表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柘榴石の瞳  作者: 美都
44/80

精霊の特徴

「まずはそうじゃの。オードリーが生まれる前のフレッドとバーバラの過去について何か聞いておるかの?」


 頭を抱えてヴィンスを必死に睨みつけているレナードを無視し、ヴィンスは涼しい顔をしてオードリーに尋ねた。オードリーはレナードが気になりつつも、ゆっくりと首を横に振った。


「父はマイカ王国の王都の出身だとだけ……」

「そうか、そうか。では、僭越ながら私がお2人の過去をお教えしよう」


 オードリーは両親のことを精霊たちが知っているということ、そしてそもそも彼らが本当に精霊だということにまだ懐疑的ではあったが、とにかく聞くだけ聞いてみようとやさしく微笑むヴィンスにおずおずと頷いた。しかしそんなオードリーの戸惑いに気づくと、ヴィンスは声をたてて笑った。


「なあに、心配御無用。オードリーには特にバーバラの面影があるからの。2人の子で間違いはなし。でなければこの村に入ってはこられまいよ。……アンガス、こちらに例の物を」


 ヴィンスが振り向いてパンパンと手を2回叩いて呼びかけると、ヴィンスに付き従っていたアンガスと呼ばれた男性がオードリーとヴィンスの前に小さな机を持ってきた。そしてその上に3枚の写真を1枚1枚丁寧に置いていく。その写真の1枚見た瞬間、オードリーははっと息を呑んだ。その様子を見たヴィンスは満足そうに頷くと、その写真を手に取ってオードリーに差し出した。


「27の頃のフレッドの写真じゃよ。私たちの話を信じてもらえたかの」


 オードリーはただコクリと1つ頷いた。オードリーの中にある最後の父親の記憶よりもかなり若いものの、その被写体は間違いなくフレッドだった。少なくとも、彼らがフレッドを知っていることは間違いない。呆然と写真を眺めているオードリーを、ヴィンスは急かすことなく見守っている。


 久しぶりに見る父親に懐かしさがこみあげてきたが、ここで1つ疑問が浮かんだ。


「父は茶色の髪に緑の瞳ですよね。この写真だってそうです。どうして精霊と関りが?」


 オードリーの問いにヴィンスは優しく笑った。


「もっともなことじゃの。フレッドは精霊の父と人間の母の間に生まれた子じゃ。母親の容姿を色濃く受け継いだようじゃ。……そうじゃ。まずは、精霊とは何かからお話しようかの。その方が分かりやすかろう」

「お願いします」


 写真を見る前とは異なりオードリーが必死の形相でヴィンスの言葉に耳を傾けていると、ヴィンスは微笑ましそうに少し笑ってから静かに話し始めた。


「まず、純粋な精霊は必ず黒髪赤目で生まれてくる。それは決して変わらぬことじゃ。他の見た目は人間と変わらぬがの、精霊は人間の倍以上の時を生きる。大人の身体になるまでは人間と変わらぬ成長速度じゃが、そこからはかなりゆっくりと老いていくのじゃ。例えば、わしはもう200になるけれども、人間だと70過ぎの見た目かの。オードリーを連れてきたレナードはもう40過ぎておる。40過ぎの男にしてはちと、いやかなり落ち着きがないがの」

「うるせぇっ!」


 ヴィンスがレナードを鼻で笑うと、ヴィンスはすぐに叫び返した。そんなやり取りを気にする暇もなく、オードリーは驚いてレナードを見た。何度見てもやはり20代半ばにしか見えないのに、40代ということはオードリーの父と大して変わらないということになる。レナードはオードリーの眼差しに顔を顰めると、しっしっと手で追い払った。オードリーは仕方なくレナードから顔を背け、ヴィンスを見つめて先を促した。


「もう1つ、精霊は皆魔力を持っておる。魔力は本来人間には備わっていない。精霊だけのものじゃ。ただ、精霊が気に入った人間に魔力を授けることがあっての。だから魔力を持つ人間が生まれるのじゃ」

「精霊が気に入った人間、ですか?」

「例えば、人間と精霊の間にできた子供だったり、心優しい者の子供だったり、色々じゃ。フレッドは前者じゃの」


 初めて聞く話に、オードリーは本当にそれを信じても良いのかわからなかった。彼らが本当に精霊であるかどうかも判断できないし、そもそも人間は魔力持ちが生まれる原理の解明には至っていない。オードリーには確かめようもない話だった。


「精霊は皆、魔力を持っているのですか?」


 失礼にあたるのではないかとヴィンスの顔色を見ながら恐る恐る尋ねたオードリーに、ヴィンスは怒る素振りもなくにやりと笑みを浮かべ、すっと右手を前に出した。


「皆、火を」


 ヴィンスの掌の上に火の玉が浮かぶ。その声にあわせて室内にいる全員が手を掲げ、その掌に火を灯した。レナードも不貞腐れた顔をして同じことをしている。オードリーは少しの間呆気にとられていたが、村の全員が魔法を使っている様を目の前で見せられたことで、彼らが精霊と呼ばれるものであると信じることにした。オードリーははなから信じなかったことに申し訳なくなりヴィンスを見たが、今度はヴィンスが一転して驚いた顔をしている。オードリーが首を傾げると、ヴィンスがもう片方の手を口に当てて言った。


「オードリー、君は赤い瞳を持っているのですな。間違いなく精霊の血を引いていると言えますぞ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