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柘榴石の瞳  作者: 美都
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出会い

「フレッドがこの村に現れたのは、25の時でしたかの。村の側にある森の中で呆然と立ち尽くしているのを、レナードが発見したのです」


 ヴィンスはそう言うと、レナードの方を向き続きを促した。レナードは仕方なさそうにため息をつくと、ぼそりぼそりと語り始めた。



 フレッドを見つけた瞬間、何故魔力を持った人間が精霊の森にいるのだ、とすぐさまレナードは警戒態勢に入った。1人しかいない上、呆けた顔をしているが、村に害なす者かもしれない。放っておく訳にもいかず、レナードはいつでも攻撃できるよう構えながら、フレッドに近づいた。


 レナードの気配を感じたフレッドはゆっくりとレナードの方を向いた。自身を睨みつける者であるのにも関わらず、レナードを見た瞬間フレッドは安心したように笑った。その態度に、レナードのフレッドへの不信感は余計に強まった。


「ああ良かった。人に会えた。しかも同業者とは」


 そう言ってフレッドは軽い足取りでレナードに近づいてくる。


「おい、お前、そこで止まれ」


 レナードは慌てて、フレッドを牽制するように厳しい口調で命令した。すると、フレッドは相変わらず笑みを浮かべたままその場で立ち止まった。


「ああ、これは失礼しました。ここで止まりますね」

「あ、ああ」


 レナードはフレッドの纏うのんびりとした空気に、拍子抜けした。フレッドは攻撃を仕掛けてくる様子もなく、これだけ警戒心を露わにしているレナードに対しても動じる気配がない。雰囲気に飲まれかけたレナードは気を保つように頭を振ると、再度フレッドを睨みつけ声を荒げた。


「お前は誰だ」

「ああ、失礼しました。名乗っていませんでしたね。私はフレドリック・レイナー。気軽にフレッドと呼んでください。貴方と同じ魔法使いです。貴方のお名前を伺っても?」


 フレッドは柔らかい物腰で丁寧にお辞儀をし、レナードに向かって微笑みかけた。


「どうしてこの森にいる」


 レナードはフレッドの質問を無視して問いかけた。


「ははぁ、名乗ることのできない任務なんですね。では勝手にジャックさんと呼ばせてもらいますね。それで、どうしてこの森にいるのか、でしたね。……どうしてですかね?」


 そう言ってフレッドは首を傾げる。


「わからない、ということか?」

「ええ、ええ、その通りです。今日は1日お休みだったので、街で買い物をしようとぶらぶらしていたんですよ。お昼ご飯を屋台で買って、そうだ、森の湖の側で食べたら気持ちいいだろうなって思って。そこからはいつものように森に入ったんですが、気づいたら知らない場所にいて。迷うことなんて今までなかったんですけどねぇ……」


 うーん、と頭を捻るフレッドは、純粋に不思議そうな顔をしている。レナードはフレッドの様子に調子を狂わされ、はぁとため息をついた。レナードにはどう頑張っても本当の迷子としか思えなくなった。この人畜無害にしか見えない振舞いが演技であれば大したものだ。


「元の場所まで案内しよう」


 レナードがぶっきらぼうに言うと、フレッドは今までで一番の笑顔を見せた。


「ありがとうございます。ああ、ジャックさんに出会えたのが本当に幸運でした」

「あ、ああ。気にするな。こっちだ」


 そう言ってレナードが歩き出そうとした時、2人の後ろから声がした。


「あらレナード、こんなところにいたの。ネイトが探していたわよ。……あら? そちらの方はだあれ?」

「バ、バーバラか。こいつはこの森に迷い込んだらしい。今から街に連れて行くところだ。ネイトには後で行くと伝えておいてくれ」


 フレッドを早く森から立ち去らせたい一心だったレナードは、バーバラの言葉に矢継ぎ早に答えてから歩き出そうとした。しかし、ついてくるはずのフレッドが動く気配はない。怪訝な顔をしてフレッドを見やると、フレッドは身動きもせずにバーバラをじーっと見つめていた。


「おい、行くぞ」


 そう言ってフレッドの腕を引っ張ったが、やはり動こうとしない。ため息をついてバーバラの方を向くと、バーバラも頬をふんわりと紅色に染めてフレッドを見ていた。


「あの、私はフレドリック・レイナーと申します。フレッドとお呼びください。お名前をお伺いしても?」

「はい。私はバーバラと申します。あの、フレッドさんはどうしてこの森に?」


 完全に2人の世界に入ってしまっており、レナードは頭を抱えた。


「湖に行こうとしていた所、お恥ずかしながら迷ってしまいまして……」

「まぁ、それは大変でしたね。それで、レナードが街まで連れて行こうとしていたのですね。……ちょっと失礼しますね」


 バーバラは恥ずかしそうに微笑みながらフレッドを見つめていたが、急にレナードの方に向き直りつかつかつかとレナードに近づいた。そしてレナードを睨みつけながら、小声で詰め寄ってきた。


「ちょっと、この森に入ってこれたってことは、精霊の血を継いでいるかもしれないじゃない。ここで帰してもまた入ってくるかもしれないわ。村に連れて行って、長老の判断を仰ぎましょう」

「いやでもな、敵かもしれないんだぞ? 村の場所を知られる訳には……」


 レナードは間違ったことを言っていないつもりであったが、バーバラは更に怖い顔をしてすごんでくる。


「絶対、悪い人じゃないわ」

「なんでわかるんだよ?」

「女の勘よ!」


 惚れたんだな、とレナードは思ったが、とても声に出して言えなかった。レナードは何度目かのため息をつくと、仕方ないなとバーバラの意見に従った。

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