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第百八話 魔族ヨル


 「・・・嘘だろ。」


狼獣人ケイジがあんぐりと口を開けて呆けている。

いや、大なり小なり他のメンバーも一緒だ。


あれから・・・ブラックワイバーンを倒した我々は、一度アークレイの街に戻り、

冒険者ギルドに報告、その上で新たに開拓部隊を募り、

我々が発見したルートに拠点を造り上げた。


特に、洞窟の中に意図的に隠蔽されたルートがあったという事実は、

北方からの侵略者の存在を警戒させるに十分な論拠になり得た。

冒険者ギルドは直ちに周辺のギルドのネットワークを駆使し、近隣から応援及び国からの支援を取り付けた。

外敵の存在が大掛かりな組織だった場合、それは冒険者で対処する範疇を越えるからだ。


現在、私たち「蒼い狼」への依頼は更新され、

この洞窟の先にある北の大地に何が存在するのか、他のパーティーと共に探索することになった。


とはいえ、あまりにも広範な土地を何処から手を付ければいいのか、途方に暮れるという事はなかった。


 「向こうから接触してきた」からだ。




最初にその接近を感じ取ったのは、獣人のケイジやリィナちゃんだ。

ブラックワイバーンの住処を越えた先にあったものは、

やはり高低差のある大渓谷で、高台が続くのであれば、そこから下を見下ろしながら行軍を続けたいのだが、残念ながら円柱のような形状の高台は、他の高台と地続きにはなってはおらず、

結局、崖下の岩がゴロゴロしているようなルートを取らざるを得なかった。

そうなると視界は限られてしまい、効率的な探索は難しくなる。

そんな時、ケイジ達は何らかの存在の接近に気付いたのだ。


 「そこにいるのは誰だ!!」

身を隠すことのできる岩場は要所要所にある。

その内の一つに向けてケイジは矢をつがえる。

ダークエルフのアガサも魔力を高めいつでも攻撃できる体勢だ。


すると突然意表を突く声が・・・。


 「ま、まってくださいぃぃぃ、

 あやしいもんじゃありませんですよぅっ!!」


女の子の声だ。


まさか女性であるという魔人が?

しかし、セリフと声の幼さはラスボスの雰囲気がまるでない・・・。


 「怪しいもんじゃないってんなら、姿を見せろ・・・!」

 「こ、攻撃しないでもらえますかぁ?

 ・・・うう、バレないように隠匿結界張ってたのに・・・。」


そうなのか?

少しセリフに違和感を覚えた私にリィナちゃんが耳打ちしてくれた。

 「あの子、バカだよ、

 結界張ったって、匂いや足音は消しようがないのに。」


なるほど、相性が悪かったな、

確かに魔力の気配は感じなかったが、感覚機能に鋭い獣人には効果が薄いらしい。


 「お前に敵意がなければ攻撃しない。

 さっさと姿を現せ。

 さもないと隠れていようと崖ごと破壊してお前を押しつぶしてやる。」

 「オーケー、ケイジ、

 ストーンシャワー起動準備。」

アガサが土魔法最大術の用意を構える。

いや、ここでそれをやったら大惨事になるからね?

まぁ脅しなんだろうけど。


 「うわうわうわ、今出ていきますよぅぅ!!」


そして両手を挙げて出てきたのは・・・

声の印象を裏切らない、まだ10代半ばに見える薄着の女の子だった。

太腿と二の腕を露出するのはいいとしてもおへそも丸出しだ。

寒くないのか!?


いや、それは後回しか、

頭には、やけに体積の大きいターバンのようなものを巻いている。

ここは北方だというのに、その子の肌は浅黒い・・・。

アークレイ以北でこんな肌を見た覚えなど・・・


 「まさかダークエルフ? こんなところに!?」

驚くリィナちゃんをアガサが冷静に否定する。

 「否、耳の形が相違、彼女はダークエルフとは別の種族。」


あ、確かにそうだ。

耳の形だけで言えば通常のヒューマンか。

では我々と同じ冒険者だろうか?

だが、我々の他に探索者でこんな子いたっけか?


ケイジは弓矢を構えたまま詰問する。

 「本人に聞いた方が早い。

 ・・・お前は何者だ、何処から来た!?」


 「あ、あたしはま・・・あ、名前はヨルっていいますよぅ・・・!

 この先の街の人間ですよぅ・・・。」


いま、何か言いかけたな・・・「ま」?

いやそれより街と言ったか?


