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第百三十九話 女の子もいろいろエッチなこと考えているよねって話


 メリー!?


・・・なんだって?

いま、あの肉の塊は「メリー」って言ったのか!?

メリーってあのメリーさんか!?

そう言えば、彼女は今どこにいるんだ!?


辺りを見渡せば、誰もがこの状況を把握できずに身動き一つできない!

目の前の妖精ですら理解不能とばかりに狼狽えているように見える。


 「き・・・貴様、何と言った・・・!?

 メリー!?

 ワシの後ろにいる・・・のじゃと!?」


もはやカイゼルシュタットの左腕となった肉塊は・・・・いや、それは語弊があるな、

左腕からもう一人の人間が生えていると言った方が良いのか、

ていうか、それよりも!

何故、妖精アルラの眷属とされた肉塊から、あのメリーさんの名前が出て来るんだ!?

しかもあれじゃまるで、メリーさんが自分で喋らせたかのような・・・

そう言えば、今アルラは眷属のラインが途切れたって言ったのは・・・



 「誰じゃ!! 後ろにおるのは!!」

妖精アルラが背後を振り返った!!

僕らの目にはそこに誰も・・・


 「ぬああああああああっ!?」


妖精アルラの背後の森の中から真っ黒い何かが飛び出す!

アルラの頭上からかっ!!

器用にのけぞるアルラの周りを舞うように「それ」は煌めく刃を振り回す!!

避けられたか!

妖精アルラの緑銀の長い髪が周辺に舞い散る・・・!


美しい・・・

僕はその宙を舞うその姿に目を奪われた・・・。

心の中の冷静な部分は、背後からの奇襲が妖精アルラに躱されたこと、

そしてその後の、アルラの周辺をぐるりと半周するかのような動きは不要ではなかったのかと思ったのだが、その場の全ての人間の目を釘付けにする効果は十分だったと言える。


まるで舞台の主役は、

妖精ではなく自分だとでも主張するかのように。




・・・そして、「彼女」は何事もなかったかのように・・・

静かに、その広場のど真ん中に降り立ったのである・・・。



もはやフード付きの外套など羽織ってもいない。

貴族のような薔薇の刺繍のドレス姿に

煌めく銀色の髪が神々しい・・・。


だが、そのか細い両手で掴んだアラベスク文様の鎌だけが異様に巨大で、

あまりにも美しいメリーさんの人形の顔に対して凶悪さを引き立たせている・・・。



 「な・・・なんじゃ、これはあああああああああっ!?

 に、人形!?

 人形が何故動いておるのじゃぁああああっ!?」


ヤバい、どっちが化け物なのかわからなくなってきた。

だけど、これで戦局に変化が!?



 「メ、メリーさん! 今までどこに!?」

僕の背中の後ろでミコノが叫ぶ。

そうなんだよな。

劣勢に追い込まれていた僕らとしては、もっと早く出てきてほしかったところではある。

だけど別行動を勧めたのは僕だからなぁ、僕自身はあまりその事を追及するつもりはない。


けれど、メリーさんの口から出た言葉は、僕らを二度も驚かせることになる。

まず一つ目だ。


 「・・・待っていたの。」


待っていた?

何を?

 「ま、待っていたとはどういうことですか!?」


メリーさんの冷たい瞳がギョロリと僕らを一瞥する。

・・・僕ら、敵認定されてないよね!?


 「溜まるのを待っていたのよ・・・。」

 「は・・・? え? 溜まるって何を?」



そこでメリーさんは僕らから興味を無くしたかのように妖精アルラに振り向く。


 「この妖精への恨みや恐怖が溜まるのを・・・ね。」


え? ちょ、ちょっと待って・・・。

それって。


 「本当はあなた達が全滅するのを待っても良かったのだけど、

 もう十分にこの死神の鎌『ゲリュオン』に溜まったのでね。

 ・・・良かったわね、まだ誰も死んでないの?

 なら回復魔法が使える人間がいればどうとでもなるわよね?」


あ、そ、そう言えばメリーさんて・・・

殺された人の恨みの念が強ければ強いほど力が増していくって言ってたんだっけ。

・・・言ってたけど、それに僕らの命も含まれていたってことか!?


 「仕方ないでしょう?

 この妖精が人間を殺したのは、食事を摂る為と正当防衛。

 しかも人間側にかなりの落ち度があると思うわよ?

 それだと私の死神の鎌は力を発揮できない。」


・・・確かに。

だからこそ、僕も積極的に討伐する気が起きなかった。

・・・決してアルラのカラダが勿体ないとかじゃなくて・・・っ。




 「でも・・・人間養殖はやりすぎだったわね。

 実験に失敗して無駄に何人か死なせているようだし・・・、

 この場にいる全ての人間が、彼らの死に納得していないようよ?」



 「なんじゃなんじゃあっ!!

 黙っておれば好き放題ぬかしおってぇ!!

