第百三話 ぼっち妖魔はやらかしてしまう
「ゴッドアリアさん、魔力はまだ余裕ありますか?」
髪の毛が爆発したかのようにとんでもないボロボロのゴッドアリアさんだけど、
同情する時間も気持ちもさらさらない。
ちなみに額の生え際も余裕ないかもしれない。
はい、リーダーさん、足元からロックワーム来ますよ。
「うおおおおおっ!?」
勢いで剣を振り回すことは出来たけど、尻尾の方を切りつけただけだね、
向こうにしてみればダメージは感じないんだろう。
ふくちゃんも反応したけど、先にゴッドアリアさんを啄んでいたから、ちょっと攻撃が遅れてしまった。
「ううう、ヒック、ヒック、う、うん、もう一度やってみるよ・・・。」
ほらほら、泣いていないでもう一度杖構えて・・・。
「はい、じゃあ魔力集中から・・・『母なる大地よ・・・』」
「は、『母なる大地よ・・・』」
良し、魔力起動おっけー!
魔力起点・・・目標・・・ちょっとずれたかな?
「ゴッドアリアさん、そのまま魔力の中心を左20度くらいずらして!」
「(こ、こうかな?)」
「オッケーです!!
そのまま魔力を拡げていきますよ!!
半球のイメージで!
それ!!『獲物を捉える・・・』」
「『獲物を捉える・・・』」
いいですよいいですよ!
ロックワームを中心にしたまま魔力の壁が確立されていきます!
後は・・・。
「さぁ、そのまま魔力を堅固な壁に圧縮していってください!!
『檻と化せ』!!」
「『檻と化せ』!!」
良し、いける!!
「『アースボウル』!!」
「『アースボウル』!!」
その瞬間、ズズズと地面が揺れた!!
間違いない!
アースボウルはロックワームを取り囲んでいる。
そして奴の牙ではそのアースボウルを喰い破ることなどできない。
まさしく生簀の中の魚みたいに狭い地中の中をぐるぐる回り続けるだけだ。
・・・ううん?
まだ行先はあるよね?
陽の光が注ぐ明るい地上は何の檻もないよ?
さぁ、はやく上がってくるんだね。
「みなさん!
街道脇に避難してください!
奴はもう逃げられません!!」
「・・・ていうかさ、
これ、オレら囮だったんだよな、きっと・・・。」
「そんで、おれら、もう用済みってか?」
何か聞こえてきましたけど聞こえなかったことにします。
地中に造り上げた半球状の檻の上に、もう人も馬車も存在しません。
つまりロックワームが浮かび上がった先に、奴が食えるものは何もないという訳です。
ちなみに、半球の中をロックワームが身動き出来ないほど全て硬められれば、話は早いんでしょうけど、
流石に広範囲過ぎてゴッドアリアさんの魔力量でもどうにもできません。
基本、元となる魔術はアースウォール、
つまり二次元の壁を作る術なのです。
その壁を伸ばして変形させて、半球状態まで持っていったのが今回の作業。
半球中身全て固めるとなると三次元的な魔術となり、その発動コストは比較にならない。
あたし?
あたしの虚術は三次元ですけど、物質に影響与えるものじゃないですしね。
まあ、魔力量も更にゴッドアリアさんの上を行ってますけど。
さぁ、どんどん詰めますよ!!
「サイレンス!!」
ゴッドアリアさんの作った檻の中を無音状態にします!!
知覚機能を封じられて、ふくちゃんやお馬さんは静かにしてたけど、
ロックワームはどうかな!?
動きを止める!?
おとなしくしてるならそのままでも?
それならそれでいいよ!?
でも君はお腹が減ったから、エサを求めて暴れているんだよね?
そのままそこで餓死するつもり?
まぁ、そこまで待ってあげないけど。
姿が見えないとはいえ、あたしには居場所がバレバレなのだ。
いくら地中とは言え、動きもしないのなら攻撃する手段はいくらでもある。
あ、あれ?
う・・・動かないみたいだね・・・
「お、おい、どうなったんだ?
