第百四十話 自分に真似できないことを仕出かす奴って凄いと思うよなって話
回復呪文は皆さん、詠唱してます。
表記上、省略してるだけです。
時間的余裕出来たら加筆するかもしれません。
「お、おぃぃ・・・
そ、それよりこっちをなんとか・・・してくれぃ・・・。」
あっ、ランス使いとミランダさん!?
だけど、あっちは妖精のアルラと距離が近すぎるんだよな!?
「行ったら? 妖精の方は私が向かうわよ?」
「それは有難い! ミコノ!!」
「は、はい! 先にみなさんに精神耐性上昇をかけますね!!
プロテクションマインド!!」
今更だけど、この後も状態異常掛けられる恐れがあるからね、
僕らは互いに精神耐性上昇の効果が掛かったのを確かめると、
妖精アルラの動きに注意をしながらミランダさんたちの所に向かう。
一方、メリーさんはゆっくりと妖精アルラの元に歩き始めた・・・。
「なんじゃ・・・、いったいなんじゃ!?
人形がワシに何の用じゃあっ!!」
「もう少し待って欲しいの・・・。」
「な、なんじゃと?」
「このままでもあなたを切り裂くことは出来るのだけど、
せっかくだから、もう一手進めるわよ?」
「何を言ってるのかわからんぞ!!」
僕らもメリーさんが何言ってるのかわからないけど、
ミコノ達は、
ミランダさんたちを貫いているストーンランスを処理し、回復魔法をかける。
ランス使いの方には斬り落とされた足も繋げてやらないと・・・。
ストーンランスを抜く時に二人は激痛の声をあげたけど、
ほぼ同時に回復魔法をかけたから、少なくともこれで死亡の心配はない。
後はカイゼルシュタットだけだが・・・、
あ、メリーさんの言っているのはカイゼルシュタットの事か!?
どうも彼のことで間違いないようだ。
メリーさんは鎌を地面に下したまま、カイゼルシュタットの方へ首を向ける。
おぞまし過ぎるという表現しか浮かばない。
新たにカイゼルシュタットの左腕と化している融合人間部分を地面に立たせて、
カイゼルシュタット本人は、不格好にカラダを折り曲げたまま、目は虚ろにぶつぶつ呟いている状態だ・・・。
意識も混濁しているのだろう。
「このスキンヘッドの彼は元に戻るの?」
「ハッ!? 聞いておらんかったか!? 融合じゃ!!
もはや、先に融合させた二人と混じりあっておるわ!!
例えその鎌で二つを切り裂こうと・・・え?」
「試してみるわよ?」
あ、メリーさんが鎌を振り上げる・・・!
え、ま、まさか?
ザシュッ!!
「がああああああああっ!!」
「「sふぁうがいえghうlvxじふぉぞp!!」」
それぞれのカラダから血が噴き上がる。
オーガバスターズのメンバーが、先程切り飛ばされたカイゼルシュタットの左腕を拾って駆けつける!
「よし、ちゃんとリーダーと左腕を抑えつけとけ!!
ヒール!!」
オーガバスターズのモンクが左腕をカイゼルシュタットに繋げる。
斬り落とされた直後ならなんとかできるか?
「すまねぇ! ミコノさん、ハイヒールをかけてくれねーか!?
ヒールだけだと、くっつけるだけでいっぱいいっぱいだ!!」
「わ、わかりました!! ハイヒール!!」」
「無駄じゃ!!
腕はつなげる事は可能じゃろう!!
じゃが一度混じり合った意識は元には戻ら・・・!?」
「あ・・・う?」
カイゼルシュタット・・・意識が戻ったのか!?
「あ、お、オレは・・・!?」
おおお!
カイゼルシュタットも元に戻ったぞ!!
これでこっちは被害ゼロだな!!
「ば、バカな・・・それもその闇の武具の効果だというのか・・・!?」
きっとメリーさんが人間のままだったたら、今頃ドヤ顔を浮かべているんだろうな?
人形の顔じゃ表現できないよね?
「あら? まだ続きがあるわよ?」
なんだって?
「カイゼルシュタットだったわね?
周りの状況を認識できている?」
「お? ・・・おう!!
こ、このクソ妖精と・・・そうだ、兄貴っ!!」
ん?
あの融合されていたカイゼルシュタットの兄弟は・・・
カイゼルシュタットの方だけを凝視しているぞ!?
「あ・・・が・・・。」
何事かパクパク口を動かして・・・。
「あ、あにき?」
「が・・・・がいじぇる・・・じゅだど・・・。」
しゃ・・・喋った!?
