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第百十五話 娼婦サーシャの後悔

ぶっくまありがとうございます!!


 「・・・どこまで歩かせるのよ?

 もう疲れた・・・場所はどこ?」


あたしは不満を隠そうともせずに文句を言った。

ヤバかったら途中でバックレようしていた程度の警戒心は持ったままだよ。

その男は不思議そうに振り返ることはしても、

特に高圧的な態度は出さなったし、その点であたしも安心してしまったのかもしれない。


 「・・・ヘーゼル通りの方さ、そんな遠くもないだろ?」

そう言って、途中で男は屋台で売ってる暖かいお茶を奢ってくれた。

へぇ? 気遣いくらいできるのね?

知ってると思うけど、ヘーゼル通りはあたし達の街とはそんなに離れてはいないし、

金持ちは少ないけど人もたくさん住んでいる。

まぁ、確かにちょっと歩くのは遠いけど、なんとか許容できる範囲だ。



ううん、

・・・確かにヘーゼル通りには違いないけども、

ずいぶん寂れた所に来たね、と思った。

ここら辺、倉庫街とかで、人が住んでるエリアじゃないだろうに。


 「あなた、ここら辺に住んでるの?」

 「ああ・・・仕事場だ、

 たまに仕事場で寝泊まりできるんでね。

 それに・・・家にゃ家族がな。」

 「ああ、そういう・・・。」


それは納得できる話よね?

家に家族がいるなら、夜の女なんか連れ込めるはずもないし。

まぁ、この男が妻子持ちかどうかなんてどうでもいいけども。


・・・うう、もう思い出したくもないっていうか、あんなところ二度と行きたくない。

ああ、そうよ、ただのどこにでもある倉庫か作業場、

外からはそうとしか見えない。

だから、あたしは誘われるままそこに入ってしまった。




 「あなた、ここで何の仕事してるの・・・?」

 「組み立て式の簡単な工具を作っている・・・。」


これは鉄の匂い・・・って言うのかな?

何でもやすりとかで金属を削ったりしているそうだ。

 「へぇ?」

とは言ってもよくわからない・・・、人の仕事の事は。


作業場の奥には休憩スペース。

簡単なテーブルと申し訳程度の食器が並べてあった。

 「ここで食べるの?」

 「料理の下拵えはしてある・・・、

 後は簡単に温めるだけでいい。

 君の口にあえばいいんだがな・・・。」


喰わせてもらえればなんだって良かった。

腐ってたり、ネズミの肉とか訳の分からないものでなければ、多少、味で文句なんか言わない。


 「手伝う?

 人んちで料理するつもりはないけど、盛り付けくらいは・・・。」


そこで初めて男はうっすらと笑った気がする。

 「ああ、ありがとう、

 君は気が利く良い女性だね・・・、

 前に誘った女は酷かった。

 食事を待っている間、足をテーブルに投げ出して、早く持ってこいだの、

 酒はないのかとうるさくて仕方なかった。」


なんでそれくらいのことであたしは警戒心緩めちゃったんだろうなぁ。

自分が褒められたんだと勘違いしちゃんだろうなぁ。

 「ああ、そんな女ばっかりよ、あそこは。

 人任せで、自分じゃ何もできなくて男にしがみつくだけしかできない。

 ていうか、前もあの辺りで女、買ってたの?」

あたしも人の事は言えないんだけどね。


 「いや、あの場所では初めてだな、

 前回は歓楽街の方に行っていた・・・でも金がかかってね。」

 「そりゃ、そうか、おじさん、あんまお金持ちでもなさそうだもんね。」


ん? そこで男の動きが一瞬止まった気がした。

あれ? なんか地雷踏んだかな?

たまにある、それまで普通に会話してたやつが、いきなり態度を豹変させるの。

「おじさん」がいけなかったのかな?

