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第十二話 魔眼の女王マルゴット

<視点 カラドック>


宮廷の空気に異変が!

急激に温度が下げられて行く!!

氷系サイキックか!!


そして私に向かって、白い植物のような蔦を巻き付けた形状の巨大な氷柱が襲い掛かる!


さて、と、

通常、氷には火で対抗と考えるかもしれないが、それは浅はかすぎる手段だ。

実際は氷と炎がぶつかったって両者はそれぞれを透過するだけの話。

術者は相討ちとなるのが相場なのだ。

いくら高温だろうと氷はそんな瞬間的に融けやしない。


水ならばどうかって?

ところがこれも悪手。

理屈では相性はいい。

だがこれも氷を融かすからではない。

継続的な激しい水流は、氷の塊など吹き飛ばすだけの理由。


もっとも、それは継続的な水流を維持できるという前提での話だ。

1の力で生み出された氷の塊を吹き飛ばすのに、1×維持する時間分の精神力を必要とするのだ。

効率が悪すぎるのである。


仮に同体積分の・・・いわゆる同精神力分の水と氷がぶつかったら分子の結び付きが強い氷の勢いが勝る。(現実には氷系魔法の方が難易度が高いとされているので、この説明通りになるとは限らないケースもある)


では答えは何か。

それは氷には氷である。

先手を取られたが勝機はある。

ここで反撃といこう。

こちらにダメージが届かないタイミングで同じ氷系サイキックを発動!


女王と私の中間地点から私寄りの場所で、植物の蔦を模したような氷の塊がぶつかり合う!!

発動が遅れた分、私に近い場所でせめぎ合うのは計算の範囲内。


心配すべきは、

女王と私のどちらがエネルギーが上かという一点。

そこに圧倒的な差さえなければいい。

なぜなら力が拮抗することによって、不利になるのは女王側になるのだから。



 「さ、寒い〜!?」

 「ううう〜!!」

 「は、母上おやべぐだざい〜!!」


巻き込まれるのは女王の子供達と重臣達!!

この宮廷が広いとは言え、これだけ大量の冷気をニ人の術者が放出するのだ!

この広間はもはや巨大な冷凍庫!

自ら放った術には保護シールドも発生するが、その防護壁を持たない者には耐えられるはずもない!!



そして・・・


無益な行為を悟ったのだろうか、

女王の力が小さくなる。

ならばこちらも対抗する理由はない。

私も女王に合わせ、サイキックの発動を徐々に停止した。


静かにはなったが、私たちの目の前には互いが創り出した氷の彫刻が、圧倒的な存在感を醸し出している。

もっとも、二人して同じ系統の術を使ったことによる相乗効果もあるのだろう。

自分の予想を上回る演出になったようだ。

今や、サイコエネルギーの供給が無くなった為に、気化するドライアイスの如く、絡み合った氷の蔦から白い霞が立ちのぼる・・・。


これでようやく話し合いを続行できるのかと思ったんだけどね。

いや、ここから話し合いが再開できたのは間違いないんだよ。


ただこの先の話は、

私にとって全くの予想外への方向へと流れてゆくことになる。


いや、私にとって、ではないな。

この先の展開は、

女王を含めこの場にいる全員が予想すら出来なかったに違いない。


 「カラドック国王よ、

 そなた、いったい何者なのじゃ?」


最初その言葉の意味が分からなかった。

だって先程魔眼とやらで、そっちが鑑定したばかりだろう?

私がそんな表情をしていると、

女王はさらに驚くべきことを告げたのだ。


 「妾が問うているのは、

 何故そなたの魔力のカタチが、妾と同じ姿をしておるのか、ということなのじゃが。」


私はその言葉でようやく意味を理解した。

周りの人間にはまだ何のことか分からないだろう。

同じ術を起動した私だからこそ理解できる言葉だ。


私と女王が残した氷の彫刻を見渡す。

既に互いに衝突した地点は氷同士結合している。


どこからどこまでが、

どちらのサイキックによって形成された氷なのか、

それを判別出来る者などいないだろう。


そう、

区別など出来やしない。


私と女王が生み出した氷の彫刻は、

まるで同質の思念エネルギーを持つ者が、

全く同じ術を使用したかのような姿のだ。


サイキックエネルギー・・・そう、この世界で魔力と言われるらしきものは、本来誰にでも微弱に存在しているもの。

それを体内に認識し、循環させ、外部にエネルギーとして変換、放出するのには、途轍もない才能と努力がいる。


そして今回のように、外部に痕跡を残すことになる場合には、その人間そのものの癖というか、無意識的なレベルでの形状パターンがそこに現れるのだ。


指紋ほど、はっきり区別できるようなものでもないが、一般常識的な区別しやすさとしては、筆跡と同様程度には個人特定の判断基準にすることはできるだろう。


この場合でいえば、

女王と私との魔力のカタチは・・・他人からはほとんど区別することなどできないレベルに違いない。


女王は私の答えを待たずに足を一歩踏み出す。

 「可能性の一つ、

 そなたのスキルに、相対する者、

 或いはその目で見た魔術をコピーするようなものがあるとでもいうのか・・・。」


私は警戒心を消さないまま答えを返す。

 「そんなものはありません。

 今のは自分が身に付けている術の一つです・・・。」


 「確かに妾の魔眼でも、そなたにそんなスキルがあるとは読めぬ。

 では聞こう。

 今のは一般的に使われる氷系魔法ではなかった。

 精霊魔術・・・それも呪文の無詠唱という超高等テクニック。

 その術を誰から教わった?

