第百三十三話 人は見かけによらないよって話
<??? 視点>
ああっ、やっぱり今回の依頼はハズレだよなぁっ!?
そもそも呪われた人形が声をかけてきた時点で回避すべきだったんだっ!
・・・いや、それを言ったら、あの時、余計な目立ちたがり根性出して、どうでもいい他所のパーティーへのいざこざなんかに口を挟むべきでもなかったんだっ!
たまたま!
たまたま僕のお節介が、今までいい方向いい方向に進んできたからここまで来れたけど、
いっつも思うんだよっ!
余計なことに首突っ込むなって!!
それでいつの間にやら異世界からの精霊術士と関わったり、挙句の果てにBランクまで上り詰めちゃったりさ!?
もうこれ以上、いいよ!?
家の継承権を持たない貴族のボンボンがBランクになったって事で十分だろ?
実家にBランク昇格の知らせを届けたら、
親父も家の継承が決まってる兄貴も鼻が高いと喜んでくれた。
けどAランク?
やめてくれよ、下手に名前が売れたら相続問題がぶり返すかもしれないだろ?
適当に家の名前を堕とさない程度に、なぁなぁで活躍してればいいんだよ、
英雄になる必要なんかどこにもない。
ミコノ、頼むからこれ以上、僕に期待するのはやめてくれ!!
そりゃ君には感謝してる!
君の治癒呪文にはいつも助けられてるし、的確なアドバイスも有難い!!
なによりも君は綺麗だ!
でも・・・きみのその上昇志向のおかげで、引くに引けなくなっちゃうんだよ!!
ああ、そうさ、僕がこの依頼受けないよ! って言えればいいんだけどさ、
ついつい格好つけたくなっちゃうんだよ。
せめて君の顔がもっとブサイクだったりさ、
そのプロポーションが貧相なレベルだったら、
僕だって冷たく引き放す・・・あ、それはやっぱり可哀相だから、
相手を傷つけない程度に扱うところなんだけど・・・
なんでうちのパーティーの女の子はこんなにレベルが高いんだ・・・?
わかってる、
わかっているとも、
他の男どもがうらやむくらい、魅力的な女性ばかりだって。
僕自身、そう思う!
断言する!!
このうちの誰かと「二人っきり」のパーティーなら、絶対に一線を越える自信がある!!
襲って!
押し倒して!!
「アレンさま、いけませんっ・・・」とか、
「こんなことダメって言ってるのに・・・」とか言われようが、
もう毎夜毎夜、あんなことやこんなこと、あらあら、うふふな事して絶対に僕の元から放さない!
いっつも想像するんだよ、
このうちの誰かと、朝までカラダを重ねられたら・・・なんて。
でもさ!!
そんな子が4人もいて、みんなキラキラした目で僕を見つめて来るんだぞ!?
誰か一人を贔屓しようものなら、途端に他の子の機嫌が悪くなる!!
これから命をかけて魔物を討伐しようとするのにチームワークが崩れたら目も当てられないだろ!!
クソッ、なんでこんなパーティーになっちまったんだ?
いや、嬉しいよ、嬉しいんだよ、可愛い子に囲まれてさ!!
ミコノやミストレイは胸がでかいし、オルベはあんなんだから活発に動き回って、僕の視線は常にあの姿態に釘付けだ。
そうかと思うと、普段あまりしゃべらないライザが僕の傍にぴったり寄り添ってくる!
あの子、結構いい匂いさせてんだよっ!
またそのカラダが触れ合うか触れ合わないかの距離感も絶妙だ!!
君ら、僕を陥れるスキルでも持ってるんじゃないか!?
カラドックが来てくれた時はホントに助かった!
あの、どの女の子にも適度な距離感と紳士的な気遣いは、僕にとっても勉強になると思ったほどだったよ!
まぁ、最初から妻帯者だとアピールしていたせいで、女の子達も気軽に近づけていたんだろう。
ただ、あいつがそのままうちのパーティーに居座られたら、僕の今の座は危ないことになっていたかもしれない、
カラドックの方がリーダーに相応しいってね。
本当にベストなタイミングであいつは出て行ってくれた!
そうしてふっと安心したら、今度は何だ?
呪われた人形? 妖精の討伐?
全く次から次へと・・・。
そうかと思ったら下品な野郎だらけのオーガバスターズかよ?
