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第百三十二話 いま、妖精さんの手前におりますの

本日のおまけ。


──彼らの前に現れた二体の異形・・・

一体は、衣装こそどこかの貴族のようなドレスに身を包んでいるが、

そのドレスの中身は骨と皮・・・というより骸骨同然だ。

そしてその皮膚も人間のものに見えず、どす黒く腐りきっているかのようにぐちゃぐちゃだ。

黄金色に輝く二つの眼球がこちらを凝視している・・・。


そしてもう一体・・・こちらは人間の姿をした枯れ木・・・という表現が適切なのか、

ただその顔面に眼球はない。

真っ暗な穴が二つ、目の位置に空いているだけ。


・・・すでに「彼女」は大地の上に倒れ、その目を開かない。

攻撃された様子はなかった。

出血や外傷もなさそうである。

あの骸骨のような女性? あの化け物に触れた瞬間「彼女」から意識がなくなった。

まるで瞬時に「生命」を奪われたかのように。


目の前の有り得ない現実の連続に、「彼」はパニックを起こす。

 「かっ、彼女に何をしたぁぁぁぁあああぁっ!?」


だが、その「老婆」はまるで無関心と言わんばかりに冷静だ。

 「・・・あたし達は、なぁんにもしてないよぉぉ?

 人間が、生身であたし達に触れたら、こうなっちまうってだけの話さぁ・・・。

 誰だって炎を指で触ろうとしたら火傷するだろう?

 それと同じ話さねぇ?」


 「い・・・彼女は生きているんだろうな!?」

 「さぁてねぇ? 生きているとも言えるが死んでいるとも言える。」

 「ふざけるなぁぁ!! 彼女を返せえええ!!」

男の心は恐怖に染まっていた。

もし、目の前の二体がこちらに攻撃の意志を見せていたなら、

男は一目散で逃げ出していたことだろう。

だが今現在、この二体はこちらを害する様子は見受けられない。

・・・まるで目の前で雀が戯れているのを微笑ましそうに眺めているだけだ。


だからこそ男はわずかな勇気を絞り出して腰元の剣を抜いた。

「生身で触れたら」? ならば剣でこいつらを切り裂くだけなら・・・。


だがここで静かだった枯れ木のような男が前に出て来る。

手ぶらだ・・・。

武器も持っていない。

姿形はやや長身だが、頑強そうにも見えない。

動きも緩慢だ・・・。


ならば・・・

 「邪魔だ! どけぇぇぇっ!!」

手加減する余裕などなかった。

けど腕の一本でも斬り飛ばせば・・・


だが・・・枯れ木の男はその剣筋を、見えない筈の目で追っただけで、

取り乱すこともなくその剣戟をその身に受けたのだ・・・。


 ガシッ!


 「はっ!?」


その剣は枯れ木の男の肩口で止まる・・・。

刃が食い込まない?

非力な子供が大木に全力で剣を振り下ろしても木の皮一枚削るだけ・・・

その程度の結果にしか過ぎないというのか?


バカな、

男はその膂力で今まで何十人もの敵兵を薙ぎ倒してきたというのに。


 「な・・・ならこれはどうだぁぁぁぁっ!?」

男の胸元の紋章が光り輝く。

逃げるように後ろに下がった男は、その距離から剣を振り上げる。

これまで、どんな局面でもこの技が切り札となって苦境を乗り越えてきた。

男はあらん限りの精神力を注ぎ、蒼い雷をその剣に纏わせる・・・!

 「喰らええええっ!!」

迸る放電が枯れ木の男を襲う!!


巨象ですら即死させるであろう圧倒的なエネルギー!!

まともに食らったのならどんな化け物であろうと・・・


・・・だが、

その「枯れ木」は文字通りそこに立ち尽くしたまま・・・、

ただ、何か水分でも蒸発してるのか、そのカラダから煙を幾分立ち昇らせているだけ・・・

 「・・・? こ、これ、なに? ビリビリ? 気持ちいい?」


 「そ・・・そんな?」


後ろからその場を眺めていた「老婆」が興味深げに口を開いた。

 「へぇ・・・面白い技を使うねぇ・・・?

