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第百十七話 娼婦サーシャの解放

感想いただきました!!

皆様の反応見れると作者は喜びます!!


やっぱり女性だった!

でもメリー?

うーん、心当たりあるような名前でもないし、声にも聞き覚えは・・・


 「騒いだら殺す。」


ヒッ・・・!


男は笑いながら、地下室の出入り口まで足音を忍ばせながら歩いて行った。

あれからノックは聞こえてこない。

メリーとかいう女の声も聞こえない。

本来なら男も警戒するまでもないと思っていたんだろう。

だけど、あんな何か大きな音がしたんだ、

たぶん、建物の扉かどこかを壊して入って来た。

それがいったいどういうことなのか、

この殺人鬼にとっても、甘い考えはしていられないって事だと思う。


男は慎重に梯子を登る。

片手にはバールのようなものが握りしめられている。

あんなもんで顔面殴られたら、顔の肉が全部剥ぎ取られそうだ。

男は地下室の出入り扉の所まで行くと、器用に頭を傾けて耳を扉部分にあてる。

メリーとか言う女は、まだそこにいるのかしら?


それから何分過ぎたのか・・・。

案の定というか、男は辛抱強い性格ではなかったようだ。

扉の閂をゆっくり外し、

少しずつ少しづつ、扉を持ち上げて・・・。


何が起きるのか、誰か出て来るのか・・・


男は終いに一気に扉を開けた。

もちろん、誰かがそこにいたら男はすぐに攻撃するつもりだったのだろう。

でも誰もいなかった?


じゃあさっきの女性はどこに?


その瞬間!!

 「ぐぎゃああああああっ!?」


なんか上から転がり落ちてきたよっ!?

あ、男が持ってたバールのようなもの・・・と、あれは手首も一緒にっ!?

続いてバランスを崩したのか、男も梯子から落ちてきた。

なんとか足は床に着地できたみたいだけど、力が入らなかったのか、そのまま崩れるように尻もちをついていた・・・。

うわ、手首のところから真っ赤な血が止めどもなく溢れてる。


・・・男は斬り落とされた手首の付近を左手で必死に抑えながら、その顔は天井の出入り口に固定されている。

そこに信じられないものでも見たかのように・・・。


 「あ、あ・・・き、きさま、今どこに・・・!?」


あたしの寝かされている作業台の所からじゃ、そこにいるのが「何なのか」見えることはなかった。

でもその声はしっかりと聞こえてきたんだよ。


 「私の名はメリー・・・

 あなたが開いた扉の上にいたの。」


え?

地下室への出入り口の扉の上に立ってたっていうの?

なら、この男が扉を開けた直後もそこに?

ひっくり返らずに?

どうやって?

ていうか、男だって扉の重みで分かるはずだろ?


 「私、軽いから・・・。」


あ、アピールするのそこ?

気持ちは分かるけども!


そう言いながら、地下室の上にいた女性は、ゆっくりとあたしたちのいる地下室に降りてくるようだ。

助かるかもしれない!!


絶望の淵にいたさっきの状況より、完全に事態は好転してるよね!?

男は右手首を失って、血をドバドバ流し続けている。

どう見ても重傷!

まだ左手も残ってるし、この部屋には物騒な工具がたくさんあるから、

男がやけになって動けないあたしに何かするんじゃないかって油断はできないけど、

それでも・・・


ところがあたしはそこで信じられないものを見た。

上から降りてくる女・・・、


いえ、先にあたしに見えたのは、

余りにも巨大な金属の刃・・・。

そのままだと地下室への扉に入らないから、その女は器用に角度をずらせて降りてくる・・・。



くもり一つないヒール、

高貴そうな網タイツにあたしは目が釘付けとなる・・・

そして薔薇の刺繍の入った黒いドレス・・・


いったい誰?

街の衛兵でも冒険者でもない?


そして男はあたしよりも先に、「そいつ」の正体を見てしまったんだろう。



 「あ、お、お、な、なんだ、おまえはぁぁぁぁぁぁああああっ!?」


あたしは男が狼狽えた意味が分からなかった。

何をそんなに動揺してるの?