汗臭いんだよ、あいつらはさぁ!
いや、あいつらなんか僕の引き立て役にしかならないからいいんだけどさ!?
ほんとにどうなっても知らねーぞ?
僕が守るのは何よりも自分自身!
そしてうちの子たちしか守らないからな?
あの人形は・・・うーん、確かに美人だし、余力があるなら守ってあげたいけども・・・
僕の崇拝者にはならないだろうしなぁ。
どうでもいいか?
自分でも無視してくれて構わないと言ってるんだから。
そこで僕は言ったんだよ。
「メリーさん、君は別行動の方が良くないか」って。
その人形の方もそれで構わないってさ!
そしたらあの人形、バビュン! って消えやんの!?
まさかあのまま逃げたりしないよな?
自分から言い出した依頼だもんな?
さすがにそれはないよな?
でもまぁここまで来たら、迷う事なんか出来ない。
戦わないうちに逃げることも出来ない。
ミコノが、勝てそうにないなら一度引き上げるのも有りと言っていた。
こういうところがあるからミコノは必要なんだよ、このパーティー。
あの女、僕を体よく利用しようとしてこのパーティーに入って来たんだけど、
すっげぇ合理的な思考するんだよな。
ちゃんと話し合ったわけじゃないけど、ミコノ自身、目的のためには逆に自分を利用してもらっても構わないという姿勢がはっきりと見て取れる。
貴族の娘ってのはそんな教育を受けるもんなんかな?
でもうちの姉さんたちはもっと自分中心だったぞ?
何度あの人たちの我儘に僕は・・・
おっと、いけない、今はこっちのって・・・オルベどうした、
その反応・・・
ん?
臭い?
・・・あいつ鼻がいいから・・・ぐわっ!?
この匂いかよっ!?
「ンヤッ!?
ちょ、これ、ミコノ! 匂いから鼻を護る呪文あるぅ!?」
「あっ、ありませんよ、そんなもの!!
でもプロテクションシールドなら一時的に・・・?」
「ミコノ・・・それ効かない・・・私の風魔法・・・エアスクリーン・・・効果的、
でもみんな固まっていないと・・・。」
「よし、みんなライザを中心に集ま・・・おい、カイゼルシュタット!?」
カイゼルシュタットは僕らから逃げるように距離を取り始めた。
自分たちも鼻を抑えているにも関わらず。
「くっ、お、おれらはいい!
エアスクリーンをかけては欲しいが、敵の妖精がどんな魔法使うかわかってねーんだろ?
全員固まって範囲攻撃されたら、魔法の種類によっては全滅するかもしれん、
ここは別れて行動する!」
「そ、そうか、確かにそうだな、仕方ない!!」
クソッ、確かにカイゼルシュタットのいう通りだ、僕の株を下げたかな!?
いや、今の流れだと、みんなそんなに気にしてないな!
これでもここまで大騒ぎしちゃったし、確実に相手には僕らの接近、気づかれてるよなぁ。
遠距離からそれこそ範囲魔法撃ってこられたら・・・。
「妖精種がこの森を根城にしてるなら・・・
炎系魔法は使ってこないはず。
少なくともある程度知能があれば、炎がこの森では自分も危険になると理解してると思うよ~?」
さすが森都出身のミストレイだぜ、頼りになる。
ホントに恵まれてるんだよな、このパーティー、
一度解散でもしてしまえば、二度とこんなメンバー集めらんねーぞ?
「すると、アレン様、魔法を使ってくるとしたら土魔法か風魔法でしょうか?
まさか光や闇系を使ってくるとしたら、妖精種の中でもかなり上位の存在となりますが・・・。」
ミコノの言葉に僕は頷く。
やめて欲しいよな、そんな事態にならないことを望む。
そうこうしているうちに森の樹々の間に隙間が見えてきた。
この先は何も生えてない広いスペースがありそうな・・・
まさか、そこに・・・。
「待っていたんじゃぞ? 冒険者どもよぉぉ~!?」
え?
まさか・・・あれが妖精・・・?
あれが!?
・・・うっひょおおおおおおおおおおっ!!
さぁて、アレン様、実はこんな人でした。
どうですかね?
ヘタレ?
でも、そんな悪い奴じゃないと思いますけど。