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柘榴石の瞳  作者: 美都
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再会

 レナードが突然姿を消し、オードリーは目を見開いて勢いよく立ち上がった。ガタンっという音が室内に響く。オードリーだけではなく精霊たちも驚いたようで、皆顔を見合わせ何事かと騒いでいる。消えたレナード自身、驚いていたように思う。ヴィンスは眉を顰め、今の今までレナードがいた場所を静かに見つめていた。


「珍しいこともありますの。あれはまた誰かに呼ばれたらしい。しかし、年寄りを除いてこの村に住む者はみなここに集まっている。そうじゃろう?」

「ええ。全員集まっております。ここにいないのはいつもの方々ですが、この村から出ているとは思えません」


 ヴィンスが穏やかな声で精霊たちを見回しながら呟いた。するとその後ろに控えていたアンガスが、淡々とした調子で返事をする。この場で唯一、アンガスだけがピクリとも表情を変えていなかった。


「まぁ、お掛けなさい。あやつもすぐに戻るじゃろうし、万が一にも何かあれば誰かを呼び出すじゃろう」


 ヴィンスは柔らかい笑みを浮かべてオードリーを見ると、オードリーの目をじっと見つめた。その落ち着いた表情からは想像できないほどその眼には力があり、信じなさいと語りかけているようであった。レナードが無事に戻ってくると信じていることがありありと伝わり、オードリーは黙って従う。オードリーが座るのを見ると、ヴィンスは先ほどの表情が嘘のように優しく笑った。


「さて、フレッドとバーバラの話をしたいところじゃが、2人と仲の良かったレナードが消えてしもうたの」


 ヴィンスは机の上の写真を1枚取ると、またオードリーの方に寄越した。そこには3人の男女が並んで写っていた。一番右端ではフレッドが爽やかに笑って真ん中に立っている女性の肩を抱いており、左端には今よりもやや若いレナードが無表情で突っ立っていた。女性は黒い髪に赤い瞳を持つ精霊で、大層幸せそうに笑っている。


「その女性が、バーバラじゃよ」


 フレッドが肩を抱いているこの女性は誰だろう、とオードリーが複雑な気持ちで写真を見ていると、ヴィンスが懐かしそうに写真を見ながら口を開いた。オードリーはガバリと顔を上げてヴィンスを見る。


「私の母は私が物心つく前に亡くなったので、顔は覚えていません。ですが、茶色の髪に緑色の瞳だったと父に教えられました」


 オードリーの剣幕にヴィンスは驚いたようにオードリーを見返したが、すぐに心を痛めたような顔をして目を瞑った。


「そうか、バーバラはそんなに早くに、亡くなったか。フレッドも亡くなったのじゃろう?」

「ええ。2年程前に」


 オードリーが俯きがちに肯定すると、ヴィンスは絞り出すような声でぽつりぽつりと話し始めた。


「そうか。……この村はの、王都にしか通じていないのじゃ。2人が王都を離れる時、もう一生王都には来ないことが決まっておった。こちらから呼ぶこともないし、2人が誰かを呼ぶこともないとも。そうしなければならない事情があったのじゃ。だから2人がオードリーを王都にやるとは思えん。オードリーがここに来た時点で、そうであろうとは思っておったよ」


 ヴィンスは静かに立ち上がると、いつのまにか静まり返っていた精霊たちに向かって声を上げた。


「2人の冥福を祈って、黙祷」


 その言葉に、皆手を組んで目を瞑る。誰もが真剣な面持ちで2人に祈りを捧げている様子に、オードリーの心に温かい気持ちが広がった。両親のことを祈ってくれる人がこんなにもいたことが嬉しく、目頭が熱くなってくる。オードリー自身、フレッドの葬式以来両親を想って祈ることをあまりしてこなかった。それよりも、生きることで必死だったのだ。自身も共に祈ろうと、オードリーは涙をこらえて何度か深呼吸をし、腕を組んで目を閉じた。


 その時だった。


「おーい、戻ったぞ。ついでにもう1人連れてきた」


 集会所の入口で、静寂を壊すようにレナードの声がした。それと同時に、オードリー、と叫ぶ聞きなれた声が聞こえる。それはレナードの制止の声を振り切り、カツカツと足早に近づいてきた。まさかと思いオードリーが顔を上げると、そこには焦ったような顔のレオンが立っていた。


「レオンさん?」


 どうして、とオードリーが呆然と呟くと、レオンは周りの精霊たちを無視して椅子に座るオードリーを包み込むように抱きしめた。


「オードリー、良かった。急にいなくなるから心配した。大丈夫か? 何もされていないか?」


 レオンの声は震えており、オードリーの背中に回した手はもう離さないとばかりに力強かった。オードリーは突然のことに驚いたものの、そのレオンの温もりにひどく安心感を覚えた。今までの緊張が緩み、先ほどまで込み上げてきていた涙がぽろりとこぼれ落ちる。オードリーはそれがばれないようにと、深く息をついてから矢継ぎ早に言葉を紡いだ。


「ええ、大丈夫です。急にいなくなって、すみません。ここの皆さんは親切にしてくださっています。ここに来てからはお話をしていただけです。本当は、扉越しに聞こえたレオンさんの声に返事をしようと思ったんです。でも、私できなくて」

「無事ならいいんだ」


 オードリーの言葉を遮ると、レオンは腕に更に力を込めた。


「あー、感動の再会のとこ悪いが、先に状況を説明してもいいか? 特にそっちの魔法使い」


 その声に2人がはっと顔を上げると、いつのまにか近づいていたレナードが2人の隣に立ち、それはもう気まずそうに頭を掻いていた。

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