カイゼルシュタットの名前を!?
「兄貴!! お、オレが分かるのか!!」
「は、は、どうやだ・・・やらでりまっだ・・・。」
どうやら・・・やられちまったって言ってるのか?
意識が戻っている!!
「あ、あ、あにぎぃぃぃっ!!」
両ひざをついてあの肉塊にしがみつくカイゼルシュタット・・・。
そうか、妖精との繋がりが切れたせいか、それとも状態異常が解かれたからか、
凄いな、メリーさん・・・。
こんなマネ、例え教会の大神官でも無理じゃないか?
そして妖精アルラにしても、これは信じられない出来事なのだろう。
「ば、バカな・・・有り得ん・・・、
奴は完全にワシの支配下になっておったはず・・・。」
「あにきぃ! 良かった! い、生きてて良かった!!
さぁ、帰ろう!! 兄貴をこんな目にしたクソ妖精はこれから片付ける!!
なぁ!? だから安心して家に帰ろうぜ!!」
「・・・・・・・。」
ん?
そこでカイゼルシュタットの兄は黙りこくってしまった・・・。
あれは・・・・あの目は、もう、全てを悟ったというか、諦めたというか・・・。
「帰るじゃと!?
はっ、笑わせおる!!
そやつはもう、飲食のできない体になっておるのじゃぞ!?
この土地に根を生やすことでしか栄養を吸収できんのじゃ!!
まさしく植物同然と化したそやつをどうやって連れ帰るというのじゃ!?」
「な、なんだとぅぅっ!?」
カイゼルシュタットは縋るような目でメリーさんを見上げるも・・・
あ、メリーさんも静かに首を振るだけだ・・・。
さすがにそれはどうする事も出来ないのか・・・。
「妖精アルラ、あなたに質問があるの。」
「な、なんじゃ!!」
「あなたが融合させた人間は、この土地でなら生きていけるの?
たとえあなたが死んだとしても・・・。」
あ、それはつまり・・・
「フン、生きていけるとも、しばらくは、な。」
「しばらくというのは?」
「さぁてのう、ワシの保護がなくなるのだから、
一週間か二週間か、例え地中から栄養が得られるにしても、
生命維持は無理じゃろうて。
いずれ枯れ落ちる定めじゃな。」
ダメだろ、それ!!
「な、こ、この野郎、言うに事欠いてぇぇ!!」
カイゼルシュタットの抗議を諫めるかのようにメリーさんが割って入る。
「さてそこで、カイゼルシュタットとその兄に問うわ。」
メリーさんは妖精の答えをある程度予想していたようだな。
でもこの流れって・・・。
「な、なんだっつうんだ!?」
「・・・・・・。」
「私のこの鎌なら融合しているもう一人の精神も切り分けられるわよ?
・・・もちろん、その段階であなた達の命は尽きる・・・。」
「きゃ、却下だぁ!!
そんなもん認められるかぁっ!!」
「・・・・・・。」
カイゼルシュタットの反応は当然だろう。
兄貴の方は何か思うところがあるのか、メリーさんの話を黙って聞いている。
「これは『契約』・・・
あなた達の恨みや憎しみ、恐怖を私に頂戴?
その代わり、あなた達は魂の重荷を解かれて、魂が在るべき場所に還らせてあげることができる。」
「あ・・・え?」
「このままだと、人間として有り得ない死を迎えた彼らは、呪われた存在になるかもしれないのよ?
カイゼルシュタット、あなたはそれでいいの?」
「そ、そんな!?
そんなことって!?」
そ、そうか、下手に妖精に関わったために、彼らは死後に魔物化する恐れがあるのか!?
しかも死後ってことは、アンデッドに!!
なんて残酷な質問だ・・・。
カイゼルシュタットだって即決できるはずもない。
でもまごまごしている時間もないのも確かだ。
妖精アルラは知識欲も旺盛なのか、
この先予測不能な展開に、黙って事の成り行きを見詰めてくれているのがせめてもの救いか・・・。
「や・・・やっでぐれ・・・。」
「兄貴ぃっ!?」
そ、それが答え・・・なのかっ!?
なんて男だ!!
果たして僕が同じ状況になったらその答えを選択できるだろうかっ!?
