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柘榴石の瞳  作者: 美都
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童話

 鐘の音で目を覚ますと、オードリーはうーんと伸びをした。カーテンの隙間からは光が漏れており、今日も天気が良いとわかる。いつものように支度をし、朝食をとろうとキッチンに立ったところで、ダイニングテーブルに山積みにされた書籍に気づく。そこでやっと、今日は自室で待機することを思い出した。


 どの本から読もうかしら……


 昨日はレオンの「手伝う」という言葉に甘えて、図書館で大量の本を借りてきていた。オードリーは楽しそうに本の山を眺めると、キッチンで立ったままパンを頬張った。味わうことなく急いで完食すると、手を洗っていそいそと椅子に腰かける。


 薬草の分布―マイカ王国北部編―、ハーブの効能、ケイ帝国薬学史……


 本のタイトルを見ながら悩んでいると、下の方に置かれていた2冊の本が目についた。オードリーは他の本を丁寧にどかして、それらの本を目の前に並べて置いた。どちらも古めかしい装丁をしており、薄く表紙が赤い本には『精霊童話集』、厚く表紙が青い本には『精霊童話の歴史』とタイトルが記載されている。


 オードリーは昨日図書館に行った際に、司書に依頼して精霊に関する書籍を探してもらった。エヴァンと話したことがきっかけとなり、初めてエヴァンに会った時に精霊の話が出てきたことを思い出したのだ。いつも薬学の本しか読まないオードリーの珍しい行動に、レオンはひどく驚いた様子だった。オードリーが依頼した司書はまだ若く、最初は『精霊』と聞いてピンとこなかったようだった。暫く懸命に探してくれていたが、この2つの本しか閲覧可能の棚からは見つけることができなかった。


 オードリーはとりあえず、童話集から読んでみることにした。表紙をめくると本扉に表紙同様タイトルと編集者が記載され、さらに1枚めくると目次があった。10の童話が収録されており、どの題目も聞いたことのないものだった。


 最初の話は、悪い魔女に囚われたお姫様を王子様が助けに行くというものだった。物語としてはありふれた設定ではあったが、王子様はお姫様を助けるために精霊の力を借りて魔法が使えるようになった。この童話が作られた頃から、魔法使いが憧れの的であったことが伺える。


 次は、田舎に住む何の変哲もない少年が、森の中で倒れていた精霊を助けたことで魔法使いになるという話だった。これも、平凡な主人公が成功するというよくあるものであったが、やはり魔法使いが登場した。


 3つ目、4つ目も同じように、人間が精霊の力を借りて魔法使いになる話であったが、5つ目の話はそれまでとは全く異なるものであった。それは、精霊の日常を描いた物語だった。主人公はティムという名の男の精霊で、ここで初めて精霊に名前と性別が設定された。加えて初めて、精霊たちは皆等しく闇のように黒い髪に血のように赤い瞳を持ち、それ以外は人間と何ら変わりないと、容姿の特徴が記されている。


 想像していた精霊と全く違うわ。なんか、もっとこう、きらきらしたものかと。それに、この容姿はまるでレオンさんのようだわ……


 オードリーは驚きながらも読み進めていくと、そこに探していた1文を見つけた。エヴァンが言っていた『精霊たちは月を浮かべた泉の水しか口にしない』というものだ。これはあくまで物語であって、オードリーは本当に精霊がいると信じている訳ではない。しかし、この文が書かれた物語が実在していたことと、それがオードリーの薬と偶然にも一致していることに何となく不安を覚えた。


『レナード ノストルム アミキティア』

人間に捕まってしまったティムがそう言うと、目の前がぱぁっと明るく光り、友人のレナードが現れました。


 この話では、珍しく魔法使いが登場せず、その代わりに精霊たちが魔法を使った。『魔法を使って火をおこした』というように簡単に書かれたものばかりなのに、何故かこの1文だけはティムの言葉として書かれている。これは精霊が仲間の精霊を呼ぶときの言葉だそうだ。精霊たちは友を大切にしており、非常時にはすぐに駆け付けられるようにしているのだと書かれている。オードリーは不思議に思いながらも、そこを指でなぞりながら、なんとなく小さな声で呟いてみた。


「レナード ノストルム アミキティア」


 その時だった。オードリーの隣が一瞬淡く輝き、次の瞬間には20代半ばほどの見知らぬ若い男性が立っていた。その髪は黒く、その瞳は赤い。オードリーが驚きで言葉を失っていると、その男性は不愉快そうに顔を歪めた。


「お前は何だ。何故私を呼ぶことができたのだ」

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