第百十九話 ヒャッハー!の人たちに絡まれたの
ぶっくま、ありがとうございます!
ひと騒ぎが静まった後、
銀の閃光も同じように別行動するようだ。
ここまできたら彼らの行為に甘えさせてもらおう。
私は用意してもらったフードを目深にかぶり、テラシアやストライドと共に冒険者ギルドを目指す。
商人のロイドたちから、ある程度街の地理を教えてもらっていたおかげで、
そんなに迷う事もなく冒険者ギルドを見つけることは出来た。
やはりハーケルンより街もギルドも規模が大きい。
このグリフィス公国では冒険者ギルドの本部になるのだから当たり前か。
傍から見たら、今の私たちは一つのパーティーに見えなくもない。
戦士のテラシア、シーフのストライド、猫獣人のジル、エルフのバレッサ、
そして布でぐるぐる巻きにした大きな武具を手にした小柄な私、
役割的には丁度よく分かれていると言っていいのだろうか?
ギルドの中も広いわね、
まぁ依頼が張り出される朝でもないので、人はそんなに多い気はしない。
何処の国の冒険者ギルドも同じような配置なのか、
依頼が貼りだされているボードはすぐに見つかった。
もっとも、そのボード自体がとてつもない大きさだ。
教室の黒板ぐらい大きな板と思ってくれればいい。
最新の依頼はほとんど既にどこかのパーティーが受注済みで、
残っているのは常設型の依頼、または報酬が割に合わないようなもの、
そして、任務の遂行に失敗した形跡のある難易度の高いもの・・・か。
すると、その場にいた私たちに向けてなのか、下品な声が聞こえてきた。
「あああ~?
くせぇ~、くせぇなぁぁぁあ?
鼻がひん曲がっちまう、これはケモノの匂いだよなぁぁぁ?」
振り返ると待合所のテーブルに、行儀悪く足を投げ出していた戦士風の男たちがこちらを振り返ってにやついていた。
見ると、同じパーティーのメンバーなのか、その後ろのガラの悪そうな男たちもにやついている。
スキンヘッドに袖のない革ジャン風の出で立ち、
マッドマックスとかに出てきそうな定番のコスチューム、
彼らはどうやら、
「銀の閃光」のネコ型獣人ジルをターゲットにしているようだ。
・・・私には関係ない話。
私は張り出された依頼票に目を戻す。
「・・・ンだ、てめぇら?」
ほっとけばいいのに、ジルが挑発に乗る。
トラブルになったら自分たちで乗り切れるの?
「おいおい、他所モンの獣風情が何偉そうな口きいてんだよ?
せめて、そっちは魔術士のねーちゃんか?
そんな風に顔隠してこそこそ入ってくりゃ、可愛げがあったのによぉ?」
これはバレッサのことでなく私の事だろうか?
死神の鎌は麻布でグルグル巻きにしているので、見ようによっては魔法関連の術具に見えないこともない。
ジルは喧嘩を買うつもり自体はないみたいね、
彼は軽く頭を振る。
「そりゃ・・・すまねーな、
確かにこの街は初めてなんでな、
そんな長居するつもりもねーからほっといてくれるか?」
「ギャハハハッハハッ!
あー、わかったわかった、ならそこの二人のねーちゃん、置いてってくれれば見逃してやるよ、
おっと、顔をフードで隠したねーちゃんもな?」
私はともかく、女性をターゲットにされたせいでストライドもスルー出来なくなったようだ。
「おめーらなぁ、ケンカ売るなら相手の実力、見極めてからにしろよ・・・、
グリフィス公国の冒険者ってそんなにレベルが低いのか・・・?」
ストライド、リーダーのあなたが煽ってどうするの?
