
ミストレイが離れてゆく私に気が付いた。
別に今後会えなくなるわけでもないし、実際会えなくなったからと言ってどうという事もないのだけど、
せっかく私に寂しそうな視線を送ってくれたので手を振ってあげる。
その気になれば、明日ここに来たって会えるかもしれないのだし、
大袈裟に別れる必要はないだろう。
そして私はギルドを後にする。
こっちも人間として生きていた時は貴族の身分。
一時は王妃にまで上り詰めていた。
一介の冒険者がいきなり女王に会いたいと言ったって、普通なら有り得ないし、
たまたま、マルゴット女王が変わり者だという情報にあやかって要求しているだけだ。
実際にお目通りができるのはしばらく時間がかかるだろう。
あとはどうやって時間を潰すか・・・。
そう言えば、妖精アルラを倒した時に気になる現象が起きた。
あの事を考えても・・・
そこで私は見覚えのある顔を見つける。
・・・それも幾つも。
「「「メリーさん!!」」」
次回、久しぶりの皆様方。
あと・・・名前だけですが、
「レディ メリーの物語」のランディ編のキャラも出てきます。