 「街!? 近くに街があるのか!?」


 「はぃぃ、マドランドという街がありますぅ、

 あたしはそこのパトロール員ですよぅ。」


我々は顔を見合わせる。

アークレイの壁の向こうは前人未到の荒れ地だと聞かされていた。

特殊な技能を持った登山家のようなものが壁を越えることはあったというが、

ある程度まで進んだら、何もないと諦め戻ってくるという北の大地。

我々自身、ほぼ同じ感想を持ちつつもここまで来たのだが・・・街か。


 「あ、あの、そろそろ弓矢下ろして欲しいですよぅ、

 普通に会話させてもらえませんかぁぁ?」

 「お前一人か? 武器はその腰の剣だけか?」

 「そうですよぅぅ、

 暴力反対ですよぅ・・・。」


警戒は解かないようだがケイジは一度弓を下げた。

 「街のパトロール員と言ったか、ヨル・・・・だったな、

 一人でパトロールしてるのか?」

 「交代制ですよぅ、

 巡回エリアも決まってるから一人でなんとかやれますよぅ、

 でもたまにバジリスクとか出没するんで、すぐに隠れるか応援呼ぶかになってますよぅ。」


バジリスクがいるのか、

確かにこの辺りは隠れるところがたくさん有りそうだな。


 「ではヨル、聞きたいことがある。

 お前は魔人の仲間か!?」


 「・・・えっ!?

 ま、魔人・・・!?」

明らかに動揺が見て取れる。

少なくとも何らかの知識はあるようだな。


さっき言いかけたのも、もしかしたら・・・。


アガサが再び魔力を高め、リィナちゃんが両手にロングナイフを・・・。

 

 「ま、待つですよぅ!

 魔人には二通りの意味があります!

 狭い意味の魔人だったらあたしには関係ないですよぅ!!」


ん? 狭い意味? 二通り?

 

 「広い意味なら関係者ってことか。

 あらいざらい吐いてもらうか・・・。」

 「ふぇぇぇぇん、こんなところで死にたくないですよぅっ!

 まだ美味しいもの食べたいし、みんなとバカ騒ぎしたかったし、

 恋の一つや二つもしたかったですよぉぉ、

 おとうさぁん、おかあさぁん、ヨルはここで食い殺されちゃいますぅぅ!!」


本気で泣き出したのか?

演技にも見えない・・・よね?


 「・・・ケイジ。」

私たちは顔を見合わせた。

完全に毒抜かれたな・・・。

仕方ない、私が交渉しよう。


 「えーっと、ヨルさん・・・だったね、

 正直に話してくれるなら、

 君に一切、危害は与えない。

 約束しよう。」

 「ホ、ホントですか?

 あたしあの狼さんに食われない?」


全員の注目を浴びるケイジ。

 「・・・お前ら、いちいちオレを見る必要ないだろ・・・。」

えらくご不満のようだね、ケイジくん。


まぁ話を進めないとね。

 「それで、ヨルさん、魔人について教えてくれないか?」

 「ま、魔人は広い意味だと種族名ですよぅ、

 でもあたしたちは、普通魔人と呼ばずに魔族と呼びますよぅ。」


魔族だって?

そういえば、この子、瞳の色が・・・琥珀色・・・。

 「では狭い意味だと?」

 「あたしたち魔族の・・・あっ!

 ま、魔族の中でも特別に力を持った特殊個体のことですよぉ、

 魔族全体を統治するだけの力を持つとされてますけど、

 魔族そのものは共和制なので、実際に統治者になるケースはあまりありませんよぅ。」


自分で魔族と言っちゃってるよ、

まぁそのまま話をするか。

 「さて、私たちはその魔人が、よからぬ計画を立てて、ヒューマン側にちょっかいをかけてきてると聞いたのだけど、それについて君はどこまで知ってる?」

 「へ? へ?

