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第百十一話 町長の館


魔族も働いてないとニート呼ばわりされるんだな。

 「魔族の人はみんな働いているのが普通なのかい?」


 「うーん、必ずしも働いてる・・・て意味ではないんですよぉ、

 個人主義や相互不干渉で、街のために何の役に立ってなくとも、

 一人で謎の研究や趣味に没頭している者もいるですよぉ、

 誰にも迷惑かけてないので、自分で食料調達できるなら、後ろ指差されることもありませんですよぉ!

 けれど・・・ここにいるのは、それこそ、その趣味やら研究もしない怠け者なのですよぉ!」


ところがヨルの話が真実とも言えないようだ。

 「ああ?」と、

近場にいて噴水を見ていた魔族がこちらを振り返った。

 「誰かと思えばヨルの嬢ちゃんか、

 言いたいことを言ってくれるじゃねーか、

 だが、お前は勘違いをしている。

 オレたちは何もしてねーわけじゃねー、

 魔王様が降臨されたときのために、いついかなる時でも馳せ参じることができるようにカラダを空けているのさ。」


魔王降臨だって?


 「ならそれこそ、剣や槍の訓練してればいいのですぅ!

 ぼーっと、カラダをなまらせたまんまじゃ、魔王様の足を引っ張ることしかできませんですよぉ!!」

 「はっ、これだから生まれたばかりの小娘が!

 魔王様はそのタイプが、物理戦闘型か魔術特化型か、ご生誕されないとわからないんだ。

 もし、魔王様が魔術型なら我らもその剣となろう、盾となろう。

 だが、もし物理戦闘型なら、それこそ我らなど魔王様の邪魔にしかならん、

 なら剣の訓練などせずに、魔法の練習をすべきなのだ。

 わかるか?

 それまで、無駄なことをすべきではないということを!!」


はぁ~と悲しそうな顔で溜め息がヨルから聞こえてくる。

 「なんか・・・大変なんだな・・・。」

ケイジの瞳には同情心がアリアリと浮かんでいる。


 「わかってくれますですかぁ?

 もう、こんな連中ばっかりなんですよぉ、

 もちろん、みんながみんなってわけでもないのですよぉ、

 ミドなんか、あれで向上心あるだけ、まだいい方なんですよぉ?」


どうやらエルフ娘たちには通じるものがあったらしい。

ダークエルフのアガサが、ヨルの肩にポンと手を置く。

 「ヨル、あなたは何も間違っていないと断言、

 今にして思えば、あなたがカラドックに欲情したのは道理。」


えっ!?


続いてハイエルフのタバサがヨルの指を絡めとる。

 「新しい風を取り込まなくなった組織は衰退、

 外の革新的な子種を取り込むのは女の本能。」


ちょ、え、私!?


 「わ、わかってくれるですか!?

 はっ、まさかあなたたちもヨルと一緒っ!?」


 「「けれど先にカラドックの子種を授かるのはこの私!!」

え、あの、ちょっと!?


 「あ、ならヨルは皆様の後でいいですよぉ!?

 ヨルは順番を守るいい子ですぅ!!」


 「ケイジ、助けて・・・。」

けれど、彼はとても冷たかった。


 「・・・もう覚悟決めちゃえよ・・・。」


ウェールズ、パパを見守っておくれ。

ラヴィニヤ、愛してるのは君だけだぞ。

あ、でもラヴィニヤだと「まぁ、やりましたわねっ、カラドック! 家族が増えますよっ!」って言ってきそう。




中央広場のさらに奥には、ひと際大きい建物が存在していた。

城というより、施設と言ったイメージ。

施設だとするならこの街の役所的なものだろうか。

ヨルは町長のところに案内すると言ったので、

役所の可能性は大きいが、町長個人の家という可能性もあり得るか。


・・・だが、どっちにしたところで人の気配が・・・少ないな。

「妖精の鐘」をこっそり起動させるが、建物の大きさの割に中にいる人の数が少なすぎる。

 「ヨルさん、ここが町長の・・・住居でいいのかな?」


 「住居兼、仕事場になりますよぅぅ!

 住居は別にあるのですけど、もう何十年も町長やってるので家から通うのが面倒だそうですぅぅ!」

 

今まで聞いた感じだと、あまり時間の変化ってなさそうだし、保守的なイメージでいいのだろうな。

しかし人の少なさはこんなものでいいのだろうか。


 「ヨルさん、衛兵とか警備の人たちの姿が見えないね?」

 「衛兵? 街の中まではバジリスクも入ってこれませんよぉ?

 魔族同士では争いもありませんしぃ、あったとしても正当な手続きによるものですぅ。」

 「正当な手続き?」

 「町長交代のタイミングですかねぇ?

 魔族は腕っぷしで町長決めるですぅぅ!!」


そんなんでいいのか・・・。

 「あ、ていうことは、数十年この街で一番強い人が町長ってこと?」

 「はいぃ、そうなりますですぅ!

 ただ凄く強くても、政治や町に興味ない魔族もいますですので、必ずしも町長だから一番強いとは限りませんん!」


そんな事を話していたら、建物のホールのようなところで執事服に身を包んだ壮年の男性に話しかけられた。

角が立派だ。

 「これはヨル様、おかえりなさいませ、そちらの方々は・・・?」

 「街の外で出会った人たちですぅぅ、

 これからおとうさんの所に連れていくですぅ!!」

 「あ、あの失礼ながら・・・その方々は・・・。」


そりゃ、驚くだろうね、

どう対応していいか困っているようだ。


 「ヒューマン、獣人、エルフの人たちですよぉ? それがどうしましたかぁ?」

 「いえ、・・・失礼しました。

 何かありましたらお呼びください・・・。」


凄い丁寧だが、警戒されているな。

それより気になる発言があったな・・・?

 「ヨルさん、今の執事さんぽい人、『おかえりなさいませ』って・・・?」

おとうさんとも言ってた気がするぞ?


 「この屋敷、あたしも住んでるですよぅ!」

 「・・・え、それじゃおとうさんって言うのは・・・。」


 「んへへへへ、ヨルのおとうさんがこの街の町長なのですぅぅ!!」


そう来たか・・・。

これ、この街のトップに話がつけやすくなったって、解釈していいのだろうか?

それとも厄介なことになると思った方がいいのだろうか?





階段を登るとフロア一面に立派な絨毯が敷かれている。

廊下も幅が広く、間違いなくこのフロアに町長がいるのだろう。

そして見えてきた。

あの装飾性の高い二枚扉が目的の部屋だな?

先頭のヨルは迷いもなくそこに歩いていき、

勢い良く扉を開く。





 「おとうさぁん!!

 お婿さん見つけてきたですよぉぉぉぉっう!!」


厄介な方だった・・・。




次回、ヨルのパパ登場。



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