第百四十二話 騎士は食わねど高楊枝って話
ぶっくま、ありがとうございます!
「妖精アルラの本体っ!?」
既にアルラの死体から、胸元部分に魔石があるのをオルベが発見し、魔石を取り出す作業は滞りなく終了していた。
間違いなく、この妖精アルラは本物だし、死んでいる。
「私の元居た世界・・・いえ、場所では妖魔化した植物の伝説があるの。
恐らくアルラはそれに類する魔物。」
「な、なんですって?
じゃあ、この後も妖精が出現するという事ですか?」
ミコノが驚いているが、僕を含め他のみんなも同様だ。
「妖魔・・・妖精か、その分類と発生条件は分からないけども、魔石がなければ魔物化はしないんでしょう?
その代わり魔石が与えられれば、再びアルラが生まれるかもしれない。」
それはヤバいな。
「え、じゃあ、その元凶はどこに?」
メリーさんはそのままアルラの足元に指を差す。
足元というか根元?
「ミコノ? 念のために精神耐性呪文をみんなにもう一度かけて?
あとライザは、エアスクリーンを。
あれなら音波耐性があると思う。」
何がいるんだ!?
メリーさんは二人の防御呪文を詠唱を待ってから、アルラの足元に近づいた。
問答無用とばかりにアルラの両足を地面から引っこ抜く。
そしてその視線は更に地中の下に・・・・。
そこに何かいるのか・・・。
「アルラ・・・その名前、聞き覚えあるわよ?
妖魔アルラウネ・・・植物型の妖魔・・・・いるんでしょう?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、メリーさんはその土の中に片腕を突っ込んだ。
「行くわよ? 耳を塞いで?」
「えっ!?」
【ッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!】
世界が歪むかのような叫び声が僕らを襲った!!
耳を抑えていても僕らの精神が侵食されていくんじゃないかっ!?
そんな錯覚が僕たちを襲っていたけれど、恐らくミコノたちの魔法効果があってのことだろう、
叫び声が静まると、僕らの苦痛は和らいだ・・・。
そしてメリーさんの手には一株の人参のような・・・いや、人参にしては太すぎるというか巨大すぎるというか、形が人間みたいな根っこの・・・
ダークエルフのライザが叫び声をあげる。
「そ、それ・・・伝説の・・・マンドラゴラ!?」
マンドラゴラだって!?
あれが!?
話には聞いたことがある。
伝説クラスの魔法薬の材料になるけども、見つけた人間には呪いが降りかかるとかで、余程の事がないと市場に出回らないとされる、スーパーレアな植物だ。
分類上は魔物ではないし、人間を襲うわけでもないが、さっきの叫び声がヤバいという訳か。
「こういうのに詳しいのはライザかい?
呪いとか危険はあるのか!?」
「多分、・・・大丈夫、
叫び声をあげるのは・・・地中から引きずり出された時だけ・・・。
後は・・・無害な植物。」
「そうか、じゃあ、これも戦利品として回収しよう。
結構な報奨金が出るかもしれないな!」
・・・そこで僕は自分に複数の視線が集まるのに気付いた。
と・・・
そして僕はその視線に気づかない振りをする。
ゴホンッ・・・
「カイゼルシュタット、・・・それにミランダさん、
カラダの具合はどうだい?」
カイゼルシュタットの方は、右腕で顔をゴシゴシと汚いものを拭っている。
・・・いや、拭った後もけっこうぐちゃぐちゃなままだからな?
「う、せ、世話になった、
まだぼーっとしてるが、馬の所までなら大丈夫だ。
一日休めば、元に戻る・・・!」
「おいおい、無茶するなよ?
あんだけ血が出ていたんだから、歩くのもつらいだろう、
ミランダさんとランス使い・・・ジミーだったか?
君らは僕の馬車に乗って行くといい。
代わりに君らの馬に僕は乗せてもらうよ?
ミコノも馬には乗れたよね?
