レオン
バフンっと音を立て、魔法使いの証である黒いローブを身につけたまま、レオンはベッドに倒れこんだ。その隣でも、同様にブラッドリーがベッドに転がっている。
「魔法使いが珍しいことはわかっているが、この町に到着して以降、どこに行こうと好奇の目に晒されているのは辛いものがあるな。こんなローブ、着ない方が仕事しやすいんだが」
そうレオンが話しかけると、ブラッドリーが寝転がったまま答えた。
「そうっすね。俺、魔法学校卒業してから始めての出張なんで、ほんとビックリしたっすよ。ここまでジロジロ見られると、まったく嫌んなるっすね。まぁ、俺なんてこのローブ脱いじゃえば一町民に紛れられますけど、レオンさんは目立つっすから、どっちがマシっすかね」
ブラッドリーは苦笑しながら起き上がり、フードを脱いだ。栗色の短髪に緑の瞳の、マイカ王国では一般的な容姿の青年が現れる。そしてそのままレオンに近づき、レオンのフードも取ってしまう。
レオンは漆黒の髪に赤い瞳と、この国では珍しい容姿をしていた。さらに顔の造形が整っているおり、精巧に作られた人形のようにも見える。今は寝転がっているため、やや長い髪が無造作に顔の上におちていた。
「俺だって出張はまだ2回目だ。王都の外に出たくなかったから、研究職についたんだがな」
この国では、魔法使いとなるためには必ず王立魔法学校を卒業しなければならない。13歳で入学し、18歳までの5年間で魔法について学ぶことになっている。
魔力を持ってさえいれば、貴族、平民、男女問わず入学が可能であり、魔法学校を卒業した後は、所謂エリートと呼ばれる道に進むことが約束される。
しかしながら、魔力を持つ者は「神の祝福を与えられた者」と呼ばれるほど非常に稀有な存在であり、魔法使いは国民の憧れとなっている。
ここまでは、魔力を持たない者達、および魔力を持つことに誇りを持つ者達の認識である。
魔法使いになりたいと思わない者達にとっては、魔力など、祝福でもなんでもない。
魔力があるとわかった時点で国に管理され、魔法学校への入学を強制される。そして、卒業後も国のために働かされる。その対価として、地位と金を与えられているに過ぎない。
商売をしたい、生まれ故郷で教師になりたいと思っていても、それは叶わぬ夢になるのだ。
では真面目に講義を受けず、退学になってしまえばいいのではないか。
そう考えた学生も過去にはいたそうだが、退学になったが最後、魔法使いに憧れている国民を敵に回すことになり、まともに仕事にもつけなかったそうだ。魔力も封じられたと言われている。
もちろん、魔力を持つことに誇りを持っている者は多いが、レオンは魔力を持った自分があまり好きではなかった。魔法を使って研究を行うことは好きだし、それで食べていけることはありがたいと思っている。
しかし、こちらの意思など関係なく国のために働かされていると考えると、魔力などなければと考えてしまうのだ。
「それにしても、魔力を含む薬は見つからなかったが、あの薬はなんなんだ。魔力がないからと放っておくわけにもいかないし、得体の知れないものをこれから調査しないといけないのか」
レオンははぁ、とため息をついた。
「でも、魔力がないとなると、何をどう調べたらいいんすかね。っていうか、俺たちの専門分野外っすよね。これ」
「そもそも専門の研究者はいないだろう」
どうしたものかと話していると、レオンがはっとした顔をして飛び起きた。
「おい、彼女が動いた。行くぞ、ブラッドリー」