何を見てそんなにおびえてるの?



その理由はあたしにもすぐにわかった・・・!

高貴なグレーの瞳、煌めくウェーブがかかった銀髪・・・


でも、それは人間じゃなかったんだ・・・!

人形!!

巨大な鎌を手にした動く人形!!


そいつが地下室に降り立ったんだ・・・!!



 「私の名はメリー・・・、

 生きながら皮を剥がされた哀れな娼婦たちに魂の安らぎを・・・。」


人形が動くどころか人の言葉を喋ったんだよ!!

信じられる!?

時折、人の暮らす村や小さい街にゴーレムが現れるなんて話はあたしも聞くことがある。

でも外見上、人間とほとんど区別できないような造形のゴーレムなんて聞いたこともないし、喋るゴーレムなんて想像すらしたこともない。

え? そうだよ、わかってる、

しょせんあたしは学もない夜の女、

もしかしたらこの広い世界にちゃんとそういうゴーレムもいるのかもしれない。

ああ、今はそんなことどうでもいいか。



男の方はまだ立てない。

みっともなく、残った腕を振り回して女性の姿をした人形に威嚇するだけ。

もちろん、そんなのは抵抗の内に入らないんだろう。

人形は大きな鎌を振り上げた・・・。



 「や、やめろ! やめてくれ!!

 オレが何したっていうんだ!?」


え? そういう事、言っちゃうの?

そこのたくさんの死体作ったのあなたよね?


 「・・・私は非業の死を遂げた、哀れな魂の嘆きを聞いてここにやって来た・・・、

 心当たりはあるでしょう?」


何それ凄い。

なら、この人形が近くにいれば、人殺しなんてできないじゃん!

心強いじゃないか!

え? あ、そうか、その話通りなら、人が死なないと動かないってことか、

じゃあ、手放しでは喜べないね。


あ、人形の言葉に、男は自分が殺した他の女に一瞬目を向ける。

言い逃れなんてできる状況じゃないよね。

それでも男は見苦しく叫ぶ。


 「こっ、こいつらは死んで当然の薄汚い女たちだぁ!!

 頭ん中は金と男のことしかねぇ!!

 オレはこの街の汚物を浄化してやってるだけだぁ!!」


だからふざけんな!

こちとら生きるために必死なんだよ、

病気や暴力のリスクに常におびえながら体張って生きてんだ、

アンタごときが何偉そうに言ってんの?

あなただってそう思うでしょ?


でも人形にはそんな話がそもそもどうでもいいみたいだ。

うん、それはそれでわかるよ。


 「・・・なら・・・私はこの鎌で、この街の汚物を浄化する・・・。」


メリーとかいう人形は両手でその鎌を振り上げた。

いいぞ、やっちゃえ!!


ところで・・・あたしは含まれてないよね、その汚物の中に?



 「や、やめろっ!!

 なんでこんなっ!? オレは真面目に生きてきただけなのに!!

 獣人ごときがでかい面してのさばるこの世の中を少しでも正しくしようとっ・・・!」



さらに亜人差別主義者だ。

珍しくはないけど、げんなりする。

この世の中、まちがってるって言いたいけど、現実は変わらない。

あたしは昨日も今日も明日もこのカラダを売って生きていくしかない。

この国のマルゴット女王は変わった人だそうで、亜人にもそこそこ理解があるんだとか。

城下町の人々の受けもいいんだってね。

逆に、差別主義者どもはそこが不満だそうだけど、声を大にして自分の主張を表に出せないみたい。

うん、そうだよ、そういうしわ寄せは全部あたしらに来るんだ。

今日の出来事みたいに。

別に女王を恨んじゃないけども。


 「・・・残念だけど・・・。」

あ、人形が何か喋る・・・。


 「私を呼ぶ恨みや憎しみの声に・・・

 人間も亜人も区別はないの・・・。

 彼女たちの声があなたに聞こえるかしら?

