第一話 メリーさん異世界デビュー
修正入れました。
ほとんどメイド長の視点にしてます。
私の名はメリー・・・
いま、
あなたの後ろにいるの・・・
<視点 メイド長バートン>
はあ〜あ、大変なことになりましたよ。
おっと、皆様初めまして。
私はこのお屋敷で働いてるメイド長のバートンと申します。
長い事このお屋敷で働いておりますが、この度とんでもない大きな事件が起きてしまいました。
ああ、こんな事を報告したら、お館様に怒鳴り散らかされるのはわかっておりますけども、流石にこんな大事、報告しないわけにもいきませんからねえ。
しかも今はお館様が地下の広間でお楽しみ中・・・
あの方はお遊びの最中、邪魔されることを極端に嫌うんですよ。
あああ、知らんぷりできればどんなに楽なことか・・・
コンコン!
何度か激しくノックしているのですけども反応はございません。
・・・これは、
ノックは聞こえてる筈なのに敢えて無視されてるのですよね。
ああ、かなり機嫌悪そうですよ?
とはいえ、ここで下がったらまた後で叱られるのは目に見えてわかりますとも。
ここは覚悟を決めねばなりません。
「お館様! メイド長のバートンでございます!
入ってもよろしいでしょうか!?」
「何事だ! 入れ!!」
別にお館様と信頼関係なんか作りたくもないんですけどね、
長いこと接していますと、お互いの反応なんかすぐに分かってしまうものです。
お館様の方でも、
お楽しみ中にも拘らず、私が声を掛けたことで緊急のお話と理解されたのでしょうね。
「バートン、どうした!?
わしが愉しんでる最中、邪魔されたくないことくらい貴様も知っておるだろう!
お前らしくないぞ!」
もちろん存じておりますとも。
部屋の中に入らせてもらうと、
お館様の足元に、結構な大きさのものが転がっておりますね。
・・・ピクリとも動きませんよ、
ああ、どうでもいいことですね、
そんな事より早く報告書いたしませんとね!
「お館様、申し訳ありません!
じ、実は大変な事が・・・!」
「だから何事だ!
早く申せ!!」
「そ、それが、警護隊長のエリオット様が・・・」
「エリオットがどうした!?」
「は、はい、先程首無し死体で見つかりました・・・!」
そりゃお館様も驚きますよね。
すぐさま、お館様は警護隊の副隊長を呼ぶように指示されましたよ。
まったく人使いが荒いと愚痴をこぼしたくなりましたけど、確かに警護隊長の首無し死体が見つかったら一大事ですからね。
えーと、副隊長は・・・
このお屋敷も広いですからね、
今現在、副隊長がどこにいるか、探すのに一苦労かと思いましたけど、あんな慌てたような大声で騒いでいたら、見つけるのは簡単でしたよ。
この辺り、首を斬られた警護隊長よりかは器が小さいと思うんですよ。
まあ、その警護隊長も普段は冷静でしたが、一度キレるとすぐに部下に暴力振るうようなロクでなしでしたけどね。
それでもお館様のやる事言う事には完全に従ってましたからね。
お館様も彼の事は重宝してたでしょう。
何しろ、あの獣どもの扱いに関しても・・・
おっと、今は副隊長と一緒にお館様の所へ戻らないと!
「お館様、お呼びですか!」
「お呼びですかではない!
エリオットが殺されたというのは本当か!?」
地下広間に戻った後、
事の説明は副隊長にぜぇんぶお任せいたしますとも。
私は一歩下がっておりますよ?
ええ、ええ、
私に出来ることなんてたかが知れてますものねえ?
「は、はい、何人かの兵士がエリオット隊長の悲鳴を聞いており・・・」
「なら早くそいつを捕まえよ!!
まさか取り逃がしたとでも言うのか!?」
「も、申し訳ありません、
いま兵士総出で館を捜索しておりまして・・・」
「執事やメイドも使って構わん!
