第百二十七話 お話を聞かせて頂きます
ぶっくま、ありがとうございます!!
思いっきり門番の方に警戒されてますね。
確かに私たちの一団は商人にも見えないでしょう。
ですが、だからと言ってそんな警戒した目で見なくても・・・あ、
これはいけません。
どうやらオーガバスターズの皆さんの雰囲気が、そこら辺の山賊と区別できないのかもしれません。
これは私もうっかりしておりました。
「アレン様!」
ここはもっとも交渉役に適した私とアレン様で対応すべきです。
「ああ、ミコノ、一緒に来てくれ。
オーガバスターズのみんなは後ろにいてくれるかな?」
まがりなりにも私とアレン様は貴族の血筋。
このような田舎の門番とは言え、私たちの醸し出す雰囲気が見抜けないこともないでしょう。
まずは私が柔らかくご挨拶させていただきます。
「突然の訪問でびっくりされたかもしれませんが、
私たちはグリフィス宮殿からの依頼で、バラナ高原に参った冒険者の者です。
・・・アレン様。」
私の言葉に促され、
馬車から降りた降りたアレン様はギルドカードを示します。
「・・・冒険者・・・Bランクだって!?
あんたら、こんな辺鄙な村にそれこそ何しに・・・まさか?」
「この村の近くに幻惑の森というのがあるらしいね、
その調査さ。
・・・何でもそこに妖精種が根城にしているんだって?
可能なら討伐しようと思っている。
できればこの村で一泊させてもらえるとありがたいのだけど・・・。」
そこで門番の人は複雑な表情をしていました。
わたしたちを通していただけないのでしょうか?
村にとっても助かる話だと思うのですが・・・。
「お疑いなら、こちらがギルドの依頼票となっています。
発注はご覧の通り、宮殿となっています。
・・・もしや宮殿からの依頼を無下になさるようなことはございませんよね?」
私自身、権力を笠に着るような真似はしたくありませんが、
この場は、私たちを村に入れた所で彼らに不利益は存在しない筈。
こんな所で足止めされるわけにも行きません。
さっさと村に入れてくれないでしょうか?
「い、いや、あんた達を拒否するわけじゃないんだが・・・
この村にはあんたら大勢を泊めるような宿屋もないんだ・・・。
だが、長老のところなら夜露をしのぐ広間が使える筈だ。
村に入る分には構わないが、出来ればこの後、長老宅に向かってくれないか?」
そういうことでしたか、
こちらは・・・オーガバスターズの皆さんは別にして、
アレン様並びに華やかな女性陣が揃ってますからね、
この村に来ること自体が場違いに感じたのでしょう。
・・・まぁそれで完全に納得したつもりもありませんが。
「まぁ、それはご丁寧にありがとうございます!!
門番の方がご親切な方で助かりましたわ!」
とりあえず、私は満面の笑みで門番の方にお礼を申し上げました。
「あ、ああ、いえ、そんな、大したことじゃ・・・
おい、お前、長老の所に先に知らせてこい!!」
門番の方は、後ろに控えていたもう一人に指示を出していただくと、
年の若いほうの方は、恐らく長老の方のところへ急いで駆けてゆかれました。
交渉は滞りなく済みましたね。
「ンヤハハハハ、さすがミコノだね、
あの門番、途中からミコノの胸に目が釘付けになってたにょ。」
「まぁ、オルベちゃんたら、そのような品のない発言はいかがかと思いますよ!?」
ええ、まぁ、気づいてましたけどね。
神に仕える者として無暗にひけらかすつもりはありませんが、この程度で話がスムースに進むのなら、私のカラダごとき幾らでも使わさせていただきますとも。
・・・ただそれをアレン様の目の前で指摘することはないでしょう?
ほら、アレン様が恥ずかし気に視線を逸らしてしまったじゃありませんか!
