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第百十四話 娼婦サーシャの災難

新キャラでも何でもないです。

3~4回だけの出演です。


・・・え、と、

えっ?

もう、話し始めていいの・・・?

な、何から話せば・・・さ、最初から?

えっと、それは、ウチは小さい頃から貧乏で、父親は家に帰ってこなくて、

たまに帰って来たかと思えば、酒の匂いをプンプンさせては、母親を殴りつけて、

挙句の果てにはまだ小さいあたしにも・・・え?

最初過ぎって、どうしろって・・・。


あたしはただの娼婦で、人に話をするのを仕事にしてるんじゃないんだけど、

売り物はこのカラダだけだし・・・。

え、ええ、はい・・・、ちゃんとお金貰えるんなら・・・。

じゃあ、夕べの晩のことから話せばいいんだよね?


あ、あたしの名前はサーシャ・・・。

グリフィス公国の城下町の裏手の小汚いエリアで立ちんぼしてる羊獣人・・・。

子供の内はあまりご飯が食べられなくて、ヒョロヒョロしてたんだけど、

こっちの仕事を始めてからは、何とか毎日ご飯を食べられるくらいには稼げるようになった。

そのせいなのか羊獣人の特性なのか、胸周りは期待以上に大きく膨らんじゃって、

同業の女の子からも羨ましがられるくらいには育っちゃった。

おかげで、あたしの胸を味わいたい男の人にはお得意さんになってもらってる。

そ、そんな多くはないけどさ。


もちろんいい事ばかりじゃないよ。

わかってくれる?

こんな裏通りで仕事してるんだもの・・・、

客だってろくなもんじゃないって。

乱暴な言葉を吐かれるわ、カラダを汚いものでも扱うかのようににいじくられるわ、

お金を踏み倒そうする奴とか。

たまに、気のいいお客さんでも現れれば、とも思うんだけど、

ねぇ? そんな美味い話なんて転がってるわけないよね。


抱きつく前や行為の最中は甘い言葉を囁いてくるくせに、終った途端、汚いものでも見るかのように、あたしを置いてさっさと帰る奴とか・・・。


顔とかの造りも悪くないと思うんだけどなぁ。

ちょっと垂れ目で自分ではよくわかんないけど、男好きするそうで男の目を引き付けやすいと同業の子によく言われる。

立ちんぼガール特有の陰気オーラ全開なのが悪いのかな?

何しろ最近、自分が笑った覚えがない・・・。

金払いのいいお客さんに出会えた時に、口元が歪むのを自覚するぐらい。


いつもそんな感じの毎日、

夕べも私は街角の陰に立っていた・・・。

前の晩に、客の獣人にぶん殴られた頬が腫れているんだけど、何とかお化粧で誤魔化して俯いて・・・。

ほら? よく見ると腫れてるのわかる?

でも、どうせお客さんを捕まえたって、明るい場所になんか行くつもりもないし、そんな程度で十分。


そこへ一人の男性が近づいてきた。

町中は陽が沈んだばかりくらいだけど、互いの顔も分かりづらい暗さだった。

もっと時間が経つと、寒さでカラダが震え始めることになるわけだけど、

こんな早い時間に客を捕まえられたらラッキー。


その時思ったのは、

この人、ホントにあたしを買おうとしてるんだろうか? という事。

その人の足は確実にあたしに向けて歩いているっぽいけど、キョロキョロ落ち着きなく周りを警戒している。

誰かに女性を買うのを見られたくないのかしら?


この辺りの治安はお世辞にもいいとは言えない。

その時も、そこいらで飲んだくれてる獣人が無気力そうに壁にもたれていたり、

訳の分からない叫び声をあげたりしていた。

あたしはいつもの事なので気にもしないけど・・・。


ちなみに普通にごろつきやかっぱらいもいるよ。


けれども、こういう町にも・・・いえ、こういう町だからこそか、

いわゆる裏家業の元締めのような者がいて、ちゃんと彼らに上納金さえ払っていれば、

同業者同士や売り上げを横取りされるようなことはない・・・。


やっぱり一番怖いのは一見のお客さん。


今回も初めて見るお客さん。

帽子を目深にかぶり、何枚も厚着してカラダは丸まって見えた。

体毛も見えないからヒューマンかなと思った?