 でも無駄だよ・・・いくら攻撃したところで、

 そもそもあたし達は生きている存在じゃない。

 そしてさらに言うなら、死ぬことを許されている存在ですらない・・・。」



ミランダさんと別れて私たちは森の中に足を踏み入れました・・・。

空気が街道にいた時よりひんやりします。

歩いているからいいのですが、立ち止まったりじっとしていると、寒さを感じるかもしれません。


先頭は狐獣人のオルベちゃん、

森の中の戦闘に慣れているハイエルフのミストレイさんも先行します。

オーガバスターズの皆さんは後方に陣取っています。




突然、オルベちゃんの足が止まりました。


 「オルベ、どうした?」

アレン様が問いかけます。

 「・・・ンヤハハハ・・・何ここ?

 突然、気温が更に下がったみたいな・・・

 生き物の気配は感じないけど・・・ここから先・・・何か変・・・。」


どういうことでしょうか?


 「ミストレイ? ライザ?

 君らは何か感じるか!?」


アレン様が二人のエルフに声をかけますが、

二人とも魔力的な気配は感じないとのこと。

ただ、ハイエルフのミストレイさんは、何か思うところがあったようです。


 「・・・ここ普通の森じゃないよ・・・、

 やっぱりおかしい・・・空間が変だ・・・。

 ごめん、口で説明できないけど・・・。」


私たちの周りを重い空気が包みます。

後ろでオーガバスターズの脳筋の皆様方がイライラしているようですけど、

危険や異常を察知したら、その対処を行うのが当然です。

冒険者に必要なことは、危険のリスクを極力減らす事なのですから。


ところが別の意味で、私の危惧をメリーさんがぶち壊してくれました。


 「問題ないわよ?」

 「「「「えっ!?」」」」


 「これはただの結界・・・。

 しかも人為的なものというよりは自然発生的なもの、

 何かを拒むわけでもないし、何かに害を与えるものでもない。

 単純に空間がねじれている・・・・言ってしまえばただそれだけ。」



 「メリーさんはそんなことも分かるんですか!?」

凄いですね、

一家に一台・・・いえ、一パーティーに一体くらい置いておきたいくらいです。


 「・・・人間だった時の私は感知系能力者だったもの、

 それと・・・もっと恐ろしい森に足を踏み入れたこともあるわ。

 空間が捻じれているどころか、それこそ、その空間自体が異世界になっているような、

 現実空間から隔離されたような場所にね・・・。」



もしかして私たちはとんでもない魔物と一緒に行動してるんじゃないでしょうか?

 「ち、ちなみにそんな場所では魔物とかはいなかったんですか?」

 「残念なことに、私がその森に入った時には何も残っていなかったわ、

 強いて言えば、不死の妖魔が暮らしていた痕跡だけが残っていた・・・。」


 「ふっ、不死の妖魔っ!?」

 「人間だった時の夫が生前、その妖魔たちに会ったことがあるの。

 夫も人間相手なら屈強の騎士だったのだけど、

 剣戟も雷の術法も無効化されたと言っていたわ。」


 「そ、それ、メリーさんの旦那様は妖魔を倒すことができたんですか?」

 「・・・逃げ帰って来たそうよ。

 情けなくも護るべき王女様を置き去りにしてね、

 もっとも向こうにしてみれば、夫の命になどなんの価値も見出せなかっただけ。

 おかげで・・・その王女様はめでたく闇の洗礼を浴びたわ・・・。」


なんか凄い話を聞いてる気がします。

闇の洗礼を浴びた王女?

あ、ライザが「闇」ワードに反応して目をキラキラさせてますっ!

でも私は教会の僧侶として話を聞き逃すわけにも参りませんっ!!

 「そ、その王女様はいったいどこの・・・。」

 「ああ、安心して?