あ、はい、アレン様・・・それはそれで可愛いです。
若い門番の方が駆けて行った方向に馬車を進ませると、
周りの民家から、パタン、パタンと、老若男女、それこそ子供も老人も私たちを物珍し気に見物に出てこられました。
・・・それはいいのですが・・・歓迎されている気は一切しません。
みんな表情がとても暗く、「何しに来たんだ、こいつら」オーラが辺りに漂いまくっています。
しかも、みんな健康そうに見えません。
病気というより、まともに食事をしていないんじゃないかというぐらい、痩せた人たちばかりです。
いつもだと、陽気なオルベちゃんとミストレイさんが、辺りかまわず手を振ったり笑顔を振りまくところですが、彼女達もこの村の異様さに呑まれて、笑顔がとてもぎこちないことになってます。
こういう時、普段からいかつい顔をしているオーガバスターズの皆さんは得ですね。
きっとこういう場所ではどこでも歓迎されてないのでしょう。
「ああ!?」と村人たちを威嚇すると、村人たちは家の中に逃げるように隠れてしまいました。
馬車を5分ほど、ゆっくり走らせたところでしょうか、
目の前に大きな屋敷が現れました。
といっても、横に広いだけで平屋建築のようです。
この辺りは木々がたくさん茂ってますからね、木造建築が主体のようですね。
狐獣人のオルベちゃんやハイエルフのミストレイさんは、こういう環境が大好きだそうです。
あ、それはどうでもいいですね、
目的と思われる屋敷の前には何人もの人間が待ち構えておりました。
私たちの真正面に腰が曲がり始めた程度のご老人が立ち尽くしております。
あの方が、この村の長老様でしょうか。
では先程と同じく、アレン様と私でご挨拶といたしましょう。
ところが、私たちの誠意を込めた挨拶にも、この長老様はジロリと厳しい視線を返してきたのです。
「話は聞いた。
・・・この屋敷に泊まってゆくのは構わん。
だが、明日朝一番で村から出てってくれぬか?」
これはさすがにショックでした。
地方の小さい村で、よそ者が信用できなかったり、排他的な集団が形成される話は稀に聞きます。
ですが、ここは小さいとは言え公都からそんな離れているわけでもなく、ましてやこちらは近隣に住まう魔物を排除しに来たというのに。
アレン様が当然のように抗議します。
「待ってくれ、
何か話を誤解してないか?
こちらは人間に害為す魔物の討伐に来ているんだ。
君たちに不利益は一切掛からないし、魔物がいなくなった方が君たちの生活も安全になるだろう?」
「・・・誤解ではないようじゃな、
そもそも、あんたらで森の妖精に勝てると思っているのかね?」
「・・・それは・・・僕らBランク程度の冒険者じゃ勝ち目はないと言っているのかい?」
そこまで今回の敵は強力という事なのでしょうか?
「だいたい、あんたらどこまで妖精の事を知っておるんだね?」
「それは・・・。」
私達の反応に、長老さんはため息をつかれました。
どうやら私たちは、彼の期待に添えなかったという事でしょうか。
しかし、ここまで来て帰るわけにもいきません。
「・・・とりあえず、中にお入んなさい・・・。
茶ぐらいは用意しよう。」
私たちが通されたのは、広い寄り合い所のようなスペースでした。
実際に村で会合があったりすると、使われることになる大部屋とのことです。
厩舎の方に馬を繋いだ後、
私たちは、二つのパーティー毎に長老様とその家族の方々から、お茶をいただきました。
「せっかくここまで来なすったんだ、
夕飯ぐらいご馳走してやりたいのは山々なんじゃがね・・・。」
「あ、い、いえ、それはお構いなく・・・、
宿を提供してくれるだけで・・・。」
これは本心です。
あの栄養不良の村人たちの姿を見てしまえば、歓待しろなどと口が裂けても言えません。
それよりも・・・。
「お話を・・・聞かせていただけるんですね?
