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1話 え? 俺だけ別ゲーじゃない?

 ダンジョンというものがある。

 一昔前は物語の中だけに存在する非現実的だったそれ。


 10年前にそれが世界中に現れ、世界は大混乱したが、今ではだいぶ落ち着いて民間人すらそのダンジョンに降りている。

 ダンジョンに住む魔物たちは肉を野菜を木材を金属を貴金属を宝石を魔石と呼ばれるエネルギー資源さえ落とす。

 ダンジョンに潜るものは採掘者(マイナー)と呼ばれる命を賭けた資源採掘者である。


 採掘者になるのは簡単である。

 安くはないが、2日の講習を受けて資格を習得するだけである。

 もちろん年齢制限があり18歳以下のものはなることは出来ない。


 命を賭けた資源採掘者とはいえ10年も経てばある程度の蓄積もあり低階層であれば講習さえ受けておけば交通事故で死ぬよりも確立が低いため講習だけで資格を得られるようになっているのだ。

 何よりも、ここは島国日本……資源は貴重であるというのも影響していないことはない。


「……ふぅ」


 そんな中、新たなる採掘者(マイナー)となった青年がいた。


「うぅむ、緊張する。しかし、ここから俺のモテモテ街道が……!」


 青年の名前は穂乃儀(ほのぎ)征二郎(せいじろう)

 背は平均身長より少し低く頼りなさを感じさせる男である。


 採掘者になるものには3通りある。

 まずは一番多い元々は副業からサブビジネスやサブジョブなどと呼ばれていたが、いつの間にかサイダーと呼ばれるようになった、お小遣い稼ぎ目的で低階層でモンスター狩りしているサイダー。

 次にレベルアップの恩恵を受けるために低階層で少しだけレベル上げを行なうライアー。

 こちらは……正直侮蔑的な意味が強く、鍛えての結果というよりもズルをしての若作りや身体能力の向上でもあるため嘘つきなどと呼ばれているのだ。

 そして、最後にどんどんと深度を下げ様々なものを採掘しつつ最下層を目指すサーチャーだ。


 征二郎が目指すのはサーチャーである。

 しかし、サーチャーとは才能とスキルに恵まれたものたちである。

 それはなろうとしてもなかなかなれるものではない。


 征二郎だってそんなことは分かっている。

 しかし、ヘタレゆえ26にもなって女に縁のない生活を送ってきたのだ。

 お金だって欲しいし、モテたい! サーチャーになればウハウハでモテモテになれる。

 そう考えて夢と希望(下種な欲望)を持って彼は採掘者となったのだ。


「よし、行くか……」


 自分に気合を入れてダンジョンの中へ踏み込む征二郎。


「おぉ、まじで洞窟だ」


 ダンジョンの中は別次元とも言われており、階層を潜っていけば仮初とはいえ空のある階層もある。

 1階層はまるで洞窟のようであり、しかし壁や天井がほのかに光り明かりには困らない。


「……人が、多いな」


 黙々と足を進めダンジョン内を歩き回る征二郎。

 しかし、1階層にはサイダーやライアーが多くいて、モンスターのエンカウントしない。

 もしくは先に誰か戦っていたりするのだ。


「ここら辺は人がいないな……人が多い場合は足を止めてその場を狩場としたほうがいいだったか」


 最初のレベル上げすらままならないとは……。

 そんなことを考える征二郎。

 レベルとはダンジョンでモンスターを倒して得られる経験値によって変化する数値のことである。

 レベルが上がれば身体能力の強化などが行われる事が分かっている。

 まぁ、レベルが上がろうが不埒な真似をすればダンジョンで強化された採掘者専門の特殊部隊が出てくることになるためそれによる犯罪はほとんど起こる事はない。


「お、魔物だ」


 現れたのは8本の足を持った50cmほどの大きさのネズミの魔物だ。

 征二郎は剣を構える。

 それにあわせて魔物が征二郎に向かって走ってくる。

 8本の足があるが大きさゆえなのか普通のネズミよりも愚鈍に突っ込んでくるネズミに向けて剣を振る。


「ぐぎゃ!」

「おぉ、弱い。よし、これでレベルが上がる」


 1階層から5階層までは冷静であれば死者が出るような場所ではない。

 人間は生まれた段階で0レベル。

 そして、魔物を一体でも倒すことで1レベルになる。

 さらに運がよければ、その際にスキルを手に入れる事がある。


≪レベルアップしました≫


 そして征二郎は何事もなくレベルを上げることに成功する。


「お楽しみのステータスだ……頼む頼む頼む!」


≪ステータス

 名前:穂乃儀征二郎

 年齢:26

 性別:男

 職業:なし

 レベル:1


 力:3

 耐久:2

 器用さ:7

 素早さ:4

 魔法力:2


 スキル:経験値100倍

 スキル:成長率5倍

 ≫


 経験値100倍、成長率5倍の文字を見て征二郎は目を擦る。見る。目を擦る。見る。

 数度繰り返してもステータスにある経験値100倍、成長率5倍が変わることはない。


「ら、ラッキー?」


 征二郎の声は困惑していた。

 100倍という明らかにおかしな数字、そして5倍という穏当? な数字に……。

 しかし、そんな征二郎の前に先ほどと同じ魔物が現れる。


「うぉっと!?」

「ジュウ!」


 突進してくるそれをどうにか避けて攻撃を与えるが今回は一撃では倒せない。

 しかし、次の攻撃は簡単にかわして、自分の攻撃を直撃させることに成功する。


≪レベルアップしました≫

≪レベルアップしました≫

≪レベルアップしました≫

≪レベルアップしました≫

≪レベルアップしました≫

≪職業が開放されました≫

『暗殺者』

『錬金術師』

『剣士』

『魔法使い』

『狩り人』


 魔物を倒した後に5度のレベルアップをする征二郎。


≪ステータス

 名前:穂乃儀征二郎

 年齢:26

 性別:男

 職業:なし

 レベル:6


 力:23

 耐久:15

 器用さ:53

 素早さ:30

 魔法力:15


 スキル:経験値100倍

 スキル:成長率5倍

 ≫


「えぇ……俺だけ別ゲーじゃない?」


 ドン引きである。

 冒険者の成長は指数関数的に伸びる事が知られている。

 大体は1.02%~1.1% 才能があるもので1.2%といわれている。

 平均的と呼ばれる初期ステータスがオール5だとするならサーチャーとなれる才能の壁である1.1%の人間で征二郎のステータスの最低値である15に追いつくには……13レベルを超える必要がある。

 指数関数的にそれは絶望的な差だ。


 征二郎がレベル13になれば今のステータスが15ならば259となる。

 大して1.1%であれば13レベルになって16だ。1.2%でも45にしかならない……レベルが上がれば上がるほどこの差は広がっていくのだ。

 逆算することで分かるのは、征二郎の成長率は1.5%というところだろう。


 今、ダンジョンの最前線を走っている者たちが65階層。

 レベルにして66。

 そして、そこで活躍しているものの成長率は1.18~1.20%と考えられている。

 成長率に変化がないとしたら初期値が5であれば15,242になる。

 そして、征二郎の成長率である1.5の場合初期値5で1,396,052,796,596……千三百九十六兆端数切捨てである。


 もはや桁が違う。

 征二郎のせいで世界が危険で危ないレベルである。

 明らかに違う桁数に征二郎が思わず別ゲーじゃない? と呟いても仕方ないだろう。


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