 な、なんにも知りませんよぉ、

 この時代に魔人が生まれていることは知ってますけど、

 あたし達には何の関係もないし・・・、

 あ、まさか・・・」

 「まさか?」

 「い、いえ、知りませんですよぉ、

 知ってるのは、最近魔人と言われた人がドラゴンとかワイバーンとか、エルフとか、

 他種族を集めているとかそんな噂ぐらいですよぉ。」


おっと、話が繋がって来たな。

 「魔人の名前は分かる?」

 「え、え・・・と、名前は秘匿されてるそうですけど、確かクィーンとかなんとか・・・。」


ケイジが呟く。

 「ビンゴ・・・。」


 「君の街にその・・・クィーンはいるのかい?」

 「いませんよぉ、魔族の街はたくさんありますよぅ、

 マドランドに来たことはあるかもしれませんけど、もし大手を振って来たのなら、

 魔人は珍しいので大騒ぎになりますよぅ。」


ううむ、話が大きくなってきたか。

 「誰か魔族について詳しい人はいる?」

振り返るとハイエルフのタバサが手をあげた。


 「魔族はヒューマンやエルフの社会でも名前だけは大昔から存在。

 エルフに肩を並べる魔力と獣人並みの戦闘能力を持つと伝承。

 ただし繁殖力が乏しいためにコロニーなどは造られたことはなく、

 集落すらも確認不能。」

 「カテゴリー的には亜人に?」


そこでタバサは目を瞑って首を振る。

 「伝承では魔族の体内には魔石があるので、魔物にカテゴライズ。」


そこでヨルが涙目で主張する。

 「差別は良くないですよぅ、

 魔石があったって何が悪いんですかぁ?

 男の人にオチンチンついてたって悪くないのと一緒ですぅ。」


ぶっ、

いや、確かに正論で・・・

しかも獣人として被差別的存在であるケイジやリィナちゃんには、一言も口を開けない。


しかしヤバいな。

この露出度で・・・このあどけない容姿で・・・

しかも涙目でオチンチンとか言わないで欲しい。

女性陣がいなかったら、暴走する男がいてもおかしくないぞ?

いや、この子の言動そのものがヤバい。

天然なのか、計算ずくのセリフなのか。


 「そ、それと・・・。」

ん? タバサも多少、動揺しているようだな、声が上ずっている。

 「魔族には頭部に二本の角が・・・。」


へぇ?

 「あ、え、とヨルさん、差し支えなければ角とやらを見せてもらってもいい?」


あれ? 急にこの子、真っ赤になったぞ?

 「え? あ、あたしの角ですかあ?

 そ、それは・・・ど、どうしても見たいんですかぁ?」

 「え、あ、何かタブーか、人に見せてはならないものなら無理には・・・。」

 「え、えへへ、ちょこっとならタブーはありませんよぅ、

 魔族は角が生えてるのが当たり前なので、あたしたちは互いに見せ合ったりなんかしませんですよぅ。

 でも、どうしても見たいのなら見せてあげますよぅ、うふふふ。

 仕方ないですねぇ、ヨルの角がそんなに見たいなんてぇぇ。」


そこで男を誘うような目でターバンをずらしにかかるのは、わざとなのだろうか?

うん、確かにターバンと黒髪の隙間から羊の角のような突起物が見える。

 「ここまでですよぅ、

 ここから先は特別な関係にならないとお見せできないのですぅ・・・。

 せ、責任取ってくれるのなら、全部お見せしますよぅ?」


 「い、いや、だ、大丈夫だから。

 ありがとう、結構だ。」

私は助けを求めるようにタバサを見た。

彼女はそんな風習知らない知らないと首を振る。

ううむ、いつの間にか向こうのペースになってるな。


そこへ今度はヨルの方から質問が出た。

 「逆にお尋ねしたいのですけど、

 お兄さんたちは、用があるのはその魔人だけですぅ?

 魔族の街を滅ぼしに来たのではないのですぅ?」


ここはケイジが答えるべきだな。

 「いや、無駄な争いはしたくない。

 魔族とやらが・・・あの壁の向こうに住んでいる者達に危害を加えないというなら、

 オレたちも何の興味もない。

 ただ、魔人・・・クィーンに対しては敵対行動取られているのは間違いないようなんでな、

 魔族がその魔人に肩入れするのであれば・・・。」


 「それはないと思いますよぅ、

 魔人は魔人で好き勝手にやってるみたいなんでぇ。

 まぁ、あたしは一介の巡回兵なんでハッキリしたことは言えませんよぅ。」


 「なら、ヨル、オレたちが君の街で情報収集したいと言ったら、

 問題は起きそうか?」

 「偉い人の許可が下りれば大丈夫ですよぅ。

 ぜひ遊びに来て欲しいですぅ、

 魔族の街は刺激が少ないので大歓迎ですよぅ!」

 「い、いや、遊びに行くわけじゃないんだが・・・。」



そして冒頭。

 「嘘だろ・・・。」


次回、魔族の街へ。



お詫び&言い訳。


かねてから予告してましたけども、

もう下書きのストックがわずかです。

今残っているのは、この魔族領編と、メリーさんグリフィス公国に到着して騒動を巻き起こす所までです。

このままだと見直しなどの修正する余裕もなくなりますので、更新ペースを落とさせていただきたいと思います。


現状、三日に一度程度にはコントロールしたいと思います。


これ造り始めた時は、仕事も余裕あったんですが、異動したら休みの日も電話かかってくるような職場になってしまったもので・・・。

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