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第十三話 無垢なる王女イゾルテ

ぶっくまありがとうございます!!


挿絵(By みてみん)

イゾルテ登場!!

<視点 カラドック>


・・・ふう、衝撃的な話ばっかり続いていたな。


いま現在、私は宮殿の来賓室で休ませてもらっている。

食事の用意が整うまでの間だけね。

と言っても部屋に一人きりというわけではない。

扉の入り口付近でメイドの一人が微笑を浮かべたまま佇んでいる。


紅茶か何かありますか、と私が尋ねると、満面の笑みで彼女は応じてくれた。

部屋の外には衛兵もついている。

二人とも、私の世話や警護が最優先目的なのだろうが、当然、監視的な意味合いも持たされているはずだ。


別に後ろめたい事があるわけでもないが、先ほどのメッセージの内容を私は一人で吟味したかった。

そこに書かれていた異世界ミッションとは、どう考えても先の女王の頼み事に反する内容だと思う。

ならば、女王が詳細な内容を私に語って聞かせた後だと、もしかすると私に断りづらい結果を招くかもしれない。

だからそうなる前に、この異世界ミッションとやらの正体を掴みたかったのだ。


ミッションと銘打つならば、

そして、このメッセージを送りつけたのが、私をこの世界に送り込んだ者ならば、

そのミッションを成功させた時、その報酬として元の世界に戻れる事を考えるのは不思議でも何でもないものね。


メイドが紅茶を用意する間に私はメッセージを開いていた。

別に見られてもいいのだけど、彼女には私の目の前に浮かぶウインドウは見えないようだ。

つまり、そこに向かって私が指を這わせる姿は、彼女からは異様な光景に見えるんじゃないかなと思うんだよね。

まあ、気にしては負けだと思うことにしよう。


さて、問題はそのメッセージの中身なのだが・・・



そこにはマルゴット女王の話に、負けず劣らず信じられない内容が書かれていたのだ。


信用できる根拠はどこにもなかったが、

元の世界で時間経過がストップしているという事、

心臓に刺さっている白羽の矢が無害だという事は、かなり私の心を落ち着かせた。


マルゴット女王が私の母と如何なる関係なのか、

この世界が元の世界と、いわゆるパラレルワールドのような関係なのかについては一切説明がない。


元の世界で私が使役したサイキックや術法の体系が、こちらでは魔法とかスキルとして確立されていることはどうにか飲み込むことができた。


そして一番大事なミッションとやらについてだが、内容に関しては何も情報が記されていないというのはどういうことなのか?


ただ一点、成功報酬にだけは言及があった。

それもあり得ないほど抽象的に。


 『成功報酬:あなたの心の呪縛の解放』


メイドが淹れてくれた温かい紅茶を口に含む。

ちょっと鼻につく癖があるが、慣れれば病みつきになりそうな香りかもしれない。


落ち着こう・・・。


私の心の呪縛の解放とは何か?

私の心が何かに囚われているとでもいうのだろうか?


その心当たりは・・・


国の政治は大変だ。

気の休まる暇もない。

だが、既に大陸最大の領地を手に入れ、周辺には未だ戦火の残るところもあるが、

全体的に俯瞰すれば、ほぼ順風満帆な状態と言っいいだろう。


愛くるしい妻も健康だし、最愛の息子ウェールズもすくすくと育っている。


そう、何もかもうまくいっている。


・・・今現在は。



目をさらに拡げるならば・・・


 ズキン


胸が痛い・・・。

心の中がざわつく・・・。

私の中にあるべき何かがぽっかりと喪失している。


素晴らしい家族、

有能な家臣、

誇るべき将兵、


だが、足りない。

あいつがいない。

なぜ、私の傍から消えてしまった・・・

なぜ、いなくなってしまったんだ・・・。


思い浮かぶのは・・・私の腹違いの弟のことだ。

もう、この世には・・・いない。


私が父から国を継いだ後、恭順の意を示さない国への対応に向かった弟は、直属の部下の裏切りに遭い、その想い人と共に命を散らせてしまった。


まだその仇も討ててはいない・・・。


家族として・・・

確かに私たちは完全ではなかっただろう。

弟は父をずっと恨んでいた。

みんなそれを知っていた。

それでも、弟は他人のいるところでそれをひけらかすような短慮ではなかったし、母親が違う私を心底頼ってくれていた。


望めば国の中央で、私に次ぐ地位と権力を持つことも出来たのに、彼は少ない手勢で政情不安定な僻地に自ら赴いたのだ。


結果的にそれが仇となった。

それが弟の部下たちの不満を一気に膨らませてしまったのだ。


戦争が終わり、やっと息をつくことができ、

これから栄華を存分に浴びれるはずだと、全ての将兵たちが思っていただろう。


それが弟の、

「献身的かつ自己犠牲の精神」に巻き込まれ、再び命の危険に晒される戦場に連れていかれることの理不尽さ。

彼らがそんな心情に陥ったとしても、不思議なことは何もない。


何が賢王だ。

何故、そんなちょっと考えれば気づきそうなことに私は思い至れなかったのか。

父から広大な国を受け継ぎ、美しいラヴィニヤを妃に迎えられた事で浮かれまくっていたのだろう。


そんな私を待ち受けていたのは、


遠方からの弟の死の知らせ。



母親の違う私に、弟が微妙に距離を取っていたのは私にも感じ取れていた。

それでも元来、弟は寂しがり屋の性格だったのだと思う。

弟は家族や仲間を異常なくらい大事にした。

いつも誰かを必死に守ろうとしていた。

若くして亡くなった彼の母親の分まで、弟は自分に繋がる者を守っていたんだ。

そして私が兄弟になった。


もちろん、一人っ子として育てられた私に、母親が違うとはいえ急に現れた弟の存在は、私が意識するまでもなく、私の中で大きな存在になっていた。

弟としても、男性の一人としても、誰に紹介したとしても立派なヤツだと自慢できる。


だのに彼を助けられなかった・・・。


私の中にある心の呪縛、

それはやはり弟の事に関係あるのだろうか?


