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第十話 ぼっち妖魔は蛇女から教えを乞う

<視点 麻衣>


丸々太ったホーンラビットは、あたしたち二人でちょうどいいぐらいの大きさだった。

あたしは普段そんなに食べないんだけどね。

今回はお腹空いていたからいつもよりたくさん食べた。

ラミアさんはさすがに野生で生きているせいか、食べることに遠慮はない。


火を起こせるかどうかが最大の心配だったのだけど、なんとラミアさんは魔法で火をつけたのだ。


 「それで、麻衣・・・だったわね?

 あなた、魔法使えないの?」

 「あたしの世界に魔法って概念そのものがないんですよ。

 魅了スキルのようなものはありますけど、それは精神に作用する能力で、物質に影響を与える術なんて・・・。」


ちなみにラミアのお姉さんの名前はラミィだった。

・・・あたしがつけた名前じゃないからね?



 「まぁあたしも魔法は得意ってわけじゃないわよ。

 特に火系は適性が低く、こうやって薪に点火するのでやっとなの。」

 「いやあ、でもすごいですよぉ、

 これだけでお腹壊す心配なくなりますから。」

 「他にも水系、光系の術で消毒・殺菌効果のある魔法もあるわよ?

 あたしは光系なんて使えないけど。」

 「あ、でも、食べ物は火を通した方が安心です。」


出来ればなるべく早く覚えたいな、

あたしにできるかどうかは別として。


 「それで、麻衣、あなたこれからどうするの?」

 「下流のほうに集落が視えましたので、一度そちらに行こうと。

 可能ならもっと大きな街にも行きたいし。」


 「ヒューマンの街に?

 妖魔だってバレたら、捕まるわ。」

 「じぶん、人間のつもりなんですけどね・・・。

 亜人のフリしてもダメなんですか?」


 「あなた身体に魔石はあるの?」

 「魔石ですか?

 あのホーンラビットの体内にもある?

 いいえ、そんなのありませんよ?」


校内検診でそんなものがあったら大騒ぎになるはずだ。

多分そんなものはないと信じよう。


 「・・・じゃあカテゴリーとしては魔物には分類されないかもだけど、殺されて身体バラバラにされた後に、やっぱり魔物じゃありませんでしたってオチじゃ手遅れよね?」


 「いやですね、それ。

 冒険者ギルドってとこで身分登録しようかと思っていたんですけど。」


 「少なくともそこで鑑定されるわ。

 あなたの正体はそこでバレる。

 ただ、その上で亜人扱いされるか、魔物扱いされるかはあたしにもわからないわ。」


 「困りましたね~・・・。」

 「まぁ一つ解決策はあるけどね?」


 「え! あるんですか!

 それどんなんですか!?」

 「ぐ・・・ぐいぐい来るわね?

 そんな大したもんじゃ、

 あたしたち高位の妖魔に身に着けられるスキルでステータス隠蔽というのがあるの。

 人間に完全に化ける人化はかなりのスキルポイントが必要だけど、ステータスを隠すスキルならそんな高いスキルポイントは要らないはずよ。」


 「えーっと、ステータス隠蔽はどの職業で覚えられるんでしょう・・・?

 いま、無職なんですけど・・・。」

 「ん? 無職なの?

 だけど職業は関係ないわ。

 妖魔ならデフォルト設定で覚えるわよ?」


いま、デフォルト設定って言ったよ。

いいの? そんなあからさまで。


 「そう言えば、メッセージさんが種族進化でもスキルは覚えるようなことを・・・。」

 「メッセージさん? 誰それ?