僕らが知らない話を・・・。」
長老様は頷くことすらせずにアレン様を見据えていらっしゃいます。
どうやら思ったより、話は重大なのかもしれません。
「先にはっきりさせておくとしようか、
あんたらが言っている魔物というのは・・・この先の森に住まう・・・妖精のことで間違いないのかね?」
「そうです・・・、既にいくつかのパーティーが消息不明になっていると聞いています。」
「ふむ、・・・あれは、もう三年も前になることじゃったかな、
そもそもこの村の近くに、迷いの森と呼ばれる土地が、ずっと前から存在してるのは誰でも知っておる話じゃった。
もっとも、迷いの森とは大層な名前じゃが、危険はそれほどなかったんじゃ。
希少な薬草などが獲れるしな、
普通に迷ったとしても、夜を明かすのに十分な装備を整えておけば、餓死や凍死したりせずに、何日か後には村には帰ってこれる程度のものじゃった。
ん? 魔物かね?
もちろん、コボルトやスライム、ホーンラビット程度の魔物はおるがね、
これも成人男性で武器をそれなりに使いこなせば、死なない程度にはどうにかなっておったのじゃ。
そんな時、ある猟師が迷いの森の中で、生まれたばかりの赤ん坊のようなものを見つけたと言ってきおった。
その赤ん坊の周りには、毛布の代わりに幾重もの巨大な葉っぱで包み込まれておったそうじゃ、
猟師にしてみれば、こんなところで赤ん坊を放置など出来なかったので、とにもかくにも、その森からこの村へと運んで何らかの保護をしようとしたんじゃがの、
その猟師が、赤ん坊の周りの葉を剥がそうとした時、それまで眠るように静かにしていた赤子の目が、突然ぱっくりと開いたのじゃそうな。
ところが、その赤子の目は人間のそれではなく、赤紫の眼球で・・・それは間違いなく敵意のようなもので、猟師に対し唸り声をあげたという。
恐ろしくなった猟師は、逃げるようにその場を去った。
その後、森の中を迷いながらも、その猟師は三日目にはこの村に帰ってきた。
最初は誰もそんな話を信じなかった。
おおかた、変なキノコでも食べたのだろうと、みんなで笑っていたものよ。
それから3か月後くらい後の話じゃ。
今度は別の猟師が夜の森の中を彷徨っていた時、
森の中のある場所がやけに明るいことに気付いたそうじゃ。
誰か他に人間がいて、ランプでもつけたのだろうかと、その猟師が明かりを頼りに進んでいくと、
なんと森の真ん中で、小さな子供がまるで踊りでも躍るかのように、一人で遊んでいたのを見つけたのじゃ。
びっくりした若い猟師は、それでも先に話した別の猟師が子供を発見したのを思い出して、
それが間違いなく、いま目の前にいる子供の事だと確信できたようじゃ。
それはとても幻想的な光景じゃったという。
夜の森と言えば、本来、二つの月が森の樹々を照らすのが当たり前の景色じゃ。
ところが、そいつが見たのは、まるで『もう一つ』の月が地上に出現したような、
子供の周りを薄い光の膜で覆われている・・・
そんな不思議なものだったそうじゃ。
しばらくして我に返ったそやつは、当然のごとく悩んだ。
こいつは何者だ?
三か月間、一人で生きていられるのだから、ただの赤ん坊のわけがない。
魔物? 妖魔? それとも妖精?
そして次に判断すべきは、その子供に気付かれずにここから離れることは出来るか、
それとも声をかけてコミュニケーションを取るべきか、
そのどちらだろうか?
ワシの知ってるそやつは気の小さい奴じゃった。
本人は自分から声をかけたと村の連中に自慢していたが、
わしは、最初逃げようとしたんだと思っとるよ。
そして恐らく見つかったんだろうなぁ
それで引くに引けなくなったんじゃろ。
もう事の真偽は確かめる手段もないし、どうでもいい話でもある。
とにかくそ奴は、森で『彼女』と出会ったのじゃ。」
メリーさん「出番がない・・・ いま、私どこにいるの?」
いますよっ、この会話シーンの後ろの方に佇んでますよっ!!