ミッションとやらと、女王の頼み事は、今の段階では正反対の内容に見える。


だが、あの場にいた母にそっくりなマルゴット女王、それに私に顔立ちが似ているあの三人の兄妹。


その繋がりが・・・

私の心の呪縛を解くカギとなるのだろうか?


彼らを、弟と・・・妹と、母親と、

私に彼らと家族になれとでもいうのだろうか?


私が救うべきは、

勇者なのか、彼ら家族なのか、

そして私自身なのか・・・

答えはどこにあるのだろう。



情報を整理している間、恐らく本人達には聞き辛くなりそうなものをメイドから聞いてみた。


 「差し支えなければ聞かせて欲しいのだけど、

 マルゴット女王の夫というか、王子達の父君はどうされているんだい?」


宮廷での会話の中では殆ど言及されていなかった。

身分や立場によっては、外遊や遠征などに行っていることも考えられよう。

だがあの空気の中では、既に存在しない人という雰囲気が感じられたのである。


そして私の予感は正しかった。


 「マリン大公・・・のことですね、

 ・・・はい、五年程前ですが、隣国との戦争で敵の罠にかかってお亡くなりに・・・。」


嫌な話だ。

タイミングが悪すぎる。

そして、更に私をこの家族に同情させる気か。


もはや作為的ですらある。

あの母親、

あの王子や王女、

間違いなく幸せな家庭を築いていたんだろう。

国王だとか、政治などに関わらない立場でいられたら、笑顔の絶えない家族でいられたろうに。

夫である太公を失った後、妻である自分が国を受け継ぎ女王を名乗ったというわけか。


そう考えるほど、母は強し、

さすがは私の母親の似姿を持っていると思えてくる。


その内、召使いのような初老の男性が食事の用意が出来たことを伝えに来た。


それはいいが、背後にイゾルテ王女が控えている。

一緒に迎えにきてくれたようだ。

心遣いは嬉しいが、王女の取る行動ではないと思う。

まあ、あのやりたい放題の母親の娘なら知らず知らずのうちに影響受けるのだろうな。

誰か注意してあげようよ。


 「カラドック様!

 食堂までご案内いたしますわ!」

挿絵(By みてみん)


 「あ、ああ、ありがとう、

 王女イゾルテ殿ですよね?」


彼女はカラダを前かがみにして右手を胸に当て、左手はドレスの脇をちょっと持ち上げる。

この国の正式な挨拶のポーズということだね。


ぱぁっと満面の笑みを浮かべるイゾルテ。

本当に嬉しそうな表情だ。


 「まあ!

 まだちゃんと紹介いたしてもございませんのに、もう私の名前を覚えていただいたのですか?

 光栄でございます!」


年相応といえばそうなんだろう。

見た感じ、まだ15歳くらいだろうか?

さて敬愛されるべき兄とするなら、ここで何と答えようか。


 「可愛い家族が増えるかもしれないんだからね、

 名前や顔くらい一発で覚えられるさ。」

 「そ、そんな!

 か、可愛いだなんて、お世辞でも嬉しいです・・・。」

挿絵(By みてみん)


あらら、

側から分かるくらい顔を真っ赤にしちゃって・・・


いいんだよね、

兄として?

変なフラグ立ってないよね?


その後、食堂までの道すがら、案の定イゾルテはいくつもの質問の嵐を浴びせてきた。

代表的なのはこれ。


 「それでカラドック様はもうご結婚されてるのですか?

 お妃様はいらっしゃるんですか!?」


若い女の子に聞かれる定番の質問だよね。

 「ああ、食事の席で聞かれるかと思っていたけどね、

 ぽやんとした天然の奥さんと、ようやく言葉を喋り始めた息子がいるよ。」


 「本当ですか!?

 天然て、クスッ、あ、ごめんなさい!

 和み系の奥方様なんですね、

 小さいお子さんも見てみたいです〜!」


良かった、普通の反応だ。

 「この国では結婚はいくつぐらいからなの?

 長男になるのかな、コンラッド殿はこれから?」

 

似たような話題で返したつもりだったが、今回は少々短慮だったかもしれない。


 「コンラッド兄様は今年で21になります。

 結婚してもいい年齢なんですけど、本人がまだお子様なのか、その気がなさそうで・・・

 それに、国で大きな問題が抱えてますから・・・。」


そう言ってイゾルテは顔を曇らせた。


しまったなあ、

王子ともなれば、国内外のゴタゴタを無視できないものね。


 「あ、ごめんね、

 立ち入った事を聞いちゃって・・・。」

 「いえ、気になさらないで下さい。

 どうせ、この後、聞いていただきたい事でもありますし・・・。」


ううむ、どうしようか。

次の話題に変える取っ掛かりが掴めない。

だが、タイミングは丁度良かったのだろう、

先を歩いていた初老の召使いが、こちらに振り返って食堂に着いたことを教えてくれた。


その後、彼は大袈裟な動作で扉をノックをする。


 「お待たせいたしました!

 ただ今カラドック様をご案内いたしました!」




次回、カラドックによって語られる、天使シリス編のストーリー(ネタバレ)


話が長くなりそう・・・どこで切ろう・・・。

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