 でもその通り、職業じゃなく種族として覚えるスキルとして持っているはずよ。」


あたしは反射的につぶやいた。

 「ステータスウィンドウ・・・。」


あたしのステータス画面が目の前に現れる。

これは他人には見えないみたいだ。

指をスキルポイントの欄に這わせてゆくと、こないだはまだ見ていなかった、取得可能スキル一覧が表示される。

2000くらい溜まっていたので取得可能スキルを調べていくと・・・


吸血とか 魅了とか、爪格闘術とか物騒な名前がある。

要らないからね、そんなスキル。


ラミィさんの話だと、スキルポイントが溜まっていくと、取得可能スキルがどんどん表示されるようになるらしい。

今のポイントだと、低レベルのスキルしか表示されないそうだ。

ポイントが六桁くらい溜まると、

アンデッド化とか人化とか、浮遊とかのスキルがあるという。

ラミィさんもそこまでは貯めるのは難しいと言っていた。


要らないから。

・・・でも浮遊って気持ちよさそう・・・。



そして見つけた。

ステータス隠蔽。

消費スキルポイント1000・・・。

取りましょう。


 ピロリーンと電子音が響く。


 『スキル:ステータス隠蔽を取得しました。』


そしてそのスキルに指を合わせると、説明文がスキルの上に・・・


 「ステータス隠蔽Lv1・・・レベル一つに付き、ステータスのうち1項目を隠すことができる。

 なおパラメーター数値は隠すことは出来ない。

 一定のレベルアップと共にスキルレベルも上昇する。」


てことは・・・



そして、種族欄の「妖魔」と書かれているところに指を這わせると、文字の色が反転した。

だんだん分かってきたぞ?

同時にポップアップウインドウが開いて「ステータス隠蔽、使用しますか」とメッセージが浮かぶ。


イエス。


その瞬間、種族欄の「半妖」が「ヒューマン」に変わった。


 「おお! ラミィさん、成功しました!!」

 「一応、人間のところ行くなら、他におかしな表示されてないか確認しとくべきね。

 あと、鑑定魔法程度なら隠蔽を見破ることは出来ないけれど、鑑定の上位スキルや、魔眼や神眼の持ち主には見破られてしまうから。

 覚えておくといいわ。」


 「はい!

 ラミィさん、ありがとうございます!!」


おかしな表示というと、「妖魔変化」は真っ先に消さなきゃなんない。

「遠隔透視」や「未来視」は大騒ぎされないかな・・・。


 「騒がれるわよ・・・。

 だけど職業適性に巫女があるんでしょ?

 なら、化け物扱いされるということはないと思う。

 あたしなら隠しとくけどね。」

 「まぁ、未来視はレベルも1ですし、ほとんど発動したことないんですけどね、

 たまぁに予知夢を視るぐらいだけで・・・。」

 「へぇ、未来視のレベル1ってそんなものなのね、

 まあチートスキルみたいなもんだし、そのぐらいならあってもなくても変わらないか。」


 「ラミィさんには感知系スキルはどのぐらいなんですか?」

 「麻衣ほどじゃないわ、

 気配察知、危険察知程度しかない。

 その代わり、魅了スキルや魔法系スキルがあるからね。」

たぶん、あと熱源探知もありそうだ。


 「それよりも今の麻衣の強みは召喚術かしら?

 ただ、契約できる動物や高位の魔物を呼べないと意味はないと思う。」



うーん、契約・・・魔物かぁ・・・ん?


 ピュキーン!


 「ど、どうしたの、麻衣、目をキラキラさせて・・・?」


 「ラミィさん!」

 「な、なに?」


 「契約しましょう!!」

 「は、はぁ!?

 何がどうしてそうなるの!?」

 「契約したらラミィさん、呼べるんですよね!?」

 「え、い、いや、そうだけど、麻衣のレベルじゃあたしは無理よ!」

 「契約は先に済ませられるんですよね?

 あたしがこの先、レベルを上げていけば呼べるようになるんですよね!?」

 「ん、いや、あ、確かに理屈じゃそうだけど・・・。」

 「契約の対価はなんですか?

 特に蛇のスネちゃんとは何もなさそうでしたけど・・・。」

 「そ、それはあたしも呼ばれたことないから・・・

 でも確か、消費されるMPがあたしのものになるはずよ。

 正確には消費MPマイナス術式起動コスト・・・そして残ったMPが呼ばれた者の取り分、

 それが対価となる・・・。」


動物はMPを取得できないそうだから、

動物については隷属させる召喚ってことなんだろうか?