でも明るい部屋の中で見たら十分おじさんだと思う。


それでもすぐに何もなかったかのように男は料理を並べていく。

 「へぇ・・・。

 食べてもいいの?」


確かに豪勢じゃなかった。

普通にどこにでも売ってるようなパンに野菜のきれっぱしが浮いてるスープ。

小魚の漬物、安物のスジ肉。

 「・・・こんなものしかできないが・・・。」

 「ううん? 十分よ、ちゃんと喰えれば贅沢言わない・・・。

 でもさすがにワインとかはない?

 安ものでも構わないけど・・・。」


ほんとになければないで構わなかった、

でも、せっかくだから形くらい整えたいかなって・・・。

でもそこで男の動きがまた止まった。

なんなの、ほんとに?


 「・・・酒が欲しいのか?」

 「ん? あら、あなた飲めないの?

 食事の前に乾杯くらいしようかと思ったのだけど、

 別に必要ないならそれでもいいけど・・・。」


 「・・・そうか、それじゃ一緒に食べよう・・・。」

あたしはさっきも言ったけど、あんまり人と喋るのは得意じゃないの。

でも、こう無口な男とか相手してると、間がもたなくて、何かしら意味のない事でもぶつぶつ言うようにしている。

現に、この男、たまにこっちから話しかけても「ああ」とか、「そうだな」くらいしか喋らなくて・・・。

ご飯を食わせてもらってるのはいいんだけどさ、

いくら夜の女とは言え、男女二人が無言で飯を食ってるのも変だと思わない?

第一、そもそもなんで立ちんぼの女を家に呼んで、ご飯を食わせてるのかわからない。


寂しくて一緒に食事してくれる人を探してるってんなら、何となくわからないでもないけど・・・、

だったら会話くらいしてくれたって・・・。

あたしは何か、会話できるネタはないかと考えた。

・・・そういえば、さっき・・・


 「ねぇ、あんたあたし誘う時に、良ければ今後もって言ってたよね・・・?」

男はこちらを訝し気に見上げる。

 「・・・ああ、言ったな。」

 「前に誘った歓楽街の女じゃダメだったの?」


さっきの女性の話だけ、やけに詳しくしゃべってた気がして、

何かあったのかもしれないと思ったの。

でもそれは失敗だった。


 「ああ!?

 あれはダメだ!!

 品性も気遣いも何もない!!

 頭の中は金の事しか考えてない!!

 あんなんじゃ・・・あんなんじゃダメだ!!

 やっぱりあいつらは社会の屑なんだ!!」


あたしはやっちゃったと思った。

これヤバい奴だ。

こいつもあたしのオヤジ同様、くそったれのろくでなしだ。

これはヤルことヤッたらさっさとお暇しよう。

お得意さんに? ご遠慮する。

とりあえず、今晩はこいつのスイッチを入れないように無難に過ごそう。



・・・でもね、

もう遅かった。

 「・・・あれ・・・どうしたんだろ、

 なんか・・・眠い・・・」


そこでね、意識失う前ね、

確かにあの男・・・ニヤリと笑ったんだよ・・・。






目が覚めた・・・って言っても、なんだか頭がくらくらする。

何処で何してたんだっけ・・・。


しばらく状況判断できなかった。

ようやく頭がはっきりしてくると、

あたしは縛られて作業台のようなところに寝かされていた・・・。

なんか臭い。

なにこれ?

何か腐ったような・・・鼻がひん曲がるような・・・。


あれ? 服は・・・

うん、たまにいるんだよ、

女が寝ている間にしか出来ない小心野郎が。

寝たふりくらいしてあげるから、せめて最初に交渉して欲しいよ。

記憶にあるあの変な客も、最低その程度くらいだったら、と甘い期待したあたしがバカだった。


なんとなくだけど、衣服は脱がされた感覚はない。

服を着たまましようとする奴もたまにいる。

あたしは自分の下半身の感覚を探るも・・・わからない。

何かされた形跡はなさそう?


じゃああいつは今どこに・・・・

いた!!


首を傾けたら、椅子に座って満足そうにこっちを見詰めていた。


 「・・・やぁ、おはよう・・・。」



まだ来ない・・・。

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