何か手掛かりはあるのか!?」
ああ、やっぱりこの後もこき使われるんですねぇ・・・。
「は、そ、それが何も?
ただ・・・」
「ただ何だ!?」
「エリオット隊長が殺される直前、定時報告に向かった警護兵が、
隊長から、この館にメリーと言う名のメイドか料理人でもいたかと問われたとか。」
「メリー?」
メリー?
その話はいま初めて聞きましたよ。
そんな使用人なんておりはしませんとも。
すぐに私はお館様にその事をお伝えしました。
「つまりそれは、
エリオットがこの館の中で、
メリーと言う、いる筈のない女を目撃したということか?」
「その可能性があるかと・・・」
「だが、エリオットは首を刎ねられたのだろう?
女性にそんなマネができるか?」
「は、で、ですのであくまで可能性の一つとして・・・?」
「もう良い! さっさと行け!
バートン、お前もだ!!」
そのまますぐに部屋を出ようと思いましたら、お館様に呼び止められてしまいました。
「いや、バートン、お前は少し待て。」
「はい、お館様?」
はあ、
全く行けと言ったり、待てと言ったり、忙しないお館様ですよ。
まあ、いつものことですけどねえ。
「お前は奴隷達の様子を見に行け、
閉じ込めているのだから部屋から抜け出られるはずもないが、
奴隷達の中にメリーという名の者がいるかもしれぬ。」
ああ、そういうことですか。
確かに私も一々奴隷の名前まで覚えちゃいませんからねえ。
「そうですわね、
確かに使用人以外でこの屋敷にいる女性と言えば、奴隷の可能性がございますね。」
「もし、メリーと言う名の女がいたら、わしの自室に連れてこい!
今から戻る!」
「畏まりました、では後ほど。」
ふう〜、やれやれでございますね、
奴隷が死ぬのはたまにあるのですが、警護隊長が死体で見つかるなんて前代未聞ですよ。
私は地下広間の扉を閉めて、奴隷達のいる廊下の先に向かいました。
この先には奴隷達を区分けしている地下倉庫がございます。
まあ奴隷と言いましてもねぇ、
本来、お館様のような身分の方に奴隷など必要ないのですよ?
警護兵や、私たち身の回りをお世話するメイド、それと公務を管理する執事、後は庭師や料理人、馬丁など平民が雇われていれば十分でございましょう?
もちろん、それらに払うお給金より、
奴隷の方のお金はかかりませんけども、
当然、本職の者に、奴隷の仕事のレベルが比較になるわけもありません。
まあ、例外的に特別な経歴を持つ奴隷もおりますけどね、
その数は希少ですし、その分、奴隷の購入費用に加算されております。
おや、話が逸れてしまいました。
つまり、何が言いたいのかと申しますと、
お館様の身分・財力がございましたら奴隷は不要どころか、その貴族としての格を下げることにしかならないということです。
では何故この館に奴隷がいるのか、
それはお館様の質の悪いご趣味の話なのでございますよ。
大きな声ではけして言えません。
と言うのは、もうあの方は口にするのも憚れるような性的趣向をお持ちでして。
そんなもの、奥様やお妾の方々には絶対にお見せできないし、
勿論、その悍ましい行為を奥方様達相手に致してしまえば、すぐに実家の方々の知るところとなり、貴族同士の諍いに発展すること間違い無しでございます。
街の歓楽街に行って、夜の仕事をする者達でさえ、お館様の望みを叶えることはできませんでしょう。
仮にどこかで街の人間に噂が広まれば、間違いなく兄上であらせられる領主様の耳にも入ってしまわれます。
となると、もう残された手段は一つだけ。
地下に閉じ込めても誰も気にしないような奴隷達を集めて、
秘密絶対厳守の契約を施した奴隷達に欲望を発散させる事、
それがお館様を満足させるただ一つの手段だったのです。
ええ、ええ、そりゃあ私だって、初めてそんな話を聞いた日にゃ、腰が抜ける程おどろきましたし、
まだ若いお館様に、そんな事をしたらいけないと、本気でお止めしたのでございますよ?