 「他に規則はあるんですか?」

 「いや、特にないわよ、

 ただ、それで契約するかどうかは本人たち次第で・・・。

 戦闘に勝利すれば、召喚された魔物にも経験値が発生するから、喜んで契約する者もいるし、そこら辺に興味なければ契約のメリットをそう感じない者もいるだろうし・・・。」


 「じゃあ契約しましょう!」

 「だからどうしてそうなるの!」

 「だってラミィさん、いい人だし・・・。」


 「はぁ!? あたし、さっきまであなたをどう食べようか算段してたのよ!?」

 「でも一緒にごはん、食べてからは態度変わりましたよね?」

 「人をそんな喰い物で釣られたみたいにゆわないで!」

 「あ、ご、ごめんなさい、そんな意味では・・・

 でもラミィさん、義理堅いんだなぁと・・・。」


よく見るとラミィさんの尻尾が揺れている。

あれって・・・犬とかと同じ習性なんだろうか?

蛇を眷属化してるくせにあたしも良く知らないんだよね?

・・・そういえばあたし生物部だった・・・。


 「ぎ・・・義理堅いって・・・

 そ、それはまぁ・・・

 あたしにもラミアとしての誇りがね・・・。」


あ、この人、なんかチョロそう・・・。

 「あたしの方は、下半身が蛇だったの見て、最初から親近感湧いてたんですけど、同じ系統の妖魔として、相性いいんじゃないかと・・・。」


そうですとも、

あたしはその時の都合に合わせて、

妖魔と人間と身分を使い分けられる女なのさ!

節操がない?

美味しいんですか、それ?


 「し、親近感て・・・馬鹿な事・・・。」

 「それにラミィさん、一人でさみしくないですか?

 この後、あたし冒険者ギルドで仲間探そうと思うんですけど、うまくいったら友達増やせますよ?」


そんなにあたし友達作るの得意じゃないんだけど、

この特性を隠さず使うのだったら、能力目当てとはいえ、声をかけてくれる人はいる・・・と思いたい。


 「に・・・人間の友達なんて!」

 「あ、まだ、仲間を亜人の方でもいいのかどうかわかりませんけど・・・。

 それに、ここは近くに人間の集落あるんだし、

 もしかして討伐クエストでも出たら、

 ラミィさん、どうするんですか?」


 「む〜・・・。」


そこでラミィさんは考え込んだ。

さすがに一人で生き延びてきただけあって慎重だ。

だからこそ、召喚の契約者になるのはメリットが大きいはず。

まぁ、あたし次第なんだろうけど。


 「そもそもラミィさんの危険度ってどのぐらいなんですか?」

 「ああ、あたしはご覧の通り、物理的な戦闘力は一般の魔物と大して変わらないの。

 魔力持ちだと危険度が跳ね上がるとされるけどね。

 それよりあたしの最大の売りは魅了だから、例えあたしより強い冒険者の一団が来ても、男中心なら、戦況を簡単にひっくり返せるわ。」


 「それは強力ですね~、

 僧侶の人とか、魅了封じのアイテムとかどうです?」

 「・・・嫌なこと聞くのね、

 うん、対策されて来られちゃうとかなりヤバいわ。

 魅了が効けばAランクパーティーでも勝てるだろうけど、全く効かない人たちだったらDランクパーティーにも負けるかもしれない。」



実際の戦闘力や身体パラメーターなんて、結局は目安の一つでしかならないらしい。

極端な話、攻撃力に10倍の開きがあっても、

例えば隠密スキル持ちの人間に背後から一突きされれば、どんなに強い人間でも死んでしまう。

それは元のあたしたちの世界でも当たり前だ。

とはいっても、いざ自分にそれが適用できるかというとまた話が違う。

マジで戦える手段がない。

感知系には自信があるので、戦闘を避ける、厄介ごとを避けるのは難しくない。

でもさっきみたいに、なんかこう必然的に戦わないといけないシーンがこの先いくつもでてきそう。


となると召喚で強力な魔物を使役するか、

・・・あとユニークスキルって言ったっけ、

あれもどっかで試しておくかな。

職業、どうしよう。

召喚士にして高位の魔物を呼べるようにするか、

巫女は・・・戦闘手段なさそうだけど、あの極悪スキルを成長させてみるか。

どっちがいいんだろ?