馬車の方はオルベが御してくれ。」
「畏まりましたわ、アレン様、
ではミランダさんの馬には私が乗せてもらいましょう。」
「ンヤハハハ、オルベも了解したよー。」
「す、すまねぇ・・・助かる。」
「ありがとうございます、す、すいません、
皆様のお手伝いをするどころか、足を引っ張ってしまって・・・。」
まったくだよ。
流石の僕でも嫌味の一つくらい口にしようかと思ったけど、不意に僕は一つの事実に気付く。
「あ、でももしかしたら、ミランダさんにも妖精の状態異常はかかっていたのかな?」
「え!? 私にもですか・・・?」
そこで、僕の背後に一つの気配。
「正解。」
「うわっ? メリーさん!!」
やっぱり!
この人は人の背後に回るの好きだな、
あ、そういう生態なんだっけ?
「え、と? 正解って!?」
「そう、アルラの・・・というか、恐らくこのマンドラゴラの方かしら、
これが辺りに人の精神に変調を来す種類の何かを発していた・・・というところみたいね、
微弱な影響とは言え、かなり広範囲にわたって拡がっていたと見るべきでしょう。
効果は様々で、狂乱、魅了、混乱・・・それらが意識されない程度に・・・。」
改めて恐ろしい化け物と僕らは戦っていたんだな・・・。
高位の魔物と戦う時はもっと用心しないといけないわけか。
「僕らには勉強になったな・・・。」
ポツリとつぶやいたつもりだけど、これは他のみんなも同じ意見だったかもしれない。
「・・・本当ですね、いろんな意味でいい経験をさせていただきました。」
ミコノはいつも前向きだよな。
見るとオルベもミストレイも僕と視線を合わすと、同意でもするかのように微笑を浮かべた。
いいメンバーだ。
・・・ライザは別の意味で嬉しそうだ。
今回の行程ではライザの大好きなジャンルの現象がたくさん有ったからな。
何時も控えめにしているけど、このメンバーで最も知識欲が強いのは彼女だろう。
おっと、そうそう、この話もしておかないとな。
「あ、そ、それで、ゆっくり歩きながら聞いてもらいたいんだけどさ、
オーガバスターズのみんなも、ミランダさんも。」
みんな、どうしたんだろうとでもいうように、僕に視線を向ける。
「今回のクエストでは予定通り、収穫した魔石をギルドに提出、
その報奨金は僕ら、『栄光の剣』がいただく。
メリーさんはその功績をもって、マルゴット女王にお目通りを願う、
ここまでは最初決めた通りだ。」
ここで含みを持たせておく。
みんなここまで異論はないな、よしよし。
「そこで、新たに先程回収したマンドラゴラがあるよね?
あれも恐らくマルゴット女王にとっては垂涎のアイテムなんじゃないかと思う。
売却先は宮殿でなくても良いだろうけど、かなりの値が付くと思うんだ。」
魔術士のライザが縦に首を振る。
まだ、オーガバスターズとミランダさんは話の矛先がわからないだろうな。
「それでそっちの利益の方は、
今回、妖精アルラの犠牲になったみんなの弔い金として分配しようと思う。
さっきの広場で遺品は回収してきたよね?
オーガブレイカーズの皆さんや村の人たちとか、身元の分かる範囲でという条件になるだろうけど、
出来得る限り、死んだ方々に対し何かしてあげれないかな、と思うんだ。
僕ら『栄光の剣』のみんなもそれでいいかな?」
原型が残っている遺体の方は、簡素ではあるけども、あの場で埋葬して墓標を立てておいた。
遺族の中には遺体を持って帰ってきて欲しいと思う者もいるかもしれないけど、
さすがにそこまでは僕らの仕事ではない。
それは改めて他の冒険者か、そういった仕事を生業とするものに依頼をかければいい。
さぁ、みんなの反応はどうだ?
アレン視点は次回で終了です。
アレンは正義の味方とか、ヒーロー志向にはありません。
けれど、名誉欲というか、みんなにキャーキャー言われること自体は大好きです。
責任を持たない貴族の一つの形かなと。