別れ
精霊たちに盛大に見送られ、レオンとオードリーは村を後にした。2人は念のため、1年程ヴォレンティーナからも王都からも離れた町で暮らすこととなった。
オードリーの死はヴォレンティーナにあるオードリーの家の大家に伝えられるはずだった。魔法に関わる事件ということと、転移陣を使う方が早いということで、魔法使いの誰かが派遣されることとなった。それを無理矢理エヴァンが掠め取ると、無駄にヴォレンティーナを往復し、大家に伝えたふりをした。一平民の生存など、国が気にすることはない。1年も経てば忘れ去られ、2人はヴォレンティーナで生活できるようになるだろう。
レナードたち精霊とは、永遠の別れになる。オードリーは目尻に涙を浮かべながらも、幸せそうに笑みを浮かべた。その瞳は未来を見据え、輝きに満ちていた。数日前とはえらい違いだ。レナードは初めて会った時の、おどおどと自信なさげな娘を思い出す。とても同じとは思えない。そんなオードリーをレオンは幸せそうに見下ろしている。
レオンとオードリーが並ぶ姿が、フレッドとバーバラに重なる。20年前の2人も同じように、幸せそうに旅立った。別れを告げ、森に消えていく2人を見守っていると、寂しさが募る。
フレッド、バーバラ、お前たちの娘は立派に育ったな。オードリー、2人のように幸せになってくれ。それに――
レナードは心の中で語り掛ける。しかし、その続きを言葉にはできなかった。
「よかったのかの?」
村人たちが立ち去り、レナードとヴィンス、アンガスが残された。その全てを見透かしたような問に、レナードは頷いた。
「色々と思うところはあるが、息子に会えた。それだけで十分だ」
その横顔は珍しく、愛情の籠った父親のものだった。




