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第百十六話 娼婦サーシャの抵抗

やっと来ました。


 「・・・やぁ、おはよう・・・。」


うわああああ、

この男、今までの薄い表情は何だったのって言いたいくらい顔を歪めて笑ってた!

 

 「な・・・? お、おはようって、今何時!?

 あたしに何したのっ!!」


こういうヤツに騒ぐのはあんまり良くないよね?

でもあたしもそんな余裕なかった。

気が付いたら暴れるように叫んでた。


 「ねぇ! こーゆーの困るっ!!

 夜這いプレイも着衣も縛りも絶対ダメとは言わないけど、事前に交渉してくれないと・・・!」


 「ああ!? 黙りやがれぇっ!!」

 「ヒッ!?」

怒鳴られた・・・いきなり。


 「いちいちいちいちいちいち金かね金かね金かね金煩いんだよっ、この売女がぁ!!」

 「ちょ、それがあたしの商売・・・」

 「だから黙れっ!!」


 「・・・。」

 「すこしは気が利くかと思ったんだがなぁ・・・やっぱり汚い肉の皮を纏った女だよなぁ?」

 「ど、あたしにどうしろっての・・・?」


かなりヤバい。

本気でこれヤバいと感じ始めた。

えっ? 遅すぎる?

自分でもそう思うよ、でも今更どうしようもないでしょ?


でもそこで男は、また気味の悪い歪んだ笑みを浮かべたんだ。

 「どうもおおお?

 これから私はこの街の浄化作業をおこなぁう!!

 君はせいぜい絶望と激痛の恐怖に叫び声をあげることしかできなぁい!!」


そう言って、男は後ろの作業スペースから何かを手に取ったのさ。


ノコギリ!?


他にも金槌やら何か挟み込むような訳の分からない工具が・・・。

え、それって。


男はゆっくり立ち上がって部屋の隅まで歩く。

大きなロッカーのような物の扉の前に・・・。

 「まずは皮を剥ぐところからしようかぁあああ?

 ああああ、ちなみに君のお仲間もいるからねぇぇぇぇ?」


そう言って男はロッカーの扉を開く。

でてきたのは・・・!!


ドサドサドサッ!!


 「きゃああああああああっ!?」


最初何だかわからなかった。

でも女物の布切れが見えると理解した瞬間全てがわかった。

半分ミイラ化した死体。

それが2、3、・・・4体!?


え? そこ詳しく喋ってくれって?

無理無理無理無理!!

内臓みたいなものが丸ごと見えたり、顔半分なくなって眼球が浮いてたりとか、

頭髪全部剃られてってか、ホントに皮がなくなって筋肉の繊維がとか・・・・ああああ喋るってか思い出すだけでも無理無理ぃ!!

あの匂いを思い出しただけでも吐きそうになる。


とにかく次に思ったのは、こいつのターゲットあたし!!

ヤバい!! どうやって逃げればいいの!!

思いっきり叫んだけど、かすれて隣近所に聞こえるだけの声なんて・・・。



 「ああ、ダメだよ、そんな大騒ぎしても・・・。」

 この部屋ね、地下なんだよ。

 ここは作業場だからさ、防音にも気をつかってるんだ、

 どんなに騒いだって外には聞こえやしない。」


いくら何でもこんな死に方は酷すぎる!

そりゃ自分はろくでもない女だったと思う。

いい事なんて何もない。

最後は客に病気でもうつされて、ベッドで薬も貰えずに死んじまうことも考えたことくらいはある。

でも、流しの客に斬り刻まれて死体も出てこないなんて最低の中の最低な人生じゃない。


でも所詮、そんなものがあたしにはちょうどいいのかもしれない。

まだ死にたくもないし、痛いのもごめんだけど、ある種諦めっていうか・・・



ふざけないでよ、クソバカァ!!

なわけないでしょうよ!!

こんな糞ったれな奴に殺されて、はい、そうですかなんて言えるわけないよ!

・・・っても、相変わらずあたしは身動きできない!

腕から血がにじみ出るくらい暴れてもどうにもならない。

泣いた、泣き叫んだ、めっちゃ暴れた。


それでも男はニヤニヤ笑いながら近づいてあたしを見下ろしてくる。

ちくしょう、この男、股間が大きくなってるよ!!