 ・・・『恨めしい』『こいつが私たちを殺した』『痛い痛い痛い』『止めて殺さないで』 『やだやだやだどうしてあたしが』」


その言葉に背筋が寒くなった。

それはあたしがさっきまで叫ぶことになる筈だった言葉だ。

それを人形はなんの感情も乗せずに淡々と口にする。


そしてそれは男も一緒なのだろう。

自分が殺される立場になって、ようやくその言葉の持つ意味に気付いたのか。


 「あ、あ、そんな、そんなっ・・・。」


もう反論も出来ないようだ。

もちろん、人形にとってそれはどうでもいい話なのだろう。

予定通りと言わんばかりに鎌を持つ手に力を入れる。


 「私はメリー、

 私は鎌を振るう、けがれた命を絶つために・・・。」



首だけを動かせるあたしは次の瞬間、無理やり目を背けた。

予想通り、何か刃物で斬り刻む音、

そして、何か大きなものが床に転がったような音が聞こえた。

しばらくしてから勇気を出して振り向いてみたけどね、

うん、思った通りのものが地下室の床に転がっていたよ。


とりあえず、あたしを殺そうとしてた男は、もうあたしに危険を及ぼさない。

・・・となると、このメリーと名乗った人形なんだけど・・・。


今はこうして落ち着いて喋ってるあたしだけど・・・、

当然その場はパニック同然で、なんて言葉をだしていいかわからない。

「たすけてくれてありがとう?」

「やめて、あたしを殺さないで?」

「助けてくれたお礼に一晩つきあってあげる?」

うん、最後のはいろんな意味でないよね。

しょうがないでしょ?

それくらいパニックになってたんだってば。


あたしは意識してなかったんだけど、たぶん、呻き声みたいなものを出してたんだろう、

人形はあたしの方を振り返った。

・・・ゆっくり近づいてくる・・・。

部屋の照明から逆光となって、顔の造りが分かりづらいけど、

目だけが浮き上がるかのように光ってあたしを見下ろして・・・


あああああっ、逃げられないし抵抗も出来ないし!

彼女はその大きな鎌の刃先をあたしに・・・

嘘でしょ、やめて!? まさかだよね!?


・・・あたしを拘束していた縄を鎌の刃先で切り裂いてくれた。

そこであたしはようやく助かるって思考に辿り着けたんだ。

 「あ、・・・ありがとう、 助かった・・・?」

まぁその後は淡白なもんだったけどね。


 「・・・私はただの処刑執行人なの・・・、

 後は自分で帰れるかしら?」


その瞳と口ぶりに、あたしに対する興味は一切ないんだとわかったよ。

これで助けに来た人が、カッコいい衛兵さんかたくましい冒険者さんなら、

あたしも勿論、態度変えただろうけどさ、

女性?の人形だしね、

この場は命が助かっただけでも御の字。

ちゃんと前金もらったままだし。

(この建物から離れる時に、男のものだろうと思われる金をちょろまかしたのは内緒。まぁ命を取られかけたんだからそのくらい平気だよね。)



あとは、あなたたちが調べた通り。

メリーって人形には放っておかれたけど、その後、冒険者の人たちがやってきてあたしはここに連れてこられた。

あたしの話はこれでお終い。

後は仕事に戻るからさ、

そんで謝礼金とやらは・・・え、こんだけ?

あんな目に遭って割が合わないなぁ、

え? なに? 代わりに今度あたしを買ってくれるって?

え、えっへへへ、そういうことは早く言ってよ、

サービスするよ、あなたいいカラダしてそうだものね。

冒険者ギルドのお偉いさんと一晩一緒に過ごしたなんて周りの連中に自慢したら、みんな悔しがるかしら。

えっ?? 口外禁止?

あなたの立場?

はいはい、そうだね、しょうがないね。

いいよ、待ってるからさ、早くあたしを買いにきてね。





 

メリー

「えっ?

どこに立っていたのかって?

それは普通に床の扉に鎌を突き刺して、

扉が開いても落ちないようによ?

それに、このカラダ、

壁とか天井とか、もともと這える仕様だし。」


・・・その構図を想像するとなんか、お茶目というか、間抜けというか・・・。



次回からメリーさん視点に。

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