第百話 ぼっち妖魔は警告する
ぶっくまありがとうございます!!
馬車の中の会話は、
マーヤ夫人とゴッドアリアさんで間を持たせていた。
マーヤ夫人は水筒からお茶を出して、
ゴッドアリアさんは感激しながら、お茶を啜っていた・・・。
ほんと貧乏臭い。
それはいい。
あたしは、耳だけ反応できるように休んでいたのだけれど、
危険察知が働いだのだ。
「デミオさん・・・!」
いきなり覚醒したあたしを見て、
ただ事でないと理解したのか、
デミオさんは真剣に、あたしの顔を見る。
「ど、どうした、嬢ちゃん!?」
「御者の人や護衛の人達に注意を!!」
その場の全員の顔色が変わる!
「襲撃か!?
盗賊でも近づいているのか!?」
これは違う!
「いえ、魔物です!!」
デミオさんが御者の人に大声で呼びかけ、
後は御者の人と手分けして周りを護衛している冒険者の方々を呼び止める。
これは、この場で一番発言力のあるデミオさんに頼らざるを得ない。
まあ、デミオさんが、何の疑いもなく、あたしの察知能力を信頼してくれるのが嬉しいですけどね。
だけど、冒険者のリーダーは信じられないとでも言うような顔つきだ。
「おいおい、魔物だって?
この辺は危険なものは狩尽くして、
せいぜい普通の熊や猪くらいしかいないぞ?
それに、こっちは鼻に優れた犬獣人のボーディがいるんだ、
奴の鼻より先に探知できるなんてあり得ねーよ!」
えっ?
犬型獣人?
あ、ホントだ、
帽子被ってるから出発の時は気付かなかった。
この世界に獣人や亜人がいるのは聞いていたけど、お目にかかるのは初めてだ。
あれ?
あたしの目がキラキラしてるのに、気づいたのか、
犬型獣人のボーディさんは恥ずかしそうに視線を下げた。
シャイなのかな?
あ、それどこじゃなかった、
まずはデミオさんがあたしの能力をやんわりと説明する。
「この嬢ちゃんの探知能力は、カタンダ村の冒険者ギルドでもBランク並だのお墨付きが出てるんだ。
少なくとも警戒レベルを上げるべきだぞ。」
い、いえ、そんなはっきりとまではお墨付き出てませんよ?
「はん、あんな田舎ギルドに保証されたって、信用できるかよ?
まずはボーディの鼻待ちだ、
ていうか、こんな所で足留め喰ってたら余計に襲撃されるわ!
それよりとっとと・・・。」
そこであたしが馬車を降りた。
危険は更に近づいて来ている。
馬車が止まったおかげなのか、魔物の接近スピードは落ちて来ているけど、
あたしが感知したということは、
魔物はこちらを認識しているということだ。
・・・そしてこの方角は。
あたしは地面の下へと視線を向ける。
全員、あたしの視線の先に気づいたろう。
そこであたしはその体勢のまま、犬の顔したボーディさんに話しかける。
「ボーディさん!
鼻は利かないと思います!
それより何か聞こえてこないか、耳に集中して下さい!!」
「音だって!?
それもその方向は・・・地中!?」
ボーディさんは帽子を外した。
可愛らしい耳が垂れてるけど見惚れてる場合じゃない。
あ、自分の意志で耳を立てられるの?
うん、あたしの遠隔透視でもはっきりわかって来た!!
「あ!!」
ボーディさんの耳がビクンと動いた!
「ボーディ!
何かいるのか!?」
「全員、馬車の中に入れ!!
奴は足音や振動を的にして向かってくるぞ!!」
「あ、え、なに?」
ゴッドアリアさんが腑抜けた声を上げる。
「デミオさん、ゴッドアリアさんを馬車に!!」
言うが早いか、デミオさんが強引にゴッドアリアさんを馬車に押し上げる。
きゃあ!とか黄色い悲鳴上げてる場合じゃないよ!
「麻衣さんも!!」
マーヤ夫人が、未だ街道に立ち尽くしているあたしを心配してくれるけど、
今、この位置は大丈夫。
奴は・・・
地面が揺れ始めた・・・。
「ま、まさか、これ・・・。」
「おいおい、これ、こんな所にいるわけねーよな!?」
みんな奴がどこから現れるか分からず辺りをキョロキョロ見回すばかり。
あたしにはもう視える!
街道脇の茂みに目を向けた。
「あそこから来ます!!」
「え!?
