赤い瞳
初めて見る魔法に驚いているオードリーの前で、2人の魔法使いは徐ろにフードをとった。その姿を見た瞬間、オードリーははっと息を呑んだ。
1人は栗色の髪に緑の瞳の、マイカ王国では一般的な容姿の青年だが、もう1人は漆黒の髪にオードリーと同じく血のように赤い瞳を持つ青年だった。
「自己紹介がまだだったな。俺は、レオン・エリオット。見ての通り、毛色の珍しい、魔法使いだ。こっちの茶色いのは、ブラッドリー・ティレットだ。とりあえず、椅子に座らせてもらってもいいだろうか」
そう挨拶をされている間もレオンの瞳から目が離せないオードリーに、レオンは苦笑しながら尋ねてくる。オードリーは顔を赤らめ、慌てて椅子を3脚用意した。
椅子に腰掛けると、レオンは真剣な表情でオードリーを見つめた。
「単刀直入に聞くが、昼間会った時の瞳はブラッドリーのような緑色だったよな? でも、今は血のように赤い。どういうことだ? 君からは魔力を感じないしな」
「わかりません。生まれつきなんです。昼間は緑色なんですが、蝋燭の灯りの中では、この赤い瞳に変わります」
「だから、夕方以降部屋から出てこないのか」
「えぇ。昔住んでいた町で、うっかり人に見られてしまいまして。化け物だ、気持ち悪いと罵られ、その町にいられなくなりました」
「そうか……魔女の件で動揺していたのも、そのためか」
「えぇ……」
話しながら、オードリーは町を追い出された当時のことを思い出し顔を歪めた。それを聞いたレオンも辛そうに顔をしかめ、ブラッドリーも同情的な顔をしている。恐らく、レオンにも似たような経験があるのだろう。
「それは、遺伝か?」
「違うと思います。母は私が物心つく前に亡くなっていますが、そういった話は聞いていません。父も2年前に亡くなりましたが、蝋燭の灯りの中でも変わらず緑色の瞳でした」
「そうか……他に、この色を持つ者を知っているか?」
「いいえ」
「俺もだ」
レオンは腕を組んで黙り込んだ。その無言に耐えられず、オードリーはレオンの瞳を見た時から感じている疑問を投げかけた。
「あの、魔法使い様は、常にその色なんですか?」
「魔法使い様はやめてくれ。レオンでいい。俺はずっとこの色だ。そもそも珍しい色だが、俺は髪色が黒だから赤が余計目立つんだろうな。化け物のようだとはよく言われたよ。吸血鬼、が多かったな」
「そう……ですか。では、その色は遺伝ですか?」
「あぁ、俺の色は遺伝らしい。母は緑色の瞳なんだが、父が赤い瞳を持っていたらしい。物心ついたときには亡くなっていたから、あくまで聞いた話だがな」
そう言って、やはりレオンは黙り込む。すると今度は、ずっと黙っていたブラッドリーが耐えられなくなったようだった。
「レオンさん、多分これ、今考えても解決しないんで、薬の話を先にした方がいいんじゃないっすか?」
「それもそうだな。オードリー、薬について君に聞きたいことがある」