 まさか独力で身に付けたという事もあるまい?」


答えるのは簡単だ。

私は魔女とまで呼ばれた母から全てを受け継いだ。

だがそれを言っていいのか?

異世界云々は別にして、

心配なのは母の名前を出して、母に何らかの迷惑をかけることである。

いや、・・・そんな事を気にする母ではないな、

どんなトラブルも嬉々として相手に100倍のトラブルとして返す人だ。

いいだろう、

ウェールズの田舎に引っ込んでいる母の名誉の為にも、盛大に言明しておこう。


 「異世界の女王よ、ならば明かそう。

 このカラドック、その身に宿すサイキック、

 すなわち・・・あなた達の言うところの魔力は、『ウェールズの魔女』フェイ・マーガレット・ペンドラゴンより受け継ぎしもの!

 そして彼女こそ、このカラドックを産みし母である!

 その数多の術式・知識は全てこの身に継いでいる!!」


その場の全員の反応が私の予想を外していた。

てっきり矢継ぎ早に質問の嵐が来るかと思っていたのだ。

ところが全ての人々の動きがきょとんと止まっている。

それどころか目の前の女王すら何やら驚いているようだ。


ようやく、

しばらくしてから周囲より母の名前が連呼される様子が窺え始めた。


どういう事だ?

ここは異世界だというのに、母の名前が知られているとでもいうのか?

視線を女王に戻すと、何やら彼女の肩が揺れている。


・・・笑っているのか?


 「ふふふ、ふふははは、

 面白い! これは面白い!

 カラドック王よ、そなた妾の名前を知っておるか!?」



ん?

そう言えばまだ聞いていなかったな。

すると、彼女は更に私に近づき、

その顔のベールを外し自らの素顔を晒してみせたのだ!


 「名乗ろう!

  妾の名はフェー・マルゴット・ペンドラッヘ!

 このグリフィス公国の女王である!!」





・・・え?

え? え? ええええっ?



・・・時間を止められたのは今度は自分の方だ。

何しろ目の前にいる女王を名乗るその女性の顔・・・

女王と名乗るにふさわしい、高貴でいて自信に満ち溢れたその容貌、

それは15才になるまでこの私を育ててくれた母、

フェイ・マーガレット・ペンドラゴンその人だったからだ!!


というか、マルゴットって・・・

単純に読み方変えただけで・・・


反射的に跪いた私を誰が咎める事ができようか?

 「は、母上ぇっ!?

 お、お久しぶりでございます!

 お元気そうで何よりですが、

 いささか悪戯が過ぎますでしょう!?

 今や私も一国の王なのですよ?

 事は周りにも迷惑・・・が・・・?」


そこで辺りを見回してみた。

そろそろ「ドッキリ大成功!」なんて看板持ったピエロが現れるかと思っていたのだが、どこにもそんな様子がない。

思わず再び女王に視線を戻すのだが・・・


 「いや、

 ・・・母上の瞳は透き通るような青い瞳だった・・・

 プラチナブロンドの髪は染めていたのかもしれないが・・・。」


私は心ここに在らずといった状態でよろよろと立ち上がる。

あまりに衝撃的な事実が次々に起こり、それらを理解するという作業を放棄してしまいたくなったのだ。

 「母上では・・・ないの、か・・・。」


マルゴット女王は薄い笑みを浮かべたままだ。

この状況でも笑っていられるというのか?

異世界から突然現れた男に、いきなり母上と呼ばれたと言うのに。


 「カラドック王よ、

 何やらそなたの母上と妾は瓜二つというのか?

 髪の色と瞳は異なるのか?」


マルゴット女王の瞳は、

元の世界ではお目にかかったことのない紅玉のような赤い瞳だ。

魔眼とやらに関係あるのだろうか?

髪の色は娘のイゾルテ同様、美しい亜麻色の髪。


 「は、はい、

 あと、喋り方はもっと砕けた感じというか、甘ったるい喋り方というか、それと息子の私が頭痛を覚えるくらいの悪戯好きです・・・。」


すると何の警戒心も見せずに、女王は私の目の前までやってきた。

先程からの重臣達が慌てるも、あらかじめ女王は彼らを制す。


 「慌てるでない。

 確かにいきなり母上呼ばわりされれば妾も疑念を覚えよう。

 じゃが先程の魔力・氷術を見せられた後なら、此奴の言葉を疑う気にならん。

 これ、コンラッド、ベディベール、そしてイゾルテよ、

 このカラドックの横に並んでみよ。」


そそくさと照れた笑みを浮かべてイゾルテが私の横に並ぶ。

他のニ人の王子たちは、何をどうしていいか分からずに私の一歩後ろにつくが・・・


確かに他人のような気がしない・・・。


似ているの・・・か?