あんなとこ、何もねーじゃ・・・」
その瞬間土塊が吹き上がり、ぶっとい筒状の何かが舞い踊る!
消火栓のホースの5倍くらいの太さだろうか。
うん、見たことはあるんだよ、
カタンダ村のダンジョンで。
でもこんな・・・いや、
地下10階のフロアボスがこんな大きさだった。
でも、奴は固い岩盤を掘り進めなかったから、討伐は楽だとエステハンさんは言っていた。
問題は地中を自在に掘り進められる環境では、
その討伐難易度はBランクのパーティーが必要になるという。
ロックワーム!!
成長すると家畜や人を飲み込む、
人里付近に出没したら、絶対に討伐しないとならない魔物だ!!
「けっ! まさか、こんな道中でロックワームにお目にかかるとはな!」
「だが、事前に知れて助かったな!
気づかなかったら、いきなり丸呑みされてたかもしれんぞ!」
ここからは冒険者の皆さんにお任せするか、
と思っていたら、御者さんと馬車が大変なことになっていた。
馬車を曳くお馬さん達がパニックになって暴れ始めてコントロールできなくなりそう!
「「きゃああああっ!!」
マーヤ夫人とゴッドアリアさんが悲鳴を上げる。
これじゃ、馬車の中に避難する意味がない!
「チクショウ!
こいつは堪らんぞ!
どうにもならんか!?
かと言ってこのままじゃ、馬が喰われる!」
あ、なら・・・
あたしはお馬さんに向かってダッシュ!
冒険者の皆さん、ロックワームの相手はお願いします!
「おい、嬢ちゃん、どこへ!?」
すいません、デミオさん、
お答えする時間がないです!
「お馬さん、ごめんね!?
『万物の主たる虚空よ!
その忌まわしき顎にて、小賢しき音を喰らえ サイレンス』!!」
そしてぶっ続けにダークネスも起動!!
サイレンスは他の人には気付きにくいけど、ダークネスは一目瞭然。
お馬さん周辺が真っ暗になる。
悪いけど大人しくしててね!
続いて他のお馬さんにも連続でかけまくる。
これで、お馬さんは静かになるし、
音もなくなれば、音で探知するロックワームにも襲われない!!
「なんだ!?
あの、お嬢ちゃん、闇魔法使えるのか!?」
ロックワームとの交戦中に、周りの暗黒空間に気付いた人達が、あたしの術に驚愕する。
うん、ダークネスだけだと闇魔法に見えるんだよね。
そして、計算通り馬車の方は静かになった。
後はロックワームと冒険者さんたちとのガチバトル!!
しかしこれが中々決定打を繰り出せない。
土や砂利道程度なら、
ロックワームはあっという間に地中に潜って、ヒットアンドアウエーを繰り返す。
冒険者達も集団で取り囲むも、
ロックワームの予測不能な動きに、なかなか刃を振り下ろせないのだ。
そこで馬車の中からゴッドアリアさん登場!!
「み、みんなどいてくれ!
あたしは魔術士だ!!
あたしのストーンバレットなら!!」
「お!
そっちも魔術士か、
思いっきりバーンとやってくれ!」
冒険者のリーダーの人がそう言うんだけど、なんかやな予感しますよ!?
「『母なる大地よ! 敵を撃て!
ストーンバレット!!』」
確か土の基本攻撃呪文、
これなら・・・あああああっ!?
ダラララララドガドガドガドガドガッ!!
「「「「ぎゃああああああっ!?」」」」
ガトリングガンか!!
とでも言うように何十発もの石弾がロックワームに連射されてゆく!!
ストーンバレットって単発の魔法じゃなかったっけ?
てか、範囲広すぎて冒険者さんたちにまで被害が及ぶ!?
あ、みんな倒れてるけど直撃は辛うじてしてなさそう・・・。
うまく避けたね!!
ロックワームにも2、3発入った筈だけど、
その胴体の肉を少しえぐっただけで致命傷には至らず、
奴は地中に潜り込んでしまった。
「て、てメェ、
オレら皆殺しにする気かあっ!?」
「リ、リーダー、あれ、あ、あの暴走土魔術士ゴッドアリアっすよ!?」
「ち、チクショウ、とんだ疫病神乗せていたのかよ!?」
「あ、あわわわわ、
皆さん、も、申し訳ないっ!!」
み、皆さん、ご無事で何より・・・
そして、そうか、
これがうっかりドジ魔女っ子の真骨頂というわけか・・・。