この街も、何も住人すべてが亜人というわけでもないし。

ハーフもいるし、借金で身を持ち崩したヒューマンもいる。

そしてもちろん、前科者の犯罪者も。


ただ、この人はこの街の人間ぽくないと思った。

何より臭くない。

この街の人間は、どことなく汚物か何かすえたような匂いがする。


 「お兄さん、・・・あたしが欲しいの?」

お兄さんという年齢かどうかは分からない。

もしかしたらおじさんと言った方が良かったのかもしれない。

帽子の下に見える風貌は、あたしに年齢を判断させることは出来なかった。


でも、当の相手はあまり気にしてないようだった。


 「・・・いくら・・・だい?」

 「宿代込みで8000ペソルピー。

 いい夢、見させてあげる・・・。」

格安でしょ?


 「・・・8000? 高いな・・・。」

 「えぇ? 宿代込みだよ?

 あなた、ここらの相場知ってるの?」


女性によっても値段はピンキリだし、多少は交渉も可能・・・。

宿屋は、あたしたちにとっても持ちつ持たれつの仲なんで、この料金の中から多少、わいろ的に宿屋に色を付けて払っている。

それで元締めへの毎月の上納金などを考えると、

一日お客さん一人を相手にして、その日の収支がプラマイゼロ。

何か病気になったり、余計な出費があればすぐにマイナスになっちゃう。

つまり一日に二人はお客さんを取らないと生きていけない。

たまには休日も欲しいから、

一日に三人を相手にできれば、余裕を持った生活が出来るという計算。

学のないあたしにだってそれぐらいは理解できる。


宿代込みとは言ったけど、こんな早い時間であるならば、お泊りは勘弁してほしい。

2、3時間相手にして、二人目のお客を見つけたいところなんだけど・・・。


あ、あなた、どう?

特別にサービスするよ?

ほら? 自分でも大きい方かなって思うんだけど、

触ってみる?

え? い、今はいい?

そんな遠慮しなくても・・・?

あ、先に話の続きをしろって?

しょうがないなぁ。


それで交渉の続きなんだけど、この男は変わったことを言い始めた。

 「宿屋か・・・女と一晩過ごすのに無駄な金だな・・・。

 なぁ、あんた俺の家に来ないか?

 値段は8000でいい。

 その代わり朝まで付き合ってほしいんだ・・・。」

 「えぇ? あたしに何かさせるつもり?

 言っとくけど、食事も掃除の世話も出来ないよ?」

 「いや、むしろ夕飯はこちらでご馳走を用意するよ、

 と言っても、普通の一般家庭で出せるようなものしかできないけど・・・。」


ちょっと悩んだのね、

本来、一見さんの家に行くことなんかない。

お得意さんには何回か誘ってもらったことはあるし、

実際何度かお邪魔したことはある。


・・・でも決まって大体、あたしの実家かそれ以下のくそったれな家か、

しかもそいつが最低な野郎ばっかり、とかそんなの。

今回も勿論断ろうと思ったんだけど、そいつは更に言葉を続けた。

 「もし、家を気にいってくれるんなら、君を・・・定期的に・・・

 そうだな、二週間に一度くらい呼びたいんだがどうだろうか?

 今晩、互いに合意できるんなら先払いにしてもいい。」


その言葉をまともに信じるほどあたしもバカじゃない。

でも期待しない程度にそれが叶うなら、少しは生活も安定するのかな?

そんな風に考えちゃったの。

何しろ、さっきの売上計算は、毎晩ちゃんとお客さんを捕まえられる前提での計算。

日によっては声をかけても、全くお客さんがつかないこともあるわけで。


何しろ、あたしたちの住むこの街は歓楽街ですらない。

あくまで貧民が暮らすダウンタウン。

女が欲しい男は歓楽街に行くのが普通の事であって、

こんな所に来る者のほうが珍しい。


じゃあ、歓楽街で働けばって?

残念だけどね、獣人お断りなんだよね・・・。

もちろん、中にはそういう趣向のお店も存在するけど、

あっちも慈善事業じゃないからさ。

そこで働くことができるのは、特別な伝手か才能でもないと・・・。




 「とりあえず、先の事は約束できないけど・・・、

 今晩だけなら・・・、

 でも、ここから遠いところならお断り。

 それとお金は先払い。

 それでいい?」



まったく昨日のあたしを自分でぶん殴りたい・・・。

なんでOkしちゃったのかなぁ?

普通に一見の男なんて警戒してた筈なのに、その時に限って「まぁいっか」と思っちゃったんだよ。

それがあんなことになるなんて・・・。





なお、私はこういう人たちの相場を知りません。

知らないったらない。


次回、来る、きっと来る♪


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