 今の時代の話でもないし、あなたがたには干渉しようもない遠い世界の出来事よ。

 闇の洗礼と言っても、別に悪の手先になるわけでも、

 世界に害を及ぼす存在の訳もない。

 単純にそちらの世界と繋がりができたっていうだけの話よ。」


そこまで言われると、もう話を聞きだすのは難しそうですね。

すると今度は後ろから、オーガバスターズのカイゼルシュタットさんが話しかけてきたのです。

 「・・・なぁ、人形さんよぉ?

 そういうあんたはなんで人形になっちまってるんだ?」


一度メリーさんはスキンヘッドのカイゼルシュタットさんを・・・長ったらしいお名前ですね、

カイゼルさんじゃダメなんでしょうか?

あ、メリーさんはカイゼルさんに振り返ります。

話しかけたのはカイゼルさんのくせして、メリーさんに見つめられて背筋を逸らせてしまったようですね。

 「あ、・・・す、すまねぇな、言いたくねーなら・・・。」


それは私にとっても気になる話でした。

自動で動く魔物のゴーレムとは、私自身見た事も戦ったこともあります。

・・・意志あるゴーレムというものは話にすら聞いたこともないのですが、

もしかしたら広い世界に存在するかもしれません。

ですがそれはあくまでも魔物。

メリーさんのように、人間から人形に転生するなど有り得る話なのでしょうか?


あ、いえ、それはあくまでも私の興味の話ですね。

多分、これについてはライザも同じ欲求を持っているかもしれません。

ですが、カイゼルさんが聞いたのは、メリーさんが人形になった動機の方の話でしょう。


メリーさんは、それについて黙して語らないような素振りにも思えたのですが、

やがて・・・歩きながらポツポツと口を開いてくれたのです。


 「・・・言いたくない、というわけではないわ?

 単純に言葉にするのが難しいだけ。

 ・・・絶望・・・贖罪・・・逃避・・・憧れ・・・探求・・・。

 それぞれが正解のようでもあり、そうでないような気もする。

 ご期待に沿う答えじゃなかったかしら?」


 「い、いや、人の人生・・・それぞれ、あらぁな・・・?

 気にしねぇでくれ・・・。」


そうでしょうね、

きっと私には及びもつかない数奇な運命を歩んでこられたのでしょうか?


もともと・・・正直に言いますと、今回の妖精種討伐、

私はメリーさんを戦力として数えておりません。

いえ、メリーさんを侮っているという訳ではなく、

私たちの連携に、外部の人間が合わせる事などできないであろうという理由からです。

ですので、あくまで妖精種討伐は、私たち「栄光の剣」メンバーだけで行うつもりでした。

ですが、戦力としての話ではなく、このメリーさん、私たちの傍にいるだけで、その知識や経験は私たちにとって、とても重要な存在なのではないかと、私は思い始めたのです。




 「ンヤハハハ・・・獣道はいくつかあるよ~?」

 「オルベ、どうだい? 何か気配を感じるか?」

アレン様が気配に敏感なオルベちゃんに問いかけます。

ですが今のところ、彼女の耳や鼻にも何の異常も感じられないようです。


 「ライザやミストレイはどうだい?」

ダークエルフやハイエルフの二人は、魔力感知に長けています。

なので本来、高い魔力を持つとされる妖精種相手ならば、こちらの二人の方が相性はいいのかもしれません。

・・・ですが。


 「・・・何も感じない・・・妖精・・・いない?」

 「確かに敵が魔力持ちならあたし達の方が探索には適しているけど・・・

 高位の魔物には隠蔽系の魔法使うものもいるはずだよ?」


その可能性がありましたね。

低位の魔物なら、高い魔力を持っていたとしてもその存在は一目瞭然です。

鑑定系のスキルを持っているなら、すぐにでもそいつらを見つけられるでしょう。

むしろ高位の魔物になると、その魔力を隠蔽して人間社会の中で隠れて暮らすことまで出来るようになるのです。

そうなると、通常の感知系スキルではどうにもなりません。

それこそ、マルゴット女王のような魔眼持ちでもないと看破不可能でしょう。


しかしとなると・・・



 「心配無用よ?」


きゃっ、またもメリーさん?

