第百四十三話 伏線はどこに紛れ込んでいるのか分からないよなって話
以前は粗暴だったカイゼルシュタットが、今はもう、人が変わったみたいだね。
ま、あんな事件の後じゃ無理もないんだろう。
「い、いいのか、アレン、
それじゃお前らに・・・。」
「僕らは予定通りの報酬を貰うからね、
カイゼルシュタット、その代わりオーガブレイカーズの皆さんへの分配は君が責任を持って頼むよ。」
「すまねぇ・・・、恩に着る・・・。」
そして一方、ミランダさんも。
「ほ、本当ですかっ!?
あ、あのクソ馬鹿兄貴のために・・・。」
感極まってふらつくミランダさんをミストレイが支える。
ふっふふ、どうだ!
これでまた僕の株が上がるな!
うちの女の子たちは誇らしげに僕を見つめているぞ!
正直、今回、僕は「何もしなかった」感がとてもあるからね、
このぐらいはやっておかないと。
そんな会話が終わる頃、鬱蒼とした森の茂みを抜け、
僕らの馬車が止めてあるところまで戻ってこれた。
自分たちの主人の顔を見つけて馬たちも嬉しそうだな。
ミランダさんまでいなくなっちゃってたからね、さぞ不安だったことだろう。
すでに日は西に傾いている。
恐らく、村に戻るまでに夜になってしまうだろう。
だが、後は街道沿いに進むだけであり、たいまつを照らせば、そこまで危険な道ではない。
この辺りは危険な魔物もいないらしいので、村まで直帰することにした。
僕がカイゼルシュタットが乗っていた馬に跨り・・・、
おいおい、今晩だけだからな、嫌がらないでくれよ?
ミコノはミランダさんが使っていた馬に乗る。
ランス使いのジミーが・・・名前覚えちゃったよ、早く忘れよう、
うん、ジミーが乗っていた馬が一頭、余ってしまったけどこれは・・・
「私が乗ってもいい?」
ここでまさかのメリーさん!
「え? メリーさん、馬に乗れるの!?」
「このカラダになってからは初めてだけど、
人間だった時は、騎兵団を主力とする軍事国家の貴族の出なのでね、
男尊女卑は激しかったけど、貴族の娘も馬に乗るくらいの嗜みは推奨されてたわ。」
なるほど、立ち居振る舞いに気品が溢れているのは彼女の生まれに関係があったのか。
同じ貴族のミコノも興味が出たようだ。
「まぁ、メリーさんは貴族の方だったのですね?
どおりで・・・。」
唯一、心配だったのは、馬の方が人形の姿のメリーさんに脅えるかもと思ったけど、
あまり馬自身は気にしてないらしい。
普通の人間を乗せるかのように、抵抗なくメリーさんを受け入れた。
そして一団はこの地を離れる。
いろんな事が起きたがクエストはこれで終了・・・
いや、ギルドに戻るまでがクエストだ。
「それにしても・・・。」
「うん?」
ミコノが馬を寄せてきた。
その顔は西日で目立たないがほんのり赤い。
いや、そのタイミングを狙って来たんだろうな、僕は見抜けるよ。
「さすがアレン様です。
最後の皆様への気遣いは感服いたしましたわ。」
「えっ、あ、そ、それ程でも・・・いや、当然じゃないか?」
そこまで言われるとさすがに恥ずかしんだけど。
「そんな事はありませんよ、
遺品にしたところで、冒険者なら、それを回収して自らの物にしても、
売却したところで当然とされる行為ですのに。」
そうなんだけどね、
特にめぼしいものもなかったし、あんまりお金には困ってないし。
「・・・ただ、その、あの・・・。」
ん?
何かミコノの様子が変だな?
「どうしたんだ?」
「あ、いえ、あの、アルラの状態異常にかかってしまったのは・・・。」
あっ、あれか!
顔を赤くしてたのはそのせいという事だね。
「気にしていないよ、ミコノ、
僕も状態異常にかかっていたみたいだけどね、
何があっても、僕にとって君は大事なパーティーメンバーだ、
昨日も今日も明日も変わらない。
これからも僕を支えて欲しい。」
「・・・あっ・・・は、はい・・・。」
今の顔を僕には見せられないとばかりに俯くミコノ。
たぶん、ミコノは落とそうと思ったら落ちるよな?
でもそうしたところで、他のオルベが絶対黙っていない。
ライザはどっちかというと、他人の恋愛事情にはどうでも良さそうだけど、
自分も混ぜろとか言ってきそうな気がする。
それはそれで都合がいい。
でもそうなったら、多分ミストレイが冷たい目で僕を蔑むだろう。
彼女は万人に優しいし社交的だけど、その分、自分の良識から外れた行為には拒否反応を示す。
事によったらパーティーから離れるかもしれない。
だからダメなんだよ。
ああ・・・
何事もうまくは行かないね?
えっ? リア充爆発しろ?
ごめん、何言ってるんだかわからない。
「そ、そういえば・・・!」
ミコノは照れ隠しなのか、話題を変えてきた。
「うん、なんだい?」
「カイゼルさ・・・あ、カイゼルシュタットさんも良かったって言っていいんですかね?
ちょっとあの人たちの見る目を変えました・・・。」
「・・・その答えは・・・本人が出すべきなんだろうね。
僕ら貴族は、・・・特に家督を継がないで外に出た僕やミコノとは、
兄弟の存在や意味合いは、彼とは異なるのかもしれないし・・・。」
「そうですね、
あ、そう言えばカラドック様にも弟がいらっしゃったって仰ってましたね?」
「・・・あ、そうだったね、確か彼は・・・わっ!?」
いつの間にか隣にメリーさんの馬が寄ってきていた。
「カラドックのお話?」
「えっ、あ、そう、そうだけど、
いきなり・・・。」
「いやね? ちゃんと馬の蹄の音は聞こえてたでしょ?」
「あれ? あ、そ、そうか・・・え? そうだった?」
ホントに僕の注意が足りなかっただけか?
メリーさん、馬の蹄の音まで消すことなんてできないよな?
「それで、何のお話だったのかしら?」
「あ、そうだね、え、と彼の世界で弟がいたって話だったんだけど、
何年か前に部下の裏切りで亡くなったって話を聞いてね、
いま、カイゼルシュタットのお兄さんの話が出た時に思い出して・・・。」
そこでメリーさんは顔をあげた・・・。
「カラドックの弟・・・。」
どうしたんだろう?
そういえば、僕らはなぜメリーさんが彼の情報を集めているのか聞いていなかったな。
「何年か前・・・か、
なら彼がその弟の事を大事に思っていたら、
まだ悲しみは癒えてないかしら・・・ね?」
「うーん、そう考えるのが普通なんだろうかな?
でもその話をしていたカラドックはあまり悲しそうな表情をしていなかったな。
こっちも突っ込んでいい話かどうか分からなかったんで詳細は聞いていないけど、
僕の感想だと、まだ彼の弟の死を信じていないというか、どこかで生きているのを信じているというか、そんな雰囲気に感じたね。」
「え?」
人形の顔に表情がないから、メリーさんが何を考えているかはわからない。
でも、その反応はまるで意外なことを耳にしてしまったかのようだ。
そんなにおかしい話をしているつもりはないぞ?