ですけどねぇ、
私にも年老いた寝たきりの母がおりまして、バカ高い薬代もメイドのお給金では厳しかったのですよ。
もちろん、この屋敷を解雇されるわけにも参りません。
そんなことになったら家族全員が路頭に迷います。
それどころかお館様は、
自分の手伝いをしたら給金を三割増しにして下さると・・・
もうね、私もそんな話の分からない歳でもありませんでしたしねえ、
多少のことは目を瞑るようになったのですよ。
ですけどねぇ、
流石に最近はペースが早すぎじゃあございませんこと?
もうこの地下で奴隷達を十何人と世話してきたのか、数えるのも面倒になってきましたよ。
誰にも見せらんないもんだから風呂にも入れさせられない。
トイレも同じ地下倉庫の一角で垂れ流しです。
そんなわけで、
私の仕事はあいつらのカラダや部屋にホースで水をぶちまけるのが日課になっちまってるんですよ。
最近じゃあ奴隷達自身で水を流すよう言ってるんですけどね、
冷たいとか痛いとかぬかして、綺麗にしやがらないのですよ。
仕方ないから私が水流全開で水浴びさせてやってるんですよ。
ホラホラ、逃げんじゃないよ、
そこに並びな!
ああ、今は水責めしに来たんじゃないよ、
お前たちの中にメリーという名前のヤツはいるかい?
奴隷の名前なんか覚えちゃないしねぇ、
歯欠けとか、トンガリ目とかで十分でしょう。
ちなみにお館様は、相手が獣人や亜人でも構わないそうで、そこは経済的で良いのかもしれませんね。
おっとそうだ、
それで?
メリーなんて名前の子は知らない?
・・・使えないねえ、
まあ仕方ないか、
それじゃあお仕事に・・・
ん?
おい、トンガリ目、
あの向こうの暗がりにうずくまっているのは誰だい?
暗くてよく分からないけど、
ウチの奴隷たちにあんな黒い服を着せたことなんてないはずだよ?
え?
知らない?
知らないってこたあないだろう、
ずっとここにいたんだし。
何だい? 何で震えてんだい?
・・・いなかった?
さっきまであんなとこに誰もいなかったって、お前・・・
私は嫌な予感がして、
水責め用のホースを用意しましたよ。
ノズル付近のレバーを捻ると地上から汲み上げた水の水圧で、
たいそう、勢いの出る仕組みなんですよ。
問題の奴隷はずっとうずくまったまま・・・
ちゃんと生きてるんですかねぇ?
とりあえず様子を見てみますか。
「おい、アンタ!
生きてるのかい?
ちょっと聞きたいことがあんだ、
すぐに立ちな!!」
けど全く反応しませんよ、この奴隷。
近くにまで寄ったけど、
・・・こりゃあでも奴隷の着る服じゃあないねえ?
銀色に光輝く髪の毛も綺麗にウェーブがかかって・・・
網タイツだって?
光沢のあるヒールなんて履いてるし・・・
こりゃ・・・
違うね!
奴隷なんかじゃない!
侵入者だ!!
もしかしたらエリオット隊長を殺したのって・・・
「立ちな!!
隊長を殺したのは・・・お前かい!!」
私は水流をぶつけることにしましたよ。
遠慮なくね!
・・・そうしたら
そいつは・・・
ゆっくり首をあげたんです・・・!
鈍く光るグレーの瞳が私をギョロリと睨みました・・・!
その時、私は同時にとんでもないものも見つけてしまったのです。
そいつは・・・胸元に見覚えのある物を抱えていたんですよ。
なんであんなものがそこに・・・
いえ、むしろ全てが腑に落ちましたとも、
探していた「もの」が一度に見つかったのですからね。
ええ、
そこには・・・
モノトーンの人形が、エリオット隊長の生首を抱きしめていたのでございます!!