 「メリーさん、何かわかるんですか?」


 「分かるというか・・・既に彼女のテリトリーよ・・・。」



 「「「「えっ!?」」」」

 「気づかない? もうあなた方は彼女の誘導に従って足を動かしているのよ?」



 「誘導!? どうやって!?」

 「その現象の詳細は分からないけども・・・

 スキルなのか、匂い・・・フェロモンのような物質を介するのか・・・

 少なくともあなた達の無意識に影響を与えて、

 あなた達は自分の意志で道を選んでいるようで、実際はその妖精の元に向かって進んでいる。」


そんなスキルがあるのでしょうか?

妖精の種族特性スキルかもしれません。


 「え、じゃあこのまま歩いていけば・・・。」

 「間違いなく妖精の元に辿り着く・・・

 でも・・・不意打ちは一切できないわね・・・。

 彼女はこちらを手ぐすね引いて待っているわ?」


 「上等じゃねーか!!

 返り討ちにしてやんよぉ!!」


え、カイゼルさん、この場合返り討ちという言葉に当て嵌まるのは私たちの方なんですけど・・・。


この脳筋の人たちは一度放っておきましょう。

 「アレン様、いかがいたします?

 私たちの接近が気取られているのなら・・・。」


アレン様は私の言葉に俯いて考えこんでおられます。

どの角度から見ても絵になる方ですね。

しばらくすると、アレン様は顔をあげてメリーさんの方に話しかけました。

 「メリーさん、君はここから自由に動いてもらった方がいいのかな?」


えっ!?

それはこの方をフリーにするという事でしょうか?


 「・・・そうしてもらった方がいいわね。

 どのみち、私はあなた達と連携など取れないのだから・・・。」


アレン様はニコリと笑います。

・・・ああ、こんな場所でなんと余裕のある・・・。


 「では頼むよ、もしかすると、君の出番はなくなってしまうも知れないけど。」

 「ええ、それならそれで構わないわ?

 頑張ってね。」


するとメリーさんは一度腰を落としました。

どうしたのでしょう?

まさか靴の調子でも・・・あっ!?


風が舞い上がりました・・・。

そこにメリーさんは既にいなくなっていたのです。

まるでいきなり消えたかのように・・・。

いえ、どこに行ったのかはわかります。

単純に目でその動きを追えなかっただけなのです。

見れば私だけでなく、オルベちゃんも、ミストレイさん、カイゼルさん達や、アレン様でさえも。


森の中へ姿をくらませたメリーさんを、私たちはキョロキョロ探すだけしかできなかったのです。





目的地が近いことは私たちすべてが理解していたと思います。

ですが相変わらず、私たちの誰もが妖精の存在を感じることは出来ませんでした。


・・・けれど、やはりこれは奇妙な現象と言って良かったのでしょうか?

先に異変に気付いたのは、感覚機能に鋭いオルベちゃんでした。

ただし・・・気づいたのは妖精とは何も関係ない出来事・・・。


 「ンナハッ!?  な、なにこの匂い!?」


オルベちゃんが気づいたのは異臭。

妖精が特別な臭いを発しているなんて聞いたことがありません。

もしかしたらそういう種もいるのかもしれませんが・・・オルベちゃんが気付いたのは、

もっと分かり易いものだったのです。


 「こ、これっ! 死臭・・・死体が腐った臭い!!」


どうやら・・・妖精は死んだ村人たちの遺体を放置しているというわけですね!?




 

メリーさんの説明にあった今回の「幻惑の森」と、元の世界の「黒き森」との違い


この森の外から、例えばレーザービームを放った場合、幻惑の森ではぐにゃぐにゃ進んで、森の外に突き抜ける。


メリーさんの言う「黒き森」では、

レーザービームが別世界へ飛び、元の世界には帰ってこない。

或いは「黒き森」が拒絶した場合、「黒き森」には入り込めずに森の範囲外へワープする。


そして次回から語り手、変更。

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