「カ、カイゼル、お、オレはもういい・・・
こんな姿、他に誰にもみぜだく・・・ない。
ざいごに・・・お前になざげない姿みぜちまっだが・・・
おまえにあえで・・・よがっだ・・・
家に帰っだら・・・ぐぞオヤジのごどはよろじぐな・・・。」
「そっ、そんな兄貴ぃっ、
お、オレは兄貴のような冒険者を目指して・・・兄貴を越えるんだって、
それを目指してたんだぞっ、こ、こんなところでリタイヤする気かよっ!?」
「は、は、お前なら オレを越えだでるさ、
イカじだ人形ざんよ、・・・世話になるが・・・いいが?」
「っあにきぃぃぃぃっ!!」
メリーさんは静かに頷いた・・・。
「あにぎぃ、あにぎようぅぅっ!!」
恥も外聞もなく泣きだし暴れ始めようとするカイゼルシュタットを、
オーガバスターズの面々が抑えにかかる。
「て、てめーら、放しやがれっ! その手を放せって言ってるんだ!!」
「カ、カイゼルシュタットさん!
こ、ここは! お兄さんを安心させて見送ってあげましょうっ!!」
「うっ、ぐっ、だが・・・だけどよぉ・・・!
う、うおっ、うおおおおおおおおおおおっ!!」
「・・・はっ、なづがじぃな、
お前、よぐ泣いでだもんな、ケンガじでもすぐおれに負げでだのにな・・・。」
「あっ、あにきぃぃぃぃぃ・・・!」
メリーさんは二人の会話が済むと、彼の背後に回る。
「いいかしら?」
「・・・ああ、ずまねぇ、ずっぱりど、な。」
「あなたはいい男だわ。」
「・・・はは、ごりゃ光栄だ、
まどもなずがだのうぢに会いだがっだな、あんがどよ・・・。」
あの異様な形をしたアラベスク文様の鎌が振り上げられる・・・。
カイゼルシュタットの顔面は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが、
最期の瞬間は必死に叫び声を堪えていたようだ・・・。
そして・・・
「私の名はメリー、
いま、あなたの後ろにいるの・・・。」
彼は目を瞑った・・・。
融合していたもう一体の方も、意識があるのかどうかはわからなかったが、
同様に目を閉じていた。
融合というからには、二人の意識は交じり合っていたのかもしれない。
血飛沫が飛んだ!
真っ二つになった融合生物が崩れ落ちる・・・。
これで・・・良かったんだろうか・・・
二つの顔は穏やかそうに眠っている。
カイゼルシュタットはまたもや涙をこらえ切れず泣き叫び始めた・・・。
これで、一つの物語が終わる。
後は・・・元凶の妖精アルラのみ。
ただ・・・奇妙な行為に思える事が一つあった。
始末をつけたメリーさんの顔が、空の彼方とでも言うのか、あらぬ方向を向いている。
「どういうこと?
魂が途中で消えた? いえ、まるで何かに捕らえられたかのような・・・?」
「メリーさん?」
そこで彼女はハッと我に返ったような・・・いったい何があったっていうのだろう?
「いえ、気にしないで・・・、さ、待たせたわね、お嬢ちゃん?」
ようやくメリーさんの鎌が妖精アルラに向けられる。
僕らも気合入れないとね!!
アルラは、
さっきメリーさんに切り取られて、不揃いになった緑銀の髪を振り乱す。
「なにが、お嬢ちゃんじゃあ!
これでもワシは人間の姿になるまで60年の歳月をかけておるのじゃぞぉ!?
そんじょそこらの人間なぞワシにとってガキと一緒じゃああっ!!」
あっ、こいつ60才以上なのかよ、ならババァじゃねーかよ!!
ならやっちゃっても合法・・・いや、何でもない!
でもそこでメリーさんは、クスッと笑ったかのような声が出た。
「あら、たった60才なの?
・・・なら生まれたてのヒヨコちゃんじゃない。」
「ハァッ!?」
いや、メリーさんいくつよ!?
「さて、おしゃべりはお終い。
もうここでやることは終わったわ?
死神の鎌『ゲリュオン』も、早くあなたの首を狩れと私にせがんでいるのでね。」
アルラが右腕を上げてメリーさんに指を差す!!
「後から出てきて、やりたい放題、言いたい放題じゃな!?
じゃが、さっきお主が言ったことじゃ!
狩られる側も抵抗するのじゃぞ!!」
「ええ、もちろん・・・
抵抗できるのなら、ね、
エクスキューショナーモード・・・オン。」
ちょっと長くなりました。
本日分二回に分けようかとも思ったのですが・・・切れない・・・。
次回、妖精アルラ戦、決着!!
ああ、ストックがそれで尽きる・・・。