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柘榴石の瞳  作者: 美都
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年齢

 グレイスが部屋を後にすると、レオンはソファにどかりと腰かけ静かに考え込み始めた。ブラッドリーはオードリーの隣で「第四かあ」と呟きながら、嫌そうな顔をして立っている。モーリスは相変わらず無表情で微動だにせず、その傍らではジェフリーが俯きがちに何やら真剣な様子で腕を組んで考え込んでいた。


 オードリーは身の置き場がわからず、オロオロとその場に立ち尽くした。


「面倒なことになっちゃったねぇ。本当にあのフレドリック・レイナーが絡んでいるとなると、私たちには理解できない何かがオードリーの薬にあるのかもしれないよねぇ。もう面白いとか言ってらんないよぉ。どうするんだよぉ」


 アビーはいつもの様に机に突っ伏すと、口を尖らして文句を並べている。それを誰も止めることはなく、アビーはしばらくうなり続けていた。


 そんな中、ジェフリーが何かを思いついたようにパッと顔を上げると、モーリスを見上げた。


「ねぇ、20年ってなると、モーリスは当時14歳だよね。ってことは、もう魔法学校に所属していたよね。何か聞いたことはない?」

「……『研究所で最悪の事件が起きた』としか知らない。俺は興味なかったからな。……お前の方こそ何かないのか。お前の家は王都一の商会だろう。研究所にも商品を卸しているじゃないか。何か情報を持っていなかったのか。当時10歳なら記憶にあるだろう」

「それが、ないんだよねぇ。あの事件については噂程度の情報しか入ってこなかったんだ。僕も入学するまで、本当にいなくなった人がいるなんて知らなかったんだよ」


 難しいねぇ、と顔を顰めながらジェフリーは椅子に座ると、机に肘をついてため息をついた。


 一方、オードリーは2人のやり取りを聞いて思わず目を見張った。ジェフリーがモーリスに対してどもらないこと、実家が王都一の商会であることにも驚いたが、それ以上にジェフリーが現在30歳であるという事実は俄かには信じられないものだった。その可愛らしい風貌からは、オードリーよりも13も年上の男性だとは、どんなに頑張っても認識できない。


 その様子を見たブラッドリーは、可笑しそうに笑い始めた。


「あははっ、そっか、オードリーさん、ジェフリーさんの年齢、知らなかったんすね。あの見た目で30歳って、最早詐欺っすよね」

「ちょ、ちょっと、ブラッドリー、さ、詐欺ってなんだよぅ」


 先ほどまでとは一変して悲しそうな表情でおどおどし始めたジェフリーに、今度はモーリスがクスリと笑った。


「確かに、見えないな。オードリーが混乱するのも頷ける。前からではあるが、ブラッドリーの方が10も下なのに、年上にみえるぞ」

「もう、モーリスまで!」


 今度はふくれっ面をするジェフリーにモーリスは珍しく声を出して笑うと、ジェフリーの頭をわしわしと乱暴に撫でた。


「オードリーさん、ちなみにっすね、俺が20歳、アビーさんが22歳、レオンさんが24歳っす。で、これ言ってもいいのかな……ミラー室長が29歳っす。今までこんな話したことなかったっすね。オードリーさんの年齢はみんな知ってるのに、不公平っすよね」


 じゃれあっているジェフリーとモーリスを見ながら、ブラッドリーは大真面目な顔をしてオードリーに教えてくれる。そして、ミラー室長の年齢を話したことは黙っておくようにと、焦った様子でお願いされた。オードリーが笑って頷くと、ブラッドリーはほっとしたような笑みを返した。


 確かに、オードリーは個人的な話を第三研究室の面々に尋ねたことはなかった。自分はここからいなくなる人間だという思いが、そういった話をすることを躊躇わせていた。


 オードリーは今まで、人と深く付き合うことを避けてきた。どんなに仲良くなっても、オードリーの秘密を知った途端に掌を返したような態度をとることはわかっていたし、秘密がばれそうになると次の町へと旅立たなければならないため、いつか別れがくるとわかっていたからだ。


 この研究室の人たちとは、すぐに別れがくることはわかっているが、既に秘密を知った上で普通に接してくれている。ブラッドリーの笑顔やジェフリーたちの表情豊かな様子を見て、オードリーは彼らに歩み寄ってみてもいいのかもしれないと思い始めた。


 レオンさんも、私が聞いたら答えてくれるかしら……


 ふとそう思ったオードリーは、1人静かに思慮をめぐらしているレオンを盗み見た。周りがこうやって騒いでいるのにも関わらず、真剣な様子で思考にふけっているレオンの横顔に、オードリーは暫し目を奪われた。



「オードリーさんもそう思いますよねえ?」


 ぼーっとレオンを見ていたオードリーは、ブラッドリーの言葉で現実に引き戻された。


「え、えっと、何の話でしょうか?」


 慌てて返事をすると、ブラッドリーは呆れたような顔になる。


「聞いてなかったんすかあ。俺の方がアビーさんより年上に見えるって話っす」

「そんなことないよねぇ?私の方が上に見えるよねぇ?オードリー?」


 ブラッドリーとアビーが言い合っているのを、モーリスとジェフリーは楽しそうに見ている。どっちもどっち、とも言えず、オードリーは苦笑いを浮かべた。

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