 ワシが生きるために他の生き物を殺して何が悪いっ!!」


・・・そうなんだよな・・・。

妖精アルラは人間じゃないんだから、

人間の理屈や法が通用するわけがない。

でもそれ言っちゃうと・・・。


 「そうね、別に悪くなんかないと思うわ?」

あれ? メリーさん、同意しちゃうの?


 「なっ! だ、だったら・・・。」

 「でも、狩られる側も反撃するのよ?

 あなたにその覚悟はあって?」

 「う・・・・ぐっ?」


ああ、そう言う事か。



このままメリーさんとアルラの一騎打ちになるかと思ったんだけど、

僕の予想に反して、メリーさんは再び、僕らの方へと顔を向けた。


 「あなた達・・・まだ気づいてないの?」


 「え・・・な、何をですか!?」

そしてもう一つの僕らが驚かされた話だ。

ミコノが感情的に答えたが、僕も何のことだかわからない。

でも、すぐに後ろのミストレイが気付いたようだ。


 「あっ!? 状態異常が消えてる!?

 どうやって!?」


 「えっ、状態異常・・・? え、えっ!?」

ミコノは自分が状態異常にかかっていたことも気づいていなかったようだ。

あれ?


ということは・・・もしかして・・・・。


 「そう、そこのエルフの二人以外、全員微弱だけど状態異常にかかっていたわね。」


 「そ、そんな、状態異常になったら僧侶の私が気付かなないはずも・・・あ、

 び、微弱!?」



 「そう、恐らく、この状態異常が『魅了』とか『狂乱』『恐怖』とかならすぐに気付いたのでしょうけど、効果はランダム、しかも度合いは微弱となれば、気づくのが遅れてしまう。

 ミコノ、あなたは戦闘開始前に精神耐性上昇効果のある魔法を使うべきだったわね。」



ここで僕は、メリーさんの言葉に違和感を覚えた。


 「え・・・エルフ以外全員て・・・僕も!?」

 「もちろん、あなたもよ、アレン、

 自分に心当たりない?」


 え、そ、そんなこと言われても・・・。


 「あ、そう言えばアレン様が一歩も動かれてないのはおかしい感じしましたね・・・。」

 「えっ!? ミコノ、僕がそんな・・・あ、そ、そう言われれば・・・。」



そうだよ!

いくらなんだってタンク役も兼ねる僕が、これまで一度も妖精の前に近づいてないなんて確かにおかしい!!

幼女の姿をしたアルラを殺したくないとか思ったのは間違いないけど、

ここまで足に根が付いたようになったことなんて考えられない!


 「では、さっきも妖精の挙動にアレン様が取り乱していたのはそのせいだったのですね。」


あ、それはごめん、デフォ。

とりあえず何もなかったかのようにスルーしよう。

 「でもメリーさん、どうやってみんなの状態異常を・・・

 あれはプリーストのディスペルでもないと・・・。」



そこでメリーさんはアラベスク文様の鎌を頭上で振り回した。

あれ、まさか・・・。


 「言ったでしょう、この鎌は闇属性アイテムだと。

 物質以外も切り裂けるのよ?

 結界や精神汚染にも効果があるの。

 さっき妖精の周りを舞ったのは、その繋がりを切り裂く為。

 ・・・もっとも強すぎる繋がりや、呪的感染者には難しいのだけど。」


呪的感染者ってどういう状態だろう?

おっと、今はこっちの話が先だな。


 「そ、それで、みんな様子がおかしかったのか、

 あれ? エルフ二人って・・・。」


ミストレイはまともなままだったけど、ライザはおかしかったよな?

僕が彼女の方を振り向くと・・・

ライザはあからさまに視線を逸らし始めたぞ?

いや、ここで口笛吹くシーンじゃないだろ。

あ、ま、まさか・・・!


 「ラ、ライザ、あなたどさくさに紛れて・・・!?」

さすがにいつも温厚なミストレイも呆れているぞ!?


うん、ライザ、今度は周りに誰もいないところでやってくれ。



 

 

妖精アルラは精神的なラインを繋げて、肉の塊さんたちを眷属下にしておりました。

カラダを斬り刻まれたり、他人とカラダを繋げられて、精神的にも深いダメージを負った人間は、その強制力に抵抗することは出来ません。


そしてその不可視のラインを、最初の風が吹いた時にメリーさんは切り裂いたのです。


そして一時的にではありますが、アルラの支配下から解放された肉人形さん達は、

意志の力も知能も著しく低下した状態になっており、

メリーさんはその無防備な精神にハッキングしたのです。


これに対し、呪的感染状態だと、感染元やラインを切り裂いたとしても、

発症者自身の精神が蝕まれたままなので、何の回復効果も見られません。

その場合はまさしく体内で増殖しているウイルスを想像してください。


アレン達がかかっていた状態異常はフィールドに張られていた毒のようなものです。

時間が経てば経つほど効果がはっきりと現れます。

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