奴はどっか行っちまったのか!?」
「まさか、逃げられたんじゃ!?」
ちなみにサイレンスは、ゴッドアリアさんの作った土の檻を、ちょうどそのまま結界空間に利用させてもらっている。
つまり、地上部分は普通に会話の声も聞こえるわけだ。
「大丈夫です、奴はそのままその下にいます!
音を封じさせてもらったので、警戒して地上に上がってこれないだけです!!」
「お、音を封じる?
や、闇魔法でそんなんあったっけ?」
闇魔法でありませんので、あしからず。
さて、
手段はいくらでもとは言ったけど・・・。
「ゴッドアリアさん、ちなみにストーンバレットでもストーンランスでもいいんですけど、地中のロックワームに攻撃を届かせられますか?」
ゴッドアリアさんは一瞬きょとんとした顔をしたけど、すぐに首をぐるんぐるん回し始めた。
「無理無理!
地中、2~3メートルの浅い部分ならともかく、もっと深いところにいるかもしれないんだろ!?
それにさっきの魔法でアタイも残り魔力僅かだよ!?」
むぅ、一つ、手段が潰れたか・・・。
「おい、ここまで来てとどめを刺せないとか言うなよ!?」
外野うるさい。
みんなにも詰めが甘いとか思われてしまいそうだよ。
仕方ありません、
もう一枚手札をお見せしましょう!
まぁ、外野には見せないけど。
「この子に七つのお祝いを!!」
当然対象はロックワーム!!
状態異常!!
暗闇!!・・・意味なし
不安!!・・・意味なし
老化!!・・・お?
沈黙!!・・・意味なし
飢餓!!・・・意味ないよね?
耳鳴り!!・・・意味ないってってサイレンス状態で聞こえるの?
うう、今回相性悪いな・・・でもいいや、効果が出るまで何度でも・・・
狂乱!!
・・・きたーっ!!
「みんな、来ますよ!!」
この場の全員に警告する!
狂乱状態になったからには、問答無用で暴れ始めるだけだ。
もっとも、みんなにはこの場に近づかないでくれればそれでいい。
地中から這い出てきたその時を・・・
「ふくちゃん!!」
激しい土煙と共に奴が姿を現した!!
もはや土の檻も無音状態も関係ない。
動くものを感知したら手当たり次第に襲い掛かるだけ!!
それでも地中を這いまわるしか出来ない虫けらには、
大空から襲い来る絶対的な捕食者には敵う筈もないのだ。
「「「「おおおおっ!!」」」」
ふくちゃんの強力な鈎爪が、ロックワームの頭部を捕獲!!
もう逃がす事などない!
そのままふくちゃんは空中で羽ばたきながら、ホバリング!!
それどころか、地面から引きずり出す引きずり出す!
ついにロックワームが地面の中から、その姿全てを白日の下に曝け出されたのだ。
ウネウネウネウネ、激しくロックワームがその爪を外そうと必死に暴れるけど、カラダを支える地面がなければ、力は半減!
その間にきつつきのように、ふくちゃんの嘴はロックワームの肉を喰い破る!!
そしてさらに!!
「魔獣召喚!! スネちゃん!!」
煌めく黄金の光と共に、おなじみスネちゃん召喚!
下品なロックワームとは気品が異なるのだよ、気品が。
ふくちゃんが空中で抑え込んでいるロックワームに、
鮮やかにジャンプ一番、毒の牙を突き立てる!!
途端に激しく痙攣したかと思うと、
その後、ヤツはびったんびったんまさしく狂ったように暴れ始めた。
でも、それも束の間・・・、
もはや抵抗する力もなくなったか、
その尻尾もふくちゃんに届かせることすらなく、意味のない動きを繰り返すに至ったようだ。
そして勝負あったとふくちゃんも理解したのだろう、
その鈎爪からロックワームをボタリと落とすと、
着陸間際に片方の翼を広げ、
スネちゃんの尻尾がそのタイミングに合わせて互いにハイタッチする。
仲良くなったね、きみたち。
うんうん、お姉さんは嬉しいぞ。
スネちゃんの毒も強力になったなぁ・・・。
あたしがしみじみ、そう思っていると、
ようやくそこであたしは気が付いた。
サイレンスはその場にかかってないのに、周りが圧倒的に静かすぎることに。
「あ。」
どうやらやりすぎてしまったようだ。