恐らくベディベールという少年が弟の方か、

兄と思われるコンラッドと私の顔を交互に見比べる。

と思ったら、コンラッド、

こっちはこっちで弟のベディベールと私の顔をキョロキョロ確かめあってるではないか。


そうしたら兄のコンラッドはとんでもないことを言い始めた。

 「は、母上、まさか父上の他に・・・。」


おい、やめるんだ、

それ以上はダメだ。


 「ほーほっほっほ!

 安心するが良い、妾の愛する息子どもよ、

 これでも結婚してからはお前たちの父親以外の男とカラダを重ねてはおらぬ。

 この妾の友たる妖精たちに賭けて誓おうぞ!」


え、いや、結婚してからって、

それじゃあ結婚前にはズブズブってことじゃあないですかー


・・・いまのは私のキャラじゃなかったな。

ダメだ、かなり動揺しているようだ。

本当に喋り方以外は、まさしくうちの母親並みと思っていた方が良さそうだ。

ていうか、息子たちも母親の行動パターン理解しているっぽいな。

きっといろんな事で苦労しているんだろう。


・・・うん、

急にこっちの青年たちにも親近感が湧いてきた。

イゾルテなんかは私を見上げて先程以上に目をキラキラさせているぞ?

兄が1人増えたとでも思っているのだろうか?


やがてマルゴット女王は私の目の前に立つ。

言葉は何もなかった。

いや、これ以上、何も確かめる必要などないということなのだろう。

彼女は、

しげしげと私の顔を見つめた後に、ギュッと私の両肩を抱きしめたのだ。


拒絶しようという感情は私には芽生えなかった。

元々気に入った人間には老若男女構わずハグするような人だ、

・・・私の母の話だが。


それでもこの抱擁には、それ以上の意味が込められている事ぐらい私にもわかる。


それに思い出した。

・・・母の匂いだ。

間違いない。

理屈ではなくカラダが覚えていたのだ。


 「改めて歓迎しよう、異世界の息子よ、

 先ほどの運命・・・の話じゃが、ますますその運命とやらを信じたくなった。

 そなたの母親というマーガレットという魔女は、きっと異世界におけるもう一人の妾、なのであろう?

 妾たちの一族の危機に、神か・・・

 それともそなたの母親が、こちらにそなたを遣わせてくれたと思いたいのじゃ・・・。」


宮廷の空気は完全に変わっていた・・・。

まだ半信半疑の重臣たちはいるようだが、半数以上の人間が、にこやかな笑顔を浮かべ私を歓迎している。


そしてそれはもちろんこの私においても・・・


 「マルゴット女王、

 一族の危機とは・・・。」


最初は関わり合おうなどと思っていやしなかった。

これが私をスカウトする為の演出だというなら、完全にこのカラドックの敗北である。

私より相手が二枚も三枚も上手だったという事。

だが、私には女王の言葉を疑う気など、もはや起こりえる筈もなかったのである。


そう、疑う気は起きなかった。

だからこそ、これから起こることは、私にとって苦渋の決断を迫る話となりえたのだ・・・。


女王は私に優しく微笑む・・・。

 「場所を変えようぞ、

 これより食事の用意をいたす。

 妾の家族たちとテーブルを供にしよう。

 そこで話をしたいと思う。

 妾たちの歓待を受けてくれるな?」


 「はい、喜んで・・・。

 ただ、そちらの願いを聞けるかどうかは・・・。」

 「よい、

 まずは互いの家族の話で盛り上がろうではないか、

 だが心の準備もあるだろう、

 先に、何故召喚術まで用いて『新たな』勇者を求めたのか、いま、ここで告げようと思う。」


私の背後でイゾルテが叫び声をあげる。

 「母上様!!」


女王はイゾルテに一度視線を送ったが、一瞬だけ悲しそうな顔をした後、しばらくして、もう一度、私の顔を見つめなおした。

そして彼女の美しい唇が開く・・・。


 「この世界の・・・勇者を倒して欲しい・・・!」



ピンピロリーン!


 なんだ?

 私の眼前にいきなり文字が!?

 

 『メッセージを受信しました。』


なんだ?

なんなんだ、これは!?


私の驚愕の表情を、「勇者の件」と誤解したのか、さすがの女王も戸惑いながら、一歩後ろに下がって私の反応を見る。


違うんだ、

そうじゃない、何かが私に・・・!


私は目の前の文字を払おうと、指で弾こうとしたとき、そこには新たな文字が浮かび上がっていたのだ。


 『異世界ミッション:この世界の勇者を救え!!』




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