結局、ラミィさんの件は保留となった。

どっちみち、あたしのレベルとスキルではまだラミィさんは呼べないからだ。

この日は、もう日が落ちてしまうので、ラミィさんの洞穴に泊めさせてもらう。

既にラミィさんからはあたしに対する危険な気配は全く感じない。

むしろ、固い岩場や地面に配慮してくれて、藁を編んだゴザのようなものを用意してくれた。

やっぱりいい人だ。


・・・それにしても・・・


あたしは夜中に一度目を覚まして、少し離れたとこにいるラミィさんのほうを見た。

中央に火を焚いてくれている・・・。

これなら寒さを感じることもない。


時々、バチバチ、薪が爆ぜる音が聞こえて来る。

ラミィさんは変温動物扱いなのか、あたしたちとは生態が違うようだ。

普段は火なんか焚かずに眠るんだって。

でも腑に落ちない・・・。


ラミィさんたちラミアが蛇の生態に近いのはいいとしよう。

でもそうなると、子供を産むのは卵なのか、出産なのか。

下半身が蛇なら卵?

なら・・・ならあの質量たっぷりなおっぱいは何のために存在しているというのだろうか!


でも、最後は、ファンタジーに突っ込んだら負けなんだろうな、と思い直してあたしは眠ることにした・・・。



そして朝である。


 「よく眠れた?」

 「はい、ありがとうございました!

これから人里目指して旅を続けます!」

 「ちょこっとぐらいなら付き合ってあげたいんだけど、この先は平原で、あんまり身を隠すところがないから、あたしは不利なのよね。」


やはりラミィさんは岩場や砂地で真価を発揮するようだ。

特に遠距離から人間に見つかるとまずいらしい。

魅了は相手が遠くにいては効果が発揮できないそうだ。


そして一度ラミィさんに別れを告げた。

人間の集落まで半日も歩けば辿り着けるとのこと。

そしてこの平原にはそれほど強力なモンスターは・・・


一度だけヤバそうなはぐれウルフとやらとエンカウントした。

あたしの危機感知スキルより、向こうの接近スピードの方が上回っていたのだ。

勿論、スネちゃんを呼び出したが、

向こうの方がレベルが高い・・・!

レベル15!

あたしは意を決してユニークスキルを使う決心をした。


 「ユ、ユニークスキルレベル1!

 この子に七つのお祝いを!!」


別に口に出す必要はなかったのだけど、勝負を分ける決戦スキル・・・のはず!

ムード作りは大事である。

そしてその凶悪なる効果とは!!


状態異常!

・・・目ヤニ!

・・・肩こり!

・・・脱力感!

・・・鬱!

・・・息切れ!

・・・くしゃみ!! 

・・・全身のかゆみ!! 



・・・は?

ど、どこが凶悪なの、これ・・・。

れ・・・レベルが低すぎるから!?

でもはぐれウルフの反応や動きが鈍ったのは間違いない。

スネちゃんの攻撃にも反応が遅すぎる。

レベル15のウルフがレベル8のスネちゃんに毒の牙を突き立てられた!!


 うわぁぁ


こっちの毒の方がよっぽど凶悪だよ・・・。

あっという間に、はぐれウルフの足取りがおぼつかなくなり、口から泡を吐き始める。


 バタン! 

あああ、ピクピク痙攣し始めた。

スネちゃんの毒、強力になってない?

レベルアップの効果なんだろうか?


あたしは躊躇うことなく、倒れたはぐれウルフに向かってダッシュ!

ごめんね狼さん!

あたしも妖魔のはしくれなんだろう、

そんなに良心は痛まなかった。

手にしたホーンラビットの角で止めを刺す!!


レベルが9になった。

そういや、スネちゃんのカラダも一回り大きくなった気がする。


さぁ、人のいる村までもう一息!



レベル9

スキルポイント150取得

トータル1150 取得可能スキル 爪格闘術、吸血、昆虫召喚、


だから要らないから、そんなスキル。


次回、新キャラです。


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