「ああ? ホビットごときのてめぇがなんだってぇ!?」
最初に絡んだ男がいきなり立ち上がる。
もはや臨戦態勢というところか。
その瞬間、
テラシアのバスタードソードが男の眼前に突き立てられる。
「なっ!?」
「・・・あたしの剣筋に反応できないってことは、
・・・その程度の実力ってことだねぇ?」
相変わらず颯爽というパフォーマンスね。
ストライドとバレッサが「さすがテラシアさん!!」と目をキラキラさせているわよ?
ただ、これでこの男たちが引くのかしら?
「こ、このクソアマ、ふ、ふざけやがって!
お、おい、てめーら、こいつを・・・!」
そうなるわよね?
やれやれ、テラシア一人で片付くかもしれないけど、
確実にこの場は大ごとになるわよ?
仕方ない、ここは私が・・・
「いい加減にしなよ、カイゼルシュタット。」
「ひっ? あんたはBランクパーティー『栄光の剣』アレン!!」
説明ありがとう。
なんか騎士っぽいかんじの優男が現れたわ。
白銀の鎧に身を包み、冒険者にそぐわないような煌めく金髪。
貴族の者だと言われても誰も疑わないだろう。
ていうか、さっきの柄の悪い男の名前が無駄にかっこいい件。
「カイゼルシュタット、君の素行にいちいち口を挟むつもりもないが、
ここは冒険者ギルドの公共の場だ、
そこで外からやって来た冒険者の仲間にいきなりあんな態度はないだろう?
このギルドの評判にも関わる。
せっかくカラドック様にも活躍頂いてこのギルドの評判も上がったんだ。
そのギルドの品位を落とすような行為は慎んでもらいたいね?」
「ケッ、説教は要らねーよ、ちくしょう!
また来らぁ!!」
ガラの悪い男たちは去っていった。
そしてアレンという男は私たちに向かって申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまないね、ここの冒険者ギルドは良くも悪くもいろんな奴らがいてね、
彼らもホントに根が悪いってわけでもなく、それなりに活躍してるパーティーなんだが・・・。
出来れば、今日は彼らの虫の居所も悪かったんだと思ってほしい。」
テラシアは無言でバスタードソードをしまい、
この新しい男にはストライドが対応する。
「ああ、ありがとう、世話になったみてーだな、
てか、あんたBランクなんだって?
すげーなぁ、うちの街にも数えるほどしかいないのに。」
キラキラマークがつきそうな笑顔を彼は浮かべる。
「はは、一応、ここはグリフィス公国の本部だからね、
Aランクパーティーもいるから僕のランクじゃまだ胸を張れないよ。」
優男にもBランクにも興味ないけど、
さっきこの男はカラドックの事を口にしたわね?
これは丁度いいタイミングというわけだわ。
ここは情報収集と行きましょう。
「・・・アレンと仰ったかしら?
これも何かの縁というべきか、
さっきのお礼代わりにお茶でもいかが?
この街に来たのは初めてなので知りたいこともいくつかあるの・・・。」
この段階で私は顔を見せてはいない。
人間の世界で失礼なことは理解している。
けれど人形の身分を明かして大騒ぎされるのは本意ではない。
冒険者には変わり者が多いそうなので、なんとか許容してもらえればいいが。
「それは魅力的な提案だね、
僕も他の土地のパーティーには興味あるな。
あまり時間は多く取れないがそれでも良いのなら・・・。」
見た目通り紳士な人ね。
助かるわ。
こっちを女扱いしているつもりならそれに乗らせてもらう。
この冒険者ギルドも、奥のスペースには休憩所的な広場があり、
簡単な飲食も出来るようになっている。
この時間でも人はたくさんいるが、数人で座れる席はすぐに見つかった。
「メリーさん、簡単な紹介とかはオレがやろうか?」
ストライドは交渉事に慣れてそうね。
ホビットは手先が器用なだけでなく商人として大成する者も多いと聞く。
一方、そういうのはテラシアは苦手そうだしね。
「・・・なんでそこであたしを見るんだ、メリー?」
「ううん、なんでもない。」
察知されたようね、野生の勘かしら?
しばらくグリフィス公国が舞台となります。