ダメだ、あたしが暴れることも泣き叫ぶことも、この男にとってはご馳走なんだ。

何も手がないあたしは「短小!」とか「包茎!!」とかまだ見てないのに、

お決まりの罵声をあげたけど、普通に顔面ぶん殴られて終わり。


一気にカラダから力が抜けていった・・・。

もう何もできない・・・。

ああああ、近づかないで、来ないで・・・やめ・・・やめて


男は顔が裂けるくらいの笑いを浮かべて




  コン   コン   コン




遠くから聞こえてきた。

いえ、聞こえたような気がした。

急にあたしが静かになったのと、男も何も喋らなくなったそのタイミングで、

上の部屋のどこかで誰かが何かを叩いてるような・・・

そう、家の玄関を叩いているようなノック音が聞こえてきたんだ。


男の表情も固まっていた。

あたしと同じようにその音が聞こえたんだろう。

互いの視線が合う。


これ、どう反応すれば良かったんだろう?

誰かが来た?

それはあたしの助けになる?

なら大声で助けてって叫ぶべき?

そうなると、この男が外にいる人を攻撃に行ってしまう?

ノックの音は聞かなかったことにして、

男の注意をあたしが引き付けておけばいい?

そうしたら、外の人がこの建物に入ってくる?

いや、鍵はさすがにこの男もかけているだろう。

なら外の人はどっちにしても入ってこれない。

ていうか、ホントに玄関の扉を叩くノックだったのだろうか?

そんなものが地下室で騒いでいたあたしたちにどうやって聞こえたっていうんだろう?

でもそれは後回し!!



ここは男が外に様子を見に行った隙に大声で助けを呼ぶのが一番かな?

そう、今考えるのはそれ!

そこまで判断したあたしは男に言った。

 「誰か来たみたい・・・。」

 「バカな・・・こんな時間に。」


今何時か知らないけどね。

 「もしかして衛兵?

 あ、あんたこんな事、今までもやってたんでしょ?

 疑われてマークされてたんじゃないの!?」


もう、こっちは助かろうと必死。

どうにか説得できれば・・・。


 「有り得ない・・・証拠は一切残ってない筈だ。

 そうとも、単に客か通行人だ。

 こんな時間に応対する義務もないしな、

 このまま居留守を決め込むさ。」


冗談じゃない、じゃあまた大騒ぎするしか・・・


 コン  コン  コン


またノックだ。

しかもさっきよりはっきり聞こえる。

防音じゃなかったの?


男はあたしの首にノコギリの刃を当てる・・・。

騒ぐなってことだね・・・。

どうにかできないか・・・



ドグワッシャーン!!


何かの破壊音が聞こえてきた。

扉!?


 

誰かが何かを破壊して入って来たっぽい。

それ、普通の人じゃないよね?

犯罪捜査の衛兵だっていきなりそんな強引な入り方しないと思う。

でも、構わない。

助けてくれるんなら、強盗だって魔物だっていい!

あたしに危害を加えないってんなら、一晩サービスしてあげる。

だから誰か助けに来て!!


男も肝を冷やしただろう。

あたしにノコギリ当てたまま、梯子が掛かっている天井方向を注視している。

誰が入って来たのかわからないけど、そいつは地下室の存在に気付いてくれるのだろうか?

このまま、何もせずに帰ってしまうのだけはやめて欲しい。


コッ、 コツ、 コツ・・・


あれ? これはノックではなく足音・・・?

女の人っぽい足音。

多分男もそう感じているんだろう。

男の肩から力が抜けている感じがする。


実際、そこで男はまた笑いやがった。

 「どうやら、君のお仲間とか、そんなとこかな?

 一晩に二人とは・・・豪勢な夜になりそうだね。」


クソ、コイツ、今来た人も狙うつもりだ!

たぶん、あたしが犯罪に巻き込まれようと、助けに来てくれそうな人に全く心当たりがないから、あたしの知り合いとかじゃないと思う。


あっ、

男のセリフに気を取られて、足音がどこで止まったかわからなくなった。

まだ上の部屋のどこかにいるのだろうか?


男も注意深く天井を見ている。


すると・・・




 コン コン コン


ノックだ。

それもこの地下室へとつながる出入り口だろう。

あたしたちが地下にいるのに気づいたんだろうか?

それとも目につく扉を叩いてるだけ?

どっち道、下から閂かけてあるからこのままじゃ開けられないだろう。


すると扉の向こうから、

小さくしかし、はっきりした声が聞こえてたんだ。


 「私・・・メリー、いま、地下室のうえにいるの。」

 

娼婦サーシャさんの物語は次回まで。

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表紙
― 新着の感想 ―
[良い点] 気になって見た作品だけど普通におもしろいと思ってしまった。キャラが個性的だからかなw  そして、私の好きなキャラはやっぱりパーティー名「蒼い狼」にいるエルフの人だと思うw [気になる点]…
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