友達
「オードリー、帰ってきたのね!」
ベティが勢いよく薬屋に飛び込んできた。しかし、嬉しそうな笑みは一転してすぐに消え去る。顔が硬く強張り、羞恥で赤く色づいていく。
「し、失礼しました。あ、あの……ええっと……ここって……」
あわあわと焦り、咄嗟に謝罪を口にする。しどろもどろに言葉を紡ぎながら、静かに後ずさり外に出た。そして外観を確認しもう一度店内を覗くと、戸惑ったように小首をかしげる。
「え? あれ?」
「ああ、合っていますよ。オードリーの薬屋です」
レオンは気まずそうに頬を掻き、人の好い笑みを向けた。ベティの顔がさらに赤くなる。
「すみません。先ほど到着して、まだ掃除中なんです。汚いですが、中へどうぞ」
レオンは手にした箒を軽く上げて見せる。ベティはきょろきょろと頭を振りながら、案内されるがままおずおずと中に入る。レオンは、怪しい者ではないと伝えるために再度柔らかく笑うと、2階に向かって声をかけた。バタバタと大きな音を立てて、オードリーが1階へと降りてくる。エプロンにマスク、それに頭につけた三角巾は、すっかり埃にまみれていた。
「オードリー!」
その姿を見た途端、ベティは顔をほころばせオードリーに駆け寄った。服が汚れることも厭わず、思いきり抱き着く。
「ベティ! 服が汚れてしまうわ!」
オードリーは引き離そうとするが、ベティは首を横に振り離れようとしない。
「そんなこと、どうでもいい! オードリー、お帰りなさい! 待っていたのよ! 1年以上も帰ってこないなんて思わなかったんだから」
寂しかった、とベティは続ける。想像もしていなかったベティの反応に、オードリーはぽかんと呆けた顔をした。ベティは口を尖らせると、オードリーの薄汚れた頬を思いきりつまむ。
「いたたたたっ」
「ちょっと! その反応はなあに?」
オードリーは赤くひりひりとする頬を、目に涙を溜めながら優しくさする。ベティは腰に手を当て、少し怒ったような口調でオードリーを見つめた。しかし、その瞳はちっとも怒っていない。温かく優しい色が浮かんでいる。
「そんなに、待ってくれていたの?」
躊躇いがちに尋ねると、ベティは呆れたように大きくため息をついた。
「何言ってるのよ。当たり前でしょう? 友達じゃないの」
初めてはっきりと口にされた「友達」という言葉に、オードリーは目を見開いた。視界の端で、レオンが頷くのが見える。オードリーは花が咲いたような笑顔を浮かべると、「ただいま」と友に告げた。




